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七の段 わかれ 陥落(一)
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大舘は二つの部分からなる。前哨の付け城というべき小舘と、その奥にある本体の大舘であった。
大舘が松前への箱館軍の襲来を知ったのは、十四郎の軍が上陸してからかなりたってからであっただろう。小舘の城門前に殺到した民は、大手門というべき最初の門を開いてもらうよう、懇願した。城内に待避したい。
やがて開門になったときには、十四郎の軍の最初の兵たちが迫っていた。人びとのながれに抗うように、逆に出陣するのは、まだ物見といっていい者たちである。アイノの短弓の前にたちまち討ち取られる。
このとき、大混乱のなかですでに小舘の内部が戦闘の場所になっている。松前大舘の最前衛の防御が、最初から破られていた。
市内を北上した十四郎の本隊と交戦したのは、武家屋敷に眠っていた侍たちとその家族、そして大舘から慌てて駆け下りてくる少数の兵であっただろう。すなわち、集団で襲いかかるアイノ兵の前に、ほとんど相手にならなかったといえる。
十四郎の本軍は、まず寺など、比較的大きな建物をもつ施設を次々に占拠していった。大館側は防御の拠点を奪われ、いきおい、丘城に追い上げられる形になった。
武家の多くは、その場での抵抗よりも、大舘への逃走を選んだ。これは、精鋭ならざる兵やその家族の怯惰というものではなく、蠣崎家の兵法に、大舘の防御力を前提に戦うという徹底があったのに従ったといえる。
この時点で、十四郎がその多くを取り逃がし、大舘に逃げ込ませたのは、別に意図があってのことではない。かれらは大舘の守備兵力となる。敵の包囲を耐え抜き、代官の本軍の帰着を待つというのは、大館側にとっては合理的な戦略のはずであった。
だが、事情をあまり知らされぬ秋田兵こそはこの外地で孤立した。市内での凄惨な死闘は、アイノ兵と秋田兵のあいだでこそ展開した。市街戦で、アイノの短弓と毒矢は絶妙の効果を発揮した。東の関をたやすく抑え、市内を西に奔って西の関の背後を突いた。
アイノ側の死傷者の大半も、こののちに受けた、秋田侍の死に物狂いの逆襲で生じている。
しかし、秋田兵や、市内で応戦するのを選んだ蠣崎侍は、驚くべき兵と戦う羽目になっていた。
十四郎は、女を軍にくわえ、その多くに銃をもたせた。この腕力だけとれば非力な銃兵を守るために槍兵や弓兵をつけ、さらに射手以外に鉄砲の発射準備ができる女や子どもと一隊を組ませたのである。
大軍が展開しにくい市街では、個々の兵の力量がものをいう。アイノを動員することで得た数の優位を生かす方法を、十四郎は思いつかねばならなかった。
(我ながら、どうも土一揆のやり口ではないか。)
とは思ったが、戦術思想の飛躍ではあった。
蠣崎侍や秋田侍と一対一で戦うのではなく、散兵の小隊が展開して、武芸自慢の和人たちを寄ってたかって射殺してしまえというのであった。
あやめが、すずめと呼んで親しんだ侍女だったアイノの少女も、このいわば小隊の一員として、朝の松前で白い息を吐きながら走っていた。
すずめとその家族は、松前の地理をよく知る。そのため揃って、箱舘で軍に身を投じていた。兄や弟も、戦闘や道案内のために、いまごろ同じく西の関に向かって走っているだろう。
