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93.一方その頃牢屋の2人は

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 ドシンッガラガラという巨大な重機で建物が破壊されるような音が先ほどから断続的に聞こえてくるんだが、いったい何が起きているんだろうな。
 ビルの解体工事でもしてるんだろうか。
 そんな現実から乖離した考えとは裏腹に、私の額からは冷や汗がたらりと滴っていた。
 私が先ほどから目を背け続けているのは、ユキトに建物を破壊してはいけないという社会のルールを教えるのを忘れたという事実だ。
 私が捕まってすぐにするようになった破壊音なんて奴に決まってる。
 ユキトは私との約束を破るような不義理な兎ではないが、言われてないことは守らないだろう。
 私がいる場所を目指しているのかもわからないが、破壊音は段々と遠ざかっていく。
 たぶん方角を間違えている。
 まあいいか、もうどうでも。
 当初の予定だった人里での和やかな散策という計画はすでに破綻している。
 私の予定では今頃、冒険者ギルドでガラの悪い先輩冒険者に絡まれているはずだったのにな。
 小娘がギルドになんの用だ、おままごとなら帰りな、とかいう洗礼的な絡まれ方をすることもあれば、お嬢ちゃんこっち来てお酌してくれよ、先輩が冒険者のいろはをその身体に直接叩き込んでやるよ、などの負けたら即薄い本という展開もあるな。
 これを返り討ちにすればギルドでは一目置かれるわけだ。
 もしくは落ちぶれた高ランク冒険者みたいな奴が、実力を試すために試験をするみたいなパターンもあるな。
 そして本来なら最低ランクから始めるはずの冒険者ランクを数段飛ばすことができるのだ。
 妄想を続けるほどに、私はなんでこんなところにいるんだと思えてくる。
 ここまで来たらもう何もかもめちゃくちゃになってしまえばいいのにな。
 そもそもあの商人が小さなことを根に持って私に嫌がらせをしてくるのが悪いんだ。
 はぁ、早いとこフトシの仲間が助けに来てくれないかな。
 地獄みたいな森に比べたら牢屋の環境はそんなに悪くないと思えるが、退屈だけはどうにもならない。
 前にガチャで出たタバコ臭い漫画でも読んだら暇が潰れそうだが、あれは魔王城の自室に置いてあるんだよな。
 せめてガチャボックスのほうに入っていたら収納スキルだと誤魔化して読むことができるのだが、魔王城に置いてあるものは魔王城を一度出さないと取り出すことはできない。
 魔王城を出すスペースの無い場所に魔王城を出したらどうなるのかという実験を今する気にはなれないな。
 下手したら潰されて死ぬし。
 ああ、暇だ。
 暇すぎて私が片手1本指逆立ち腕立て伏せを始めたくらいのタイミングで、隣の房からグぅぅぅ、という獣の鳴き声のような音が聞こえた。
 逆立ちのままそちらを見るとフトシが顔を赤くしている。
 どうやら今のはフトシの腹の虫の声だったらしい。
 お腹が空いているのか。
 私は小周天を切らしていないので特にお腹は減らないが、時間的にそろそろ昼食が出てきてもおかしくない時間かもしれない。
 私のいた孤児院では昼食というものは無く食事は朝と晩の2回だったのだが、ここも同じだろうか。

「ここって食事は何回?」

「3回です。お昼ご飯も昨日まではちゃんと出てきていたんですけどね。今日はずいぶんと遅いですね。この分だと今日は昼食抜きなのかもしれません」

 牢獄にしては意外と親切な食事制度だが、今日だけ昼抜きか。
 先ほどの破壊音と無関係じゃないんだろうな。
 なんか罪悪感がある。
 ぐぅぐぅと鳴るおっさんの腹の音にも辟易してきたので私はガチャボックスから携帯食料のカプセルを取り出し、フトシにグラノーラバーを4本分けてあげる。
 ナッツやドライフルーツ、オートミールや玄米などを砂糖とはちみつで練って焼き固めたものだ。
 甘くて美味しいので私は食事の後のデザートなどにたまに食べている。
 携帯食料としては今日初めて役に立ったな。
 
「これは、いったいどこから?」

「秘密。女には色々と隠せる場所がある」

 フトシは私の胸のあたりに軽く視線を送るが、そこには当然ながら隠せるような山脈は存在していない。
 15歳くらいに見えるように変化している私だが、胸は大きくしていなかった。
 大きくても邪魔なだけだし、貧乳には貧乳のプライドがある。
 手段を選ばず巨乳になりたいと思うような、そんななりふり構わない貧乳にはなりたくなかった。
 すると残る場所は一か所なわけだが、フトシはそんなところから出したものを食えと?という顔をしていた。
 そんなところに食べ物入れてるか馬鹿もんが。
 そこに入れていた食べ物を他人に食べさせるとか私はいったいどういう性癖なんだよ。
 まったく、察しの悪いおっさんはモテないというのに。
 フトシはもう3人もハーレム要員がいるんだったな。
 マジチンもあるしモテる必要もないか。
 私はとんでもない誤解を解くために収納系のスキルを持っているということを伝えた。

「そうですか。すみません、気が付かず。スキルを言わせてしまったようで」

 まあいいさ、私もフトシのスキルを教えてもらったし、ガチャのことは秘密にしているし。
 私は自分も1本携帯食料を食べると、再び逆立ち腕立て伏せに戻った。
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