異世界転移かと思ったら群馬だった

兎屋亀吉

文字の大きさ
13 / 13

13.インテリ部門

しおりを挟む
「お前、金稼ぎが得意だとか言ってやがったな。何ができる」

「資産運用ですね。株とか、FXとか」

「戦争には金がかかる。試しにこいつをひと月回してみろ。減らしやがったらぶっ殺す」

 そう言って後藤は100万円の札束を3つ俺に押し付ける。
 300万円か。
 レバレッジの高いハイリスクハイリターンの投資に突っ込めば1週間で10倍くらいは余裕だろうな。
 でもあまりバカスカ稼ぐともっと稼げとか言われそうだし、ここはひと月で倍くらいになるように調整しよう。
 反社に大量の資金が回るのは一般人の迷惑にもなるし、そのくらいが俺の有用性をアピールするにはちょうどいい額だろう。
 次は一億を倍にしろとか言われたらロット数が増えると注文が通りにくくなるとでも言って断ればいい。
 資金が多くなると回すのも大変になるのは本当のことだから嘘はついていない。

「取引の名義にはこの名前と住所を使え、銀行口座はこれだ。あと、やるならここのパソコンを使え」

 俺はシェアハウスに帰って自分のパソコンでトレードしようと思っていたのだが、よく考えたらこんな金を自分の名義の口座で回すのはやばすぎる。
 大人しく指示通りの名義で取引をするとしよう。
 後藤が差し出した免許証などの本人確認書類と預金通帳を受け取る。
 果たしてこれは本当に存在する誰かのものなのか、それとも偽造した偽物なのか。
 そういうことはたぶん聞かないほうがいいんだろうな。

「入金は念のため隣の県まで行ってやってこい。いいな?」

「はい」

 まったく、ヤクザというのもなかなかに大変なんだな。
 後ろ暗いことをやってご飯を食べているのだから仕方がないのだろうけど。
 暴対法でかなり締め付けが厳しくなった現代では、悪人が暴力団という組織に所属するのはあまりメリットがないことなのかもしれない。
 俺は事務所を出てシェアハウスへと帰る。
 入金は明日でいいだろ。





 鳴り続けるスマホの音に叩き起こされる。
 俺は目覚ましなんてかけないのでおそらく電話の着信だろう。
 こんな朝っぱらから誰だ。
 スマホの画面に表示された名前はヤクザの兄貴後藤氏。

「うぇ、なんだっていうんだよもう。はい、もしもし」

『てめえ隣の県まで入金しに行くのにいつまでかかってやがる!!金持ち逃げしたんじゃねえだろうな!!』

 せっかちな兄貴には困ったものだ。
 隣の県まで行くのなんてそんなすぐに行けるものじゃない。
 1日2日くらい待てないものか。

「昨日はもう遅かったし隣の県に泊まったんですよ。これから帰るところです」

 しれっと嘘をつく。
 まあこれから電車で行ってこれば少し遅れたってことにできるだろう。
 
『昼までには事務所に来い。遅れたら今度こそ殺すからな』

「わかりました」

 本気で怒っているようなので少し急ぐか。
 昼までは結構ギリギリだ。





「こんにちは」

「てめえおせえんだよ!!今何時だと思っていやがる!!午後4時だぞ!!俺は昼までに来いって言ったよなあ!!」

「す、すみません……」

 銀行の待ち時間を考慮していなかったせいでまた遅刻してしまった。
 どうせ遅刻するなら1時間も2時間も同じだと思いゆっくりお昼ご飯も食べてきてしまったのがよくなかったのかもしれない。
 後藤の顔は真っ赤に染まり今にも爆発しそうなほどに青筋が浮いている。
 後藤はテーブルの上の重そうな大理石製の灰皿を持ち上げると振りかぶる。
 思い切り投げつけられた大理石の灰皿が俺の顔の前でバリアに当たって粉々に砕け散った。
 その後も後藤は手あたり次第に事務所内の物を投げつけ続け、5分ほどで息も絶え絶えになる。

「ふー、ふー、片付けておけ」

「へ、へい……」

 それで気が済んだのか後藤は穏やかな顔に戻り、手下に事務所の片づけを命じる。
 手下の強面ボーイズたちはすごい形相で俺のことを睨みつつも大人しく事務所の片づけを始める。
 なんかごめん。

「おい、付いてこい」

「はい」

 グレたブッダのような顔に戻った後藤氏は足早に歩き出し、俺を別室へと連れていく。
 先ほどまでの部屋は明らかに反社の事務所といった感じの場所だったのだが、連れていかれた部屋はデスクやパソコンが置かれた一見普通のオフィスのような場所だった。
 そこには数人の男たちがパソコンに向かって作業をしていた。
 後藤は一番奥の少し離れた場所に置かれたデスクに向かう。
 そこにはあご髭を生やして銀縁眼鏡をかけたベンチャー企業の社長みたいな人が座っていた。

「おい、できてるか?」

「時間的にFXの海外口座しか用意できてませんが」

「FXの海外口座だけでいけるか?」

 おそらくこのウェブ担当みたいな人に投資用の口座を作らせていたのだろう。
 しかし昨日の今日だ、まともな金融会社ならば口座開設はできない。
 特に国内の株やFXなどの金融商品を扱う証券会社は老舗になるほど必要書類が郵送しか選べなかったりする。
 IT系の証券会社でもマイナンバーカードの認証には時間がかかったりして翌日には取引を始められるという証券会社は少ない。
 早くても2、3日はかかるというところがほとんどだろう。
 だが海外口座は違う。
 本人確認書類の写真をウェブ上にアップロードするだけで簡単に口座を開設することができるのだ。
 リスク回避のためには株やFXの国内口座も作っておきたいところだが、今は海外口座だけでも大丈夫だろう。

「ええ、それで構いません」

 男は俺が入金してきた銀行の預金通帳を受け取ると、手早くインターネットバンキングを使って入金してしまった。
 手慣れているように見えることから、おそらくこの人もFXを齧ったことがあるのだろう。
 ていうかこれ俺が自ら銀行に行って入金してくる必要なくない?
 金が入った銀行口座をくれよ。

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【状態異常無効】の俺、呪われた秘境に捨てられたけど、毒沼はただの温泉だし、呪いの果実は極上の美味でした

夏見ナイ
ファンタジー
支援術師ルインは【状態異常無効】という地味なスキルしか持たないことから、パーティを追放され、生きては帰れない『魔瘴の森』に捨てられてしまう。 しかし、彼にとってそこは楽園だった!致死性の毒沼は極上の温泉に、呪いの果実は栄養満点の美味に。唯一無二のスキルで死の土地を快適な拠点に変え、自由気ままなスローライフを満喫する。 やがて呪いで石化したエルフの少女を救い、もふもふの神獣を仲間に加え、彼の楽園はさらに賑やかになっていく。 一方、ルインを捨てた元パーティは崩壊寸前で……。 これは、追放された青年が、意図せず世界を救う拠点を作り上げてしまう、勘違い無自覚スローライフ・ファンタジー!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

処理中です...