上 下
2 / 17

2.異世界とスキル

しおりを挟む
「私は神といっても弱小でして、支配地域に誰も人がいないんですよ」

「そうなんですか」

「誰か住み着いてくれないと私はいつまで経っても弱小です」

「そうかもしれませんね」

「でも神はあちらの世界の人間に直接干渉することを禁止されています。だから異世界人であるあなたには、私の使徒として異世界に来て欲しいんですよ」

「なるほど」

 わからん。
 ただの不良少女かと思っていたけれど、蓋を開けてみればとんだ不思議少女だ。
 不思議JKだ。
 そしておそらくだが、男たちが出てきてボコボコにされることも有り金を取られることもないだろう。
 ということは不思議ちゃんとはいえJKとラブホの一室で2人きりというわけだ。
 もはや不思議設定が頭に入ってこない。

「来てくれますか?異世界」

「いってもいいかもしれませんね」

「本当ですか!!」

 女の子がギュッと手を握ってくる。
 焼き鳥のタレと油でヌルヌルしているが、JKの手だ。
 やばいな、これはやばい。
 ラブホに一緒に入ったら合意になるんだっけな。
 いやそれは18歳以上の話か。
 この子が18歳になっていなかったら文句なしの淫行になる可能性もある。
 裁判では勝ち目は低いだろう。
 多少の金銭を強奪されたり、暴力を振るわれたりはまだいい。
 しかし社会的に死ぬのはちょっと立ち直れる気がしないな。
 性犯罪で逮捕されると刑務所で虐められると聞くし、ちょっと冷静になろう。

「来てくださるのでしたら慣例通りお礼に何かスキルをあげようと思うんですけど、何がいいですかね」

「スキル?」

「はい。あっちの世界はそういうのがあるんですよ。ゲームのスキルみたいなものです。私は弱小神なのであんまりいいスキルはあげられませんけど、この中から5つくらいですかね。選んでください」

 女の子が食べ終わった焼き鳥の串を軽く振ると、光る文字が空中を舞う。

・フルスイング
・刺突
・速射
・シールドバッシュ
・火弾
・水弾
・地弾
・風弾
・石工
・体毛操作
・アイテムボックス(小)
・通販(微)

 なにこれすごい。
 もしかしてこの子、本当に神なのか?
 え、ということは異世界行くのも本当ってことか。
 異世界行けるのか、俺。
 異世界行くってことは、仕事を辞めるってことだよな。
 今まで仕事を辞めたいと思わなかった日はない。
 しかし仕事の合間に就職活動をするということの大変さから、ずっと先延ばしにしてきた。
 これはいい機会なのかもしれない。
 気になるのは、こちらの世界には二度と帰ってくることができないのかということだ。

「あの、異世界って一度行ったら帰ってくることなんて……」

「できませんね」

「なるほど」

 なるほどじゃない。
 こちらに帰ってこられないということは、ことは……。
 よく考えてみたら何も問題がなかった。
 最近の俺の毎日といえば会社と家の往復。
 そこから会社が無くなったら何も残らなかった。
 なんとも空虚な生活だ。
 たとえ今仕事を辞めたとしても俺は寝る以外のことを思いつかない。
 寝るだけならば異世界でもさほど変わらないだろう。
 寝具の違いくらいのものか。
 両親はすでに亡くなっており、人間関係も薄っぺら。
 親しいと呼べるような友人はいない。
 俺は、何もない人間だったんだな。
 こんなことでもなければ、俺はずっとこのまま空虚な生活を続けて一人寂しく孤独死していたかもしれない。
 異世界に行ったからといって俺が変わらなければ何も変わらないかもしれない。
 しかし、今までの自分に区切りをつけるきっかけくらいにはなるだろう。
 
「異世界、行きますよ」

「ありがとうございます。使徒1号になってくれるのですね。では、スキルを選んでください」

 どうも使徒1号です。
 スキルをいただきます。
 まずはアイテムボックスは欠かせないだろう。
 たとえ後ろに小と付いていても、これはレアスキルに違いない。
 旅行鞄くらいの収納力でもあれば文句なしのチートスキルだ。

「アイテムボックス(小)の収納量はどのくらいなのでしょうか」

「2リットルです。でも内部の時間は停止していますよ」

 絶望だ。
 まあ無いよりマシだろう。
 内部の時間が停止しているというのはよくある話だけど、2リットルじゃあ少し大きい弁当箱だ。
 腐りやすいものや料理を一時的に保管しておくくらいはできるかもしれないけれど、熱々の料理を大量にってわけにはいかなそうだ。
 ラノベの主人公みたいにドヤ顔で熱々ご飯を見せびらかすことはできそうにないな。
 見せびらかして自分の分しかないとかただの鬼畜だものな。
 気を取り直して次に行こう。
 次に選ぶスキルは通販|(微)だ。
 このスキルはおそらく物販スキルだろう。
 異世界のお菓子やお酒を手に入れて交易で大儲けすることができるかもしれない。

「通販(微)で買うことのできる商品はどのようなものがあるのでしょう」

「コーラとポテチだけです」

「なるほど」

 なるほどじゃない。
 確かに異世界でコーラとポテチを買うことができるのは素晴らしいことかもしれないけれど、コーラとポテチだけ売って成り上がった主人公なんて見たことがない。
 しかしあちらの世界でコーラとポテチを手に入れることのできるスキルを外すわけにもいかない。
 俺は仕方なく通販(微)を候補に入れ、次のスキルの選定に移った。

「上の4つは物理スキルですかね。そしてこの4つが魔法スキル」

「そうです。そして石工は生産スキル、体毛操作は特殊スキルです」

 いただくことのできるスキルは残り3つ。
 普通に考えたら物理魔法生産からバランスよく1つずつスキルをとるのが正解だろう。
 体毛操作なんてどう見てもネタスキルだ。
 取得することのできるスキルが限られている状況でこれを選ぶという選択肢はない。
 しかし。
 最近生え際が気になってきているというのも事実。
 排水溝を見て毎日憂鬱な気分になっている。
 絶望の足音が日に日に大きくなってきているのだ。
 このスキルはそうした極めて近い将来の不安を払拭できる可能性を秘めている。

「この体毛操作っていうのはどんなスキルなんでしょう」

「名前のとおり体毛を操るスキルですね。頭髪でも腋毛でも陰毛でも、あらゆる体毛をモッサモサにもツルツルにもできます」

 モッサモサにもね、なるほど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

エルティモエルフォ ―最後のエルフ―

ポリ 外丸
ファンタジー
 普通の高校生、松田啓18歳が、夏休みに海で溺れていた少年を救って命を落としてしまう。  海の底に沈んで死んだはずの啓が、次に意識を取り戻した時には小さな少年に転生していた。  その少年の記憶を呼び起こすと、どうやらここは異世界のようだ。  もう一度もらった命。  啓は生き抜くことを第一に考え、今いる地で1人生活を始めた。  前世の知識を持った生き残りエルフの気まぐれ人生物語り。 ※カクヨム、小説家になろう、ノベルバ、ツギクルにも載せています

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!

酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。 スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ 個人差はあるが5〜8歳で開花する。 そのスキルによって今後の人生が決まる。 しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。 世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。 カイアスもスキルは開花しなかった。 しかし、それは気付いていないだけだった。 遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!! それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...