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第十二章 浪岡に還る その一
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第十二章 浪岡に還る
このひと月、さ栄は朝夕の読経を欠かさない。城外に出て、寺社でも祈った。
(どうか、新三郎を無事にお返しください。)
それだけを願っている。金木館に囚われた身の浪岡の者たちは、一向に解き放たれる気配がない。大御所の助命が決まり解放でもされない限り、家臣たちの身も等しく危ういのであろうか。
(まさか、いまさらに首を打たれはすまいが、暗に殉死を強いられることはある。)
新三郎が妙に悟った表情になって、自分が必死に止めるのも聞かず腹を切ってしまう夢を見て、悲鳴をあげたこともある。よもやという気掛かりが夢の形をとっただけだ、と自分に言い聞かせても、震えが止まらなかった。
(案じずともよい。あのひとが、さ栄との約定を破るはずがない。何としても生き残ってくれる。)
そうは信じていても、文のやり取りができるわけでもなく、金木館からか細く伝わってくる噂を耳にしては、一喜一憂するばかりであった。
「どうやら、南部三戸さま(南部氏の有力家系である三戸家)が間に立って、和議がまとまるらしい。」
そう聞いたときには、矢も楯もたまらず、内館に行ってみた。甥の御所さまや嫂の大み台所さまには会えなかったし、話をしてくれる何人かの取次クラスの重臣もあまり多くは知らないようで、落胆した。
(ご書庫……?)
新三郎が時々話してくれた、図書頭という訳知りの知恵者を思い出した。
「このようなむさくるしいところに、姫君さまがお越しとは……。」
「気にせずともよい。お仕事の邪魔になるが、このたびのご和議について、教えてくれることがあるかと思うて参った。前触れもなく、あいすまぬ。」
「滅相もございませぬ。姫さまのお耳に入らぬことまで、何故わたくしめが知り得ましょうや。」
「図書頭こそ、城一番の早耳。そして、余人に見えぬものを古証文から読み取れるとな。蠣崎新三郎が申しておった。」
新三郎の名を口に上らせたとたん、さ栄は胸が潰れるような思いがした。這いつくばるように平伏する図書頭に、顔を上げるように言った。ふくをいったん下がらせる。ふくはむしろ、助かったという顔でこの埃臭いご書庫から抜け出した。
「浪岡御所は、多くを喪うを耐えねばなりますまい。郡のひとつは南部さまに召し上げられ、その実は大浦のものとなる。」
「……やむをえまい。それで大御所さまがお帰りあそばすが、かなうならば。」
「あとは、阿芙蓉でございましょう。」
「阿芙蓉? ……あっ、兄上の……?」
さ栄は兄が受け継いでしまった妖薬のことを思い出した。
「大浦は、阿芙蓉を欲しがっております。花畑の作り方、毒液の搾り方、薬の丸め方……。」
「何に使うかは知らぬが、むしろ悪からず。やってしまえばよいのじゃ、ひとを狂わせる毒の作り方など!」
「毒にも薬にもなるものでございますから……。亡きご先代さまは、じゃからこそ浪岡御所が一から十まで面倒をみて、よい痛み止めとしてのみ世に広めるとのお考えでございました。大御所さまのお考えが如何様かは存じませぬ。大浦の考えとなると、なおさらに……。ただ、莫大な儲けを産む。浪岡にそれを差し出せと言うのは、まずは道理にございましょうな。」
しばらく物思いに沈んださ栄は、自分が何のためにここに来たのかを思い出した。
「とにかく、そのご和議がなれば、大御所さまはお帰りになられますな?」
「そのためのご和議にございます。」
「お供回りも、当然ながら、お帰りじゃな?」
それはそうだろう、と図書頭が頷いてくれたのでさ栄の気は明るんだが、肝心なのは、
「ご和議、必ずなろうか?」
