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38.涙もろいSランク冒険者
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「まさかアタシたちが食べていた料理が『成金のブルーノ』だったとはね。噛めば噛むほど味が染み出てくる美味しいお肉だと思ったけど、オークキングだとは思わなかったわ」
「オークキングのお肉なんて王都の高級レストランでも食べられないわよ。滅多に討伐されることもないんだから」
オークやゴブリンなどの群れを作る魔物は、キングが生まれると手が付けられないほどに強くなるらしい。
キングはただ単純に強いだけではなく、群れを強くする力を持っているそうだ。
キングの発する特有のフェロモンは群れ全体の繁殖能力を引き上げ、数を爆発的に増やす。
そしてキング自身も子作りに励み、キングの遺伝子を継いだ子供は最初から普通の個体よりも強い力を持って生まれてくる。
あの金ぴか鎧と一緒に庭先に転がされていた歴戦のオークみたいな奴がキングの子供で、オークジェネラルというらしい。
キングの子供ならプリンスかプリンセスだと思うのだが、キングを守り通常種のオークを率いて行動することからジェネラルと呼ばれているらしい。
蟻は女王から生まれても働き蟻として下っ端人生を送るらしいし、それと同じようなものだろう。
そんなわけで群れる魔物のキングというのは放っておくと大変なことになってしまう魔物だ。
この森に巣食っていた六王(今は五王)のような人間がこの地に足を踏み入れる前から存在していたキングは仕方がないが、発生したばかりのキングは可及的速やかに対処しなければならない。
それでこの2人が調査に派遣されてきたらしい。
実はこの2人、Sランク冒険者というすんごい強い冒険者だったのだ。
只者ではない雰囲気はあったし、おカマは強キャラだと相場が決まっているから驚きはしなかった。
今更ながら友好的に接しておいてよかったと思う。
いきなり銃口を向けていたらどうなっていたかわからない。
ビビったわけではないが、あまり嘘はつかないように自分のことも話した。
決してビビったわけではないが、この2人はいい人だと思うから悪いようにはしないと思ったのだ。
「そうなのね。こんなところで一人で暮らすのは寂しかったでしょうに。ぐすんっ」
「なんであんたが泣いてんのよ、ぐすんっ」
「あんたも泣いてるじゃないのよぉ」
ひろしの記憶やガチャのレアアイテムなどについては伏せながら素性を話すと、凄い勢いでおカマが涙をこぼし始めた。
それにつられるように美人エルフも泣き始めた。
ほろりもらい泣き程度では済まされない鼻水混じりの号泣だ。
髭面のおカマの泣き顔は当然酷いが、美人エルフもかなりの酷い泣き顔だ。
100年の恋も冷めるという顔をしているが、個人的に私は出会って今までで一番好きな顔かもしれない。
また変な性癖が目覚めた予感がした。
「落ち着きましたか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「ごめんなさいね、私たちのほうが取り乱しちゃって」
エルフの泣き顔は結構眼福だったので全然かまわない。
おカマの泣き顔は夢に出て来そうなのでちょっと迷惑料が欲しいくらいだけど。
「それにしても、まさか『大転のユミル』と『炎球のイグニス』まで討伐されていたとはね。驚いちゃったわ。あれは犠牲を覚悟で頑張ればイケるオークキングとは危険度の格が違うのよ」
「私たちは冒険者の中でもかなり強い方だって自信があるけど、それでもあの2体のネームドが組んでいたら勝てるかどうかわからないわ」
「どうやって倒したのかは聞かないほうがいいのよねぇ」
「ええ、そうしてもらえると助かります」
あの2匹の化け物を倒した方法を教えるということは、私の能力をほぼ全て教えることに等しい。
魔王城の結界の強度や弱点なんかも晒すことになるし、銃の存在も教えることになってしまう。
この2人とは結構打ち解けたと思うが、さすがにそのへんのことは言うことはできない。
幼い子供を権力者に突き出したり見殺しにしたりするような人たちではないようだが、何があっても私の味方でいてくれるという保証はない。
人にはそれぞれ守りたいものがあり、それのためなら自分の命すら捨てられるという人だって存在している。
