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7.ドワーフのガンテツ
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「ようガンテツ、元気か?」
昔馴染みの武器屋の店主に声をかけて見れば、ギロリと鋭い目で睨まれた。
しかしこれはこいつのナチュラルな顔で、別に怒っているわけでもなんでもないということは長い付き合いなのでわかっている。
ドワーフってのは大体こういう表情が分かりづらい奴が多いのだ。
髭で半分顔隠れてるしな。
「カイル、おめぇ生きていやがったか。くそったれ、心配かけさせやがって」
「悪いな。ちょっと長いことダンジョンに潜ってたもんでよ」
「大分無理したみてぇだな……」
血まみれの服とボロボロの装備を見てガンテツはしかめっ面を更にしかめる。
俺は気にせず戦利品袋をカウンターの上に置いた。
あまりの重さに木製のカウンターが抗議するようにギシギシ鳴いた。
「どこまで潜った。この量、いつもの12階層じゃあるまい」
「30だ」
「さっ、30だと!!馬鹿野郎!!命は一つしかねえんだぞ!!」
「わかってる。だが、俺だって色々あったんだよ」
「それはお前さんの装備を若い連中が持って歩いていたことと関係あるのか?」
「ちっ、あいつらか。まあ、ねえとは言い切れねえ」
俺は30階層に落ちることになったいきさつについて話した。
落し穴に落ちたのは俺の不注意だが、いつも通り12階層に直接転移していたら起こることのなかった事故だ。
間接的にはあいつらのせいとも言えるだろう。
「いや、おめえそりゃ自業自得だろ。ダンジョンの中のことと外のことは分けて考えなきゃいけねえ」
「やっぱそうかね」
「当たり前だ。何があってもダンジョンに潜ればてめえの責任だ。それが冒険者って商売だろうが」
「まあそうかもな」
俺は冒険者って仕事をそんなに高尚なもんだとは思ってないけどな。
ダンジョンの中で起きたことは自己責任、言い換えればダンジョンの中では死んでも文句は言えないわけだ。
俺が若い奴らにされたように、大勢で囲んで暴力で奪っても誰も目撃者がいなけりゃ問題にもならない。
そうやって他人から奪うことを生業としている輩も冒険者の中には一定数潜んでいると言われている。
隠れ盗賊というやつだな。
隠れてやるのも堂々やるのもド腐れ外道であることに変わりはない。
俺は半分以上の冒険者がこういう輩だと思っている。
どいつもこいつも他人を威嚇するような強面のチンピラ崩ればかりだ。
そんなにかっこいいものなんかじゃない。
「それで、30階層で何があった。30階層っつったら俺だって現役時代に行ったことのねえ階層だぞ。どう考えてもお前さんが探索して五体満足で帰ってこられるとは思えねえ」
ガンテツは元冒険者だ。
現役時代はなんとかっていう有名なクランの幹部にまでなったここいらでは少しは名のある冒険者だったらしい。
俺が20歳になる頃にはもう引退していたので現役時代のことはあまり知らないが、駆け出しの頃の遠い記憶の中ではチヤホヤされていたような気がする。
ランクは確かBで、今の俺の一つ上だ。
一つといっても馬鹿にしてはいけない。
BとCでは天と地ほども差があり、一流と二流の分水嶺と言われている。
更にはガンテツは戦闘を専門とするタイプではない。
鑑定というレアスキルの保持者で、クランの中でもアイテムの鑑定などを担当していたために冒険者ランクは幹部にしては低めなのだ。
まごうことなき一流冒険者であり、現役時代は20階層よりも下の階層を探索するような実力の持ち主だった。
そのガンテツでさえ30階層には行ったことがないらしい。
やはりあの階層はやばい階層だったのだと改めて思う。
俺は淡々と、30階層であったことを話し始めた。
「30階層に落とされた先で、金箱を開けた」
「金箱だと?何が出た」
「これだ」
俺は袖をまくり、タトゥだらけになった腕を見せた。
グニャグニャとした太い蔓のようなものが腕に巻きついているように見える刺青だ。
かっこいいような気もするし、気持ち悪いような気もする。
そんな微妙なデザインの刺青を見てガンテツは額に皺を寄せるも、それがどうしたという顔をする。
俺は少し驚かせてやろうと思い、右腕から無数の触手を生やしてウネウネと動かしてやった。
「うぁぁぁぁぁっ!なんだそりゃあっ!!!」
「わからねえから鑑定してもらいに来たんだろうが。たぶん神器だと思うけどな」
「じ、神器だと?」
「ああ。こいつの能力はとんでもねえ。まず神器に間違いない」
俺は触手の能力を一つを除いて全て話した。
さすがにスキルを奪うことができることだけは話せなかった。
もしかしたら鑑定されたらばれてしまうかもしれないが、自分からはどうしても言い出せない。
なにせ触手の力を使えば、もしかしたら人間からもスキルを奪うことができるかもしれない。
確率的には低いが、ケルベロスという1発でスキルを奪えた例がある。
欲しいスキルを狙って奪うことは無理でも、無差別にやればいつかは奪えるだろう。