「……今申しましたような、浪岡御所からの贖い……ご無礼申し上げましたが、このたびは無念の負け戦が歴然としておりますから、さように申さねばなりませんが、……それで大浦は、なかなか満足はいたしますまい。」
「……!」
「じゃが、呑む。厭々ながら、受け入れるでございましょう。南部さまが間に立っておられるからでございます。大浦が如何に独り立ちの望みをあからさまにしておろうと、今は南部の家臣に過ぎぬ。その命を聞かぬは、ありえぬ。」
さ栄はまた胸が弾むのを覚えた。
「おお、では、金木館にとどめ置かれて居る人たちも、ご無事にお戻りか。」
図書頭は思わず低頭した。姫さまのお顔に現れた喜色が、まぶしいほどだった。しかし、顔を伏せながら、内心で呟いている。
(いま一つ、考えられることがある。それも、南部が間に立つからこそ、じゃ。……しかし、それは言うまい。)
それは、あまりにむごい。図書頭は、自分の憶測にとどまっている限り、そんなことを姫さまの前で口には出すまいと思った。希望だけを抱いて、あの新三郎を待ちわびていてほしい、おそろしい悲嘆と苦しみを舐めてきた姫君に、そればかりの明るい日々が残されてもいい筈だ。
(ご先代さまも、きっとそれをお望みじゃ……。)
さ栄の心は軽くなって数日がたったが、何故か躰の調子が思わしくない。よくあることなので、一人を幸いにまた床に臥せっていたが、何やら胸から胃の腑にかけての具合が悪かった。
いまは大み台さまと呼ばれることの多い、嫂からの使いにも、まずは物憂い気分が勝る。そして、ふと自分の錯覚に気づいて、慌てて起き直った。
嫂は昔の、ただ物静かなみ台所さまではない。幼い御所さまの後ろ盾として、大御所が不在の今は、宗家の家長代わりであった。どこにそんな力があったのか、この大み台所は北畠の残りの一族を味方につけて、裏切り者の北畠中書を追い払い、重臣たちを見事に従えている。
(何かの報せが?)
わざわざに、さして気も合わぬに違いない無名館の厄介を呼びつけるとしたら、「何か」はあるはずであった。
(まさか新三郎の身に異変が?)
それを思うと、体調の悪さなど構っていられなかった。ふくを従えて、内館に急ぐ。
「さ栄どの。大御所さまは勿論、金木館の者どもにも大事は何もございませぬ。最初にそれを言うておく。」
さ栄は、思わず息をつく。ただ、周囲から人を遠ざけて、女二人きりの部屋なのが気になった。
「……お戻りが、決まったのでございましょうか?」
嫂-大み台さまは、やや哀し気に首を振った。
「それは、まだ……。」
さ栄も溜息をつく思いだが、それにしても、では何の用事で呼ばれたものか。
「待ち遠しうございますね。大み台さまにもご心労と存じますが、どうか南部さま、大浦どのとのお話うまくおまとめくださいまして、みな無事に浪岡にお帰りになられればと存じております。」
嫂はますます哀し気な色を表情に深めて、黙っている。
そのまま、二人黙り込んでしまった。
(どうも様子がおかしい。ご機嫌がお悪い……今、さほどよい筈もないが、それと言うばかりではない。)
さ栄は嫂の固い表情を訝しがったが、今はこのおひとが浪岡御所を支えているのだと思うと、見直した気分を持っている。
あの仁者とも言える御所さまの妻であったのに、知らぬとはいえ真の仇にあたる義弟に盗まれてしまい、そればかりかその相手に喜んで身を任せている、と苦々しくも思っていた。その結果、左衛門尉を「大御所」にしてしまったのは、危惧したとおり、浪岡御所を一層危機に陥れたとも言える。女のあさはかよ、と蔑む気持ちすらあった。
しかしそれもあって一層揺らいだ御所の屋台骨を、このおとなしかった女が今は一身で支えてくれているのだ。
(ひとは、変わりうる。いや、み台所さまにおさまっていたときには出せなかった自分を見つけられたのか?)
