7 / 12
7.ドワーフのガンテツ
しおりを挟む
「ようガンテツ、元気か?」
昔馴染みの武器屋の店主に声をかけて見れば、ギロリと鋭い目で睨まれた。
しかしこれはこいつのナチュラルな顔で、別に怒っているわけでもなんでもないということは長い付き合いなのでわかっている。
ドワーフってのは大体こういう表情が分かりづらい奴が多いのだ。
髭で半分顔隠れてるしな。
「カイル、おめぇ生きていやがったか。くそったれ、心配かけさせやがって」
「悪いな。ちょっと長いことダンジョンに潜ってたもんでよ」
「大分無理したみてぇだな……」
血まみれの服とボロボロの装備を見てガンテツはしかめっ面を更にしかめる。
俺は気にせず戦利品袋をカウンターの上に置いた。
あまりの重さに木製のカウンターが抗議するようにギシギシ鳴いた。
「どこまで潜った。この量、いつもの12階層じゃあるまい」
「30だ」
「さっ、30だと!!馬鹿野郎!!命は一つしかねえんだぞ!!」
「わかってる。だが、俺だって色々あったんだよ」
「それはお前さんの装備を若い連中が持って歩いていたことと関係あるのか?」
「ちっ、あいつらか。まあ、ねえとは言い切れねえ」
俺は30階層に落ちることになったいきさつについて話した。
落し穴に落ちたのは俺の不注意だが、いつも通り12階層に直接転移していたら起こることのなかった事故だ。
間接的にはあいつらのせいとも言えるだろう。
「いや、おめえそりゃ自業自得だろ。ダンジョンの中のことと外のことは分けて考えなきゃいけねえ」
「やっぱそうかね」
「当たり前だ。何があってもダンジョンに潜ればてめえの責任だ。それが冒険者って商売だろうが」
「まあそうかもな」
俺は冒険者って仕事をそんなに高尚なもんだとは思ってないけどな。
ダンジョンの中で起きたことは自己責任、言い換えればダンジョンの中では死んでも文句は言えないわけだ。
俺が若い奴らにされたように、大勢で囲んで暴力で奪っても誰も目撃者がいなけりゃ問題にもならない。
そうやって他人から奪うことを生業としている輩も冒険者の中には一定数潜んでいると言われている。
隠れ盗賊というやつだな。
隠れてやるのも堂々やるのもド腐れ外道であることに変わりはない。
俺は半分以上の冒険者がこういう輩だと思っている。
どいつもこいつも他人を威嚇するような強面のチンピラ崩ればかりだ。
そんなにかっこいいものなんかじゃない。
「それで、30階層で何があった。30階層っつったら俺だって現役時代に行ったことのねえ階層だぞ。どう考えてもお前さんが探索して五体満足で帰ってこられるとは思えねえ」
ガンテツは元冒険者だ。
現役時代はなんとかっていう有名なクランの幹部にまでなったここいらでは少しは名のある冒険者だったらしい。
俺が20歳になる頃にはもう引退していたので現役時代のことはあまり知らないが、駆け出しの頃の遠い記憶の中ではチヤホヤされていたような気がする。
ランクは確かBで、今の俺の一つ上だ。
一つといっても馬鹿にしてはいけない。
BとCでは天と地ほども差があり、一流と二流の分水嶺と言われている。
更にはガンテツは戦闘を専門とするタイプではない。
鑑定というレアスキルの保持者で、クランの中でもアイテムの鑑定などを担当していたために冒険者ランクは幹部にしては低めなのだ。
まごうことなき一流冒険者であり、現役時代は20階層よりも下の階層を探索するような実力の持ち主だった。
そのガンテツでさえ30階層には行ったことがないらしい。
やはりあの階層はやばい階層だったのだと改めて思う。
俺は淡々と、30階層であったことを話し始めた。
「30階層に落とされた先で、金箱を開けた」
「金箱だと?何が出た」
「これだ」
俺は袖をまくり、タトゥだらけになった腕を見せた。
グニャグニャとした太い蔓のようなものが腕に巻きついているように見える刺青だ。
かっこいいような気もするし、気持ち悪いような気もする。
そんな微妙なデザインの刺青を見てガンテツは額に皺を寄せるも、それがどうしたという顔をする。
俺は少し驚かせてやろうと思い、右腕から無数の触手を生やしてウネウネと動かしてやった。
「うぁぁぁぁぁっ!なんだそりゃあっ!!!」
「わからねえから鑑定してもらいに来たんだろうが。たぶん神器だと思うけどな」
「じ、神器だと?」
「ああ。こいつの能力はとんでもねえ。まず神器に間違いない」
俺は触手の能力を一つを除いて全て話した。
さすがにスキルを奪うことができることだけは話せなかった。
もしかしたら鑑定されたらばれてしまうかもしれないが、自分からはどうしても言い出せない。
なにせ触手の力を使えば、もしかしたら人間からもスキルを奪うことができるかもしれない。
確率的には低いが、ケルベロスという1発でスキルを奪えた例がある。
欲しいスキルを狙って奪うことは無理でも、無差別にやればいつかは奪えるだろう。
まあ人間をドロドロに溶かしてチューチュー吸うとか絶対に嫌なのでやらないが、可能か不可能かであれば可能である。
