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74.キャンプ飯
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危険度マックスの森を無警戒で飛ぶという失態をしてしまったうえに、とんでもない化け物の縄張りにこんにちはと挨拶して怒り狂った住人にぶっ飛ばされるというミスを犯してしまった。
なんとか生きてたからよかったものの、一歩間違えば死んでいたかもしれない。
魔物が適度に間引きされていて夜は安全な場所で眠ることができるという環境が私を無警戒の家猫のようにしてしまったのだ。
かっこいいアニメの名言風に言えば、魂にも脂肪がつくものだ。
私は元軍人でもなんでもないから元からそんなに引き締まった魂はしてないけど、孤児として生きていた時のハングリー精神のようなものは完全に失っていたな。
お腹いっぱいご飯を食べてこたつでうたたねしてしまうようなぽやぽやした生活をしていたらそりゃあハングリー精神なんか吹っ飛ぶに決まっている。
そこまでガツガツした飢えた獣のような精神を持つ必要はないと思うけど、最低限死なないために警戒心だけはマックスに張り巡らせておいたほうがいいだろう。
「すぅ、はぁー」
森の中にたまたま見つけた大きな岩の上で座禅を組み、深呼吸をして大気中の気を体内に取り込んでいく。
最近は基本の小周天を意識している時は自然にできるようになってきてはいるが、まだまだ無意識レベルとはいかない。
この前の領主軍の襲来の時も恐怖や焦りなどの心の乱れによって小周天が乱れてしまっていた。
どんなに焦っていても心だけは冷静に保ち、息をするように小周天を行うことができるようにならないといけない。
ドラゴン(仮)に出会ったときは威圧感に恐怖して全く小周天が行えていなかった。
小周天さえできていたら怪我を負うこともなかったかもしれないし、尻尾の防御力ももっと上がっていたはずだ。
狐の力を使って常に3本以上の尻尾を出して身体能力を強化しつつ、小周天でも身体能力や五感を強化して、万全の体制で空の旅を続けることにしよう。
私はめいっぱい気を練り込んでからホウキに跨って飛び立った。
パチパチと焚火が弾ける音が夜の森に妙に響く。
旅立って今日で5日目になるが、すでに私は帰りたくなってきていた。
狐の尻尾を出している私にそうそう襲い掛かってくる魔物はいないのでそこまで危険は感じてはいないのだが、とにかく野営が辛かった。
これが魂に脂肪がつくということか。
夜寝る時はユキトと交代で見張りをしないといけないし、お風呂は入れないし、ベッドは固いし、虫は出るし……。
魔王城が恋しくなってきた。
しかし魔王城はそんじょそこらの空き地には設置できないほどに大きくなってしまった。
馬鹿みたいに畑を広げたせいだ。
おまけに噴水なんていうなんの役にも立たないオブジェを庭に建造した。
畑よりいらんことをしたと思う。
最初の小屋くらいのサイズとまでは言わないがせめて母屋だけだったら少し広い場所だったら設置してお風呂にも入れただろうし、結界に守られて眠ることができただろう。
悲しいな。
暗い夜の森の中に一人でいるとどうしてもネガティブなことを考えてしまう。
この旅は決して悪いことばかりではないのだ。
厳しい環境に身を置くことで成長していると感じることもあるし、美味しいものに出会うことだってある。
パチパチと燃える火の周りには串に刺さった肉が遠火で焼かれていた。
こいつは沼地みたいになっていた場所で襲ってきた魔物で、巨大なウナギのような姿をした奴だった。
ヌルヌルで物理攻撃が効きにくくて厄介な魔物だったが、魔力で鋭さを強化した槍で突くことでなんとか倒すことができた。
鰻と同じようにこいつの血には毒があったが、血抜きをして火を通してみたら食べられそうだったので食べてみたらめちゃくちゃ美味しかったのだ。
脂ののった柔らかい鶏肉みたいな食感で旨味が強く、味は手羽先に似ている気がする。
醤油ベースのタレが焦げていい匂いがしてくる。
石で作った簡素なカマドの上には土鍋が置かれていて、中で米が踊っている頃だろう。
私は日本人ではないけれど、なんかお米を炊くのは胸が高鳴る。
すでに白米の中毒症状が出ているのかもしれない。
やがて蓋の隙間から漏れ出る蒸気に、ほんの少しだけ焦げ臭い匂いが香り始める。
狐の力と小周天の力によって強化された嗅覚はその匂いの変化を敏感に感じ取った。
ここが鍋を下すベストタイミングだ。
そのまま10分ほど蒸らし、蓋を開ける。
キラキラと光り輝くような銀シャリに、私は生唾を飲み込んだ。
こうして焚火と土鍋で炊いて食べるご飯の味もまた、この旅で初めて知ったものだ。
直火の火力の調整は難しいけれど、多少焦げていたとしてもなぜかコンロで炊いたご飯よりも美味しく感じる。
苦労の分だけ美味しく感じるのがキャンプ飯ってことなのだろうか。
鰻の魔物の肉から滴り落ちた油が火の中で弾けて燃える。
こういうのは直火のほうが美味しいのはわかるんだよな。
フライパンで焼いたのでは脂は落ちないし、炭の匂いもない。
遠赤外線というのもあるんだったか。
なんにせよ美味しそうだ。
テントで眠っているユキトを起こして一緒にご飯を食べることにしよう。
なんとか生きてたからよかったものの、一歩間違えば死んでいたかもしれない。
魔物が適度に間引きされていて夜は安全な場所で眠ることができるという環境が私を無警戒の家猫のようにしてしまったのだ。
かっこいいアニメの名言風に言えば、魂にも脂肪がつくものだ。
私は元軍人でもなんでもないから元からそんなに引き締まった魂はしてないけど、孤児として生きていた時のハングリー精神のようなものは完全に失っていたな。
お腹いっぱいご飯を食べてこたつでうたたねしてしまうようなぽやぽやした生活をしていたらそりゃあハングリー精神なんか吹っ飛ぶに決まっている。
そこまでガツガツした飢えた獣のような精神を持つ必要はないと思うけど、最低限死なないために警戒心だけはマックスに張り巡らせておいたほうがいいだろう。
「すぅ、はぁー」
森の中にたまたま見つけた大きな岩の上で座禅を組み、深呼吸をして大気中の気を体内に取り込んでいく。
最近は基本の小周天を意識している時は自然にできるようになってきてはいるが、まだまだ無意識レベルとはいかない。
この前の領主軍の襲来の時も恐怖や焦りなどの心の乱れによって小周天が乱れてしまっていた。
どんなに焦っていても心だけは冷静に保ち、息をするように小周天を行うことができるようにならないといけない。
ドラゴン(仮)に出会ったときは威圧感に恐怖して全く小周天が行えていなかった。
小周天さえできていたら怪我を負うこともなかったかもしれないし、尻尾の防御力ももっと上がっていたはずだ。
狐の力を使って常に3本以上の尻尾を出して身体能力を強化しつつ、小周天でも身体能力や五感を強化して、万全の体制で空の旅を続けることにしよう。
私はめいっぱい気を練り込んでからホウキに跨って飛び立った。
パチパチと焚火が弾ける音が夜の森に妙に響く。
旅立って今日で5日目になるが、すでに私は帰りたくなってきていた。
狐の尻尾を出している私にそうそう襲い掛かってくる魔物はいないのでそこまで危険は感じてはいないのだが、とにかく野営が辛かった。
これが魂に脂肪がつくということか。
夜寝る時はユキトと交代で見張りをしないといけないし、お風呂は入れないし、ベッドは固いし、虫は出るし……。
魔王城が恋しくなってきた。
しかし魔王城はそんじょそこらの空き地には設置できないほどに大きくなってしまった。
馬鹿みたいに畑を広げたせいだ。
おまけに噴水なんていうなんの役にも立たないオブジェを庭に建造した。
畑よりいらんことをしたと思う。
最初の小屋くらいのサイズとまでは言わないがせめて母屋だけだったら少し広い場所だったら設置してお風呂にも入れただろうし、結界に守られて眠ることができただろう。
悲しいな。
暗い夜の森の中に一人でいるとどうしてもネガティブなことを考えてしまう。
この旅は決して悪いことばかりではないのだ。
厳しい環境に身を置くことで成長していると感じることもあるし、美味しいものに出会うことだってある。
パチパチと燃える火の周りには串に刺さった肉が遠火で焼かれていた。
こいつは沼地みたいになっていた場所で襲ってきた魔物で、巨大なウナギのような姿をした奴だった。
ヌルヌルで物理攻撃が効きにくくて厄介な魔物だったが、魔力で鋭さを強化した槍で突くことでなんとか倒すことができた。
鰻と同じようにこいつの血には毒があったが、血抜きをして火を通してみたら食べられそうだったので食べてみたらめちゃくちゃ美味しかったのだ。
脂ののった柔らかい鶏肉みたいな食感で旨味が強く、味は手羽先に似ている気がする。
醤油ベースのタレが焦げていい匂いがしてくる。
石で作った簡素なカマドの上には土鍋が置かれていて、中で米が踊っている頃だろう。
私は日本人ではないけれど、なんかお米を炊くのは胸が高鳴る。
すでに白米の中毒症状が出ているのかもしれない。
やがて蓋の隙間から漏れ出る蒸気に、ほんの少しだけ焦げ臭い匂いが香り始める。
狐の力と小周天の力によって強化された嗅覚はその匂いの変化を敏感に感じ取った。
ここが鍋を下すベストタイミングだ。
そのまま10分ほど蒸らし、蓋を開ける。
キラキラと光り輝くような銀シャリに、私は生唾を飲み込んだ。
こうして焚火と土鍋で炊いて食べるご飯の味もまた、この旅で初めて知ったものだ。
直火の火力の調整は難しいけれど、多少焦げていたとしてもなぜかコンロで炊いたご飯よりも美味しく感じる。
苦労の分だけ美味しく感じるのがキャンプ飯ってことなのだろうか。
鰻の魔物の肉から滴り落ちた油が火の中で弾けて燃える。
こういうのは直火のほうが美味しいのはわかるんだよな。
フライパンで焼いたのでは脂は落ちないし、炭の匂いもない。
遠赤外線というのもあるんだったか。
なんにせよ美味しそうだ。
テントで眠っているユキトを起こして一緒にご飯を食べることにしよう。
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