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2.異世界とスキル
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「私は神といっても弱小でして、支配地域に誰も人がいないんですよ」
「そうなんですか」
「誰か住み着いてくれないと私はいつまで経っても弱小です」
「そうかもしれませんね」
「でも神はあちらの世界の人間に直接干渉することを禁止されています。だから異世界人であるあなたには、私の使徒として異世界に来て欲しいんですよ」
「なるほど」
わからん。
ただの不良少女かと思っていたけれど、蓋を開けてみればとんだ不思議少女だ。
不思議JKだ。
そしておそらくだが、男たちが出てきてボコボコにされることも有り金を取られることもないだろう。
ということは不思議ちゃんとはいえJKとラブホの一室で2人きりというわけだ。
もはや不思議設定が頭に入ってこない。
「来てくれますか?異世界」
「いってもいいかもしれませんね」
「本当ですか!!」
女の子がギュッと手を握ってくる。
焼き鳥のタレと油でヌルヌルしているが、JKの手だ。
やばいな、これはやばい。
ラブホに一緒に入ったら合意になるんだっけな。
いやそれは18歳以上の話か。
この子が18歳になっていなかったら文句なしの淫行になる可能性もある。
裁判では勝ち目は低いだろう。
多少の金銭を強奪されたり、暴力を振るわれたりはまだいい。
しかし社会的に死ぬのはちょっと立ち直れる気がしないな。
性犯罪で逮捕されると刑務所で虐められると聞くし、ちょっと冷静になろう。
「来てくださるのでしたら慣例通りお礼に何かスキルをあげようと思うんですけど、何がいいですかね」
「スキル?」
「はい。あっちの世界はそういうのがあるんですよ。ゲームのスキルみたいなものです。私は弱小神なのであんまりいいスキルはあげられませんけど、この中から5つくらいですかね。選んでください」
女の子が食べ終わった焼き鳥の串を軽く振ると、光る文字が空中を舞う。
・フルスイング
・刺突
・速射
・シールドバッシュ
・火弾
・水弾
・地弾
・風弾
・石工
・体毛操作
・アイテムボックス(小)
・通販(微)
なにこれすごい。
もしかしてこの子、本当に神なのか?
え、ということは異世界行くのも本当ってことか。
異世界行けるのか、俺。
異世界行くってことは、仕事を辞めるってことだよな。
今まで仕事を辞めたいと思わなかった日はない。
しかし仕事の合間に就職活動をするということの大変さから、ずっと先延ばしにしてきた。
これはいい機会なのかもしれない。
気になるのは、こちらの世界には二度と帰ってくることができないのかということだ。
「あの、異世界って一度行ったら帰ってくることなんて……」
「できませんね」
「なるほど」
なるほどじゃない。
こちらに帰ってこられないということは、ことは……。
よく考えてみたら何も問題がなかった。
最近の俺の毎日といえば会社と家の往復。
そこから会社が無くなったら何も残らなかった。
なんとも空虚な生活だ。
たとえ今仕事を辞めたとしても俺は寝る以外のことを思いつかない。
寝るだけならば異世界でもさほど変わらないだろう。
寝具の違いくらいのものか。
両親はすでに亡くなっており、人間関係も薄っぺら。
親しいと呼べるような友人はいない。
俺は、何もない人間だったんだな。
こんなことでもなければ、俺はずっとこのまま空虚な生活を続けて一人寂しく孤独死していたかもしれない。
異世界に行ったからといって俺が変わらなければ何も変わらないかもしれない。
しかし、今までの自分に区切りをつけるきっかけくらいにはなるだろう。
「異世界、行きますよ」
「ありがとうございます。使徒1号になってくれるのですね。では、スキルを選んでください」
どうも使徒1号です。
スキルをいただきます。
まずはアイテムボックスは欠かせないだろう。
たとえ後ろに小と付いていても、これはレアスキルに違いない。
旅行鞄くらいの収納力でもあれば文句なしのチートスキルだ。
「アイテムボックス(小)の収納量はどのくらいなのでしょうか」
