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3.銅銭1枚の価値
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蔓を編んで作った簡単な籠に魚を20匹ほど入れて街に戻る。
適当な場所の井戸で足を洗う。
あの汚泥はどうにかならんものか。
「こらっ、乞食がなにしとる!!」
ワシが井戸を使っておるのを見た近所の住人が棒を持って怒鳴り込んできおった。
まったく、井戸くらい使わせてくれてもいいだろうに。
孤児というのはなかなかに生きづらい。
ワシは魚を持って逃げた。
兵法三十六計の敗戦計の中でも走為上に勝るものはない。
すなわち、三十六計逃げるに如かず。
前世であれば町人などに負ける気など欠片も起きなんだが、ワシの今の身体では大人に敵うかどうかは未知数だ。
勝てるかどうかわからん戦いは避けるに限る。
「はぁ、はぁ、はぁ、この身体はすぐに息が上がるな。鍛えてやらねば使い物にならんぞ」
まずは川原で走って体力を付けんとな。
そんで棒切れを振り回して剣術の鍛錬だ。
しかしそうなると、やはり塩が欲しい。
動いて汗をたくさんかくと身体の中の塩が流れ出してしまう。
そのため汗をたくさんかいた者は水と共に塩辛い梅干しなどを食べて塩を補充せねばいつか動けなくなってしまうのだ。
獣の血などからも塩は摂取することが可能だが、そうそういつも獣を狩れるとは限らんし毎日獣臭い血を飲むのも勘弁だ。
この魚を売って銭が手に入ったら、混ざり物でもよいので塩を手に入れたい。
ワシは浮浪者だからと追い出されながらも、何軒かの店屋を尋ね歩いた。
そうして1軒の店屋でなんとか魚を買い取ってもらうことに成功する。
ワシから魚を買い取った店屋の親父は薄汚れた丸い銅銭を1枚投げてよこした。
「あんだよクソガキ、それじゃ納得できねえってのか?」
納得できないもなにも、ワシにはこれがどの程度の価値を持つかわからん。
だが親父の態度から、おそらく買いたたかれておる。
まあ孤児から買い取った魚などはこんなものだろう。
ワシは銅銭を手で弄びながら親父に礼を言い、店を離れた。
この銭で何ができるかはこれから調べていけばよい。
昼下がりの街は喧騒に満ち溢れておる。
この街の領主はワシが当初思っておったほど無能ではないようだ。
市場はおそらく座などの既得権益が支配するような閉鎖的なものではなく、誰でも自由に店を出すことができる楽市。
税に喘いで必死になっておる様子もない。
近隣の農村から畑でとれた野菜などを持って街に売りにきておるような者もおる。
領民の暮らしぶりは概ね豊かなようだの。
ワシのような浮浪者も一定数存在しておるが、すべての民が豊かに暮らしていくことなどはできぬのでそれは仕方あるまい。
日ノ本乱世の浮浪者戦死者餓死者の数よりは段違いに良い。
さて、この銅銭を使うてみるか。
ワシは人の好さそうな女が一人でやっておる露店に近づいて品を眺める。
女は明らかに浮浪児であろう小汚いボロを纏ったワシを見ても眉を顰めるようなこともせず、逆に笑みを浮かべた。
思うたとおりの人柄のようだ。
「もし、この銅銭で何か買えるものはなかろうか」
「銅貨1枚かい?そうだねぇ、それで買えるものというと。うーん……」
女は品をあれやこれやといじって悩んでおる。
どうやらこの貨幣1枚の価値はかなり低いようだ。
20匹の魚がこの貨幣1枚とは、あの親父がめつすぎるぞ。
「すまない、やっぱりよい。その代わり教えて欲しいのだが、塩はこれが何枚あれば買える?」
「塩かい?そうだねえ、砂混じりの低品質品ならこのくらいの袋に入ってそいつが30枚くらいかねえ」
