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8.【神の触腕】
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「なんだこりゃあ、名前しかわからねえ。こんなことは初めてだ」
同じスキルでも強さには差があることがある。
生まれ持った才能もあるし、使っていけば成長することもある。
その点ガンテツの鑑定スキルはこの国でも一二を争う強力なスキルだ。
最初から優秀だったスキルをかれこれ60年以上も鍛え続けているのだから当然だろう。
ガンテツの鑑定スキルは最高ランクのアイテムである神器ですら鑑定することができると聞いたことがある。
国内はおろか国外からも鑑定依頼が来ることもあるそんなスキルでも、名前しか鑑定することができない触手はいったい何者なのだろうか。
いや何物か。
「寄生してるからってわけじゃないのか?」
「違う。寄生型の神器ってのは大体本人を鑑定すれば神器の能力まで出るものだ。俺は今お前さん自身を鑑定してみたのだが、前は鑑定できたスキルが鑑定できなくなっている。名前と、神器に寄生されていること、そして神器の名前、それしかわからんのだ」
「あんたに鑑定できないってことは大抵の奴には鑑定できないってことか」
「それこそ、それに特化した神器の持ち主でもなけりゃあ無理だろうな」
鑑定に特化した神器か、聞いたことがないな。
メガネの形でもしているのだろうか。
しかし具体的な能力が鑑定スキルでも鑑定できないというのはある意味助かった。
他人の神器やスキルを本人の了承を得ずに鑑定するのはとても失礼なことにあたるが、勝手に鑑定したことを証明することは誰にもできはしない。
武術の達人なんかだとなんとなくで気が付いたりするみたいだが、俺はそんなものではないので勝手に鑑定されても全く気が付かないだろう。
いつの間にか貴族や教会関係者に鑑定されて付け狙われるような事態にもなりかねないので、鑑定ができないというのは非常にありがたい。
「それで、名前はなんていうんだ」
「【神の触腕】というらしい。神の名を冠する神器は優れたものが多いと聞くが、そのとおりなのだろうな」
「へぇ、神の触腕か……」
神ってのはこんな気持ち悪い触手の腕が生えてるもんなのかね。
あの淡々とした声のクールな姉ちゃんの腕がこれだったらちょっとトラウマになるかもな。
あの神さんには生えてないことを祈ろう。
どう考えてもこんな腕が生えてる神は邪神だものな。
「で、どうする。気持ち悪かろうが神器は神器だ。力を得て、若い連中から装備を取り戻しに行くのか?」
「ああ、まあそのうちな」
「俺もついて行ってもいいぞ。最近の若い奴らの素行には辟易していたところだ。大勢で囲んで袋叩きにして装備品や金品を奪い取るなんぞ盗賊のやることだ。確かに冒険者っての荒くれものの集まる底辺の職業だがな、超えちゃいけねえ一線ってのがあるはずだろうが。あいつらはそれを軽く超えやがる。あんなのを俺は冒険者とは認めねえよ」
「まあそういきり立つなって」
よほど腹に据えかねていたのか、ガンテツはいつにもまして怖い顔になっている。
まあ言いたいことはわかるんだが、俺は前からそんなに冒険者って職業に良い印象はない。
20年以上もダンジョンに潜っているが、若い連中が殊更酷いということはないと思う。
最初からだ。
もしかしたらガンテツが冒険者になったような大昔には違ったのかもしれないが、少なくとも俺が冒険者になった時代には冒険者はすでにこうだった。
ガンテツの見てきた冒険者と、俺の見てきた冒険者は違うのかもしれない。
ガンテツは有名な冒険者クランで優秀な仲間に囲まれて成長し、引退までずっと過ごしたのだろう。
だが俺はどこのクランにも入れず、パーティすら組めず、ずっとソロでやってきたのだ。
たまには野良パーティを組むことだってあったが、どいつもこいつもろくなものじゃなかった。
結局類は友を呼ぶってやつなんだろうな。
冒険者という底辺の職業の中でも上と下がある。
ガンテツは上澄みの綺麗な水で生きてきたから、少し舞い上がった水底のゴミが気になって仕方がないのだ。
対して俺はもう諦めているし、そもそも冒険者は辞めるつもりなのだ。
これ以上ゴミの話題で不快な気分になりたくなかった。
「もう冒険者同士の喧嘩は素手ごろタイマンなんて時代じゃねえんだよ」
俺はそう言ってこの話題を終わりにした。
ガンテツはまだ納得いってないようだったが、当人である俺が何も言わないので諦めたようだ。
気分を変えてさてお楽しみ、お宝の鑑定である。
30階層を3日探索して17個の宝箱を開けた。
金塊や宝石なんかはもちろんのこと、アーティファクトと思われる武具や効き目が凄そうな魔法薬なんかも多数発見している。
これはもう確実にハッピーリタイヤすることができるだろうという量のお宝だ。
神器には劣るかもしれないが、どれもかなりの高値が付くアイテムだと自負している。
「どうだ」
「うーむ、こりゃすげぇ」
ずらりとアイテムを並べ、ガンテツが鑑定してリストを作成していく。
過去にオークションに出品されたことがあるアイテムにはその際の落札価格を参考に、その他は完全にガンテツの勘で価格を付けていく。
ガンテツはオークションへの参加資格を持つ鑑定士だ。
馬鹿高い参加料を支払っても利益が出るくらいに多くの品物を冒険者から買い取り、出品して利益を出す商人でもある。
長年冒険者クランで多くのアイテムを見てきたガンテツの勘は正確で付けた値段も信用できるので、俺は下手な商人に売るよりもこの店でアイテムを売るようにしているのだ。
金庫からいくつもの金貨袋を取り出してどんどん積まれていく金色の山に、俺は今更だが恐ろしくなった。
「あ、あのさ、ちょっと金預かっといてもらえないか?」
「まあそう言うと思ったぜ。明日商業ギルドに口座を作ってこい。そしたら入金しといてやる」
「へぇ、そんなことできるんだな」
大金持ったことのない奴にはわからない世界だな。
ともあれ俺はそこに踏み入れたのだ。
おいでませ金持ちの世界。
同じスキルでも強さには差があることがある。
生まれ持った才能もあるし、使っていけば成長することもある。
その点ガンテツの鑑定スキルはこの国でも一二を争う強力なスキルだ。
最初から優秀だったスキルをかれこれ60年以上も鍛え続けているのだから当然だろう。
ガンテツの鑑定スキルは最高ランクのアイテムである神器ですら鑑定することができると聞いたことがある。
国内はおろか国外からも鑑定依頼が来ることもあるそんなスキルでも、名前しか鑑定することができない触手はいったい何者なのだろうか。
いや何物か。
「寄生してるからってわけじゃないのか?」
「違う。寄生型の神器ってのは大体本人を鑑定すれば神器の能力まで出るものだ。俺は今お前さん自身を鑑定してみたのだが、前は鑑定できたスキルが鑑定できなくなっている。名前と、神器に寄生されていること、そして神器の名前、それしかわからんのだ」
「あんたに鑑定できないってことは大抵の奴には鑑定できないってことか」
「それこそ、それに特化した神器の持ち主でもなけりゃあ無理だろうな」
鑑定に特化した神器か、聞いたことがないな。
メガネの形でもしているのだろうか。
しかし具体的な能力が鑑定スキルでも鑑定できないというのはある意味助かった。
他人の神器やスキルを本人の了承を得ずに鑑定するのはとても失礼なことにあたるが、勝手に鑑定したことを証明することは誰にもできはしない。
武術の達人なんかだとなんとなくで気が付いたりするみたいだが、俺はそんなものではないので勝手に鑑定されても全く気が付かないだろう。
いつの間にか貴族や教会関係者に鑑定されて付け狙われるような事態にもなりかねないので、鑑定ができないというのは非常にありがたい。
「それで、名前はなんていうんだ」
「【神の触腕】というらしい。神の名を冠する神器は優れたものが多いと聞くが、そのとおりなのだろうな」
