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37.森の異変とネームド魔物

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 テーブルの上には最初に出した揚げ物類や炒飯だけでなく、中華スープや焼き餃子、小籠包、チャーシュー饅頭などが並ぶ。
 結構前から食べたかったお饅頭だが、イスパタやベーキングパウダーなどの生地をふっくらさせるための材料がガチャで出ていなかったために作るまでに結構苦労した。
 結局何も代用できるものを思いつかなかったので、最終的に天然酵母を作って生地を発酵させた。
 中身のアンはゴロゴロと大きく切ったチャーシューと数種類の野菜のみじん切りを炒めて調味料で味付けし、水溶き片栗粉でとろみをつけたものだ。
 日本の野菜ばかりじゃないから名前の分からない野菜なども入れたけれど、シャキシャキという心地よい食感と野菜の風味がチャーシューの旨味を引き立てていてとても美味しいと思う。
 饅頭の生地ももっちりフワフワで最高の出来だ。
 ゲイルとエリシアも無言でバクバクと食べている。
 身体が資本の冒険者だけあって2人ともかなりの健啖家らしい。
 美味しいご飯を一緒に食べて心理的距離を近づけるという目的はある程度達成できたと思うのでそろそろ本題に入りたい。

「それで、なぜゲイルさんとエリシアさんはこんな山奥に?」

「はっ、そうだったわ。美味しい料理に夢中になっちゃってたけど、アタシたちここに来たのは冒険者ギルドの依頼を受けたからだったのよ」

「近頃この森の魔物たちの行動がおかしいから、調査に来たの。そしたらあんなところに目立つ建物が建っていた。そこの住人に話を聞こうと思って待ってたってわけ」

 私に直接関係あることではなかったのか。
 森の奥に突如として現れた結界に守られた建物を調査に来たとか言われたら、魔王城のことを少しくらいは話さなければならなかっただろう。
 魔王城は私の持ち物の中でもトップシークレットネタだ。
 魔石を吸収して進化する難攻不落の城なんていうものが世に知れ渡ったら奪い合いが起きるに違いない。
 まあ知られちゃったらカプセルに入れてさっさと逃げるけどな。
 一夜のうちに設置することも撤収することもできるのが魔王城の最大の利点だろう。
 秀吉の墨俣一夜城よりも早く設置可能な城を個人が保有しているのだ。
 国を守る立場の人たちからしてみたら脅威以外の何者でもない。
 今後も魔王城のことはできるだけ内緒でいこう。

「なるほど。でも森の魔物たちの行動がおかしいって、具体的にどんなところなんですか?」

「ゴブリンがすっごく増えてるのよぉ。こういう時っていうのは、ゴブリンたちにキングが誕生しているとみて間違いないわね。それ以外にも多腕の巨人『大転のユミル』とオールドサラマンダー『炎球のイグニス』が一緒に行動していたという報告もあるし、オーク六王の一角『成金のブルーノ』が何者かに倒されたって噂もあるの」

「この森で人間が安全に歩くことができるのはゴブリンの縄張りだけなのよ。でもゴブリンたちにキングが生まれたとなればゴブリンの縄張りの危険度も今までの比ではなくなる。さらには他の強いネームドの魔物たちまで縄張りの外に出てきて争いを始めるとなるとその危険度は想像もできなくなるわ。それで私達が調査のために派遣されたってわけなの」

 なんだかめちゃくちゃ身に覚えのある情報だったな。
 おそらくその、『大転のユミル』と『炎球のイグニス』は今私が着ている服になったやつだな。
 そしてオークの王様の一角であるという『成金のブルーノ』、そいつはおそらくユキトが魔王城の庭先に転がしてよこした金ぴか鎧の巨大オークのことだろう。
 なんか普通のオークじゃないとは思っていたが、まさか王様だったとは。
 ゴブリン以外は全て私たちが関わっていることだった。
 まあゴブリンはここに来た時から多いなとは思っていたので驚きはない。
 私がこの湖にたどり着くまでに倒したゴブリンの数は山ができるほどだったからな。
 森というところがあんなにゴブリンで溢れかえっているところだったらおちおち木こりが木を伐りに行くこともできやしない。
 
「そんなわけでアリアちゃん、何か知らない?ここで暮らしてておかしいなと思ったこととか」

 ゲイルにそう聞かれてどう答えようか迷う。
 巨人もトカゲもオークも、首だけなら残っているのだ。
 しかしそれを出せば私たちが討伐したということを明かすことになる。
 あんな化け物を討伐することができるほどの力を持っていると言うようなものだ。
 それは相手を警戒させることになるのではないだろうか。
 この2人はそんなに警戒しないけもしれないけれど、冒険者ギルドやその上の人間は確実に私のことを警戒するだろう。
 組織に所属していない力ある人間などはテロリストと変わらない。
 仮想の敵と味方、どちらに分類するかといえば間違いなく敵だ。
 どうしたものか。
 とりあえずオークだけは出そう。
 あれは私じゃなくてユキトが倒したものだ。
 そして今私たちが食べている料理の材料でもある。
 オークの王様は他のオークよりも肉が上質だったのでお客様にはそっちかなと思ったのだ。
 私がそうゲイルたちに告げると、2人の驚く声が湖にこだました。
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