「2リットルです。でも内部の時間は停止していますよ」
絶望だ。
まあ無いよりマシだろう。
内部の時間が停止しているというのはよくある話だけど、2リットルじゃあ少し大きい弁当箱だ。
腐りやすいものや料理を一時的に保管しておくくらいはできるかもしれないけれど、熱々の料理を大量にってわけにはいかなそうだ。
ラノベの主人公みたいにドヤ顔で熱々ご飯を見せびらかすことはできそうにないな。
見せびらかして自分の分しかないとかただの鬼畜だものな。
気を取り直して次に行こう。
次に選ぶスキルは通販|(微)だ。
このスキルはおそらく物販スキルだろう。
異世界のお菓子やお酒を手に入れて交易で大儲けすることができるかもしれない。
「通販(微)で買うことのできる商品はどのようなものがあるのでしょう」
「コーラとポテチだけです」
「なるほど」
なるほどじゃない。
確かに異世界でコーラとポテチを買うことができるのは素晴らしいことかもしれないけれど、コーラとポテチだけ売って成り上がった主人公なんて見たことがない。
しかしあちらの世界でコーラとポテチを手に入れることのできるスキルを外すわけにもいかない。
俺は仕方なく通販(微)を候補に入れ、次のスキルの選定に移った。
「上の4つは物理スキルですかね。そしてこの4つが魔法スキル」
「そうです。そして石工は生産スキル、体毛操作は特殊スキルです」
いただくことのできるスキルは残り3つ。
普通に考えたら物理魔法生産からバランスよく1つずつスキルをとるのが正解だろう。
体毛操作なんてどう見てもネタスキルだ。
取得することのできるスキルが限られている状況でこれを選ぶという選択肢はない。
しかし。
最近生え際が気になってきているというのも事実。
排水溝を見て毎日憂鬱な気分になっている。
絶望の足音が日に日に大きくなってきているのだ。
このスキルはそうした極めて近い将来の不安を払拭できる可能性を秘めている。
「この体毛操作っていうのはどんなスキルなんでしょう」
「名前のとおり体毛を操るスキルですね。頭髪でも腋毛でも陰毛でも、あらゆる体毛をモッサモサにもツルツルにもできます」
モッサモサにもね、なるほど。
「そうなんですか」
「誰か住み着いてくれないと私はいつまで経っても弱小です」
「そうかもしれませんね」
「でも神はあちらの世界の人間に直接干渉することを禁止されています。だから異世界人であるあなたには、私の使徒として異世界に来て欲しいんですよ」
「なるほど」
わからん。
ただの不良少女かと思っていたけれど、蓋を開けてみればとんだ不思議少女だ。
不思議JKだ。
そしておそらくだが、男たちが出てきてボコボコにされることも有り金を取られることもないだろう。
ということは不思議ちゃんとはいえJKとラブホの一室で2人きりというわけだ。
もはや不思議設定が頭に入ってこない。
「来てくれますか?異世界」
「いってもいいかもしれませんね」
「本当ですか!!」
女の子がギュッと手を握ってくる。
焼き鳥のタレと油でヌルヌルしているが、JKの手だ。
やばいな、これはやばい。
ラブホに一緒に入ったら合意になるんだっけな。
いやそれは18歳以上の話か。
この子が18歳になっていなかったら文句なしの淫行になる可能性もある。
裁判では勝ち目は低いだろう。
多少の金銭を強奪されたり、暴力を振るわれたりはまだいい。
しかし社会的に死ぬのはちょっと立ち直れる気がしないな。
性犯罪で逮捕されると刑務所で虐められると聞くし、ちょっと冷静になろう。
「来てくださるのでしたら慣例通りお礼に何かスキルをあげようと思うんですけど、何がいいですかね」
「スキル?」
「はい。あっちの世界はそういうのがあるんですよ。ゲームのスキルみたいなものです。私は弱小神なのであんまりいいスキルはあげられませんけど、この中から5つくらいですかね。選んでください」
女の子が食べ終わった焼き鳥の串を軽く振ると、光る文字が空中を舞う。
・フルスイング
・刺突
・速射
・シールドバッシュ
・火弾
・水弾
・地弾
・風弾
・石工
・体毛操作
・アイテムボックス(小)
・通販(微)
なにこれすごい。
もしかしてこの子、本当に神なのか?
え、ということは異世界行くのも本当ってことか。
異世界行けるのか、俺。
異世界行くってことは、仕事を辞めるってことだよな。
今まで仕事を辞めたいと思わなかった日はない。
しかし仕事の合間に就職活動をするということの大変さから、ずっと先延ばしにしてきた。
これはいい機会なのかもしれない。
気になるのは、こちらの世界には二度と帰ってくることができないのかということだ。
「あの、異世界って一度行ったら帰ってくることなんて……」
「できませんね」
「なるほど」
なるほどじゃない。
こちらに帰ってこられないということは、ことは……。
よく考えてみたら何も問題がなかった。
最近の俺の毎日といえば会社と家の往復。
そこから会社が無くなったら何も残らなかった。
なんとも空虚な生活だ。
たとえ今仕事を辞めたとしても俺は寝る以外のことを思いつかない。
寝るだけならば異世界でもさほど変わらないだろう。
寝具の違いくらいのものか。
両親はすでに亡くなっており、人間関係も薄っぺら。
親しいと呼べるような友人はいない。
俺は、何もない人間だったんだな。
こんなことでもなければ、俺はずっとこのまま空虚な生活を続けて一人寂しく孤独死していたかもしれない。
異世界に行ったからといって俺が変わらなければ何も変わらないかもしれない。
しかし、今までの自分に区切りをつけるきっかけくらいにはなるだろう。
「異世界、行きますよ」
「ありがとうございます。使徒1号になってくれるのですね。では、スキルを選んでください」
どうも使徒1号です。
スキルをいただきます。
まずはアイテムボックスは欠かせないだろう。
たとえ後ろに小と付いていても、これはレアスキルに違いない。
旅行鞄くらいの収納力でもあれば文句なしのチートスキルだ。
「アイテムボックス(小)の収納量はどのくらいなのでしょうか」
「2リットルです。でも内部の時間は停止していますよ」
絶望だ。
まあ無いよりマシだろう。
内部の時間が停止しているというのはよくある話だけど、2リットルじゃあ少し大きい弁当箱だ。
腐りやすいものや料理を一時的に保管しておくくらいはできるかもしれないけれど、熱々の料理を大量にってわけにはいかなそうだ。
ラノベの主人公みたいにドヤ顔で熱々ご飯を見せびらかすことはできそうにないな。
見せびらかして自分の分しかないとかただの鬼畜だものな。
気を取り直して次に行こう。
次に選ぶスキルは通販|(微)だ。
このスキルはおそらく物販スキルだろう。
異世界のお菓子やお酒を手に入れて交易で大儲けすることができるかもしれない。
「通販(微)で買うことのできる商品はどのようなものがあるのでしょう」
「コーラとポテチだけです」
「なるほど」
なるほどじゃない。
確かに異世界でコーラとポテチを買うことができるのは素晴らしいことかもしれないけれど、コーラとポテチだけ売って成り上がった主人公なんて見たことがない。
しかしあちらの世界でコーラとポテチを手に入れることのできるスキルを外すわけにもいかない。
俺は仕方なく通販(微)を候補に入れ、次のスキルの選定に移った。
「上の4つは物理スキルですかね。そしてこの4つが魔法スキル」
「そうです。そして石工は生産スキル、体毛操作は特殊スキルです」
いただくことのできるスキルは残り3つ。
普通に考えたら物理魔法生産からバランスよく1つずつスキルをとるのが正解だろう。
体毛操作なんてどう見てもネタスキルだ。
取得することのできるスキルが限られている状況でこれを選ぶという選択肢はない。
しかし。
最近生え際が気になってきているというのも事実。
排水溝を見て毎日憂鬱な気分になっている。
絶望の足音が日に日に大きくなってきているのだ。
このスキルはそうした極めて近い将来の不安を払拭できる可能性を秘めている。
「この体毛操作っていうのはどんなスキルなんでしょう」
「名前のとおり体毛を操るスキルですね。頭髪でも腋毛でも陰毛でも、あらゆる体毛をモッサモサにもツルツルにもできます」
モッサモサにもね、なるほど。
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