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7.釣りと害獣
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翌朝、胸やけと共に目を覚ます。
昨日はマッシュポテトのデザートにそのままポテチを食べたりとずいぶんヤンチャなことをしてしまった。
ストレス社会で生きてきた28歳は胃弱だ。
ポテチなんか1袋も食べたら当然胃もたれを起こす。
内容量が昔サイズだった弊害が俺を苦しめる。
経験から言って、こういう時にコーラを飲むと吐く。
こういうときは胃に優しい白湯に限る。
俺はムカつく胃のあたりを手でさすりながら、小川に水を汲みに向かった。
小川は岩場と砂地の境のあたりを流れており、海まではいくつか段差があるため水は塩辛くない。
見たところ綺麗な水なのでたぶん飲んでも大丈夫だろう。
一応のためろ過して煮沸してから使おう。
フィルターを通すだけでろ過できる便利グッズもあるし、ガーゼや布の類も買ってきているから砂利や砂などと合わせてろ過装置を作ることもできる。
サバイバルグッズの方は大量の水をろ過するようにはできていないので、いずれはちゃんとしたろ過装置を作ったほうがいいだろう。
とりあえず今は早く白湯を飲んで胃を鎮めたいので、俺はろ過ボトルに水を注ぎ入れた。
ジャバジャバとボトルに入っていく水。
これでフィルターの付いた飲み口を付ければ、この飲み口を通って出てきた水が綺麗にろ過されているという仕組みだ。
便利なグッズがあるもんだ。
俺は拠点に帰り、白湯を沸かした。
白湯を飲み胃が幾分か落ち着いたところで、食料の確保を開始する。
料理本を読んでわかったが、今俺が持っている食材だけでは凝った料理はあまり作れない。
米や小麦粉は保存がきいて腹に溜まる優秀な食料だが、それだけで作れるのはせいぜいおにぎりやすいとんくらいのものだろう。
どちらにせよ持ってきた食料はいつか無くなってしまうのだ。
食料の現地調達は絶対に必要だ。
俺はスーツケースの中から釣り竿を取り出す。
安物の折り畳み式釣り竿だが、ばかでかい魚でもかからない限りは釣り上げることができるだろう。
釣りなんか子供の頃に近所のドブ川でフナを釣ったくらいしか経験がないので仕掛けは適当だ。
針に餌が付いていれば何かしらの魚は釣れるんじゃなかろうか。
「しかしこの針、なんか違うよな」
釣り針といっても目当ての魚や釣り方によって色々な種類があるようで、俺はたくさんの種類の針を買ってきている。
しかしなんとなく鞄から取り出したこの針は普通の釣り針とは少し違っていた。
普通の釣り針は縛り付けた糸が抜けないように根本のところに平たく潰したような出っ張りが付いているのだが、この針はその部分が輪っかになっている。
出っ張りだけ付いた針を使っても俺は糸の結び方を知らないので輪っかのほうが初心者向けでいいと思ったのだが、どうにも針の形もちょっと違うみたいだ。
よく見たら袋にルアー用シングルフックと書いてある。
これ、ルアーに付ける針じゃないか。
「まあいいか……」
どうせ魚は釣り針の種類なんか気にしない。
ルアーにこの針が付いてても気が付かずにバクリとかぶりつく奴が、餌に刺さったこの針に気が付くとは思えなかった。
俺はウキを差すためのゴム管をまず糸に通すと、針の輪っかの部分に適当な結び方で糸を結んだ。
後は重りとウキを付ければ完成だ。
完全に川で雑魚でも釣るような仕掛けだが、人間がいない島の魚なんかスレてないからこれで十分だろう。
「あとは餌か……」
一瞬ポテチで練り餌でも作ろうかとも思ったが、さすがに何も釣れそうにないとやめた。
やっぱり餌は現地の虫や貝に限る。
以前テレビで、防波堤に付いているカラス貝でイシダイを釣っている人がいたのを見た記憶がある。
イシダイ食べたいな。