すでにこの時間、大舘に逃げ込もうという秋田兵の掃討段階に入っていた。すずめが握っているのは、新式の火打石の銃である。
(おやかたさまを許さない。)
すずめの一家は、この戦いのあとまた松前に残りたいのであったが、まずそのためには、
「堺のお方さまをいじめたお代官を懲らしめてやるのだ。」
と、この戦いをすずめなどは理解していた。
あやめにそれほどのつもりはなかったが、すずめにとって、あれほど濃く親しんだご主人はいなかったのである。商人もやっている、正体のしれぬ不思議なご側室だったが、無理を命じたこともなく、何くれとなくものをくれ、常にやさしい態度で接してくれた。蝦夷だからといって馬鹿にしたりせず、自分を師匠のようにしてアイノの言葉を習ったりもした。
(それを、あのおひとに、あんなひどい恥をかかせ、あげくに、わたしまで追い出した。堺さまと引き裂かれた。箱館でまたお仕えしようにも、お会いできなかった。おやかたさまは、悪い和人だ。)
今日、はじめて和人―シャムを撃った。十間ほど先に現れたおそろしい侍を、槍をもっている和人に横で声をかけられるとおり、ゆっくりと息を整えながら、教わった通りに引き金を引いてみた。侍は物凄い勢いで体を後ろに折り曲げて倒れた。
二人の男と、ひとりの女がすずめと組んだ仲間たちで、よくやった、と褒めてくれた。涙が出るほどうれしい。この自分が、憎いシャムを簡単にやっつけられた。
(ひとりでも多くのシャムを撃ってやる。)
すずめの狙いは、ひどく正確だった。三人は撃ち殺したと思う。一人は外したが、駆け寄ってくるところの腿を仲間のアイノが矢で射ぬき、侍の槍が仕留めた。
その味方の侍が、あっと叫んで倒れた。額に穴が空いていた。道に銃弾が爆ぜた。
敵の鉄砲足軽らしい影が逃げる。向こうからも銃声はしていたのに、昂奮状態にあった四人はあまり気づかなかった。
(畜生。シャムだから、鉄砲はもっていやがる。)
すずめは叫んだ。敵の影が逃げた方向に、建物の隙間を小さな体ですり抜けて走った。誰もついてこないが、熱い銃身が心強く、自分は負けないと思った。仲間の仇を討つのだ。
軒に隠れるように、銃をもった男―秋田の鉄砲足軽―がいた。膝をつき、次の発射準備に慌てている。足元の土に、自分の刀を刺していた。
鉄砲足軽たちが大舘に逃げるさいちゅう、ひとり道をそれたのだろう。どこかに慌てて一発を撃つと、人影がないとみたのか、それらしいと思ったのだろう北にむけて、一目散に走りだした。
その前に立ちふさがるように、すずめは銃を構えて立った。驚いた和人の男は立ち止まったが、やがて気づくと、もうすでにどこかおかしくなったような声で、
「火がついてねえ!」
「あほう。」
すずめは、堺さまが笑っていった和人の言葉を思い出して、引き金を引いた。
不発だった。
ぎゃあ、というような声をたてて、足軽がすずめに駆け寄り、銃で殴ってきた。それをよけたすずめは、腹を思い切り蹴られた。小さな体は、宙を飛ぶように転がった。そのまま逃げていこうとした男は、女と気づいてすずめの躰にふと興味をもったらしい。近づいてきた。勿論、銃がすずめの手を離れているのは確認している。転がったまま立ち上がれず呻いているすずめの横に落ちている、火打石銃をまず拾った。悶え苦しんでいる女の背中をしげしげと見返した。
「なんでえ、子どもじゃねえの。」
呆れたようにいうと、拾った銃をすずめに向け、引き金を引いてみた。
銃声がして、すずめの躰が跳ねた。
(ひとりでも多くのシャムを、……!)
