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閑話2

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 辺境の街と街を繋ぐ街道を、疾走する2つの影。
 モリス騎士爵家当主、ハウリオ・フォン・モリスとその妻ユリアだ。
 魔力で極限まで身体能力を強化している2人の走りはワイバーンの飛行スピードを凌駕している。
 日々魔物を狩り魔力値の高い2人ではあるが、そのようなスピードで走れば無理が生じないわけはなかった。
 しかし今は自身の肉体の上げる悲鳴などは気にしている余裕はなかった。
 3日前、2人の末の息子であるクラウスがグレイスの街で行方不明となったのだ。

(くそっ、俺のせいだ。俺がクラウスから目を離したばかりに!)

 ハウリオは後悔していた。
 彼は自分の服の裾を掴んでいる子供が自分の子供であることを疑わなかった。
 まさか自分の子供と同じくらいの背格好をした子供が、父親と間違えて自分の服の裾を掴んでいるとは思わなかったのだ。
 そうしてクラウスは迷子となった。
 ハウリオと3人の侍従はすぐに妻ユリアへと早馬を出し、グレイスの街を探し回った。
 子供を保護していそうな場所に聞いて回り、子供を誘拐していそうな組織を潰して回った。
 無茶な取り締まりによってただでさえバランスの崩れているグレイスの犯罪組織を更に潰せば何が起こるのかは予想がつかなかったが、そんなことは知ったことではなかった。
 暴れていなければ頭がおかしくなってしまいそうだった。
 そうして数件の犯罪組織を潰した頃、クラウスの痕跡を見つけた。
 子供を攫って非合法の奴隷として売るようなクソみたいな組織だった。
 その組織は確かにクラウスらしき少年を誘拐したと自供したのだが、クラウスはすでに他所の街に移送されてしまっていた。
 あまりの絶望感にハウリオは我を忘れて暴れた。
 こんな街潰れてしまえばいいと思った。

(女子供が一人で出歩けないような街はクソだ!)

 鬼のように怒り狂って暴れるハウリオを止めたのは、メリダ村から全速力で駆け付けたユリアだった。
 クラウスの顔面を思い切りぶん殴り頭を冷やさせると共に、途方にくれる侍従たちに的確な指示を出す。
 そしてハウリオの胸倉を掴んで立ち上がらせ、クラウスの足取りを追い始めたのだった。

(本当に、俺にはもったいない女だ)

 2つの影は息子の無事を信じて疾走し続けた。





 2人の前方に、ワイバーンに襲われている馬車が見えてきた。
 馬車はすでにバラバラで、辺りは血の海。
 しかしまだ生きている人がいる。
 子供ばかりの生存者たちに、2人はこの馬車が自分たちの探していた馬車であることを悟る。
 2人は限界を超えてスピードを上げる。

(くそっ、間に合ってくれ!頼む!!)

 ワイバーンの顔のあたりで突如として激しい爆発が起こる。
 ハウリオは息子があのような魔法を使うところを見たことは無かったが、なぜだかあれがクラウスの魔法であるような気がした。

(生きてる!まだ生きてる!!)

 そんな希望は一瞬にして絶望に変わる。
 1人の子供がワイバーンの鉤爪に掴まれて空へと連れ去られたのだ。
 自身と同じその黒髪は、息子の身体的特徴と一致していた。

(違う!あれはクラウスじゃない!俺は一度間違えてるんだ。だから今度だって……)

「クラウス!!」

 2人が到着したその場に、クラウスはいなかった。

「ああ、なんで……」

 神というものがいるのなら、なぜこのような試練を自分の子供に与えるのか。
 ハウリオはそのような気持ちになった。

「クラウスだったみたいね。さっき連れ去られたの」

「ああ……」

「自分の身体をローションで包んでいるのが見えた」

「え?」

 ハウリオは妻の言葉にはっとさせられた。
 自分はもう、クラウスが死んだような気になっていた。
 しかし妻は息子の無事を信じているのだ。
 ハウリオは猛烈に恥ずかしくなった。
 子供の力を信じてやれない親、そんな親にはなるまいと思っていた存在にいつの間にか自分はなってしまっていたことに気が付いた。

「クラウスはきっとあの状態でも生き残る。でもまだ子供だわ。怪我もしていると思うし、早く助けに行ってあげないと」

「そうだな。だが、この子供たちを放っておくわけにもいかない」

 ハウリオは暗い顔で俯く子供たちに目を向ける。
 みんなクラウスと同じくらいの年頃の子供たちだ。
 ワイバーンが戻ってくるかもしれないし、そうでなくとも辺境の街道は子供だけで移動するには危険すぎる。
 自分の子供を助けるためにこの子供たちを見捨てれば、たとえクラウスを無事に助けることができたとしても胸を張って父親ぶることはできないだろう。
 今は、祈ることしかできはしない。

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