「へぇ、神の触腕か……」
神ってのはこんな気持ち悪い触手の腕が生えてるもんなのかね。
あの淡々とした声のクールな姉ちゃんの腕がこれだったらちょっとトラウマになるかもな。
あの神さんには生えてないことを祈ろう。
どう考えてもこんな腕が生えてる神は邪神だものな。
「で、どうする。気持ち悪かろうが神器は神器だ。力を得て、若い連中から装備を取り戻しに行くのか?」
「ああ、まあそのうちな」
「俺もついて行ってもいいぞ。最近の若い奴らの素行には辟易していたところだ。大勢で囲んで袋叩きにして装備品や金品を奪い取るなんぞ盗賊のやることだ。確かに冒険者っての荒くれものの集まる底辺の職業だがな、超えちゃいけねえ一線ってのがあるはずだろうが。あいつらはそれを軽く超えやがる。あんなのを俺は冒険者とは認めねえよ」
「まあそういきり立つなって」
よほど腹に据えかねていたのか、ガンテツはいつにもまして怖い顔になっている。
まあ言いたいことはわかるんだが、俺は前からそんなに冒険者って職業に良い印象はない。
20年以上もダンジョンに潜っているが、若い連中が殊更酷いということはないと思う。
最初からだ。
もしかしたらガンテツが冒険者になったような大昔には違ったのかもしれないが、少なくとも俺が冒険者になった時代には冒険者はすでにこうだった。
ガンテツの見てきた冒険者と、俺の見てきた冒険者は違うのかもしれない。
ガンテツは有名な冒険者クランで優秀な仲間に囲まれて成長し、引退までずっと過ごしたのだろう。
だが俺はどこのクランにも入れず、パーティすら組めず、ずっとソロでやってきたのだ。
たまには野良パーティを組むことだってあったが、どいつもこいつもろくなものじゃなかった。
結局類は友を呼ぶってやつなんだろうな。
冒険者という底辺の職業の中でも上と下がある。
ガンテツは上澄みの綺麗な水で生きてきたから、少し舞い上がった水底のゴミが気になって仕方がないのだ。
対して俺はもう諦めているし、そもそも冒険者は辞めるつもりなのだ。
これ以上ゴミの話題で不快な気分になりたくなかった。
「もう冒険者同士の喧嘩は素手ごろタイマンなんて時代じゃねえんだよ」
俺はそう言ってこの話題を終わりにした。
ガンテツはまだ納得いってないようだったが、当人である俺が何も言わないので諦めたようだ。
気分を変えてさてお楽しみ、お宝の鑑定である。
30階層を3日探索して17個の宝箱を開けた。
金塊や宝石なんかはもちろんのこと、アーティファクトと思われる武具や効き目が凄そうな魔法薬なんかも多数発見している。
これはもう確実にハッピーリタイヤすることができるだろうという量のお宝だ。
神器には劣るかもしれないが、どれもかなりの高値が付くアイテムだと自負している。
「どうだ」
「うーむ、こりゃすげぇ」
ずらりとアイテムを並べ、ガンテツが鑑定してリストを作成していく。
過去にオークションに出品されたことがあるアイテムにはその際の落札価格を参考に、その他は完全にガンテツの勘で価格を付けていく。
ガンテツはオークションへの参加資格を持つ鑑定士だ。
馬鹿高い参加料を支払っても利益が出るくらいに多くの品物を冒険者から買い取り、出品して利益を出す商人でもある。
長年冒険者クランで多くのアイテムを見てきたガンテツの勘は正確で付けた値段も信用できるので、俺は下手な商人に売るよりもこの店でアイテムを売るようにしているのだ。
金庫からいくつもの金貨袋を取り出してどんどん積まれていく金色の山に、俺は今更だが恐ろしくなった。
「あ、あのさ、ちょっと金預かっといてもらえないか?」
「まあそう言うと思ったぜ。明日商業ギルドに口座を作ってこい。そしたら入金しといてやる」
「へぇ、そんなことできるんだな」
大金持ったことのない奴にはわからない世界だな。
ともあれ俺はそこに踏み入れたのだ。
おいでませ金持ちの世界。
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