上 下
92 / 96

91.おっさん

しおりを挟む
 声をかけられるまでそこに人がいることに気が付かなかった。
 それほどまでにおっさんの気配は自然なものだったのだ。
 まるで植物のようだ。
 だけど気付いてしまえば無視することはできないほどに、大きな生命力がその肉体からは放たれていた。
 人間が持つ生命力は、気や霊力と言われるエネルギーと基本的には同じものだが、その名のとおり生命を維持するためのものだから肉体の外にはほとんど漏れ出ないものだ。
 だがこのおっさんからは膨大な生命力が駄々洩れになっている。
 いったい何者なんだこのおっさんは。
 見た目はめちゃくちゃ冴えないバーコードハゲにビール腹のおっさんなのに、強キャラ感がにじみ出ている。

「お嬢さん、突然話しかけてすみません。ですが、それをやってしまえばあなたはこの国で生きていくのが難しくなってしまいます」

「まあそのときは逃げればいいかなって」

「ははは、若さですね。失礼、私はフトシ・ヤスダと申します」

 おっさんが自己紹介してきたので私も礼儀として自分の名前を教える。
 しかしフトシ・ヤスダか、また極東島国出身者か?
 おっさんはハゲてバーコードになってはいるがよく見れば髪は黒いし瞳も黒い。
 顔はパンパンだが造形は平面的で、おそらくあの島国の出身者に間違いないだろう。
 カエデとポニテ女の2人は権力者に保護されているみたいな感じだったのに、なんでこのおっさんはこんなところに入れられているんだろうか。
 やっぱりおっさんだからか?
 どこの世界でもおっさんに厳しいのは一緒か。
 世の中は多くのおっさんたちが動かしていると言っても過言ではないというのにな。
 まあおっさんはおっさんを欲していないからしょうがないか。
 おっさんが欲しているのは若い女だ。
 そう考えるとおっさんが動かしている世の中が若い女に優しいのは仕方がないことなのだ。
 この世界のおっさんたちは獣人の女にももう少し優しくしよう。
 それにしても、このおっさんはこんなところで燻ぶっているような感じには見えないんだけどな。

「あんたはなんでここから出ないの?その力ならこんな鉄格子は意味を成さないはず」

 そこまで生命力を垂れ流しにしておいて、ひ弱だとは思えない。
 私が小周天の力によって人外の力を得たように、このおっさんはおそらく人間を超えた身体能力を持っているはずなのだ。
 それこそこんな鉄の棒を組み合わせただけの鉄格子などは指先で曲げてしまえるほどに。

「今私の仲間の子たちが私をここから出すために奔走してくれておりまして、あの子たちの想いと行動を無駄にしてしまうようなことはできません」

「そっか」

「ええ。よろしければ、アリアさんもそのとき一緒にここから出ませんか。あの子たちならきっと、社会的に正しいと言える方法でここから出してくれるはずですよ」

 私としても犯罪者にならずにこの状況を打開することができるならそれに越したことはない。
 おっさんの仲間に頼んでここから一緒に出してもらうことにしよう。
 私は拳に集めていた気を霧散させて必殺技を中断した。
 この必殺技のお試しはまた今度だな。
 どのくらいの威力があるのかまだ自分でもわからない。

「はぁ、凄いエネルギーですね。失礼ながら肝が冷えました」

「ごめん。隣の房に人がいるとは思わなかった」

「いえ、影が薄いとよく言われますから。ははは」

 それから私はおっさんと色々なことを話した。
 おっさんは腰が低くて聞き上手でコミュ障の私でも話しやすい相手だ。
 つい色々なことをしゃべってしまう。
 孤児なこと、森の中で暮らしていたこと、久しぶりに街に来たこと。
 さすがにガチャや狐の力のことは秘密だが、それ以外の当たり障りのないことを色々としゃべった。
 おっさんも自分のことをけっこうしゃべった。
 故郷では学校という子供の教育施設で働いていたこと。
 教師ではなく用務員という雑用をする係だったこと。
 急な事故のようなもので故郷から引き離されて、帰ることはおそらく不可能なことなど。
 うーん、前から薄々そうなのではないかと思っていたけど、これって異世界転移というやつだよな。
 それもクラス転移とか集団転移とかって呼ばれるやつだ。
 おっさんはおそらく私に話してもなんのことかわからないだろうと思って話しているのだろうが、前世の記憶を持つ私にはなんのことかばっちりわかってしまう。
 やっぱりおっさんは追放とか投獄とかされてしまう運命なんだな。
 
「失礼、少々お花を摘んでもよろしいでしょうか」

「もちろん」

 この牢にはトイレは付いてない。
 代わりに隅っこに壺のようなものが置かれている。
 おそらくあれにしろということなのだろう。
 嫌だけど仕方ないな。
 孤児院も似たようなものだったし、できなくはない。
 おっさんは壺の前まで行くとズボンを下して一物を解き放つ。

「なっ」

 私の口から思わず驚きの声が漏れ出る。
 あまりにも、おっさんの息子がでかかったのだ。
 鬼人族のゲイルのものと似たような大きさだ。
 ゴリマッチョの巨漢のゲイルとしょぼくれたおっさんの股間のサイズが同じなのは明らかにおかしい。

「あの、あまり見ないでもらえると……」

「あ、ごめん」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない

兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

異世界で生きていく。

モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。 素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。 魔法と調合スキルを使って成長していく。 小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。 旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。 3/8申し訳ありません。 章の編集をしました。

うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜

双華
ファンタジー
 愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。  白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。  すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。  転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。  うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。 ・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。  ※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。 ・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。 沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。 ・ホトラン最高2位 ・ファンタジー24h最高2位 ・ファンタジー週間最高5位  (2020/1/6時点) 評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m 皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。 ※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。

ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました

星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。

異世界無知な私が転生~目指すはスローライフ~

丹葉 菟ニ
ファンタジー
倉山美穂 39歳10ヶ月 働けるうちにあったか猫をタップリ着込んで、働いて稼いで老後は ゆっくりスローライフだと夢見るおばさん。 いつもと変わらない日常、隣のブリっ子後輩を適当にあしらいながらも仕事しろと注意してたら突然地震! 悲鳴と逃げ惑う人達の中で咄嗟に 机の下で丸くなる。 対処としては間違って無かった筈なのにぜか飛ばされる感覚に襲われたら静かになってた。 ・・・顔は綺麗だけど。なんかやだ、面倒臭い奴 出てきた。 もう少しマシな奴いませんかね? あっ、出てきた。 男前ですね・・・落ち着いてください。 あっ、やっぱり神様なのね。 転生に当たって便利能力くれるならそれでお願いします。 ノベラを知らないおばさんが 異世界に行くお話です。 不定期更新 誤字脱字 理解不能 読みにくい 等あるかと思いますが、お付き合いして下さる方大歓迎です。

処理中です...