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改稿版
9.静かな旅立ち
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あればあるだけ価格を変動させることなく売りさばけると言われていた胡椒の買取価格が下がり始めたのは、金貨を1万枚ばかり荒稼ぎした頃のことだった。
さすがに売りすぎたようだ。
このあたりの地域での商売はここらが潮時だろうか。
日本円に換算して約100億円というお金を手に入れたわけだが、面倒なことも増えた。
あれだけ脅した街のチンピラが、目を血走らせて俺を付けねらってくるのだ。
護衛に守られているわけでもない俺を殺せば、一生遊んで暮らしても使い切れないほどの金が手に入るのだから当然といえば当然か。
稼ぎすぎたせいで俺はいつしか、リスクを冒してまで関わる価値の無い人間からリスク覚悟で殺す価値のある人間になってしまったというわけだ。
街のチンピラや冒険者くずれだけでなく、誰かに雇われたであろうプロまでが俺を狙い始めた。
幸い俺は毎日向こうの世界に帰って寝るので、夜も気が休まらないということは無い。
だがこの街に居づらくなってきたというのも事実だ。
そろそろこの街を離れるとしようか。
大森林に程近いこの街は、俺にとって絶対に必要な魔石を手軽に補充できる都合のいい立地だったのだけどな。
まあ大森林は広大で、近隣に町はたくさんある。
大森林にしか魔物がいないわけでもないし、どこでだって魔石くらいは手に入るか。
この街を治める貴族からも、何度か接触があったのでもう猶予は無い。
思い立ったが吉日と言うし、今日旅立つとしよう。
「どうもお世話になりました」
「いえ、私どももずいぶんと稼がせていただきました。ヤザワ様の状況はお察しいたします。どうか道中お気をつけて」
商業ギルドは本音では俺にまた胡椒を売って欲しいのだろうが、俺がこんなに早くこの街を出ることになったのは元はといえば若いギルド職員のせいだ。
あの職員が最初から個室に案内していれば、俺はもう少しこの街にいられたかもしれないのだ。
いずれは情報が漏れるのは避けられないとしても、初日からチンピラに絡まれるようなことは無かったはずだ。
もう次に商業ギルドに出向いたときには、俺が胡椒を売りに来たのだということをみんな知っている状況になってしまっていた。
仕入先を教えろと直接的に脅しをかけてくる商人などもいて、ずいぶんと迷惑したものだ。
その代わり毎回胡椒の買取には色をつけてくれていたが。
そんな商業ギルドであるから、いかに面の皮の厚くとも俺に行くなとは言えまい。
俺は最後に小銭を稼ごうと胡椒を買い取ってもらう。
最初の買い取り価格の6割程度にしかならなかった。
普通の人からしたらそれでも大金なのだろうが、少ないと思ってしまう俺はすでに金銭感覚がマヒしてしまっているのだろう。
俺は商業ギルドを後にした。
冒険者としてお世話になったグラントさんには、昨日別れの挨拶をして酒を奢った。
流れ者の冒険者に別れは付き物だと旅立ちを祝ってくれた。
冒険者としてやっていく気は無かったのだけれど、あんな冒険者にならなってみたいと思ってしまった。
これからは、冒険者ランクもちょくちょく上げていくとしよう。
さて、これでこの街に未練は無い。
小魔石でも買い占めてから次の街に向かうとしよう。
短距離転移を繰り返して距離を稼ぐ。
金に物を言わせて近隣の町で小魔石を買い漁っているので、小魔石はいくら使っても使い切れない数を保有している。
アイテムリストの小魔石の横に並んだ数字の桁数は10桁になってしまっている。
庶民の皆様には魔石の値段を多少上げてしまって申し訳ないと思っているが、その代わり冒険者は買い取り価格が上がって一時収入は上がるだろう。
ゴブリンなどの繁殖力の強い魔物は狩っても狩っても減る気配が無いので俺が買い占めなければ魔石の値段もすぐに値段も落ち着くことだろう。
俺は木の上に転移して追っ手をやり過ごす。
「どっちに行った!?」
「こっちに行ったように見えたがな」
しつこい連中だ。
俺は短距離転移で移動しているというのに、どこまでも追いかけてくる。
なかなか足の速いやつらだ。
まあこの先の村を越えれば領地を治めている貴族が変わる。
やつらが貴族の手下であるなら、追っ手はそこまでのはずだ。
他の商人か誰かの手下だったらまだついてくるかも知れないけどな。
金っていうのは甘い匂いでもしているのだろうか。
金貨の匂いを嗅いでも金属と手垢の匂いしかしないな。
俺は木の下を追っ手が通り過ぎるのを待って、今度は上空に転移した。
落ちては転移を繰り返すと疑似的に空を飛ぶことができる。
今度あちらの世界でハンググライダーでも買おうかな。
魔法があれば落下事故も怖くないし。
こんな自由落下ではなく、本当に空を飛ぶというのは気持ちがいいんだろうな。
俺は領境の村には寄らなかった。
人里に下りると痕跡を残すことになる。
2、3個集落を飛ばして適当なところに下りることとする。
ちょうどいいところに町があった。
大森林沿いに移動してきているので、ここもまた住人の多くが冒険者だ。
前の町と同じく冒険者を経済の中心とした大森林近辺ではよくある町だ。
ここに住んでもいいが、前の町とそこまで離れていないのが気になるな。
まあいいか、どうせ冒険者ギルドと商業ギルドくらいしか行かないし。
寝るときは向こうの世界に帰る。
胡椒が売れて冒険者としての活動ができればそれでいい。
俺は冒険者ギルドと商業ギルドのカードが連なった身分証を見せ、町に入った。
さすがに売りすぎたようだ。
このあたりの地域での商売はここらが潮時だろうか。
日本円に換算して約100億円というお金を手に入れたわけだが、面倒なことも増えた。
あれだけ脅した街のチンピラが、目を血走らせて俺を付けねらってくるのだ。
護衛に守られているわけでもない俺を殺せば、一生遊んで暮らしても使い切れないほどの金が手に入るのだから当然といえば当然か。
稼ぎすぎたせいで俺はいつしか、リスクを冒してまで関わる価値の無い人間からリスク覚悟で殺す価値のある人間になってしまったというわけだ。
街のチンピラや冒険者くずれだけでなく、誰かに雇われたであろうプロまでが俺を狙い始めた。
幸い俺は毎日向こうの世界に帰って寝るので、夜も気が休まらないということは無い。
だがこの街に居づらくなってきたというのも事実だ。
そろそろこの街を離れるとしようか。
大森林に程近いこの街は、俺にとって絶対に必要な魔石を手軽に補充できる都合のいい立地だったのだけどな。
まあ大森林は広大で、近隣に町はたくさんある。
大森林にしか魔物がいないわけでもないし、どこでだって魔石くらいは手に入るか。
この街を治める貴族からも、何度か接触があったのでもう猶予は無い。
思い立ったが吉日と言うし、今日旅立つとしよう。
「どうもお世話になりました」
「いえ、私どももずいぶんと稼がせていただきました。ヤザワ様の状況はお察しいたします。どうか道中お気をつけて」
商業ギルドは本音では俺にまた胡椒を売って欲しいのだろうが、俺がこんなに早くこの街を出ることになったのは元はといえば若いギルド職員のせいだ。
あの職員が最初から個室に案内していれば、俺はもう少しこの街にいられたかもしれないのだ。
いずれは情報が漏れるのは避けられないとしても、初日からチンピラに絡まれるようなことは無かったはずだ。
もう次に商業ギルドに出向いたときには、俺が胡椒を売りに来たのだということをみんな知っている状況になってしまっていた。
仕入先を教えろと直接的に脅しをかけてくる商人などもいて、ずいぶんと迷惑したものだ。
その代わり毎回胡椒の買取には色をつけてくれていたが。
そんな商業ギルドであるから、いかに面の皮の厚くとも俺に行くなとは言えまい。
俺は最後に小銭を稼ごうと胡椒を買い取ってもらう。
最初の買い取り価格の6割程度にしかならなかった。
普通の人からしたらそれでも大金なのだろうが、少ないと思ってしまう俺はすでに金銭感覚がマヒしてしまっているのだろう。
俺は商業ギルドを後にした。
冒険者としてお世話になったグラントさんには、昨日別れの挨拶をして酒を奢った。
流れ者の冒険者に別れは付き物だと旅立ちを祝ってくれた。
冒険者としてやっていく気は無かったのだけれど、あんな冒険者にならなってみたいと思ってしまった。
これからは、冒険者ランクもちょくちょく上げていくとしよう。
さて、これでこの街に未練は無い。
小魔石でも買い占めてから次の街に向かうとしよう。
短距離転移を繰り返して距離を稼ぐ。
金に物を言わせて近隣の町で小魔石を買い漁っているので、小魔石はいくら使っても使い切れない数を保有している。
アイテムリストの小魔石の横に並んだ数字の桁数は10桁になってしまっている。
庶民の皆様には魔石の値段を多少上げてしまって申し訳ないと思っているが、その代わり冒険者は買い取り価格が上がって一時収入は上がるだろう。
ゴブリンなどの繁殖力の強い魔物は狩っても狩っても減る気配が無いので俺が買い占めなければ魔石の値段もすぐに値段も落ち着くことだろう。
俺は木の上に転移して追っ手をやり過ごす。
「どっちに行った!?」
「こっちに行ったように見えたがな」
しつこい連中だ。
俺は短距離転移で移動しているというのに、どこまでも追いかけてくる。
なかなか足の速いやつらだ。
まあこの先の村を越えれば領地を治めている貴族が変わる。
やつらが貴族の手下であるなら、追っ手はそこまでのはずだ。
他の商人か誰かの手下だったらまだついてくるかも知れないけどな。
金っていうのは甘い匂いでもしているのだろうか。
金貨の匂いを嗅いでも金属と手垢の匂いしかしないな。
俺は木の下を追っ手が通り過ぎるのを待って、今度は上空に転移した。
落ちては転移を繰り返すと疑似的に空を飛ぶことができる。
今度あちらの世界でハンググライダーでも買おうかな。
魔法があれば落下事故も怖くないし。
こんな自由落下ではなく、本当に空を飛ぶというのは気持ちがいいんだろうな。
俺は領境の村には寄らなかった。
人里に下りると痕跡を残すことになる。
2、3個集落を飛ばして適当なところに下りることとする。
ちょうどいいところに町があった。
大森林沿いに移動してきているので、ここもまた住人の多くが冒険者だ。
前の町と同じく冒険者を経済の中心とした大森林近辺ではよくある町だ。
ここに住んでもいいが、前の町とそこまで離れていないのが気になるな。
まあいいか、どうせ冒険者ギルドと商業ギルドくらいしか行かないし。
寝るときは向こうの世界に帰る。
胡椒が売れて冒険者としての活動ができればそれでいい。
俺は冒険者ギルドと商業ギルドのカードが連なった身分証を見せ、町に入った。
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