若狭に旅行に行ったときに民宿で食べたイシダイの刺身の味を思い出し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
醤油は多めに4升持ってきているので刺身を日常的に食べることは不可能ではない。
魚の捌き方はよくわからないけれど、本を見ながらやればそれほど食べられないものにはならないはずだ。
あとは、実際に釣れるかどうかか。
ここは異世界だから、あちらの世界と同じ種類の魚が釣れるとは限らない。
化け物みたいなとんでもない魚がかかる可能性だってある。
魚の中にはフグのように毒のあるものも多いと聞くし、知らない魚を食べるのはリスキーだ。
知っている魚が釣れるように祈るしかないな。
俺は崖のようになっている岩場を慎重に下りた。
波打ち際にはたくさんの海藻類が浮遊しており、貝の類も大量に生息していた。
「カメノテやらイソギンチャクやら、それほど生き物に違いは無さそうだな」
お目当てのカラス貝もおびただしい数が岩にへばり付いている。
しかしその大きさたるやカラスなどという可愛らしいものではなかった。
手のひらと同程度の大きさはありそうだ。
これは餌に使わずにこのまま食べても美味しいだろ。
確か海外ではムール貝と呼ばれてカラス貝の仲間が普通に食べられているんだよな。
パエリアやアクアパッツァに細長い黒い貝が乗っているのを見たことがある。
日本でも三陸のあたりでは養殖されて食べられているらしいし、美味しいことは間違いないだろう。
釣りの前に思わぬ食材ゲットだ。
惜しむらくは俺の料理の腕が素人なことか。
焼いて食うか味噌汁に入れるくらいしか料理法が思い浮かばない。
料理本を熟読してもっとレパートリーを増やすとするか。
とりあえず自分で食べる分は今とってもこの島の気候ではすぐに傷んでしまうので、餌に使う分だけ数個岩から引き剥がす。
一つ試しにキッチンナイフで殻を開けてみると、中には大ぶりの身が詰まっていた。
これは餌に使うには大きすぎるかもしれない。
小さく切って使うとしよう。
俺はその場ですべての貝の殻を外し、小さく切ってタッパーに入れた。
この状態ですでに美味しそうだ。
バター炒めとかにしたら絶品だろうな。
バターないけど。
まあこれならば、イシダイも釣られてくれるに違いない。
俺は崖の上に戻り、早速釣り糸を垂れた。
「疲れたぁ、コーラコーラっと」
炎天下の中、ひたすら立って釣り糸を垂れるのは意外に疲れる。
汗で失った水分をアイテムボックスの中のキンキンのコーラで補充する。
朝から晩まで粘って、釣果がアジ2匹という事実も疲れを重くしていた。
無人島の魚はスレてないから入れ食いだってテレビでもやっていたんだけどな。
やっぱりテレビの情報なんかあてにするべきじゃないな。
定期的にヤラセ発覚で謝罪しているような気がするし、爆釣の期待感を返してくれ。
ああ、俺のイシダイ。
いや落ち着こう、イシダイなんか簡単に釣れるはずがないじゃないか。
凝った料理への渇望から、俺は無意識のうちに焦っていたのかもしれないな。
ここには釣り客も来ないし、ライバルがいるわけでもない。
魚を釣って食べるのは俺しかいないんだ。
焦る必要はない。
じっくりやればそのうち色々な種類の魚が釣れるはずだ。
いつもの俺ならまず釣りの本を熟読してから行動に移していたはずなのに、焦りからいきなり適当な仕掛けで釣りをするなんてどうかしていたようだ。
今日はアジとカラス貝でしっかり英気を養い、明日1日は釣り本を読むことに費やす。
そして明後日から本格的に釣りを開始しよう。
先は長いのだから、ゆっくりいこう。
ここ十数日間で身の危険を感じたことはない。
すでに俺の中で、島に対する警戒感はあまり無くなっていた。
この島には俺の害となるような大型の野生動物や、ファンタジーな化け物たちはいないのかもしれない。