もしその守りたいものが私を犠牲にすることで守ることができるとしたら、そんな状況になったら誰だって私を裏切るだろう。
私のような天涯孤独の子供を裏切るのは家族に大切にされているような子供を裏切るよりは心が痛まないだろうからな。
私はそんな状況を想像して拳を握り締める。
気が付くと震えていた肩に、モフっとしていて温かい物が乗っていた。
ユキトだ。
ユキトは私の首に抱き着き、頬をペロペロと舐める。
どうやら心配させてしまったようだ。
ユキトのフワフワの白い毛を撫で、心を落ち着ける。
ひょんなことから知り合ったこの不思議な兎は、義理堅くて寂しがり屋なのだ。
それほど長い付き合いではないが、こいつだけは私を裏切らないとなぜだかそんな確信がある。
小さくとも強く、頼りになる私の相棒だ。
私はユキトに小さくありがとうとお礼を言い、2人との会話に戻った。
「まあそんなわけで、ゴブリン以外はもう大丈夫です。首だけでよければ差し上げますよ」
「ありがとう。でも魔物の首にはちゃんと対価を支払うわ。討伐に関しても三つ巴の戦いで漁夫の利を得たとでも誤魔化しておく。私たちも依頼だから手柄はもらっちゃうけど、それに関してもちゃんと埋め合わせはするからね。そうだ、よかったら私たちと一緒に……」
「エリシア、そのへんにしておきなさい。ペットと人間は違うのよ。アタシたちのような根無し草の冒険者に子供を育てるなんて無理。無責任なことはしないの」
エリシアはどうやら私に同情して自分たちと一緒に街に行くよう誘おうとしていたようだが、それをゲイルは真面目な顔で止めた。
確かにゲイルは厳しいことを言っているようだが、間違ったことは言っていない。
ここで私に同情して街に連れていくということは、冒険者活動の一時休止を意味している。
連れていくだけいって後はご自由にと放り出されても困ってしまう。
ある程度私が自活できる歳になるまでは、自由に冒険者活動もできないかもしれない。
そういった面倒を抱え込むだけの覚悟がエリシアにあるようには思えなかった。
ゲイルはその覚悟もないのに軽はずみに私に手を差し伸べるのは間違っているということが言いたいのだろう。
まあどっちにしろ私は行かないが。
おカマとエルフのパーティは面白そうではあるが、もう少しここで暮らしながら力を蓄えたい。
人の世に出るのは無双できるくらい強くなってからでも遅くないだろう。
「オークキングのお肉なんて王都の高級レストランでも食べられないわよ。滅多に討伐されることもないんだから」
オークやゴブリンなどの群れを作る魔物は、キングが生まれると手が付けられないほどに強くなるらしい。
キングはただ単純に強いだけではなく、群れを強くする力を持っているそうだ。
キングの発する特有のフェロモンは群れ全体の繁殖能力を引き上げ、数を爆発的に増やす。
そしてキング自身も子作りに励み、キングの遺伝子を継いだ子供は最初から普通の個体よりも強い力を持って生まれてくる。
あの金ぴか鎧と一緒に庭先に転がされていた歴戦のオークみたいな奴がキングの子供で、オークジェネラルというらしい。
キングの子供ならプリンスかプリンセスだと思うのだが、キングを守り通常種のオークを率いて行動することからジェネラルと呼ばれているらしい。
蟻は女王から生まれても働き蟻として下っ端人生を送るらしいし、それと同じようなものだろう。
そんなわけで群れる魔物のキングというのは放っておくと大変なことになってしまう魔物だ。
この森に巣食っていた六王(今は五王)のような人間がこの地に足を踏み入れる前から存在していたキングは仕方がないが、発生したばかりのキングは可及的速やかに対処しなければならない。
それでこの2人が調査に派遣されてきたらしい。
実はこの2人、Sランク冒険者というすんごい強い冒険者だったのだ。
只者ではない雰囲気はあったし、おカマは強キャラだと相場が決まっているから驚きはしなかった。
今更ながら友好的に接しておいてよかったと思う。
いきなり銃口を向けていたらどうなっていたかわからない。
ビビったわけではないが、あまり嘘はつかないように自分のことも話した。
決してビビったわけではないが、この2人はいい人だと思うから悪いようにはしないと思ったのだ。
「そうなのね。こんなところで一人で暮らすのは寂しかったでしょうに。ぐすんっ」
