51 / 96
51.黒いモヤ
しおりを挟む
「ユキト!!」
ユキトの様子はいつものように余裕のある感じではなく、本気でやばいという顔をしていた。
私はすぐに走り寄り、サーベルで黒いモヤを攻撃する。
しかしサーベルは黒いモヤを断ち切ることはできず、ぐにゃりと柔らかいものに絡まったような感覚があるだけだった。
なんなんだこのモヤは。
魔力を纏わせた剣は鉄をも切り裂く魔剣と同じようなものになる。
それでも切れないのは本物の魔剣か、オリハルコンくらいだろう。
いや、もう一つあった。
同じ魔勁術を使うユキトやゲイルの肉体だ。
魔力の防御はより強い魔力でしか打ち破ることはできない。
私の魔力は人より少し多いくらいでしかないので、膨大な魔力をその身に宿すユキトやゲイルには通用しないのだ。
この黒いモヤはそれと同じように、魔力を使った何かに違いない。
今の私の魔力ではこのモヤを断ち切ることはできないだろう。
しかし断ち切る方法はある。
本物の魔剣を使えばいいのだ。
Aランクアイテムであるよく切れるナイフはなんでも切り裂くことのできる業物の魔剣だ。
あれを使えばこのモヤを切り裂くことができるかもしれない。
私はマジックバッグの中からよく切れるナイフを取り出し、モヤに切りつけた。
ブツリと弾力のあるものを切り裂くような感触と共に黒いモヤが霧散する。
これならいける。
ユキトの身体に絡みついたモヤをブツリブツリと切り、虚空に空いた穴から引き剥がす。
『…………』
助け出されたユキトは手足を投げ出してなんだかぐったりしているような気がする。
ひろしの世界の二次元媒体に出てくる触手の類には、相手の力を吸い取って自分のものとするような能力を持つものがあった。
この黒いモヤもそんな能力を持っているのだとしたら、素手で触れるのは危険だな。
ユキトの魔勁術も解けてしまっていたことを考えると、吸われるのは魔力か。
ユキトのものよりも劣る私の魔勁術ではどうにもならないだろうな。
とりあえずユキトは邪魔なので足元に転がしておく。
少し乱暴だけど今は仕方がない。
隙を見せればモヤが迫ってきそうなのだ。
黒いモヤは自身を傷つけた私を標的と定めたようで、ゆらゆらと揺れながら攻撃の機会をうかがっているように思える。
こんな正体不明の相手からはさっさと逃げたいのだが、走って逃げるのもほうきで飛んで逃げるのも大きな隙になりそうだ。
逃げるにもある程度痛手を負わせる必要がある。
しかし問題となるのはこちらの攻撃手段だ。
よく切れるナイフがモヤに対して有効な攻撃手段であることは確かだが、いかんせん間合いが短い。
あっちは触手のように伸び縮みする不定形のモヤだ。
正直槍でも間合いが足りないくらいなのに、唯一有効な武器はナイフにしては大ぶりだがせいぜい刃渡り20センチ程度。
なんとかならんものか。
魔力がダメなら、気を使ってみるというのはどうか。
気は身体の外に出すと霧散してしまうということが私の中で固定概念化してしまって、体内で使うこと以外の使い道を模索していない気がする。
魔力が身体に纏ったり武器に纏わせたりできるように、気も武器に流して使うことができるのではないだろうか。
気は身体の中を循環させれば身体能力を強化してくれて、脳や目に流すと動体視力や特殊な視覚を得ることができた。
もしかしたら、武器に流したら攻撃力を強化することができるのではないだろうか。
魔力が金属の表面を覆うコーティング材だとしたら、気は金属自体を強化する炭素のような働きをしてくれるという仮説を私は立てた。
仮設を立てたら実験をしてそれを実証しなければならない。
私はマジックバッグによく切れるナイフをしまい、代わりに短槍を取り出した。
私の小周天はすでに無意識に行えるレベルまで研ぎ澄まされている。
その練り込んだ気を、槍を持つ手から穂先に向かって流していく。
気は漆塗りの短槍の柄をぼんやりと光らせながら穂先まで行き渡った。
やってみたら案外簡単にできてしまった。
今まで試さなかった私は馬鹿だろうか。
試しに槍をブンと振ってみると光が宙に軌跡を描いて大変かっこいい。
聖なる武器みたいで邪悪そうな黒モヤにも効きそうな気がする。
私は槍を引き絞り、黒いモヤを突いてみた。
『ピギィィィィィ!!!』
気を込めた武器は黒モヤに対して激烈な効果を発揮したようで、触れただけで黒モヤが妙な悲鳴をあげながら消え去った。
なにこれすごい。
なんかこのままいけば勝てるような気がしてきたので予定を変更して倒しにいく。
ここは木と木との間が広くなっており、槍を振り回しやすいというのも私を調子に乗らせる要因となった。
私は馬に乗った鎧武者のごとく槍を鞭のようにしならせて振り回し、黒いモヤを消していった。
やがて全ての黒モヤが消え、虚空に空いていた穴も閉じた。