そんなフラグっぽいことを考えた後に、そいつは現れた。
「プギィ!!」
「ひっ」
まるで牛のように大きなイノシシが、岩場を俺目掛けて走ってきたのだった。
昨日はマッシュポテトのデザートにそのままポテチを食べたりとずいぶんヤンチャなことをしてしまった。
ストレス社会で生きてきた28歳は胃弱だ。
ポテチなんか1袋も食べたら当然胃もたれを起こす。
内容量が昔サイズだった弊害が俺を苦しめる。
経験から言って、こういう時にコーラを飲むと吐く。
こういうときは胃に優しい白湯に限る。
俺はムカつく胃のあたりを手でさすりながら、小川に水を汲みに向かった。
小川は岩場と砂地の境のあたりを流れており、海まではいくつか段差があるため水は塩辛くない。
見たところ綺麗な水なのでたぶん飲んでも大丈夫だろう。
一応のためろ過して煮沸してから使おう。
フィルターを通すだけでろ過できる便利グッズもあるし、ガーゼや布の類も買ってきているから砂利や砂などと合わせてろ過装置を作ることもできる。
サバイバルグッズの方は大量の水をろ過するようにはできていないので、いずれはちゃんとしたろ過装置を作ったほうがいいだろう。
とりあえず今は早く白湯を飲んで胃を鎮めたいので、俺はろ過ボトルに水を注ぎ入れた。
ジャバジャバとボトルに入っていく水。
これでフィルターの付いた飲み口を付ければ、この飲み口を通って出てきた水が綺麗にろ過されているという仕組みだ。
便利なグッズがあるもんだ。
俺は拠点に帰り、白湯を沸かした。
白湯を飲み胃が幾分か落ち着いたところで、食料の確保を開始する。
料理本を読んでわかったが、今俺が持っている食材だけでは凝った料理はあまり作れない。
米や小麦粉は保存がきいて腹に溜まる優秀な食料だが、それだけで作れるのはせいぜいおにぎりやすいとんくらいのものだろう。
どちらにせよ持ってきた食料はいつか無くなってしまうのだ。
食料の現地調達は絶対に必要だ。
俺はスーツケースの中から釣り竿を取り出す。
安物の折り畳み式釣り竿だが、ばかでかい魚でもかからない限りは釣り上げることができるだろう。
釣りなんか子供の頃に近所のドブ川でフナを釣ったくらいしか経験がないので仕掛けは適当だ。
針に餌が付いていれば何かしらの魚は釣れるんじゃなかろうか。
「しかしこの針、なんか違うよな」
釣り針といっても目当ての魚や釣り方によって色々な種類があるようで、俺はたくさんの種類の針を買ってきている。
しかしなんとなく鞄から取り出したこの針は普通の釣り針とは少し違っていた。
普通の釣り針は縛り付けた糸が抜けないように根本のところに平たく潰したような出っ張りが付いているのだが、この針はその部分が輪っかになっている。
出っ張りだけ付いた針を使っても俺は糸の結び方を知らないので輪っかのほうが初心者向けでいいと思ったのだが、どうにも針の形もちょっと違うみたいだ。
よく見たら袋にルアー用シングルフックと書いてある。
これ、ルアーに付ける針じゃないか。
「まあいいか……」
どうせ魚は釣り針の種類なんか気にしない。
ルアーにこの針が付いてても気が付かずにバクリとかぶりつく奴が、餌に刺さったこの針に気が付くとは思えなかった。
俺はウキを差すためのゴム管をまず糸に通すと、針の輪っかの部分に適当な結び方で糸を結んだ。
後は重りとウキを付ければ完成だ。
完全に川で雑魚でも釣るような仕掛けだが、人間がいない島の魚なんかスレてないからこれで十分だろう。
「あとは餌か……」
一瞬ポテチで練り餌でも作ろうかとも思ったが、さすがに何も釣れそうにないとやめた。
やっぱり餌は現地の虫や貝に限る。
以前テレビで、防波堤に付いているカラス貝でイシダイを釣っている人がいたのを見た記憶がある。
イシダイ食べたいな。
若狭に旅行に行ったときに民宿で食べたイシダイの刺身の味を思い出し、ゴクリと唾を飲み込んだ。
