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11.乳化とニンニク香

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 気は命であり、エネルギーであり、宇宙である。
 この一文がもしただ事実を述べているのだとすれば、気というのは命の源であり、エネルギーであり、宇宙であるということである。
 かっこつけて言いなおしたりもしてみたけれど、やっぱりわからんわ。
 気は命、これは生命力ということなのだろうか。
 私達が生きているのも気があってこそですよってことかもしれない。
 気はエネルギー、これはまあわかる。
 気っていうエネルギーですよってことだ。
 気は宇宙、これが一番意味わからん。
 宇宙を形作っているものの大半はダークマターだとひろしの記憶にはあるが、それのことだろうか。
 気とはダークマターを操る技術?
 違う気がする。
 
「ごちゃごちゃ考えすぎてしまうのはひろしの良くないところだな」

 私はもともと考えるよりも感覚で動くタイプの人間だ。
 それがひろしの記憶を得たせいでごちゃごちゃと余計なことを考えるようになってしまっている。
 もちろんひろしの良いところは見習わなければいけないが、全ての行動を模倣する必要はない。
 私はアリアであって、ひろしではないのだから。
 気功術なんてひろしだったらそもそも怪しんで近づきもしないような分野だ。
 ひろしの記憶に頼ってとっかかりを掴むよりも、自分の感覚を信じたほうがいい結果になるだろう。
 私は右手を足の裏に、左手を丹田に置いた基本姿勢をとる。
 考えるな感じろ、ドントシンクフィールだ。
 ジークンドーの人が確かそう言っていた。
 あの人の言うことは大体正しい。
 なんだか丹田のあたりが温かいような気はするが、これは手のひらの温かさだ。
 当然だが、気っていうのがなんなのかわからなければ気功は使えるようにはならないだろう。
 私はただひたすらに、気を感じ取るために精神を集中させた。
 どれくらいそうしていただろうか、私のお腹がぐぅと可愛く空腹を訴える。

「お腹減った」

 ご飯にしよう。





 精米ルームも無事に設置が完了し、魔王城の玄関には右側に扉ができた。
 精米ルームは米ぬかが出る関係でちょっと室内には作りたくなかったので、靴を履いたまま入る床面コンクリートの部屋となった。
 ガチャボックスの中は本家のアイテムボックスのごとく時間が止まっているらしく、食べ物が腐ったり劣化したりすることは無い。
 普通に精米して袋入りになっているお米の味も変わらないはずなんだけど、やっぱり少しだけ精米したてのお米のほうが美味しい気がする。
 お米が精米されて袋詰めにされるまでの時間の差だろうか。
 お米は空気に触れると酸化する。
 だから精米された白米よりも玄米のほうが長く保存しておくことができるのだ。
 ひろしの実家は北海道で米農家を営んでいたので米のことについては結構知識がある。
 北海道といえば酪農やジャガイモ、アスパラなどが有名だが、意外と米を作っている人はたくさんいる。
 ひろしが死ぬ直前あたりには生産量で全国2位にまでのし上がっていた記憶がある。
 春や秋が短い北海道でお米が作れるようになるにはとんでもない時間と多くの人の努力があったことだろう。
 ひろしの実家はその恩恵を享受している農家だった。
 お米はひろしのソウルフードなのだ。
 私の中のひろしの魂が、この白い粒粒を炊いて食らえと言っている。
 うるさい豚の魂の声はとりあえず無視して、私はパスタを茹でる。
 そんなに毎日お米ばっかり食べてられないからね。
 私はひろしじゃないのでお米を毎日食べたいほど愛してはいないのだ。
 それなのに献立が思い浮かばないときにとりあえずお米を炊いてしまう自分の行動には困惑している。
 実際には魂だとかではなく思考回路がそうなってしまっているのだろうけれど、アリアとしての生活を続けていればそのうち最適化されていくことだろう。
 そんなことを考えているうちに砂時計が2回落ち切り、パスタが茹で上がる。
 ミニキッチンのコンロは一つしかないのでパスタを茹でながらソースを作ることができないのがちょっと非効率的に感じる。
 今度キッチンをグレードアップさせよう。
 私は茹で上がったパスタをザルに乗せ、鍋を外してフライパンをコンロに乗せた。
 乳化という現象が面白くて最近はオイルパスタに嵌っている。
 今日のパスタはシンプルにペペロンチーノだ。
 フライパンにオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を入れて火にかける。
 ニンニクがジュージュー焼けていい匂いがし始めたらパスタを茹でた汁を少しずつ加えていく。
 なんでかは知らないけれどパスタの茹で汁は油と混ぜると乳化しやすい。
 弱火で混ぜているとトロっとした白っぽい感じになってきた。
 これが乳化だ。
 こうすると麺とソースが良く絡んで美味しいパスタになるのだ。
 ただ、やっぱり具が少ないな。
 現在うちの食べ物はすべてガチャから出た物で賄っているために、かなり偏りがある。
 穀物や調味料などは売るほどあるのに対して、肉や魚、野菜などの生鮮食品はほとんど無い。
 現代日本人が食べているような生鮮食品は全て品目に起こしてみるとかなり多種多様となる。
 味噌汁ひとつとっても油揚げや豆腐、わかめやネギなどの多くの食材が必要なのだ。
 原則として1つのカプセルから1品目のものしか出ないガチャに多様な食材を期待するのは間違いだろう。
 とりあえずペペロンチーノを作るくらいの食材があることに感謝をするべきだ。
 
「神様ありがとう。いただきます」

 ニンニクマシマシで美味い。
 気楽な一人暮らしはいいね。

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