女は握りこぶしの半分ほどの皮袋を手に取って言う。
あれっぽっちの塩でこいつが30枚もいるのか。
街の近くの川には魚がたくさんおるので捕り尽くす心配はなさそうだが、塩を手に入れるのに600もの魚を捕る気にはなれんな。
たとえあのがめつい親父が魚を適正な価値で買い取ったとしても相当な量の魚が必要だろう。
魚だけで塩を手に入れるのは諦めたほうがよいかの。
ワシは親切な女に魚の本当の価値や獣の毛皮や肉の価値、どこに持って行ったらより高く買い取ってくれるのかなどを聞き、代わりに先ほどの銅銭を渡した。
「幾分足りぬかもしれぬが、そのうち銭を手に入れてこの露店の売り上げに協力するゆえしばし待ってはくれぬか」
「いいんだよ、そんなことは気にしなくても。こんな情報はどこだって聞けるような情報さ」
「かたじけない」
この女の露店には使えそうな皮製品や織物製品などが売っておる。
どうせ買うなら今後はこの女の店で買うとしよう。
ワシはもう一度女に礼を言い、女の店を離れた。
再び街を離れ、やってきたのは森だ。
森には売れるものが多い。
山菜類は熟知しておらんと危ないので動物を狩り、それを銭に変えるとする。
ワシは細くて丈夫そうな蔓を探し、少し触ってみる。
手首の内側などの肌の弱いところに触れさせて、かぶれなければ安全な蔓だ。
やはり狩りといえば兎罠よ。
蔓や縄で輪っかを作り兎の首や胴体などをくくる単純な罠だが、獲物の多い狩場などでは案外簡単に兎がかかるものよ。
ワシは山でとれる肉の中では兎か猪あたりが好みだ。
四つ足の獣を狩ると近所の坊主は嫌な顔をしたがな。
田舎坊主は口うるさくてかなわん。
それでも酒と女と金勘定が大好きな大寺の強欲坊主よりは幾分かマシよ。
ワシは坊主のありがたい経と説法を思い出しながら兎罠をこしらえた。
罰当たりは今に始まったことではないので仏がおるなら許してほしい。
適当な場所の井戸で足を洗う。
あの汚泥はどうにかならんものか。
「こらっ、乞食がなにしとる!!」
ワシが井戸を使っておるのを見た近所の住人が棒を持って怒鳴り込んできおった。
まったく、井戸くらい使わせてくれてもいいだろうに。
孤児というのはなかなかに生きづらい。
ワシは魚を持って逃げた。
兵法三十六計の敗戦計の中でも走為上に勝るものはない。
すなわち、三十六計逃げるに如かず。
前世であれば町人などに負ける気など欠片も起きなんだが、ワシの今の身体では大人に敵うかどうかは未知数だ。
勝てるかどうかわからん戦いは避けるに限る。
「はぁ、はぁ、はぁ、この身体はすぐに息が上がるな。鍛えてやらねば使い物にならんぞ」
まずは川原で走って体力を付けんとな。
そんで棒切れを振り回して剣術の鍛錬だ。
しかしそうなると、やはり塩が欲しい。
動いて汗をたくさんかくと身体の中の塩が流れ出してしまう。
そのため汗をたくさんかいた者は水と共に塩辛い梅干しなどを食べて塩を補充せねばいつか動けなくなってしまうのだ。
獣の血などからも塩は摂取することが可能だが、そうそういつも獣を狩れるとは限らんし毎日獣臭い血を飲むのも勘弁だ。
この魚を売って銭が手に入ったら、混ざり物でもよいので塩を手に入れたい。
ワシは浮浪者だからと追い出されながらも、何軒かの店屋を尋ね歩いた。
そうして1軒の店屋でなんとか魚を買い取ってもらうことに成功する。
ワシから魚を買い取った店屋の親父は薄汚れた丸い銅銭を1枚投げてよこした。
「あんだよクソガキ、それじゃ納得できねえってのか?」
納得できないもなにも、ワシにはこれがどの程度の価値を持つかわからん。
だが親父の態度から、おそらく買いたたかれておる。
