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六の段 わかれ 前夜(三)
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「……御寮人さま。コハルはお暇をいただきとうございます。」
「おいっ?」
「いま、気づきました。今井さまからお暇をいただくときでございます。」
「たわぶれを言わぬでくれ。いまは、驚かされている暇はない。」
「たわぶれなどではございませぬ。……御寮人さま。大旦那さまより、まことに長くご恩を賜りました。お暇を頂戴いたしましょう。」
「なぜじゃ、なぜじゃよ、コハル?……こんな大事なときに。戦が起きるのじゃぞ。」
「……その、戦が怖い。」コハルは笑った。「御寮人さまが起こした、こんなわけのわからぬ戦に巻き込まれて死んでは、永禄以来命をつないできた甲斐がない。」
「そらごとを申すな。コハルがさようなことを。」
「儂を買い被られるでない。今井さまからいただいたご恩は、どうやらお返しした。御寮人さまにいただいた分もだ。となると、危ない目は避けたい。こんな寒いところにいつくのも、なにやら、あほらしうなってきた。それまでのことでございます。」
「……?」
あやめはもちろん、コハルのいきなりの言葉をそのままにうけとってはいない。何か非常の覚悟があってのことだろうと思って、それは何かと考えを巡らそうとしているが、あまりのことに、急には頭が動かないのである。
「コハル、わたくしがいい歳をしてめそめそして、すまなかった。許してくれ。」
「許すもなにも。そういうことではない。もったいない、頭をお上げください。」
「覚悟はしている。コハルのいう、天道のためというのもわかっている。どなたと別れてしまっても、仕方がない。だから、……コハルまで、行かないでおくれ。頼む。」
「儂らのような者を、そこまでお頼りになさいますな。儂らは今井さまご家中にとっては、所詮は汚れ仕事の道具のようなもの。儂などはとくに、もう古錆びた道具なのでござる。だから大旦那様も、わたくしをこんな辺地にお寄越しになった。」
「そんなことはないぞ!」
「それも、お役に……お役に立てなかった。御寮人さまのお苦しみは、もとはといえば、儂の……」コハルは絶句した。「……数々の手抜かりのせいじゃった。今頃、もっともっとご立派な商人になられていても、さもなくば、どこかでのんびりと十四郎さまとお二人でお暮しになっていて、よかったのに。悔やまれてなりませぬ。」
「コハル。天道や正義やと、お前がいうたのではないか。……なあ、なぜじゃ、なぜ暇をとらせよなどという? お前までが離れてしまったら、わたくしは、もう……」
あやめはこまかく震えている。思わず自分の肩を抱いた。
「ご安心召されよ。御寮人さまの『図』はもう九分がた仕上がった。『コハル』は、新しいのが、参ります。あやつは、お役にたつ。」
「なにが、新しいの、じゃ? そんな者は要らぬ。コハルはひとりじゃよ。たった一人の、わたくしの、大事な、身内なのじゃっ!」
あやめは、立ちすくんだようになっているコハルにとりすがった。
「……おやおや、今井さまのお家の方がそんなことをいわれては、罰が当たりますぞ。儂なんぞが、なぜお身内だ。御寮人さまはそこがお甘い。おひとがよすぎる。……気掛かりだ。気掛かりでならぬ。」
「気掛かりならば、いてくれ。わたくしを守ってくれ。いや、そばにいてくれるだけで構わない。子どもの頃みたいに、話をしてくれるだけでいい。思い出した時に、遊んでくれるだけでもいい。……行かないで、行かないでくれっ。」
「御寮人さま。それが国守の妻になろうというお方か。いや、あなた様はそんな程度の者ではないのに、なぜ今のいままでお気づきにならぬのか。」
