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異本 蠣崎新三郎の恋 その四
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蠣崎新三郎が上脇腹に銃弾を浴びたのは、その三日後のことだった。
孤軍の立て籠もりにすぎぬと油断していたが、思いもよらぬ反撃に退却を指揮するさいちゅうである。籠城兵の誰かが撃った弾は、新三郎の薄い鎧を貫き、背中から入って脇をかすめて抜けた。
衝撃に倒れかけたが、堪えることはできた。その後、いったん兵をまとめ、最悪の事態から包囲を立て直すところまでやれたのだ。痛みこそあれ、何のことはないと思っていた。
それが、熱い湯が、くだけた甲冑からしみ出していると思った時には、目がくらんでいた。予想以上の出血があった。
血を見たときには、ほんの寡兵だった部隊を、実は用意に怠りなかった反乱者どもの逆襲から救う作業の緊張が解けていた。近くにいた同僚に、後を託した。そこで、昏倒したに近い。
大騒ぎする弟分の津軽蠣崎家の幼い当主、蠣崎一太郎を叱るときには、声も出なくなっていた。尻もちをついた姿勢から、身体を支えていられなくなっていた。
血はその場の手当てで何とか抑えた。しかし、くだけた銃弾が体内に残っていたことが、ほどなく、命をまた危うくする。
一太郎は、意識が朦朧とし始めた新三郎を抱えるようにして、蠣崎一統とともに屋敷に運び入れた。
「馬鹿。泣くな。何のこともない。」
新三郎は、戸板の上で幼い弟分を笑って叱ったが、その声は途中で途切れた。
目すら開けていられない。死ぬらしいな、おれは……と直感した
孤軍の立て籠もりにすぎぬと油断していたが、思いもよらぬ反撃に退却を指揮するさいちゅうである。籠城兵の誰かが撃った弾は、新三郎の薄い鎧を貫き、背中から入って脇をかすめて抜けた。
衝撃に倒れかけたが、堪えることはできた。その後、いったん兵をまとめ、最悪の事態から包囲を立て直すところまでやれたのだ。痛みこそあれ、何のことはないと思っていた。
それが、熱い湯が、くだけた甲冑からしみ出していると思った時には、目がくらんでいた。予想以上の出血があった。
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一太郎は、意識が朦朧とし始めた新三郎を抱えるようにして、蠣崎一統とともに屋敷に運び入れた。
「馬鹿。泣くな。何のこともない。」
新三郎は、戸板の上で幼い弟分を笑って叱ったが、その声は途中で途切れた。
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