強奪系触手おじさん

兎屋亀吉

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12.透明人間になりたいおっさん

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 エアロトータスは17階層に生息する魔物で、動きはのろいがインビジブルのスキルで姿を隠して近づいてきて強力な魔法攻撃を放ってくるので冒険者には嫌われている。
 探知系のスキルを持っていれば奇襲攻撃を受けることは無いかもしれないが、エアロトータスは危険を感じると甲羅に籠ってしまうので反撃しようにも生半可な攻撃では傷一つ付けることはできないのだ。
 亀なんだから火に弱いということもなく、どれだけ甲羅を火あぶりにしたところで蒸し焼きになったりはしない。
 それだけ強靭な甲羅だから一応素材の需要はあるが、1階層上の16階層に出る甲虫型の魔物の方が簡単に倒せて素材の性能もそれほど違いはなく、圧倒的に狩りの効率は良いので冒険者は17階層を避けて通る傾向にある。
 つまり17階層は貸し切りみたいなもんだ。
 どこで立小便しても誰にも見咎められねえってのはいいよな。
 俺は背筋がぞくっとするような寒気を感じて少し腰を引く。
 すると先ほどまで俺の一物があったあたりを何かが通過していくのがわかった。
 鋭い風切り音を立てて通り過ぎたそれは、風の刃だった。
 風の刃は小便で濡れた壁を切り裂いて消えていった。

「っぶねぇ……」

 とんでもねえ場所を切り裂かれるところだったぜ。
 冷や汗びしゃびしゃだ。
 俺は風の刃が飛んできた方向を見る。
 風属性や火属性の魔法スキルは射程がそれほど広くない。
 敵は必ず近くにいるはずだ。
 だがどれだけ目を凝らしてみても何も見えない。
 これはヤバいな。
 インビジブルというスキルを舐めていた。
 いくら透明になれるといっても、さすがに少しは違和感を感じるだろうと思っていた。
 だが実際出会ってみると、全く何も感じねえ。
 これは想像以上にすげえスキルだな。
 手に入れることができたらと思うと夢が膨らむぜ。
 幸いにも俺にはこいつを倒す手段がある。
 俺は右手を触手に変え、全方位に溶解液を放った。

『ギッギギィィィッ』

 ある方向から渇いた木を擦り合わせたような鳴き声が響き、溶けかけのエアロトータスが姿を現す。
 溶解液は強靭な甲羅ですら関係なく溶かし、巨大なリクガメはあっという間に液体になってしまった。
 相変わらずこの溶解液は最強だな。
 俺は触手を伸ばして汚い汁を啜った。
 さすがに1回目でスキルを得るほどの豪運は無かったか。
 次の亀に期待。





 

 たまに魔法攻撃を受けながらも全方位溶解液や当てずっぽう溶解液によってエアロタートルを狩り続けてそろそろ1週間になる。
 毎日日帰りのダンジョン通いなので疲れは蓄積されていないが、そろそろ飽きてくる。
 すでに狩った亀の数は3桁に突入し、2つスキルを得ることもできた。
 防御力を上昇させる【堅牢】と風の槌を放つ【エアロハンマー】だ。
 火炎ブレス以外の魔法スキルに少し感動してぶっ放しまくったが、すぐに飽きた。
 火炎ブレスは30階層のボスの攻撃だし、溶解液はそのボスを一撃で屠った攻撃だ。
 その2つの攻撃に比べるとエアロハンマーはそんなに強くない。
 本命のインビジブルもまだ手に入ってないし、1週間も毎日毎日薄暗い迷宮で亀を狩っていると頭がどうにかなりそうだ。
 前まではこんなことは日常だったはずなのにな。
 もう今の俺にはこんなことを無理してやる必要がないのだ。
 今ダンジョンに潜っているのは俺の趣味のようなものであり、そのためにこんな苦行に耐えるのは馬鹿みたいだ。
 インビジブルという男の夢を体現したようなスキルを前にして、俺は浮かれすぎていたらしい。
 6つも種族スキルを持っている魔物を相手に、たった1つのスキルを手に入れるのは100やそこらのチャレンジでは到底不可能だ。
 今までの経験から言って、スキルが手に入る確率は70分の1くらいだ。
 エアロトータスの種族スキルと思われるものは全部で6つ。
 確率どおりになったとしても6つのスキル全てを手に入れるためには420匹を倒さなければならない。
 スキルによって入手率が変わるという可能性もあるし、計算はそんなに単純でもないだろうな。
 1000、2000、下手したら万に届くほどの数を狩らなければならない可能性もある。
 それを1週間やそこらでやれるだろうと考えていた方が間違っていたのだ。
 どれだけの時間がかかってもインビジブルは欲しいが、もう少しのんびりやるか。
 この階層は飽きたし、少し気分を変えることにしよう。
 ギルドの資料を見て目星をつけておいた魔物はエアロトータスだけではないので、他の魔物を狩ることにする。
 移動するのは24階層。
 そこに生息しているスモークモンキーという猿を狩る。
 スモークモンキーは珍しい時空間属性という属性の魔法スキルをいくつか持っている。
 異空間ポケットや瞬間移動などのスキルは絶対に欲しいスキルだ。
 異空間ポケットがあれば手ぶらで荷物を大量に持ち運べるし、瞬間移動があれば移動時間を短縮したり敵の背後に瞬時に異動して奇襲したりすることができる。
 男のロマンという点でいえばインビジブルよりも優先度は下だが、有用性という点から見れば透明になれるだけのインビジブルよりもこれらのスキルの方が上かもしれない。
 亀狩りの息抜きくらいにはなりそうだな。



 
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感想 2

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みんなの感想(2件)

A・l・m
2022.07.11 A・l・m

停止中の『エロゲスキル3』
マンに1つ再開する場合は、洗剤ローションとか消臭ローションとかお願いします。

……洗脳ローションとか弱体化ローション(タイツ)でも良いのかな……。
(対アラクネ戦)

解除
A・l・m
2022.06.15 A・l・m

ふむふむ、つまり、すぐ倒せる群れの魔物……。

サルも群れっぽいので良いですね!(呼びそう)
定番の収納と便利、と思われる転移。
それを手に入れたらどうなるのか!(手に入れるまでが長いので、サルイベントあるかな?)

……そうか、溶かしてないからまだ不良冒険者の群れが……。
(叩きのめす位で反省するだろうか……しないまでも大人しくなるかな?)

解除

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