これから自分もそうしていかねばならぬ、とさ栄は思った。松前に行くのならば、たとえどのような形で新三郎に添うにせよ、いまのさ栄ではいられまい、と。
「大み台さまには、大変なお勤め、まことに有り難く存じます。」
「……。」
「さ栄などには、何のお役にも立てず、心苦しう存じますが、義姉上さまには何卒……。」
「さ栄どの!」
嫂は小さく叫んだ。そして、深々と頭を下げたので、さ栄は小さく後ずさるほどに驚いた。
「相済みませぬ! 頼みまする!」
このひと月、さ栄は朝夕の読経を欠かさない。城外に出て、寺社でも祈った。
(どうか、新三郎を無事にお返しください。)
それだけを願っている。金木館に囚われた身の浪岡の者たちは、一向に解き放たれる気配がない。大御所の助命が決まり解放でもされない限り、家臣たちの身も等しく危ういのであろうか。
(まさか、いまさらに首を打たれはすまいが、暗に殉死を強いられることはある。)
新三郎が妙に悟った表情になって、自分が必死に止めるのも聞かず腹を切ってしまう夢を見て、悲鳴をあげたこともある。よもやという気掛かりが夢の形をとっただけだ、と自分に言い聞かせても、震えが止まらなかった。
(案じずともよい。あのひとが、さ栄との約定を破るはずがない。何としても生き残ってくれる。)
そうは信じていても、文のやり取りができるわけでもなく、金木館からか細く伝わってくる噂を耳にしては、一喜一憂するばかりであった。
「どうやら、南部三戸さま(南部氏の有力家系である三戸家)が間に立って、和議がまとまるらしい。」
そう聞いたときには、矢も楯もたまらず、内館に行ってみた。甥の御所さまや嫂の大み台所さまには会えなかったし、話をしてくれる何人かの取次クラスの重臣もあまり多くは知らないようで、落胆した。
(ご書庫……?)
新三郎が時々話してくれた、図書頭という訳知りの知恵者を思い出した。
「このようなむさくるしいところに、姫君さまがお越しとは……。」
「気にせずともよい。お仕事の邪魔になるが、このたびのご和議について、教えてくれることがあるかと思うて参った。前触れもなく、あいすまぬ。」
「滅相もございませぬ。姫さまのお耳に入らぬことまで、何故わたくしめが知り得ましょうや。」
「図書頭こそ、城一番の早耳。そして、余人に見えぬものを古証文から読み取れるとな。蠣崎新三郎が申しておった。」
新三郎の名を口に上らせたとたん、さ栄は胸が潰れるような思いがした。這いつくばるように平伏する図書頭に、顔を上げるように言った。ふくをいったん下がらせる。ふくはむしろ、助かったという顔でこの埃臭いご書庫から抜け出した。
「浪岡御所は、多くを喪うを耐えねばなりますまい。郡のひとつは南部さまに召し上げられ、その実は大浦のものとなる。」
「……やむをえまい。それで大御所さまがお帰りあそばすが、かなうならば。」
「あとは、阿芙蓉でございましょう。」
「阿芙蓉? ……あっ、兄上の……?」
さ栄は兄が受け継いでしまった妖薬のことを思い出した。
「大浦は、阿芙蓉を欲しがっております。花畑の作り方、毒液の搾り方、薬の丸め方……。」
「何に使うかは知らぬが、むしろ悪からず。やってしまえばよいのじゃ、ひとを狂わせる毒の作り方など!」
「毒にも薬にもなるものでございますから……。亡きご先代さまは、じゃからこそ浪岡御所が一から十まで面倒をみて、よい痛み止めとしてのみ世に広めるとのお考えでございました。大御所さまのお考えが如何様かは存じませぬ。大浦の考えとなると、なおさらに……。ただ、莫大な儲けを産む。浪岡にそれを差し出せと言うのは、まずは道理にございましょうな。」
しばらく物思いに沈んださ栄は、自分が何のためにここに来たのかを思い出した。
「とにかく、そのご和議がなれば、大御所さまはお帰りになられますな?」
「そのためのご和議にございます。」
「お供回りも、当然ながら、お帰りじゃな?」
それはそうだろう、と図書頭が頷いてくれたのでさ栄の気は明るんだが、肝心なのは、
「ご和議、必ずなろうか?」
「……今申しましたような、浪岡御所からの贖い……ご無礼申し上げましたが、このたびは無念の負け戦が歴然としておりますから、さように申さねばなりませんが、……それで大浦は、なかなか満足はいたしますまい。」