「なんであんたが泣いてんのよ、ぐすんっ」
「あんたも泣いてるじゃないのよぉ」
ひろしの記憶やガチャのレアアイテムなどについては伏せながら素性を話すと、凄い勢いでおカマが涙をこぼし始めた。
それにつられるように美人エルフも泣き始めた。
ほろりもらい泣き程度では済まされない鼻水混じりの号泣だ。
髭面のおカマの泣き顔は当然酷いが、美人エルフもかなりの酷い泣き顔だ。
100年の恋も冷めるという顔をしているが、個人的に私は出会って今までで一番好きな顔かもしれない。
また変な性癖が目覚めた予感がした。
「落ち着きましたか?」
「ええ、もう大丈夫よ」
「ごめんなさいね、私たちのほうが取り乱しちゃって」
エルフの泣き顔は結構眼福だったので全然かまわない。
おカマの泣き顔は夢に出て来そうなのでちょっと迷惑料が欲しいくらいだけど。
「それにしても、まさか『大転のユミル』と『炎球のイグニス』まで討伐されていたとはね。驚いちゃったわ。あれは犠牲を覚悟で頑張ればイケるオークキングとは危険度の格が違うのよ」
「私たちは冒険者の中でもかなり強い方だって自信があるけど、それでもあの2体のネームドが組んでいたら勝てるかどうかわからないわ」
「どうやって倒したのかは聞かないほうがいいのよねぇ」
「ええ、そうしてもらえると助かります」
あの2匹の化け物を倒した方法を教えるということは、私の能力をほぼ全て教えることに等しい。
魔王城の結界の強度や弱点なんかも晒すことになるし、銃の存在も教えることになってしまう。
この2人とは結構打ち解けたと思うが、さすがにそのへんのことは言うことはできない。
幼い子供を権力者に突き出したり見殺しにしたりするような人たちではないようだが、何があっても私の味方でいてくれるという保証はない。
人にはそれぞれ守りたいものがあり、それのためなら自分の命すら捨てられるという人だって存在している。
もしその守りたいものが私を犠牲にすることで守ることができるとしたら、そんな状況になったら誰だって私を裏切るだろう。
私のような天涯孤独の子供を裏切るのは家族に大切にされているような子供を裏切るよりは心が痛まないだろうからな。
私はそんな状況を想像して拳を握り締める。
気が付くと震えていた肩に、モフっとしていて温かい物が乗っていた。
ユキトだ。
ユキトは私の首に抱き着き、頬をペロペロと舐める。
どうやら心配させてしまったようだ。
ユキトのフワフワの白い毛を撫で、心を落ち着ける。
ひょんなことから知り合ったこの不思議な兎は、義理堅くて寂しがり屋なのだ。
それほど長い付き合いではないが、こいつだけは私を裏切らないとなぜだかそんな確信がある。
小さくとも強く、頼りになる私の相棒だ。
私はユキトに小さくありがとうとお礼を言い、2人との会話に戻った。
「まあそんなわけで、ゴブリン以外はもう大丈夫です。首だけでよければ差し上げますよ」
「ありがとう。でも魔物の首にはちゃんと対価を支払うわ。討伐に関しても三つ巴の戦いで漁夫の利を得たとでも誤魔化しておく。私たちも依頼だから手柄はもらっちゃうけど、それに関してもちゃんと埋め合わせはするからね。そうだ、よかったら私たちと一緒に……」
「エリシア、そのへんにしておきなさい。ペットと人間は違うのよ。アタシたちのような根無し草の冒険者に子供を育てるなんて無理。無責任なことはしないの」
エリシアはどうやら私に同情して自分たちと一緒に街に行くよう誘おうとしていたようだが、それをゲイルは真面目な顔で止めた。
確かにゲイルは厳しいことを言っているようだが、間違ったことは言っていない。
ここで私に同情して街に連れていくということは、冒険者活動の一時休止を意味している。
連れていくだけいって後はご自由にと放り出されても困ってしまう。
ある程度私が自活できる歳になるまでは、自由に冒険者活動もできないかもしれない。
そういった面倒を抱え込むだけの覚悟がエリシアにあるようには思えなかった。
ゲイルはその覚悟もないのに軽はずみに私に手を差し伸べるのは間違っているということが言いたいのだろう。
まあどっちにしろ私は行かないが。
おカマとエルフのパーティは面白そうではあるが、もう少しここで暮らしながら力を蓄えたい。
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