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3.王国の現状
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最近、ブライアン様の体調が思わしくないようだ。
思えばこの半年でずいぶん痩せたように思う。
婚姻の申し込みにいらっしゃった時にはずいぶん恰幅のいい方だったと思うのだけど、今では頬がこけて見えるほどに痩せている。
最近では身体も思うようにならないようで寝込みがちになった。
なんらかの病に蝕まれているのは確実だろう。
「心配だな」
しかしどれだけ心配したところで私にできることは限られている。
今のところ私の持つ古代文明の技術に医療関係のものは無い。
今から目的の知識を求めて遺跡を漁っても到底間に合わないだろう。
人工竜脳なんて技術を手に入れてなんでもできる気になっていたけれど、結局私にできることは人をたくさん殺すためのゴーレムを作ることだけだった。
どうにも虚しい気持ちになってしまっていけない。
コンコンコンと3回扉をノックする。
嫁に来たばかりの頃2回はトイレのノックだとブライアン様に呆れられたことを思い出す。
少ししゃがれた声が扉の向こう側から聞こえたので私はドアノブを捻り入室した。
「失礼します。ブライアン様、お加減はいかがですか?」
「ああ、アリシア殿、よく来たね。加減は、まああまり良くないな」
ブライアン様は顔に深い皺を浮かばせてくしゃりと笑う。
こんなに好々爺然とした方だっただろうか。
もう少しギラリとした野心を感じさせるお方だった気がするけど。
病が人を変えてしまったのかもしれない。
それに顔色がものすごく悪い。
それはもはや死相と呼べるものなのかもしれなかった。
「アリシア殿、君を呼んだのは私がおそらくあまり長くはないからだ」
「そんなことをおっしゃらないでください」
「悲観的になっているわけではない。私が長くないであろうことはどの医者に診せても明らかだ。そのうえで、現実的に未来の話をさせてくれないか」
「未来のお話ですか?」
「そうだ」
なんの話だろうか。
もしかしたら子供の話かもしれない。
私とアレックス様はまだこのお方に孫を見せてあげるどころかその行為すらも行っていない。
その事実が酷く申し訳なく思えてきて私は少し顔を歪ませた。
「ああ、君を責めているわけではない。むしろ謝りたい。アレックスはいつからか間違った道に向かってしまった。それを正すのは親の務めだと思う。しかし私にもはやその力はない」
「そんなことは……」
「王国軍参謀本部長のゴードン殿が罷免された」
「え」
ゴードン氏というのは私が鼻を明かしてやると意気込んでいた筋肉髭ダルマである。
つまり1万体の軍用ゴーレムの卸先の責任者であり、お得意様のお偉いさんだ。
軍へのゴーレムの配備はこの人がすべて差配していたに等しく、それが失脚したとなれば私のゴーレムはどうなってしまうのだろうか。
「軍へのゴーレム配備は白紙に戻された。君のことだからもうゴーレムはできているのだろう。すまないことをした。更に申し訳ないのだが、ゴーレムをアレックスに渡さないようにしてくれないか。できるならゴーレムを持ってこの家を出て欲しい」
「どういうことですか?」
「アレックスはどうやら、王位継承争いに参加するつもりみたいなのだ。それに君のゴーレムを利用しようとしている。そうなれば君の強力なゴーレムが多くの血を流すことになろう。それも同じ王国人の血をな。君もどこかに軟禁されて延々ゴーレムを作らせられるかもしれない」
「ゴードン様の失脚も王位継承争いの一環なのですか?」
「そうだ。ゴードン殿は第三王子を支持する派閥の筆頭であるクレリアン公爵家の分家の出だ。アレックスが組したのは第二王子派だからな。そのまま軍部を掌握するつもりなのかもしれない」
なにやら我が王国は大変なことになっている様子。