「……なにをいう。多少才が走るだけで思いあがってはなりませぬ、とたしなめてくれたのは、コハルじゃったよ。」
むかし、仕事の合間に堺の今井屋敷に羽根を休めたとき、子供たちの姉妹喧嘩の仲裁をしたことがあったが、コハルはもちろん、そんな些事は全く忘れていた。いくら自分より劣る姉に対しても、たいしてひどく思いあがるはずもなかったあやめに対して、喧嘩両成敗であらぬことをいってしまったのか。思慮のありすぎる子どもに、自分を押さえつけることを教えてしまった。
「お前が、いつも、わたくしの増上慢をいさめてくれたよ。世は知らぬこと、わたくしなぞの知恵の及ばぬことばかりと、お前がいるから、お前がいるだけで、わたくしはわかったよ。だから、……」
「……左様じゃったか、儂なんぞがお傍にいたからか。やはり、お暇すべき時でございましたな。」
「コハルっ?」
「ご案じなさるな、儂の手の者は今井さまに丸ごと置いておく。道具箱に、使える道具は十分ござる。随時呼び寄せて、使ってやって下され。」
「お前、堺からもいなくなってしまうというのか?」
「……御身内と呼んでくださいましたな、御寮人さま……、あやめさま。一度だけ、そのお言葉に甘えましょう。身内の年寄りは、分を越えてお説教をいたすのですぞ。」
コハルは、にこにこと懐かしい笑みをみせた。
「お前はいつも説教してくれたではないか。だから、とうに身内だよ。これからも、ずっと……」
「……お強くなられるのだ。こんな世で、女が生きるはそれだけで一大事。あやめさまは、よく努められてきた。母君に死に別れ、おうちでも一人さびしく過ごされた。お仕事お覚えに励まれた。柄に足りぬ、ごく小さな仕事しかあてがわれぬとも、もくもくと務められた。挙句、こんな土地まで、乗り込んでこられた。せっかくのお恋は、つらかった。むごい目に遭わされながら、……」
「コハル、お前がいてくれたから……」
「……強く生きられて、ご立派だった。でも、あなた様のお器と、与えられた天命からすれば、いまのご苦労でも不足。もっと強くあられねばなりますまい。」
「コハル、何をいいだす、コハル?」
「はかない男女のことで、身も世もなく泣かれるな。ひとの出会いも別れも生き死にも、天だか仏だかのお決めになったものと、達観されよ。あなた様がたとえ手を汚したとて、信じられた道で起きたことならば、途次で悔いるいわれもない。天命に堪えられよ。そのために、一層、お強くあられよ。」
「天命とは、なんじゃよ? 強くなれ、とは? ずっといて、それを教えてくれ、コハル。こんなところで、いなくならないでくれっ!」
「あやめさま。これだけは儂をお信じくださいませ。コハルはどこにいても、ただひたすら、あなた様のお幸せだけを祈っております。」
コハルはあやめを振りほどくと、あたかも一瞬で姿を消したようになった。しかしあやめは知っている。こんな時、自分に見えないだけで、コハルはまだ近くに潜んでいるはずだ。
「コハル。……聞いてくれ。強くなったら……いまより強くなれたら、必ず帰って来ておくれ。お前と別れたくない。」
コハルはどこかで沈黙している。
「必ず、強くなるから……!もう、二度とめそめそとせぬから……!」
そういいながら、あやめはぼろぼろと涙を流している。
「それでようございます、御寮人さま。……あやめさま。」
どこか遠くでコハルの声がした。あやめは頭を抱え、机に突っ伏した。
「なんだって、そんなひどい真似をしたね、おかしら?」
小春が、箱館の山手に拵えた、かれらの一党の隠れ家で、押し黙っているコハルの大きな背中にむけて、非難する声をかけた。
今からお前が入れ替わりに「コハル」だ、店屋敷でお目通りせよ、と急にいわれて、聞いてみれば、あやめに一方的に別れを告げて、店を出てきたという。装束もすっかり変えて、もう納屋の使用人コハルの風ではない。
「御寮人さまがどんなにおさびしいか、あんたが一番わかっているだろうに。」
「わからぬか。儂はもう、御寮人さまの家の者ではおられぬ。」
「なぜだい?」
と訊ねた小春は、おかしらが泣いているのを知って、驚いた。
「このざまだ。もうお役にたてぬわ。」
コハルは涙を溢れさせながら、自嘲してみせる。
「……それはしらぬが、おかしらさま、あんたがお傍にいるだけで、御寮人さまは嬉しいんだよ。心強いんだよ。『コハル、いつまでも店にいてくれよ』といわれたでございましょう。代え難いひとなんだよ。」
「声色を使うでないわ。……代え難いのは、儂も同じよ。御寮人さまは儂のたった一人のおひとだ。」
「ならば、なぜ?」
「御寮人さまの家の者ではおられぬからだ、というたな。」
小春ははっとした。
「おかしら……御寮人さまの命に逆らうつもりか。」
コハルはにやりと笑った。
「そうじゃな、おぬしにはいうておいてやろう。……そのつもりよ。察せよ。」
「わたしには? ……まさか、……おやかたさまを。」
「いうておく。御寮人さまにいいつけたとて、無益だ。儂はもはや家の者ではないから、御寮人さまとて、止められぬ。儂はやらねばならぬときには、やる。……お前が儂を止めるか?」
「……できるわけもなかろう。わたしなどには、あんたの邪魔はできぬ。」
小春は溜息をつく思いだ。新三郎が死ぬのは、たしかに嬉しくはない。だがそれ以上に、あやめの驚きと落胆を思った。
「なんだって、御寮人さまが悲しむ真似をする? それに聞いているんだろう、新三郎は本当の仇ではないらしいんだろう? それを、……聞くだけ無駄か。御寮人さまの御ためだというのでございましょうな。」
「さすがに聞き分けてくれたか。だが、御寮人さまは、そうはいかんのだ。」
「いきますまいが……」
「なに、案ずるまでもない。」コハルは笑ってみせた。「新三郎は、儂が手を下すまでもないであろう。御寮人さまのお望みのようには、いくはずもない。奴は乱軍の中で、十四郎さまに討ち取られるしかあるまい。」
「……そうなれば、おかしら、納屋にお戻りか?」
コハルは黙り込んだ。
「おいっ?」
「いま、気づきました。今井さまからお暇をいただくときでございます。」
「たわぶれを言わぬでくれ。いまは、驚かされている暇はない。」
「たわぶれなどではございませぬ。……御寮人さま。大旦那さまより、まことに長くご恩を賜りました。お暇を頂戴いたしましょう。」
「なぜじゃ、なぜじゃよ、コハル?……こんな大事なときに。戦が起きるのじゃぞ。」
「……その、戦が怖い。」コハルは笑った。「御寮人さまが起こした、こんなわけのわからぬ戦に巻き込まれて死んでは、永禄以来命をつないできた甲斐がない。」
「そらごとを申すな。コハルがさようなことを。」
「儂を買い被られるでない。今井さまからいただいたご恩は、どうやらお返しした。御寮人さまにいただいた分もだ。となると、危ない目は避けたい。こんな寒いところにいつくのも、なにやら、あほらしうなってきた。それまでのことでございます。」
「……?」
あやめはもちろん、コハルのいきなりの言葉をそのままにうけとってはいない。何か非常の覚悟があってのことだろうと思って、それは何かと考えを巡らそうとしているが、あまりのことに、急には頭が動かないのである。
「コハル、わたくしがいい歳をしてめそめそして、すまなかった。許してくれ。」
「許すもなにも。そういうことではない。もったいない、頭をお上げください。」
「覚悟はしている。コハルのいう、天道のためというのもわかっている。どなたと別れてしまっても、仕方がない。だから、……コハルまで、行かないでおくれ。頼む。」
「儂らのような者を、そこまでお頼りになさいますな。儂らは今井さまご家中にとっては、所詮は汚れ仕事の道具のようなもの。儂などはとくに、もう古錆びた道具なのでござる。だから大旦那様も、わたくしをこんな辺地にお寄越しになった。」
「そんなことはないぞ!」
「それも、お役に……お役に立てなかった。御寮人さまのお苦しみは、もとはといえば、儂の……」コハルは絶句した。「……数々の手抜かりのせいじゃった。今頃、もっともっとご立派な商人になられていても、さもなくば、どこかでのんびりと十四郎さまとお二人でお暮しになっていて、よかったのに。悔やまれてなりませぬ。」
「コハル。天道や正義やと、お前がいうたのではないか。……なあ、なぜじゃ、なぜ暇をとらせよなどという? お前までが離れてしまったら、わたくしは、もう……」
あやめはこまかく震えている。思わず自分の肩を抱いた。
「ご安心召されよ。御寮人さまの『図』はもう九分がた仕上がった。『コハル』は、新しいのが、参ります。あやつは、お役にたつ。」
「なにが、新しいの、じゃ? そんな者は要らぬ。コハルはひとりじゃよ。たった一人の、わたくしの、大事な、身内なのじゃっ!」
あやめは、立ちすくんだようになっているコハルにとりすがった。
「……おやおや、今井さまのお家の方がそんなことをいわれては、罰が当たりますぞ。儂なんぞが、なぜお身内だ。御寮人さまはそこがお甘い。おひとがよすぎる。……気掛かりだ。気掛かりでならぬ。」
「気掛かりならば、いてくれ。わたくしを守ってくれ。いや、そばにいてくれるだけで構わない。子どもの頃みたいに、話をしてくれるだけでいい。思い出した時に、遊んでくれるだけでもいい。……行かないで、行かないでくれっ。」
「御寮人さま。それが国守の妻になろうというお方か。いや、あなた様はそんな程度の者ではないのに、なぜ今のいままでお気づきにならぬのか。」
「……なにをいう。多少才が走るだけで思いあがってはなりませぬ、とたしなめてくれたのは、コハルじゃったよ。」
むかし、仕事の合間に堺の今井屋敷に羽根を休めたとき、子供たちの姉妹喧嘩の仲裁をしたことがあったが、コハルはもちろん、そんな些事は全く忘れていた。いくら自分より劣る姉に対しても、たいしてひどく思いあがるはずもなかったあやめに対して、喧嘩両成敗であらぬことをいってしまったのか。思慮のありすぎる子どもに、自分を押さえつけることを教えてしまった。
「お前が、いつも、わたくしの増上慢をいさめてくれたよ。世は知らぬこと、わたくしなぞの知恵の及ばぬことばかりと、お前がいるから、お前がいるだけで、わたくしはわかったよ。だから、……」
「……左様じゃったか、儂なんぞがお傍にいたからか。やはり、お暇すべき時でございましたな。」
「コハルっ?」
「ご案じなさるな、儂の手の者は今井さまに丸ごと置いておく。道具箱に、使える道具は十分ござる。随時呼び寄せて、使ってやって下され。」
「お前、堺からもいなくなってしまうというのか?」
「……御身内と呼んでくださいましたな、御寮人さま……、あやめさま。一度だけ、そのお言葉に甘えましょう。身内の年寄りは、分を越えてお説教をいたすのですぞ。」
コハルは、にこにこと懐かしい笑みをみせた。
「お前はいつも説教してくれたではないか。だから、とうに身内だよ。これからも、ずっと……」
「……お強くなられるのだ。こんな世で、女が生きるはそれだけで一大事。あやめさまは、よく努められてきた。母君に死に別れ、おうちでも一人さびしく過ごされた。お仕事お覚えに励まれた。柄に足りぬ、ごく小さな仕事しかあてがわれぬとも、もくもくと務められた。挙句、こんな土地まで、乗り込んでこられた。せっかくのお恋は、つらかった。むごい目に遭わされながら、……」
「コハル、お前がいてくれたから……」
「……強く生きられて、ご立派だった。でも、あなた様のお器と、与えられた天命からすれば、いまのご苦労でも不足。もっと強くあられねばなりますまい。」
「コハル、何をいいだす、コハル?」