感心したように銃をためつすがめつしていた男は、うずくまっているすずめの躰をもう一度蹴って、死んでいるのをたしかめると、走りだそうとした。
そのとき、矢が男の咽喉に刺さった。すずめの仲間ふたりが、追いついていた。鉄砲の世話をする役の少女が、侍の遺した槍で男の腹を刺した。
ふたりは、すずめの死骸の横に倒れた男を滅多矢鱈に刺し、切り刻んだ。血を噴きながら転がり続けた鉄砲足軽の男は、しばらく死ななかった。
西の関に新しい喊声が湧く。萩原五兵衛が事実上指揮する西部方面軍が、西の関を突破して松前に突入したのであろう。これで松前の市街地は完全に十四郎の軍が占拠した。
このとき、小舘は陥落しつつある。大舘の門をくぐって逃れ入った守兵の数は少ない。
だが、これと空堀を隔てる本体である大舘の強固な門と塀の守りが、攻撃方を食い止めている。新三郎は中世城塞を近世のそれに改造しようとしていて、鉄砲による守りをこの城に固めていた。乱戦のなかで押されて味方の姿が減ったところで、銃眼からの射撃は逆に効果をあげはじめたともいえる。
一旦、攻勢がやんだ。小舘のなかに充ちつつも、寄せ手は大舘の大門からやや離れ、射撃もややまばらになる。
大舘の中は、なお騒然としている。侍以外の逃げ込んだ住民の男女にも防御に当たらせ、籠城の態勢を整える作業がはじまっていた。
(おやかたさまを待つよりない。)
女なりの戦装束に変わっている北の方は、外がやや静かになったのを知った。防戦は一段落がついたらしい。ここを持ちこたえ、新三郎が兵を返すのを待つのだとわかっている。
そして、それは可能だと確信していた。夫への信頼であった。
守将はこの場では、宿老の南条老人ということになろう。甲冑をまとい、なにか生き生きと動いている。奇襲で小舘は落ちたが、そこから大舘には入られていない。ここで食い止める自信ができたのだろう。
「お方さま、ここまで出てこられなくとも。」
「武蔵丸に戦を見せてやりましょう。」
怯えて、母の裾を引いて離れぬ武蔵丸を、鼓舞するようにいった。
「ご督戦くださいますのか。」
「左様いたそう。敵は、十四郎殿か?」
「蝦夷ばかりの軍勢ですが、……おそらく。」
「ならば、よし。おやかたさまには敵わぬ。」
お方さまは、庭先を埋めた町人たちに聞こえるように、笑っていった。濡れ縁に立って、高らかな声をかけた。
「一同、大儀。聞いての通り、寄せ手の大将はただの部屋住み。恐れるに足りぬ。いま少しの辛抱じゃ。おやかたさまのお帰りまで、堪えてくれ。」
一同は低頭、平伏する。
そのとき、町のほうで聞いたこともない激しい爆発音がした。お方さまは朝の光がみちた宙に向かって、目を細めた。
頭上にものが砕ける音を聴き、思わずかがんで足元の子どもをかばった。熱い空気がお方さまの全身を包んだ瞬間、衝撃とともに周囲の全てが昏くなった。
大舘が松前への箱館軍の襲来を知ったのは、十四郎の軍が上陸してからかなりたってからであっただろう。小舘の城門前に殺到した民は、大手門というべき最初の門を開いてもらうよう、懇願した。城内に待避したい。
やがて開門になったときには、十四郎の軍の最初の兵たちが迫っていた。人びとのながれに抗うように、逆に出陣するのは、まだ物見といっていい者たちである。アイノの短弓の前にたちまち討ち取られる。
このとき、大混乱のなかですでに小舘の内部が戦闘の場所になっている。松前大舘の最前衛の防御が、最初から破られていた。
市内を北上した十四郎の本隊と交戦したのは、武家屋敷に眠っていた侍たちとその家族、そして大舘から慌てて駆け下りてくる少数の兵であっただろう。すなわち、集団で襲いかかるアイノ兵の前に、ほとんど相手にならなかったといえる。
十四郎の本軍は、まず寺など、比較的大きな建物をもつ施設を次々に占拠していった。大館側は防御の拠点を奪われ、いきおい、丘城に追い上げられる形になった。
武家の多くは、その場での抵抗よりも、大舘への逃走を選んだ。これは、精鋭ならざる兵やその家族の怯惰というものではなく、蠣崎家の兵法に、大舘の防御力を前提に戦うという徹底があったのに従ったといえる。
この時点で、十四郎がその多くを取り逃がし、大舘に逃げ込ませたのは、別に意図があってのことではない。かれらは大舘の守備兵力となる。敵の包囲を耐え抜き、代官の本軍の帰着を待つというのは、大館側にとっては合理的な戦略のはずであった。
だが、事情をあまり知らされぬ秋田兵こそはこの外地で孤立した。市内での凄惨な死闘は、アイノ兵と秋田兵のあいだでこそ展開した。市街戦で、アイノの短弓と毒矢は絶妙の効果を発揮した。東の関をたやすく抑え、市内を西に奔って西の関の背後を突いた。