日々研究室でゴーレムを弄ってばかりいる私は全く王国の状況に気が付かなかった。
アレックス様が最近あまり帰ってこないのもその影響なのかも。
しかし大変なものに手を出されましたね。
「すでにアレックスは第二王子派閥に組み込まれて抜け出せる状況ではない。いやあいつは抜けようともしないだろうがな。第二王子はアレックスの悪友で私もお会いしたことがあるが、あれは不味いな。王の器以前に人として大事な物が欠けているようなお方だった。あのお方が王になれば国は荒れるだろう。そして王にならなかったとしても我がマイルズ子爵家に未来はない。わかるかね?詰んでいるのだよ我が家は。だから逃げなさい。ゴーレムを持って。君は確か第三王子と面識があったね?彼に庇護を求めるといい。私はゴードン殿から人となりを聞いただけで直接お会いしたことはないが世間で言われているほど悪いお方ではないそうだね」
「あ、は、はい」
私は確かに第三王子のケイン様にお会いしたことがある。
第三王子といってもお母様のご実家の爵位が低いため王位継承順位が低いだけで、王子の中では一番お年を召した方だ。
確か今年で30になられるはず。
見た目は結構チャラくて見た目どおりの女好きの遊び人といった感じの方だけれど、不思議と同じような女好きのアレックス様のような嫌な感じがしない。
ふざけてセクハラされても、なぜか許してしまえるような憎めない感じの雰囲気の方だ。
物凄くスケベだけどね。
それでいて考古学にも興味を抱くような知的な部分も持ち合わせている本当に不思議な方だ。
何度か古代文明の遺産の解読を頼まれたことがあるのでその時の貸しを使って頼んだら庇護してはくれるのだろうけど、あのお方はいつどこにいるのかがよくわからないお方だから捕まるかどうかが問題だ。
「いいね?アメリア殿。この家を出て第三王子に庇護を求めるんだ。できれば私が死ぬ前に」
「わかりました」
私はブライアン様に最後の挨拶をして部屋を出た。
そしてその夜、ブライアン様は眠るように息を引き取られた。
思えばこの半年でずいぶん痩せたように思う。
婚姻の申し込みにいらっしゃった時にはずいぶん恰幅のいい方だったと思うのだけど、今では頬がこけて見えるほどに痩せている。
最近では身体も思うようにならないようで寝込みがちになった。
なんらかの病に蝕まれているのは確実だろう。
「心配だな」
しかしどれだけ心配したところで私にできることは限られている。
今のところ私の持つ古代文明の技術に医療関係のものは無い。
今から目的の知識を求めて遺跡を漁っても到底間に合わないだろう。
人工竜脳なんて技術を手に入れてなんでもできる気になっていたけれど、結局私にできることは人をたくさん殺すためのゴーレムを作ることだけだった。
どうにも虚しい気持ちになってしまっていけない。
コンコンコンと3回扉をノックする。
嫁に来たばかりの頃2回はトイレのノックだとブライアン様に呆れられたことを思い出す。
少ししゃがれた声が扉の向こう側から聞こえたので私はドアノブを捻り入室した。
「失礼します。ブライアン様、お加減はいかがですか?」
「ああ、アリシア殿、よく来たね。加減は、まああまり良くないな」
ブライアン様は顔に深い皺を浮かばせてくしゃりと笑う。
こんなに好々爺然とした方だっただろうか。
もう少しギラリとした野心を感じさせるお方だった気がするけど。
病が人を変えてしまったのかもしれない。
それに顔色がものすごく悪い。
それはもはや死相と呼べるものなのかもしれなかった。
「アリシア殿、君を呼んだのは私がおそらくあまり長くはないからだ」
「そんなことをおっしゃらないでください」
「悲観的になっているわけではない。私が長くないであろうことはどの医者に診せても明らかだ。そのうえで、現実的に未来の話をさせてくれないか」
「未来のお話ですか?」
「そうだ」
なんの話だろうか。