こんなことがどこぞの権力者にでもバレれば大変なことになる。
スキルというのは教会の教えでは神が人間に与えし慈悲であり、奇跡の力だ。
それを奪うということは神の敵だという理論になる可能性もある。
魔物にもスキルがあるじゃねえかと俺なんかは思ってしまうのだが、教会の狂信者共は不都合な事実は聞き流す便利な耳をしている。
あいつらにだけは絶対にバレるわけにはいかねえ。
ガンテツは俺がこの街で唯一信用していると言ってもいい人物だが、だからこそ教えないほうがいい。
俺のスキルを知ってなお馬鹿にしないこの善良なドワーフを、余計なことに巻き込むのは心苦しかった。
昔馴染みの武器屋の店主に声をかけて見れば、ギロリと鋭い目で睨まれた。
しかしこれはこいつのナチュラルな顔で、別に怒っているわけでもなんでもないということは長い付き合いなのでわかっている。
ドワーフってのは大体こういう表情が分かりづらい奴が多いのだ。
髭で半分顔隠れてるしな。
「カイル、おめぇ生きていやがったか。くそったれ、心配かけさせやがって」
「悪いな。ちょっと長いことダンジョンに潜ってたもんでよ」
「大分無理したみてぇだな……」
血まみれの服とボロボロの装備を見てガンテツはしかめっ面を更にしかめる。
俺は気にせず戦利品袋をカウンターの上に置いた。
あまりの重さに木製のカウンターが抗議するようにギシギシ鳴いた。
「どこまで潜った。この量、いつもの12階層じゃあるまい」
「30だ」
「さっ、30だと!!馬鹿野郎!!命は一つしかねえんだぞ!!」
「わかってる。だが、俺だって色々あったんだよ」
「それはお前さんの装備を若い連中が持って歩いていたことと関係あるのか?」
「ちっ、あいつらか。まあ、ねえとは言い切れねえ」
俺は30階層に落ちることになったいきさつについて話した。
落し穴に落ちたのは俺の不注意だが、いつも通り12階層に直接転移していたら起こることのなかった事故だ。
間接的にはあいつらのせいとも言えるだろう。
「いや、おめえそりゃ自業自得だろ。ダンジョンの中のことと外のことは分けて考えなきゃいけねえ」
「やっぱそうかね」
「当たり前だ。何があってもダンジョンに潜ればてめえの責任だ。それが冒険者って商売だろうが」
「まあそうかもな」
俺は冒険者って仕事をそんなに高尚なもんだとは思ってないけどな。
ダンジョンの中で起きたことは自己責任、言い換えればダンジョンの中では死んでも文句は言えないわけだ。
俺が若い奴らにされたように、大勢で囲んで暴力で奪っても誰も目撃者がいなけりゃ問題にもならない。
そうやって他人から奪うことを生業としている輩も冒険者の中には一定数潜んでいると言われている。
隠れ盗賊というやつだな。
隠れてやるのも堂々やるのもド腐れ外道であることに変わりはない。
俺は半分以上の冒険者がこういう輩だと思っている。
どいつもこいつも他人を威嚇するような強面のチンピラ崩ればかりだ。
そんなにかっこいいものなんかじゃない。
「それで、30階層で何があった。30階層っつったら俺だって現役時代に行ったことのねえ階層だぞ。どう考えてもお前さんが探索して五体満足で帰ってこられるとは思えねえ」
ガンテツは元冒険者だ。
現役時代はなんとかっていう有名なクランの幹部にまでなったここいらでは少しは名のある冒険者だったらしい。
俺が20歳になる頃にはもう引退していたので現役時代のことはあまり知らないが、駆け出しの頃の遠い記憶の中ではチヤホヤされていたような気がする。
ランクは確かBで、今の俺の一つ上だ。
一つといっても馬鹿にしてはいけない。
BとCでは天と地ほども差があり、一流と二流の分水嶺と言われている。
更にはガンテツは戦闘を専門とするタイプではない。
鑑定というレアスキルの保持者で、クランの中でもアイテムの鑑定などを担当していたために冒険者ランクは幹部にしては低めなのだ。
まごうことなき一流冒険者であり、現役時代は20階層よりも下の階層を探索するような実力の持ち主だった。
そのガンテツでさえ30階層には行ったことがないらしい。
やはりあの階層はやばい階層だったのだと改めて思う。
俺は淡々と、30階層であったことを話し始めた。
「30階層に落とされた先で、金箱を開けた」
「金箱だと?何が出た」
「これだ」
俺は袖をまくり、タトゥだらけになった腕を見せた。
グニャグニャとした太い蔓のようなものが腕に巻きついているように見える刺青だ。
かっこいいような気もするし、気持ち悪いような気もする。
そんな微妙なデザインの刺青を見てガンテツは額に皺を寄せるも、それがどうしたという顔をする。
俺は少し驚かせてやろうと思い、右腕から無数の触手を生やしてウネウネと動かしてやった。
「うぁぁぁぁぁっ!なんだそりゃあっ!!!」
「わからねえから鑑定してもらいに来たんだろうが。たぶん神器だと思うけどな」
「じ、神器だと?」
「ああ。こいつの能力はとんでもねえ。まず神器に間違いない」
俺は触手の能力を一つを除いて全て話した。