まあ孤児から買い取った魚などはこんなものだろう。
ワシは銅銭を手で弄びながら親父に礼を言い、店を離れた。
この銭で何ができるかはこれから調べていけばよい。
昼下がりの街は喧騒に満ち溢れておる。
この街の領主はワシが当初思っておったほど無能ではないようだ。
市場はおそらく座などの既得権益が支配するような閉鎖的なものではなく、誰でも自由に店を出すことができる楽市。
税に喘いで必死になっておる様子もない。
近隣の農村から畑でとれた野菜などを持って街に売りにきておるような者もおる。
領民の暮らしぶりは概ね豊かなようだの。
ワシのような浮浪者も一定数存在しておるが、すべての民が豊かに暮らしていくことなどはできぬのでそれは仕方あるまい。
日ノ本乱世の浮浪者戦死者餓死者の数よりは段違いに良い。
さて、この銅銭を使うてみるか。
ワシは人の好さそうな女が一人でやっておる露店に近づいて品を眺める。
女は明らかに浮浪児であろう小汚いボロを纏ったワシを見ても眉を顰めるようなこともせず、逆に笑みを浮かべた。
思うたとおりの人柄のようだ。
「もし、この銅銭で何か買えるものはなかろうか」
「銅貨1枚かい?そうだねぇ、それで買えるものというと。うーん……」
女は品をあれやこれやといじって悩んでおる。
どうやらこの貨幣1枚の価値はかなり低いようだ。
20匹の魚がこの貨幣1枚とは、あの親父がめつすぎるぞ。
「すまない、やっぱりよい。その代わり教えて欲しいのだが、塩はこれが何枚あれば買える?」
「塩かい?そうだねえ、砂混じりの低品質品ならこのくらいの袋に入ってそいつが30枚くらいかねえ」
女は握りこぶしの半分ほどの皮袋を手に取って言う。
あれっぽっちの塩でこいつが30枚もいるのか。
街の近くの川には魚がたくさんおるので捕り尽くす心配はなさそうだが、塩を手に入れるのに600もの魚を捕る気にはなれんな。
たとえあのがめつい親父が魚を適正な価値で買い取ったとしても相当な量の魚が必要だろう。
魚だけで塩を手に入れるのは諦めたほうがよいかの。
ワシは親切な女に魚の本当の価値や獣の毛皮や肉の価値、どこに持って行ったらより高く買い取ってくれるのかなどを聞き、代わりに先ほどの銅銭を渡した。
「幾分足りぬかもしれぬが、そのうち銭を手に入れてこの露店の売り上げに協力するゆえしばし待ってはくれぬか」
「いいんだよ、そんなことは気にしなくても。こんな情報はどこだって聞けるような情報さ」
「かたじけない」
この女の露店には使えそうな皮製品や織物製品などが売っておる。
どうせ買うなら今後はこの女の店で買うとしよう。
ワシはもう一度女に礼を言い、女の店を離れた。
再び街を離れ、やってきたのは森だ。
森には売れるものが多い。
山菜類は熟知しておらんと危ないので動物を狩り、それを銭に変えるとする。
ワシは細くて丈夫そうな蔓を探し、少し触ってみる。
手首の内側などの肌の弱いところに触れさせて、かぶれなければ安全な蔓だ。
やはり狩りといえば兎罠よ。
蔓や縄で輪っかを作り兎の首や胴体などをくくる単純な罠だが、獲物の多い狩場などでは案外簡単に兎がかかるものよ。
ワシは山でとれる肉の中では兎か猪あたりが好みだ。
四つ足の獣を狩ると近所の坊主は嫌な顔をしたがな。
田舎坊主は口うるさくてかなわん。
それでも酒と女と金勘定が大好きな大寺の強欲坊主よりは幾分かマシよ。
ワシは坊主のありがたい経と説法を思い出しながら兎罠をこしらえた。
罰当たりは今に始まったことではないので仏がおるなら許してほしい。
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