「勝った?」
それはフラグだと言わんばかりに、ガラスが割れるような甲高い音が響き渡る。
今まで見えていた物はすべてまやかしだったかのように、突如として景色が変わる。
そこに鎮座していたのは巨大な岩だった。
周囲を取り囲むように4本の巨木が生えており、そこには神社の御神木のようなしめ縄の残骸が貼り付いている。
しめ縄は中央に鎮座している岩にもかけられているが、それは今まさに引きちぎれようとしていた。
ブツリ、と植物繊維がちぎれる音と共に大量の黒いモヤが溢れ出した。
ユキトの様子はいつものように余裕のある感じではなく、本気でやばいという顔をしていた。
私はすぐに走り寄り、サーベルで黒いモヤを攻撃する。
しかしサーベルは黒いモヤを断ち切ることはできず、ぐにゃりと柔らかいものに絡まったような感覚があるだけだった。
なんなんだこのモヤは。
魔力を纏わせた剣は鉄をも切り裂く魔剣と同じようなものになる。
それでも切れないのは本物の魔剣か、オリハルコンくらいだろう。
いや、もう一つあった。
同じ魔勁術を使うユキトやゲイルの肉体だ。
魔力の防御はより強い魔力でしか打ち破ることはできない。
私の魔力は人より少し多いくらいでしかないので、膨大な魔力をその身に宿すユキトやゲイルには通用しないのだ。
この黒いモヤはそれと同じように、魔力を使った何かに違いない。
今の私の魔力ではこのモヤを断ち切ることはできないだろう。
しかし断ち切る方法はある。
本物の魔剣を使えばいいのだ。
Aランクアイテムであるよく切れるナイフはなんでも切り裂くことのできる業物の魔剣だ。
あれを使えばこのモヤを切り裂くことができるかもしれない。
私はマジックバッグの中からよく切れるナイフを取り出し、モヤに切りつけた。
ブツリと弾力のあるものを切り裂くような感触と共に黒いモヤが霧散する。
これならいける。
ユキトの身体に絡みついたモヤをブツリブツリと切り、虚空に空いた穴から引き剥がす。
『…………』
助け出されたユキトは手足を投げ出してなんだかぐったりしているような気がする。
ひろしの世界の二次元媒体に出てくる触手の類には、相手の力を吸い取って自分のものとするような能力を持つものがあった。
この黒いモヤもそんな能力を持っているのだとしたら、素手で触れるのは危険だな。
ユキトの魔勁術も解けてしまっていたことを考えると、吸われるのは魔力か。
ユキトのものよりも劣る私の魔勁術ではどうにもならないだろうな。
とりあえずユキトは邪魔なので足元に転がしておく。
少し乱暴だけど今は仕方がない。
隙を見せればモヤが迫ってきそうなのだ。
黒いモヤは自身を傷つけた私を標的と定めたようで、ゆらゆらと揺れながら攻撃の機会をうかがっているように思える。
こんな正体不明の相手からはさっさと逃げたいのだが、走って逃げるのもほうきで飛んで逃げるのも大きな隙になりそうだ。
逃げるにもある程度痛手を負わせる必要がある。
しかし問題となるのはこちらの攻撃手段だ。
よく切れるナイフがモヤに対して有効な攻撃手段であることは確かだが、いかんせん間合いが短い。
あっちは触手のように伸び縮みする不定形のモヤだ。
正直槍でも間合いが足りないくらいなのに、唯一有効な武器はナイフにしては大ぶりだがせいぜい刃渡り20センチ程度。
なんとかならんものか。
魔力がダメなら、気を使ってみるというのはどうか。
気は身体の外に出すと霧散してしまうということが私の中で固定概念化してしまって、体内で使うこと以外の使い道を模索していない気がする。
魔力が身体に纏ったり武器に纏わせたりできるように、気も武器に流して使うことができるのではないだろうか。
気は身体の中を循環させれば身体能力を強化してくれて、脳や目に流すと動体視力や特殊な視覚を得ることができた。
もしかしたら、武器に流したら攻撃力を強化することができるのではないだろうか。
魔力が金属の表面を覆うコーティング材だとしたら、気は金属自体を強化する炭素のような働きをしてくれるという仮説を私は立てた。
仮設を立てたら実験をしてそれを実証しなければならない。
私はマジックバッグによく切れるナイフをしまい、代わりに短槍を取り出した。
私の小周天はすでに無意識に行えるレベルまで研ぎ澄まされている。
その練り込んだ気を、槍を持つ手から穂先に向かって流していく。
気は漆塗りの短槍の柄をぼんやりと光らせながら穂先まで行き渡った。
やってみたら案外簡単にできてしまった。
今まで試さなかった私は馬鹿だろうか。
試しに槍をブンと振ってみると光が宙に軌跡を描いて大変かっこいい。
聖なる武器みたいで邪悪そうな黒モヤにも効きそうな気がする。
私は槍を引き絞り、黒いモヤを突いてみた。
『ピギィィィィィ!!!』