「はかない男女のことで、身も世もなく泣かれるな。ひとの出会いも別れも生き死にも、天だか仏だかのお決めになったものと、達観されよ。あなた様がたとえ手を汚したとて、信じられた道で起きたことならば、途次で悔いるいわれもない。天命に堪えられよ。そのために、一層、お強くあられよ。」
「天命とは、なんじゃよ? 強くなれ、とは? ずっといて、それを教えてくれ、コハル。こんなところで、いなくならないでくれっ!」
「あやめさま。これだけは儂をお信じくださいませ。コハルはどこにいても、ただひたすら、あなた様のお幸せだけを祈っております。」
コハルはあやめを振りほどくと、あたかも一瞬で姿を消したようになった。しかしあやめは知っている。こんな時、自分に見えないだけで、コハルはまだ近くに潜んでいるはずだ。
「コハル。……聞いてくれ。強くなったら……いまより強くなれたら、必ず帰って来ておくれ。お前と別れたくない。」
コハルはどこかで沈黙している。
「必ず、強くなるから……!もう、二度とめそめそとせぬから……!」
そういいながら、あやめはぼろぼろと涙を流している。
「それでようございます、御寮人さま。……あやめさま。」
どこか遠くでコハルの声がした。あやめは頭を抱え、机に突っ伏した。
「なんだって、そんなひどい真似をしたね、おかしら?」
小春が、箱館の山手に拵えた、かれらの一党の隠れ家で、押し黙っているコハルの大きな背中にむけて、非難する声をかけた。
今からお前が入れ替わりに「コハル」だ、店屋敷でお目通りせよ、と急にいわれて、聞いてみれば、あやめに一方的に別れを告げて、店を出てきたという。装束もすっかり変えて、もう納屋の使用人コハルの風ではない。
「御寮人さまがどんなにおさびしいか、あんたが一番わかっているだろうに。」
「わからぬか。儂はもう、御寮人さまの家の者ではおられぬ。」
「なぜだい?」
と訊ねた小春は、おかしらが泣いているのを知って、驚いた。
「このざまだ。もうお役にたてぬわ。」
コハルは涙を溢れさせながら、自嘲してみせる。
「……それはしらぬが、おかしらさま、あんたがお傍にいるだけで、御寮人さまは嬉しいんだよ。心強いんだよ。『コハル、いつまでも店にいてくれよ』といわれたでございましょう。代え難いひとなんだよ。」
「声色を使うでないわ。……代え難いのは、儂も同じよ。御寮人さまは儂のたった一人のおひとだ。」
「ならば、なぜ?」
「御寮人さまの家の者ではおられぬからだ、というたな。」
小春ははっとした。
「おかしら……御寮人さまの命に逆らうつもりか。」
コハルはにやりと笑った。
「そうじゃな、おぬしにはいうておいてやろう。……そのつもりよ。察せよ。」
「わたしには? ……まさか、……おやかたさまを。」
「いうておく。御寮人さまにいいつけたとて、無益だ。儂はもはや家の者ではないから、御寮人さまとて、止められぬ。儂はやらねばならぬときには、やる。……お前が儂を止めるか?」
「……できるわけもなかろう。わたしなどには、あんたの邪魔はできぬ。」
小春は溜息をつく思いだ。新三郎が死ぬのは、たしかに嬉しくはない。だがそれ以上に、あやめの驚きと落胆を思った。
「なんだって、御寮人さまが悲しむ真似をする? それに聞いているんだろう、新三郎は本当の仇ではないらしいんだろう? それを、……聞くだけ無駄か。御寮人さまの御ためだというのでございましょうな。」
「さすがに聞き分けてくれたか。だが、御寮人さまは、そうはいかんのだ。」
「いきますまいが……」
「なに、案ずるまでもない。」コハルは笑ってみせた。「新三郎は、儂が手を下すまでもないであろう。御寮人さまのお望みのようには、いくはずもない。奴は乱軍の中で、十四郎さまに討ち取られるしかあるまい。」
「……そうなれば、おかしら、納屋にお戻りか?」
コハルは黙り込んだ。
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