アイノ側の死傷者の大半も、こののちに受けた、秋田侍の死に物狂いの逆襲で生じている。
しかし、秋田兵や、市内で応戦するのを選んだ蠣崎侍は、驚くべき兵と戦う羽目になっていた。
十四郎は、女を軍にくわえ、その多くに銃をもたせた。この腕力だけとれば非力な銃兵を守るために槍兵や弓兵をつけ、さらに射手以外に鉄砲の発射準備ができる女や子どもと一隊を組ませたのである。
大軍が展開しにくい市街では、個々の兵の力量がものをいう。アイノを動員することで得た数の優位を生かす方法を、十四郎は思いつかねばならなかった。
(我ながら、どうも土一揆のやり口ではないか。)
とは思ったが、戦術思想の飛躍ではあった。
蠣崎侍や秋田侍と一対一で戦うのではなく、散兵の小隊が展開して、武芸自慢の和人たちを寄ってたかって射殺してしまえというのであった。
あやめが、すずめと呼んで親しんだ侍女だったアイノの少女も、このいわば小隊の一員として、朝の松前で白い息を吐きながら走っていた。
すずめとその家族は、松前の地理をよく知る。そのため揃って、箱舘で軍に身を投じていた。兄や弟も、戦闘や道案内のために、いまごろ同じく西の関に向かって走っているだろう。
すでにこの時間、大舘に逃げ込もうという秋田兵の掃討段階に入っていた。すずめが握っているのは、新式の火打石の銃である。
(おやかたさまを許さない。)
すずめの一家は、この戦いのあとまた松前に残りたいのであったが、まずそのためには、
「堺のお方さまをいじめたお代官を懲らしめてやるのだ。」
と、この戦いをすずめなどは理解していた。
あやめにそれほどのつもりはなかったが、すずめにとって、あれほど濃く親しんだご主人はいなかったのである。商人もやっている、正体のしれぬ不思議なご側室だったが、無理を命じたこともなく、何くれとなくものをくれ、常にやさしい態度で接してくれた。蝦夷だからといって馬鹿にしたりせず、自分を師匠のようにしてアイノの言葉を習ったりもした。
(それを、あのおひとに、あんなひどい恥をかかせ、あげくに、わたしまで追い出した。堺さまと引き裂かれた。箱館でまたお仕えしようにも、お会いできなかった。おやかたさまは、悪い和人だ。)
今日、はじめて和人―シャムを撃った。十間ほど先に現れたおそろしい侍を、槍をもっている和人に横で声をかけられるとおり、ゆっくりと息を整えながら、教わった通りに引き金を引いてみた。侍は物凄い勢いで体を後ろに折り曲げて倒れた。
二人の男と、ひとりの女がすずめと組んだ仲間たちで、よくやった、と褒めてくれた。涙が出るほどうれしい。この自分が、憎いシャムを簡単にやっつけられた。
(ひとりでも多くのシャムを撃ってやる。)
すずめの狙いは、ひどく正確だった。三人は撃ち殺したと思う。一人は外したが、駆け寄ってくるところの腿を仲間のアイノが矢で射ぬき、侍の槍が仕留めた。
その味方の侍が、あっと叫んで倒れた。額に穴が空いていた。道に銃弾が爆ぜた。
敵の鉄砲足軽らしい影が逃げる。向こうからも銃声はしていたのに、昂奮状態にあった四人はあまり気づかなかった。
(畜生。シャムだから、鉄砲はもっていやがる。)
すずめは叫んだ。敵の影が逃げた方向に、建物の隙間を小さな体ですり抜けて走った。誰もついてこないが、熱い銃身が心強く、自分は負けないと思った。仲間の仇を討つのだ。
軒に隠れるように、銃をもった男―秋田の鉄砲足軽―がいた。膝をつき、次の発射準備に慌てている。足元の土に、自分の刀を刺していた。
鉄砲足軽たちが大舘に逃げるさいちゅう、ひとり道をそれたのだろう。どこかに慌てて一発を撃つと、人影がないとみたのか、それらしいと思ったのだろう北にむけて、一目散に走りだした。
その前に立ちふさがるように、すずめは銃を構えて立った。驚いた和人の男は立ち止まったが、やがて気づくと、もうすでにどこかおかしくなったような声で、
「火がついてねえ!」
「あほう。」
すずめは、堺さまが笑っていった和人の言葉を思い出して、引き金を引いた。
不発だった。
ぎゃあ、というような声をたてて、足軽がすずめに駆け寄り、銃で殴ってきた。それをよけたすずめは、腹を思い切り蹴られた。小さな体は、宙を飛ぶように転がった。そのまま逃げていこうとした男は、女と気づいてすずめの躰にふと興味をもったらしい。近づいてきた。勿論、銃がすずめの手を離れているのは確認している。転がったまま立ち上がれず呻いているすずめの横に落ちている、火打石銃をまず拾った。悶え苦しんでいる女の背中をしげしげと見返した。
「なんでえ、子どもじゃねえの。」
呆れたようにいうと、拾った銃をすずめに向け、引き金を引いてみた。
銃声がして、すずめの躰が跳ねた。
(ひとりでも多くのシャムを、……!)