「……!」
「じゃが、呑む。厭々ながら、受け入れるでございましょう。南部さまが間に立っておられるからでございます。大浦が如何に独り立ちの望みをあからさまにしておろうと、今は南部の家臣に過ぎぬ。その命を聞かぬは、ありえぬ。」
さ栄はまた胸が弾むのを覚えた。
「おお、では、金木館にとどめ置かれて居る人たちも、ご無事にお戻りか。」
図書頭は思わず低頭した。姫さまのお顔に現れた喜色が、まぶしいほどだった。しかし、顔を伏せながら、内心で呟いている。
(いま一つ、考えられることがある。それも、南部が間に立つからこそ、じゃ。……しかし、それは言うまい。)
それは、あまりにむごい。図書頭は、自分の憶測にとどまっている限り、そんなことを姫さまの前で口には出すまいと思った。希望だけを抱いて、あの新三郎を待ちわびていてほしい、おそろしい悲嘆と苦しみを舐めてきた姫君に、そればかりの明るい日々が残されてもいい筈だ。
(ご先代さまも、きっとそれをお望みじゃ……。)
さ栄の心は軽くなって数日がたったが、何故か躰の調子が思わしくない。よくあることなので、一人を幸いにまた床に臥せっていたが、何やら胸から胃の腑にかけての具合が悪かった。
いまは大み台さまと呼ばれることの多い、嫂からの使いにも、まずは物憂い気分が勝る。そして、ふと自分の錯覚に気づいて、慌てて起き直った。
嫂は昔の、ただ物静かなみ台所さまではない。幼い御所さまの後ろ盾として、大御所が不在の今は、宗家の家長代わりであった。どこにそんな力があったのか、この大み台所は北畠の残りの一族を味方につけて、裏切り者の北畠中書を追い払い、重臣たちを見事に従えている。
(何かの報せが?)
わざわざに、さして気も合わぬに違いない無名館の厄介を呼びつけるとしたら、「何か」はあるはずであった。
(まさか新三郎の身に異変が?)
それを思うと、体調の悪さなど構っていられなかった。ふくを従えて、内館に急ぐ。
「さ栄どの。大御所さまは勿論、金木館の者どもにも大事は何もございませぬ。最初にそれを言うておく。」
さ栄は、思わず息をつく。ただ、周囲から人を遠ざけて、女二人きりの部屋なのが気になった。
「……お戻りが、決まったのでございましょうか?」
嫂-大み台さまは、やや哀し気に首を振った。
「それは、まだ……。」
さ栄も溜息をつく思いだが、それにしても、では何の用事で呼ばれたものか。
「待ち遠しうございますね。大み台さまにもご心労と存じますが、どうか南部さま、大浦どのとのお話うまくおまとめくださいまして、みな無事に浪岡にお帰りになられればと存じております。」
嫂はますます哀し気な色を表情に深めて、黙っている。
そのまま、二人黙り込んでしまった。
(どうも様子がおかしい。ご機嫌がお悪い……今、さほどよい筈もないが、それと言うばかりではない。)
さ栄は嫂の固い表情を訝しがったが、今はこのおひとが浪岡御所を支えているのだと思うと、見直した気分を持っている。
あの仁者とも言える御所さまの妻であったのに、知らぬとはいえ真の仇にあたる義弟に盗まれてしまい、そればかりかその相手に喜んで身を任せている、と苦々しくも思っていた。その結果、左衛門尉を「大御所」にしてしまったのは、危惧したとおり、浪岡御所を一層危機に陥れたとも言える。女のあさはかよ、と蔑む気持ちすらあった。
しかしそれもあって一層揺らいだ御所の屋台骨を、このおとなしかった女が今は一身で支えてくれているのだ。
(ひとは、変わりうる。いや、み台所さまにおさまっていたときには出せなかった自分を見つけられたのか?)
これから自分もそうしていかねばならぬ、とさ栄は思った。松前に行くのならば、たとえどのような形で新三郎に添うにせよ、いまのさ栄ではいられまい、と。
「大み台さまには、大変なお勤め、まことに有り難く存じます。」
「……。」
「さ栄などには、何のお役にも立てず、心苦しう存じますが、義姉上さまには何卒……。」
「さ栄どの!」
嫂は小さく叫んだ。そして、深々と頭を下げたので、さ栄は小さく後ずさるほどに驚いた。
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