気を込めた武器は黒モヤに対して激烈な効果を発揮したようで、触れただけで黒モヤが妙な悲鳴をあげながら消え去った。
なにこれすごい。
なんかこのままいけば勝てるような気がしてきたので予定を変更して倒しにいく。
ここは木と木との間が広くなっており、槍を振り回しやすいというのも私を調子に乗らせる要因となった。
私は馬に乗った鎧武者のごとく槍を鞭のようにしならせて振り回し、黒いモヤを消していった。
やがて全ての黒モヤが消え、虚空に空いていた穴も閉じた。
「勝った?」
それはフラグだと言わんばかりに、ガラスが割れるような甲高い音が響き渡る。
今まで見えていた物はすべてまやかしだったかのように、突如として景色が変わる。
そこに鎮座していたのは巨大な岩だった。
周囲を取り囲むように4本の巨木が生えており、そこには神社の御神木のようなしめ縄の残骸が貼り付いている。
しめ縄は中央に鎮座している岩にもかけられているが、それは今まさに引きちぎれようとしていた。
ブツリ、と植物繊維がちぎれる音と共に大量の黒いモヤが溢れ出した。
40
お気に入りに追加
2,156
あなたにおすすめの小説
スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい
兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
ゴミスキルでもたくさん集めればチートになるのかもしれない
兎屋亀吉
ファンタジー
底辺冒険者クロードは転生者である。しかしチートはなにひとつ持たない。だが救いがないわけじゃなかった。その世界にはスキルと呼ばれる力を後天的に手に入れる手段があったのだ。迷宮の宝箱から出るスキルオーブ。それがあればスキル無双できると知ったクロードはチートスキルを手に入れるために、今日も薬草を摘むのであった。
最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m
異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?
夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。
気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。
落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。
彼らはこの世界の神。
キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。
ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。
「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」
うちのポチ知りませんか? 〜異世界転生した愛犬を探して〜
双華
ファンタジー
愛犬(ポチ)の散歩中にトラックにはねられた主人公。
白い空間で女神様に、愛犬は先に転生して異世界に旅立った、と聞かされる。
すぐに追いかけようとするが、そもそも生まれる場所は選べないらしく、転生してから探すしかないらしい。
転生すると、最初からポチと従魔契約が成立しており、ポチがどこかで稼いだ経験値の一部が主人公にも入り、勝手にレベルアップしていくチート仕様だった。
うちのポチはどこに行ったのか、捜索しながら異世界で成長していく物語である。
・たまに閑話で「ポチの冒険」等が入ります。
※ 2020/6/26から「閑話」を従魔の話、略して「従話」に変更しました。
・結構、思い付きで書いているので、矛盾点等、おかしなところも多々有ると思いますが、生温かい目で見てやって下さい。経験値とかも細かい計算はしていません。
沢山の方にお読み頂き、ありがとうございます。
・ホトラン最高2位
・ファンタジー24h最高2位
・ファンタジー週間最高5位
(2020/1/6時点)
評価頂けると、とても励みになります!m(_ _)m
皆様のお陰で、第13回ファンタジー小説大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます。
※ 2020/9/6〜 小説家になろう様にもコッソリ投稿開始しました。
ボッチの少女は、精霊の加護をもらいました
星名 七緒
ファンタジー
身寄りのない少女が、異世界に飛ばされてしまいます。異世界でいろいろな人と出会い、料理を通して交流していくお話です。異世界で幸せを探して、がんばって生きていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる