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3.覚悟

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 父から強制的に開拓団の団長に任命させられてから1週間になる。
 この状況からの一発逆転を色々と考えてみたのだが、やはり難しそうだ。
 北の大森林といえば強い魔物がうようよしていることで有名だ。
 俺は自慢ではないが腕っぷしには全く自信がない。
 一応型通りの剣術も学んだし、魔法も基礎は教わった。
 しかしそこから先は元から持っているポテンシャルをいかに伸ばせるかの世界だ。
 そして俺のポテンシャルには伸びる余地もない。
 個人の武力という点で言えば俺は全くのお荷物だろう。
 俺が生き延びる可能性があるとすれば、ガチャ以外にはない。
 明日には出発が控えているが、まだ今日の分のガチャを回していない。
 マイエル男爵領から北の大森林までは馬で20日ほど。
 大勢での移動となると移動速度は落ちて1か月くらいはかかるだろう。
 つまりその間のガチャ30回分程度が、俺の生きるか死ぬかの最後のチャンスということになる。
 今日のガチャにもおのずと力が入る。
 
「頼むぞ、いいアイテム来い!!」

 いつものように身体に魔力を循環させ、渾身の力を込めてガチャを回す。
 玉の色は金。

「金!?」

 金なんて今まで一度も見たことがない。
 やばい、これはやばい。
 死にたくないという俺の執念がガチャ神様に届いたのだろうか。
 今まで一度も出たことがないということはそれだけレアリティが高いということで、銀よりも上のアイテムである可能性が高い。
 今のところ銀の玉からは例外なく有用なアイテムが出ている。
 金の玉にも否応なく期待が高まる。
 俺は深呼吸をして、玉に手をかけた。
 パカリと音がして玉が開く。
 目を閉じた瞼の裏側に強烈な光を感じた。
 銀の玉を開けたときとは比べ物にならない光が部屋中を包み込んでいる気配。
 やがて光が収まる。
 手には軽い手ごたえ。
 俺はゆっくりと目を開けた。

「これは……」

 なんだ?
 本当になんなのか全くわからない。
 俺の手に乗っていたのはよくわからない四角い切れ端。
 これは、紙だろうか。
 羊皮紙とは違う変わった質感の紙切れだ。
 なにかごちゃごちゃと文字が書かれている。
 文字は異国の文字なのか見たこともない造形だ。
 いや、ジャムパンや飴玉の袋に書かれている文字に似ているか?
 これはまさかあのジャムパンを作り出した国のアイテムなのだろうか。
 こういうときは鑑定してみるに限る。
 以前銀色の玉から鑑定の魔眼というアイテムを手に入れたことがあった。
 このアイテムは使用前は本物の目玉のような気持ちが悪い見た目をしている。
 使用すると目玉は溶け出して使用者の目に絡みつき、同化する。
 そして恒久的な魔眼の力を与えてくれるのだ。
 初めてガチャで出て使ったときは絶叫したが、これほど俺のガチャスキルと相性のいいアイテムはない。
 鑑定の魔眼はアイテムや生き物の情報を見ただけで読み取ることのできる能力を持っている。
 これのおかげで俺はガチャから出た食べ物やアイテムがどのようなものなのか知ることができるのだ。

名称:【神器・あの日の万馬券】
詳細:競馬の神と呼ばれた男が買い、そして換金されることのなかったあの日の万馬券。膨大な運気を溜め込んでいる。これを持っていれば馬の良し悪しがわかるようになる。馬に触れているときだけ溜め込んだ運気を使用することができる。

「神器?万馬券?なんのことだかよくわからんな」

 とにかく馬の良し悪しがわかるようになるという能力があることはわかった。
 そして馬に触れているときに運がよくなることもだ。
 このアイテムは今の俺にとって非常に有用なものだ。
 特に後半の運気のくだり。
 ガチャ運を上昇させるためにさっそく馬を買いに行こう。





 馬を買うといっても馬というものは高価なもので、店に行ったらすぐに買えるようなものではない。
 そこで俺が向かったのは、庭師ローレンのところだった。

「馬を買いたい?まあ俺の知り合いに頼めばすぐに売ってくれるでしょうけど、金はあるんですかい?馬は高いですよ。特にいい馬を買いたければある程度は出さないと」

「ああ、金はないが価値のあるものは持っている」

 俺は以前ガチャから出た宝石をいくつか見せた。
 小遣いもろくに貰っていない俺がどうやってこのような宝石を手に入れたのかを考えればローレンにはすぐにわかってしまうかもしれないが、背に腹は代えられない。
 ここはローレンを信用するしかないだろう。

「例のあれで手に入れたんですね。こんなものも出るとは、家の方々に言えない理由がわかりましたよ」

「ああ、それにしても……」

 ローレンはいつものように庭の手入れをしているかと思ったのだが、今日居たのは庭の隅の休憩小屋だ。
 そこも綺麗に整理整頓され、荷物がほとんどなくなっている。

「辞めるのか?」

「いえ、俺も開拓団のメンバーなんですよ……」

「なんだって!?」

 突然の情報に頭がかっと熱くなる。
 なんでローレンが、こんな危険な事業に同行することになっているんだ。
 ローレンには年若い妻とまだ幼い子供がいるというのに。
 ローレンが死んだらリザとローレンの妻ミリアはどうなってしまうというんだ。

「俺が父に言って……」

「俺は今のご当主様のお父様、亡くなられたあんたのおじい様には大恩がある。返さなければなりやせん」

「それにしたって、もっとやり方ってものが……」

「それに俺は、どのみちあんたが行くなら行きますよ。まだ14のガキを見殺しにして、妻と娘とぬくぬく暮らすなんざ俺にはできねえ。ミリアとリザなら大丈夫ですよ。ミリアはああ見えて強い女だ。俺が死んでもリザは立派な大人になるでしょうよ」

 ローレンはその鋭い眼光で俺を真っすぐ見つめる。
 覚悟を決めた男の目だ。
 俺はどうすればいいのだろうか。
 自分が死ぬのは別にいい。
 何も悲しくないし辛いのは死ぬ瞬間だけだ。
 だが、他人が死ぬのは嫌だ。
 特に親しい者が死ぬのなんて見たくない。
 ならば俺も覚悟を決めるしかないだろう。
 絶対にこの男を死なせない覚悟を。

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