さすがにスキルを奪うことができることだけは話せなかった。
もしかしたら鑑定されたらばれてしまうかもしれないが、自分からはどうしても言い出せない。
なにせ触手の力を使えば、もしかしたら人間からもスキルを奪うことができるかもしれない。
確率的には低いが、ケルベロスという1発でスキルを奪えた例がある。
欲しいスキルを狙って奪うことは無理でも、無差別にやればいつかは奪えるだろう。
まあ人間をドロドロに溶かしてチューチュー吸うとか絶対に嫌なのでやらないが、可能か不可能かであれば可能である。
こんなことがどこぞの権力者にでもバレれば大変なことになる。
スキルというのは教会の教えでは神が人間に与えし慈悲であり、奇跡の力だ。
それを奪うということは神の敵だという理論になる可能性もある。
魔物にもスキルがあるじゃねえかと俺なんかは思ってしまうのだが、教会の狂信者共は不都合な事実は聞き流す便利な耳をしている。
あいつらにだけは絶対にバレるわけにはいかねえ。
ガンテツは俺がこの街で唯一信用していると言ってもいい人物だが、だからこそ教えないほうがいい。
俺のスキルを知ってなお馬鹿にしないこの善良なドワーフを、余計なことに巻き込むのは心苦しかった。
10
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
寝て起きたら世界がおかしくなっていた
兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話
白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。
世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。
その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。
裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。
だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。
そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!!
感想大歓迎です!
※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
スライムを出すだけのゴミスキルだと思ったけど妖精や精霊はこのドロドロが好きみたいです
兎屋亀吉
ファンタジー
新卒サラリーマンの滝川利一は、同じ電車に乗り合わせた十数人の乗客と一緒に突如として異世界へと転移してしまう。転移した先は深い森の中で、一同は茫然と立ち尽くす。森での生活は過酷だったが、スキルというものを全員が得ていたおかげでなんとか回りだす。有用なスキルを得て集団での地位を確立していく一部の人間とは裏腹に、『スライム』というドロドロとしたあの謎素材を生み出すだけスキルを得た滝川の地位は低下していく。そしてついにある日の夕方、薪集めから戻った滝川の前にはもぬけの殻となった野営地が広がっていた。森の中にポツンと置き去りにされてしまった滝川のサバイバルが始まる。
スライムに転生した俺はユニークスキル【強奪】で全てを奪う
シャルねる
ファンタジー
主人公は気がつくと、目も鼻も口も、体までもが無くなっていた。
当然そのことに気がついた主人公に言葉には言い表せない恐怖と絶望が襲うが、涙すら出ることは無かった。
そうして恐怖と絶望に頭がおかしくなりそうだったが、主人公は感覚的に自分の体に何かが当たったことに気がついた。
その瞬間、謎の声が頭の中に鳴り響いた。
ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~
三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】
人間を洗脳し、意のままに操るスキル。
非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。
「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」
禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。
商人を操って富を得たり、
領主を操って権力を手にしたり、
貴族の女を操って、次々子を産ませたり。
リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』
王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。
邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる