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64.農機

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 当初は一つの村とだけジャガイモ貿易をしていた私だったが、どこかから伝わったのか近隣の村々からもジャガイモと魔石を交換して欲しいというお願いがあった。
 しかしそうなってくるとさすがに私が保有しているジャガイモの量が心もとなくなってくる。
 だからといってせっかく魔石を大量に稼げる機会も喪失したくなかった私は、ジャガイモの増産を決めた。
 ジャガイモは4カ月もあれば立派に育つ優秀な野菜だ。
 荘園のようになった魔王城の畑を更に増やし、ジャガイモの大量生産が始まった。
 巨人とトカゲが木をなぎ倒して出来た空き地を更に開墾し、魔王城の裏手を見渡す限りの畑にした。
 まるでひろしの故郷である北海道の畑のようだ。
 漂う土の匂いに自分の故郷というわけでもないのになにやら懐かしい気持ちになってくる。
 しかし植えるはずのジャガイモの株数が桁違いなだけに、懐かしい気分に浸っているわけにもいかない。
 比較的手がかからないジャガイモとはいえ、これだけ大規模になると作業量は並大抵のものではなかった。
 そろそろ私も、手作業素人農家を卒業する時だろう。
 農業機械を導入しようと思う。
 こんな広さの畑を今時手作業で耕してチマチマ畝を作っている奴はいない。
 ひろしの実家の農家だって世紀末に走ってそうな巨大トラクターで畑や田んぼを耕していたし、収穫だって合体ロボみたいなコンバインを使っていた。
 ひろしは道民のくせにジャガイモ農家がどんな機械を使っているのかをよく知らなかったが、おそらく植え付けや収穫にもなんらかの農業機械を使っているだろう。
 でなければ日本一の収穫量を誇るジャガイモを全て手作業でなど作れるわけがない。
 とりあえず今のゴーレム作成技術を使って簡単に作れそうなのはトラクターくらいか。
 あれは車輪で前に進む機構とロータリーが土をかき回す2つの機構で済むから腰振り人形を作るよりもよほど簡単だ。
 ロータリーの上げ下げなんて一度降りて手動でやればいいしな。
 馬力が問題になりそうだが、そのへんは私の遊び道具に使っている小型魔導モーターを大型化して変速ギアを組めば解決できるだろう。
 トラクターを使った畝作りもひろしの記憶にあるので可能だ。
 確かロータリーの刃を半分逆にして土が真ん中に流れるようにするのと、土をかき分けるような専用のアタッチメントを取り付けるという2つの方法で畝を作るんだったはず。
 ひろしはトラクターに乗ったことが無いので知識もそこまで深いものではないが、ここまで分かっていればある程度手探りでも作ることができるだろう。
 私は各種金属やゴムなど素材になりそうなガチャアイテムを片っ端から引っ張り出して製作を始めた。





「おー、楽々チン〇ン」

 誰も見ていないからと最低の下ネタを大声で発しながら組み上がったばかりのトラクターを走らせる。
 トラクターのトランスミッションがどうなっているのかよくわからなかったので6速までギアを作ったのだが、ちょっとトラクターとは別格の速さになってしまったな。
 まあ普段は高速ギアは使わなければいいんだし、あっても困らないだろう。
 乗用にするにはちょい野暮ったいけど移動手段に使うこともできるし。
 私は一度運転席から降りて手動でロータリーを下した。
 魔王城の畑は耕さなくても最初からサラサラの土なので最初から畝作りモードだ。
 ロータリーの刃は外側から中央に土を流すように付けてある。
 両サイドには土を良い感じにかき分けてくれるアタッチメントを取り付けた。
 これで走るだけで畝が出来るはずだ。
 まだ何回かしか試していないから、これで畑一面の畝を作ることができるかは未知数。
 私は運転席に乗り込み、ロータリーの動力レバーをオンにする。
 普通に考えて、タイヤとロータリーの動きが連動していてはまともに畑を耕すことはできない。
 深くまで土を耕すためにロータリーを高速で回転させようと思えばタイヤまで速くなってしまうのでは、耕すはずの畑をあっという間に駆け抜けてしまうからだ。
 ひろしの世界のトラクターはよく考えられていて、タイヤの動きは遅いのにロータリーの回転は速いなんていうことができていた。
 だが私にはその構造がわからなかったので仕方なく動力を別にしたのだ。
 回転の速さは3段階で、今は一番遅い回転だ。
 畝づくりにそこまでの高速回転は必要ないだろう。
 ギアを低速に入れて走り出すと、ギュインギュインとロータリーが回って土をかき回す音がした。
 いい感じに動いている。
 ちらりと後ろを見るとやや幅広だが、良い感じの畝が出来上がっている。
 楽しいなこれは。
 畑の端まで行くとロータリーを止め、一度降りてロータリーを上げた。
 そしてUターンしてまたロータリーを下して動力スタート。
 めんどくさいな。
 安全装置も無いからロータリーに近づくのも危ないし。
 ひろしの世界のトラクターに運転席に座ったままロータリーの上げ下げができる機能が付いている理由がよくわかる。
 やっぱどうにかして付けるべきだったか。
 無駄なことばかり知っているひろしでも油圧シリンダーの仕組みはわからなかったのだ。
 腰振り人形に使っている人工筋肉でも使って作ればよかったかもしれない。
 要改善だ。
 私は改善カ所をメモに記しながら畑一面の畝を作った。
 見渡すばかりの畑には、あっという間に畝が出来上がった。
 やっぱこれは楽々〇ンチンだ。
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