醤油は多めに4升持ってきているので刺身を日常的に食べることは不可能ではない。
魚の捌き方はよくわからないけれど、本を見ながらやればそれほど食べられないものにはならないはずだ。
あとは、実際に釣れるかどうかか。
ここは異世界だから、あちらの世界と同じ種類の魚が釣れるとは限らない。
化け物みたいなとんでもない魚がかかる可能性だってある。
魚の中にはフグのように毒のあるものも多いと聞くし、知らない魚を食べるのはリスキーだ。
知っている魚が釣れるように祈るしかないな。
俺は崖のようになっている岩場を慎重に下りた。
波打ち際にはたくさんの海藻類が浮遊しており、貝の類も大量に生息していた。
「カメノテやらイソギンチャクやら、それほど生き物に違いは無さそうだな」
お目当てのカラス貝もおびただしい数が岩にへばり付いている。
しかしその大きさたるやカラスなどという可愛らしいものではなかった。
手のひらと同程度の大きさはありそうだ。
これは餌に使わずにこのまま食べても美味しいだろ。
確か海外ではムール貝と呼ばれてカラス貝の仲間が普通に食べられているんだよな。
パエリアやアクアパッツァに細長い黒い貝が乗っているのを見たことがある。
日本でも三陸のあたりでは養殖されて食べられているらしいし、美味しいことは間違いないだろう。
釣りの前に思わぬ食材ゲットだ。
惜しむらくは俺の料理の腕が素人なことか。
焼いて食うか味噌汁に入れるくらいしか料理法が思い浮かばない。
料理本を熟読してもっとレパートリーを増やすとするか。
とりあえず自分で食べる分は今とってもこの島の気候ではすぐに傷んでしまうので、餌に使う分だけ数個岩から引き剥がす。
一つ試しにキッチンナイフで殻を開けてみると、中には大ぶりの身が詰まっていた。
これは餌に使うには大きすぎるかもしれない。
小さく切って使うとしよう。
俺はその場ですべての貝の殻を外し、小さく切ってタッパーに入れた。
この状態ですでに美味しそうだ。
バター炒めとかにしたら絶品だろうな。
バターないけど。
まあこれならば、イシダイも釣られてくれるに違いない。
俺は崖の上に戻り、早速釣り糸を垂れた。
「疲れたぁ、コーラコーラっと」
炎天下の中、ひたすら立って釣り糸を垂れるのは意外に疲れる。
汗で失った水分をアイテムボックスの中のキンキンのコーラで補充する。
朝から晩まで粘って、釣果がアジ2匹という事実も疲れを重くしていた。
無人島の魚はスレてないから入れ食いだってテレビでもやっていたんだけどな。
やっぱりテレビの情報なんかあてにするべきじゃないな。
定期的にヤラセ発覚で謝罪しているような気がするし、爆釣の期待感を返してくれ。
ああ、俺のイシダイ。
いや落ち着こう、イシダイなんか簡単に釣れるはずがないじゃないか。
凝った料理への渇望から、俺は無意識のうちに焦っていたのかもしれないな。
ここには釣り客も来ないし、ライバルがいるわけでもない。
魚を釣って食べるのは俺しかいないんだ。
焦る必要はない。
じっくりやればそのうち色々な種類の魚が釣れるはずだ。
いつもの俺ならまず釣りの本を熟読してから行動に移していたはずなのに、焦りからいきなり適当な仕掛けで釣りをするなんてどうかしていたようだ。
今日はアジとカラス貝でしっかり英気を養い、明日1日は釣り本を読むことに費やす。
そして明後日から本格的に釣りを開始しよう。
先は長いのだから、ゆっくりいこう。
ここ十数日間で身の危険を感じたことはない。
すでに俺の中で、島に対する警戒感はあまり無くなっていた。
この島には俺の害となるような大型の野生動物や、ファンタジーな化け物たちはいないのかもしれない。
そんなフラグっぽいことを考えた後に、そいつは現れた。
「プギィ!!」
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