もしかしたら子供の話かもしれない。
私とアレックス様はまだこのお方に孫を見せてあげるどころかその行為すらも行っていない。
その事実が酷く申し訳なく思えてきて私は少し顔を歪ませた。
「ああ、君を責めているわけではない。むしろ謝りたい。アレックスはいつからか間違った道に向かってしまった。それを正すのは親の務めだと思う。しかし私にもはやその力はない」
「そんなことは……」
「王国軍参謀本部長のゴードン殿が罷免された」
「え」
ゴードン氏というのは私が鼻を明かしてやると意気込んでいた筋肉髭ダルマである。
つまり1万体の軍用ゴーレムの卸先の責任者であり、お得意様のお偉いさんだ。
軍へのゴーレムの配備はこの人がすべて差配していたに等しく、それが失脚したとなれば私のゴーレムはどうなってしまうのだろうか。
「軍へのゴーレム配備は白紙に戻された。君のことだからもうゴーレムはできているのだろう。すまないことをした。更に申し訳ないのだが、ゴーレムをアレックスに渡さないようにしてくれないか。できるならゴーレムを持ってこの家を出て欲しい」
「どういうことですか?」
「アレックスはどうやら、王位継承争いに参加するつもりみたいなのだ。それに君のゴーレムを利用しようとしている。そうなれば君の強力なゴーレムが多くの血を流すことになろう。それも同じ王国人の血をな。君もどこかに軟禁されて延々ゴーレムを作らせられるかもしれない」
「ゴードン様の失脚も王位継承争いの一環なのですか?」
「そうだ。ゴードン殿は第三王子を支持する派閥の筆頭であるクレリアン公爵家の分家の出だ。アレックスが組したのは第二王子派だからな。そのまま軍部を掌握するつもりなのかもしれない」
なにやら我が王国は大変なことになっている様子。
日々研究室でゴーレムを弄ってばかりいる私は全く王国の状況に気が付かなかった。
アレックス様が最近あまり帰ってこないのもその影響なのかも。
しかし大変なものに手を出されましたね。
「すでにアレックスは第二王子派閥に組み込まれて抜け出せる状況ではない。いやあいつは抜けようともしないだろうがな。第二王子はアレックスの悪友で私もお会いしたことがあるが、あれは不味いな。王の器以前に人として大事な物が欠けているようなお方だった。あのお方が王になれば国は荒れるだろう。そして王にならなかったとしても我がマイルズ子爵家に未来はない。わかるかね?詰んでいるのだよ我が家は。だから逃げなさい。ゴーレムを持って。君は確か第三王子と面識があったね?彼に庇護を求めるといい。私はゴードン殿から人となりを聞いただけで直接お会いしたことはないが世間で言われているほど悪いお方ではないそうだね」
「あ、は、はい」
私は確かに第三王子のケイン様にお会いしたことがある。
第三王子といってもお母様のご実家の爵位が低いため王位継承順位が低いだけで、王子の中では一番お年を召した方だ。
確か今年で30になられるはず。
見た目は結構チャラくて見た目どおりの女好きの遊び人といった感じの方だけれど、不思議と同じような女好きのアレックス様のような嫌な感じがしない。
ふざけてセクハラされても、なぜか許してしまえるような憎めない感じの雰囲気の方だ。
物凄くスケベだけどね。
それでいて考古学にも興味を抱くような知的な部分も持ち合わせている本当に不思議な方だ。
何度か古代文明の遺産の解読を頼まれたことがあるのでその時の貸しを使って頼んだら庇護してはくれるのだろうけど、あのお方はいつどこにいるのかがよくわからないお方だから捕まるかどうかが問題だ。
「いいね?アメリア殿。この家を出て第三王子に庇護を求めるんだ。できれば私が死ぬ前に」
「わかりました」
私はブライアン様に最後の挨拶をして部屋を出た。
そしてその夜、ブライアン様は眠るように息を引き取られた。
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