ピアスしか売れない魔道具店

兎屋亀吉

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1.聖騎士になりたい少女

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 『エバンス魔道具店』そう書かれた看板をじっと見つめる少女。
 いったいなにをじろじろと見ているのか。
 何を隠そうエバンス魔道具店は俺の店だ。
 昼飯の買出しから帰ったら、見知らぬ少女が俺の店の前でじっと看板を見つめていた。
 確かに俺の店は少し奥まっていて入りにくいが、少女はもうかれこれ3分ほどはずっとそうしている。
 俺が帰ってきたときにはすでにそうだったのだから、いったいどれだけそこでそうしていたというのか。
 そろそろ俺も店に入りたい。
 俺は溜息を一つ吐き出し、少女に声をかける。

「うちの店に何か用か?」

「!!!!」

 少女はビクリとして恐る恐る振り返る。
 少し内側にカールした栗色さらさらの髪、澄み渡った大空のように透き通った青い瞳、丹精な顔立ち。
 とても綺麗な女の子だった。
 まだ可愛いと言われるような年齢ではあるのだろうが、その少女は綺麗と表現したほうが的確だと思った。
 背丈は俺の胸くらい。
 俺が183センチくらいだから、145センチくらいだろうか。
 体つきは華奢で、胸は膨らみかけ。
 あと5年もしたら俺も平然とはしていられないくらいの美女になるだろうな。

「あ、あの、ここはエバンス魔道具店で間違いないでしょうか」

 声は意外と甘い。
 綺麗な声というよりも、歳相応の可愛らしい声だ。

「ああ、そうだけど?というかさっきからうちの看板を穴が空くほど見つめていたんだから、間違いじゃないことくらい分かるだろ」

「そ、そそそ、そうですよね。では、ここにあの伝説のピアス7点セットが売っているのですか?」

 俺は顔色を変える。
 その情報を知っているということは、ただの客ではないな。

「誰に聞いた」

「知り合いの聖女様に」

「はぁ、聖女っていったら一人しかいないだろう」

 あのクソビッチ聖女、しゃべりやがったな。
 せっかく俺が聖女にまでしてやったというのに、その秘密をこんな少女に話すとはな。

「なんで聖女はお前にピアス7点セットのことを教えたんだ?」

「聖女様は、私が昔の自分のようだとおっしゃっていました」

「なるほどな」

 その言葉で、大体の事情はつかめた。
 つまりはだ、この少女には自分と似たようなところがあるということだ。
 あのビッチの聖女と似たような何かが。
 面白いじゃないか。

「とりあえず、中に入れよ。詳しい事情は中で聞く」

 俺は少女の背中を押し、店に連れ込む。
 これから面白くなりそうだ。




「なんだ?つまりお前は聖騎士になりたいのか?」

「いえ。なりたいのではなく、ならなければいけないのです」

 目の前の少女の名前はユリ・メルベール。
 先祖代々続く聖騎士の家系、メルベール家の長女だ。
 聖騎士というのは神殿が抱える少数精鋭戦力のことで、強力な神聖魔法を使う騎士のことだ。
 メルベール家は代々聖騎士を輩出し、神殿のために尽くしてきた一族だ。
 しかし先日、現当主のユリの父が急病で死んでしまった。
 順当に行けばユリの弟が次の当主兼神殿の聖騎士となるはずだったが、弟はまだ6歳。
 聖騎士となるためにはあと10年はかかるだろう。
 10年も神殿との繋がりを断たれたら、メルベール家はどうなるのかわかったものではない。
 そこでユリは、自分が父の後釜の聖騎士になることを決めたというわけだ。

「しかしお前、聖騎士だぞ?そんじょそこらの騎士とは訳が違うだろ」

「わかっています。でも、私がやらなければメルベール家は没落してしまいます」

 ユリには神聖魔法の才能も、剣の才能も無い。
 あるのはやる気だけだ。
 いや、覚悟といったところか。
 それと、少しの被虐的な性癖の気配。
 あのクソビッチ聖女が気に入ったということは、素質はあるということなのだろう。

「なるほどわかった。それならピアスを売ってやるよ。落ち零れ修道女を聖女にまで仕立て上げた俺の魔導ピアス7点セットをな」

「本当ですか!?」

「ああ。だが、俺の言うことには絶対従え。それが条件だ」

「はい!!」

 少女は満面の笑みで承諾する。
 無邪気な顔だ。

「ではまず、服を脱げ」

「へ?」

 少女の無邪気な笑顔は一瞬にして固まった。


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