感心したように銃をためつすがめつしていた男は、うずくまっているすずめの躰をもう一度蹴って、死んでいるのをたしかめると、走りだそうとした。
そのとき、矢が男の咽喉に刺さった。すずめの仲間ふたりが、追いついていた。鉄砲の世話をする役の少女が、侍の遺した槍で男の腹を刺した。
ふたりは、すずめの死骸の横に倒れた男を滅多矢鱈に刺し、切り刻んだ。血を噴きながら転がり続けた鉄砲足軽の男は、しばらく死ななかった。
西の関に新しい喊声が湧く。萩原五兵衛が事実上指揮する西部方面軍が、西の関を突破して松前に突入したのであろう。これで松前の市街地は完全に十四郎の軍が占拠した。
このとき、小舘は陥落しつつある。大舘の門をくぐって逃れ入った守兵の数は少ない。
だが、これと空堀を隔てる本体である大舘の強固な門と塀の守りが、攻撃方を食い止めている。新三郎は中世城塞を近世のそれに改造しようとしていて、鉄砲による守りをこの城に固めていた。乱戦のなかで押されて味方の姿が減ったところで、銃眼からの射撃は逆に効果をあげはじめたともいえる。
一旦、攻勢がやんだ。小舘のなかに充ちつつも、寄せ手は大舘の大門からやや離れ、射撃もややまばらになる。
大舘の中は、なお騒然としている。侍以外の逃げ込んだ住民の男女にも防御に当たらせ、籠城の態勢を整える作業がはじまっていた。
(おやかたさまを待つよりない。)
女なりの戦装束に変わっている北の方は、外がやや静かになったのを知った。防戦は一段落がついたらしい。ここを持ちこたえ、新三郎が兵を返すのを待つのだとわかっている。
そして、それは可能だと確信していた。夫への信頼であった。
守将はこの場では、宿老の南条老人ということになろう。甲冑をまとい、なにか生き生きと動いている。奇襲で小舘は落ちたが、そこから大舘には入られていない。ここで食い止める自信ができたのだろう。
「お方さま、ここまで出てこられなくとも。」
「武蔵丸に戦を見せてやりましょう。」
怯えて、母の裾を引いて離れぬ武蔵丸を、鼓舞するようにいった。
「ご督戦くださいますのか。」
「左様いたそう。敵は、十四郎殿か?」
「蝦夷ばかりの軍勢ですが、……おそらく。」
「ならば、よし。おやかたさまには敵わぬ。」
お方さまは、庭先を埋めた町人たちに聞こえるように、笑っていった。濡れ縁に立って、高らかな声をかけた。
「一同、大儀。聞いての通り、寄せ手の大将はただの部屋住み。恐れるに足りぬ。いま少しの辛抱じゃ。おやかたさまのお帰りまで、堪えてくれ。」
一同は低頭、平伏する。
そのとき、町のほうで聞いたこともない激しい爆発音がした。お方さまは朝の光がみちた宙に向かって、目を細めた。
頭上にものが砕ける音を聴き、思わずかがんで足元の子どもをかばった。熱い空気がお方さまの全身を包んだ瞬間、衝撃とともに周囲の全てが昏くなった。
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