寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
5 / 12

5.クトゥルフ

しおりを挟む
 【ショゴス】のパッシブ効果である状態異常無効化は試す方法がわからないので、次はアクティブ効果を試してみる。
 【ショゴス】のアクティブ効果は粘体というのと粘魚というものを生み出して操る能力らしいな。
 粘体出ろー、と念じると手のひらの上に黒い球体が生み出される。
 なんだか初めてスキルというものを使った実感を得た。
 アクティブ効果というのはこういうものなんだな。
 魔力ってのを消費しているらしいが、実感はないな。
 黒い玉に触ると、粘体というわりにネバネバはしていなかった。
 プニプニしていて柔らかい、ほんのり温かくて、まるで人の柔肌のようだった。
 逆に怖えよ。
 これだからクトゥルフは。
 しかしこれのどこが粘体なんだろうな。
 俺は黒い玉がどこかにくっ付かないか色々試してみる。
 半分に割ってみたり、包丁で切ってみたりしたがくっ付かない。
 しかしくっ付けよと思いながら指で触れると、まるでトリモチのようにネバっと吸着してきた。
 すごいな、くっ付くかくっ付かないか、スキル所持者が決めることができるのか。
 まるで電磁石だな。
 動きは遅いが粘体自体もグネグネと操ることができるようだし、これは使いようによってはかなり使えるかもしれない。
 そして何よりスキル詳細に気になることが書かれていた気がする。
 
 ショゴス:【パッシブ効果】状態異常無効化。水中で呼吸ができる。水中での移動にプラス補正。【アクティブ効果】魔力を消費して粘体と粘魚を生み出し、操ることができる。粘体と粘魚の中には異空間が広がっており、なんでも飲み込む。異空間の中はスキル所持者のテリトリーとなり、魔力を消費することによって内部の時間を操作することができる。魔力を消費することで粘魚は人間に存在する器官を生成することができ、スキル所持者はその感覚を共有することができる。

 『粘体と粘魚の中には異空間が広がっており、なんでも飲み込む。』
 この部分だ。
 異空間って、アイテムボックスじゃねえかよ。
 魔力を消費すれば内部の時間も操作できると書かれている。
 なんでも飲み込んで内部の時間は止めるも早めるも自由自在。
 これはまさに近年の異世界小説でよく見かける超便利な能力、アイテムボックスだ。
 俺は粘体の中にテーブルの上に置かれていた眼鏡を突っ込んでみた。
 眼鏡は黒い粘液の中にズブズブと飲み込まれて消えていった。
 粘体をプニプニ触ってみても中に固いモノが入っている感覚は無い。
 どうやら眼鏡は無事異空間に飲み込まれたようだ。
 なんとなく脳の奥の方に違和感があり、異空間に俺の眼鏡が入っているということを感じることができた。
 これが異空間の中が自分のテリトリーになるという感覚か。
 異空間に何が入っているのか自分で知ることができるなら、入れたまま忘れる物とかが無さそうで安心だ。
 俺は粘体に眼鏡を吐き出せと念じる。
 すると粘体の中から眼鏡がズブズブと出てきてポトリと落ちた。
 吐き出すこともちゃんとできるな。
 そして中の時間も操作可能。
 アイテムボックスとして使うことが十分に可能だ。
 これだけでもこのスキルは大当たり中の大当たりだろう。
 俺はしばらく部屋中を粘体ボールを転がしたりして遊んだ。
 粘体に埃を吸着させることによって部屋がどんどん綺麗になる。
 引きこもりスキルの影響で半年経ったわりには綺麗に保たれていたのだが、その前から汚かった部分というのは綺麗になっていなかったのでこのスキルは助かる。
 男の一人暮らしの割には綺麗にしてる方だとは思うが、どうしても家具の下とか部屋の隅とかは埃が溜まるからな。
 これなら埃だろうが排水溝のヌメった髪の毛だろうがすべて吸着して飲み込んでくれる。
 異空間の中は無数の部屋のように分けることができるようなのでゴミと他の物が混ざるようなことは無い。
 これは異世界小説のアイテムボックスと一緒だ。
 部屋ごとに時間の設定ができるようだが、それに関してはどのくらい魔力を使うのかわからなかったのでやめておいた。
 俺の魔力値は12しかないからな。
 MPの総量も12ということだ。
 魔力は一晩寝ないと全快しないみたいだし、今日中に試したいことを優先する。
 とりあえず【ショゴス】のもう一つのアクティブ効果、粘魚という能力を試す。
 俺は粘体を消し、粘魚を生み出した。
 粘体のように黒い粘液からヌルりと魚のような形の黒い物体が出てくる。
 やっぱりクトゥルフだけあってちょいキモイな。
 真っ黒な身体にでかい口、そして身体中にある無数の真っ赤な目玉がぎょろりとこちらを見る。
 深海魚のような得体の知れなさを感じるヌルっとしたフォルムの魚だ。
 魚は空中に浮かび、俺の周囲を優雅に泳ぎ回る。
 そして2匹に分裂した。
 4匹、8匹とドンドン小さくなると同時に増えていく。
 最終的にメダカサイズまで小さくなり、群れで泳ぎ回った挙句また一つに合体した。
 なんなんだこの魚は。
 マニュアル操作の粘体と違い、粘魚はある程度自動で動き回るらしいな。
 顔に寄ってきて口をパクパクさせている姿がちょっと可愛いと思ってしまった俺はクトゥルフに染まってきているのだろうか。
 俺はまだ正気だよな。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

ダンジョンで有名モデルを助けたら公式配信に映っていたようでバズってしまいました。

夜兎ましろ
ファンタジー
 高校を卒業したばかりの少年――夜見ユウは今まで鍛えてきた自分がダンジョンでも通用するのかを知るために、はじめてのダンジョンへと向かう。もし、上手くいけば冒険者にもなれるかもしれないと考えたからだ。  ダンジョンに足を踏み入れたユウはとある女性が魔物に襲われそうになっているところに遭遇し、魔法などを使って女性を助けたのだが、偶然にもその瞬間がダンジョンの公式配信に映ってしまっており、ユウはバズってしまうことになる。  バズってしまったならしょうがないと思い、ユウは配信活動をはじめることにするのだが、何故か助けた女性と共に配信を始めることになるのだった。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

スキル:浮遊都市 がチートすぎて使えない。

赤木 咲夜
ファンタジー
世界に30個のダンジョンができ、世界中の人が一人一つスキルを手に入れた。 そのスキルで使える能力は一つとは限らないし、そもそもそのスキルが固有であるとも限らない。 変身スキル(ドラゴン)、召喚スキル、鍛冶スキルのような異世界のようなスキルもあれば、翻訳スキル、記憶スキルのように努力すれば同じことができそうなスキルまで無数にある。 魔法スキルのように魔力とレベルに影響されるスキルもあれば、絶対切断スキルのようにレベルも魔力も関係ないスキルもある。 すべては気まぐれに決めた神の気分 新たな世界競争に翻弄される国、次々と変わる制度や法律、スキルおかげで転職でき、スキルのせいで地位を追われる。 そんななか16歳の青年は世界に一つだけしかない、超チートスキルを手に入れる。 不定期です。章が終わるまで、設定変更で細かい変更をすることがあります。

処理中です...