まあ人間をドロドロに溶かしてチューチュー吸うとか絶対に嫌なのでやらないが、可能か不可能かであれば可能である。
こんなことがどこぞの権力者にでもバレれば大変なことになる。
スキルというのは教会の教えでは神が人間に与えし慈悲であり、奇跡の力だ。
それを奪うということは神の敵だという理論になる可能性もある。
魔物にもスキルがあるじゃねえかと俺なんかは思ってしまうのだが、教会の狂信者共は不都合な事実は聞き流す便利な耳をしている。
あいつらにだけは絶対にバレるわけにはいかねえ。
ガンテツは俺がこの街で唯一信用していると言ってもいい人物だが、だからこそ教えないほうがいい。
俺のスキルを知ってなお馬鹿にしないこの善良なドワーフを、余計なことに巻き込むのは心苦しかった。
昔馴染みの武器屋の店主に声をかけて見れば、ギロリと鋭い目で睨まれた。
しかしこれはこいつのナチュラルな顔で、別に怒っているわけでもなんでもないということは長い付き合いなのでわかっている。
ドワーフってのは大体こういう表情が分かりづらい奴が多いのだ。
髭で半分顔隠れてるしな。
「カイル、おめぇ生きていやがったか。くそったれ、心配かけさせやがって」
「悪いな。ちょっと長いことダンジョンに潜ってたもんでよ」
「大分無理したみてぇだな……」
血まみれの服とボロボロの装備を見てガンテツはしかめっ面を更にしかめる。
俺は気にせず戦利品袋をカウンターの上に置いた。
あまりの重さに木製のカウンターが抗議するようにギシギシ鳴いた。
「どこまで潜った。この量、いつもの12階層じゃあるまい」
「30だ」
「さっ、30だと!!馬鹿野郎!!命は一つしかねえんだぞ!!」
「わかってる。だが、俺だって色々あったんだよ」
「それはお前さんの装備を若い連中が持って歩いていたことと関係あるのか?」
「ちっ、あいつらか。まあ、ねえとは言い切れねえ」
俺は30階層に落ちることになったいきさつについて話した。
落し穴に落ちたのは俺の不注意だが、いつも通り12階層に直接転移していたら起こることのなかった事故だ。
間接的にはあいつらのせいとも言えるだろう。
「いや、おめえそりゃ自業自得だろ。ダンジョンの中のことと外のことは分けて考えなきゃいけねえ」
「やっぱそうかね」
「当たり前だ。何があってもダンジョンに潜ればてめえの責任だ。それが冒険者って商売だろうが」
「まあそうかもな」
俺は冒険者って仕事をそんなに高尚なもんだとは思ってないけどな。
ダンジョンの中で起きたことは自己責任、言い換えればダンジョンの中では死んでも文句は言えないわけだ。
俺が若い奴らにされたように、大勢で囲んで暴力で奪っても誰も目撃者がいなけりゃ問題にもならない。
そうやって他人から奪うことを生業としている輩も冒険者の中には一定数潜んでいると言われている。
隠れ盗賊というやつだな。
隠れてやるのも堂々やるのもド腐れ外道であることに変わりはない。
俺は半分以上の冒険者がこういう輩だと思っている。
どいつもこいつも他人を威嚇するような強面のチンピラ崩ればかりだ。
そんなにかっこいいものなんかじゃない。
「それで、30階層で何があった。30階層っつったら俺だって現役時代に行ったことのねえ階層だぞ。どう考えてもお前さんが探索して五体満足で帰ってこられるとは思えねえ」
ガンテツは元冒険者だ。
現役時代はなんとかっていう有名なクランの幹部にまでなったここいらでは少しは名のある冒険者だったらしい。
俺が20歳になる頃にはもう引退していたので現役時代のことはあまり知らないが、駆け出しの頃の遠い記憶の中ではチヤホヤされていたような気がする。
ランクは確かBで、今の俺の一つ上だ。
一つといっても馬鹿にしてはいけない。
BとCでは天と地ほども差があり、一流と二流の分水嶺と言われている。
更にはガンテツは戦闘を専門とするタイプではない。
鑑定というレアスキルの保持者で、クランの中でもアイテムの鑑定などを担当していたために冒険者ランクは幹部にしては低めなのだ。
まごうことなき一流冒険者であり、現役時代は20階層よりも下の階層を探索するような実力の持ち主だった。
そのガンテツでさえ30階層には行ったことがないらしい。
やはりあの階層はやばい階層だったのだと改めて思う。
俺は淡々と、30階層であったことを話し始めた。
「30階層に落とされた先で、金箱を開けた」
「金箱だと?何が出た」
「これだ」
俺は袖をまくり、タトゥだらけになった腕を見せた。
グニャグニャとした太い蔓のようなものが腕に巻きついているように見える刺青だ。
かっこいいような気もするし、気持ち悪いような気もする。
そんな微妙なデザインの刺青を見てガンテツは額に皺を寄せるも、それがどうしたという顔をする。
俺は少し驚かせてやろうと思い、右腕から無数の触手を生やしてウネウネと動かしてやった。
「うぁぁぁぁぁっ!なんだそりゃあっ!!!」
「わからねえから鑑定してもらいに来たんだろうが。たぶん神器だと思うけどな」
「じ、神器だと?」
「ああ。こいつの能力はとんでもねえ。まず神器に間違いない」
俺は触手の能力を一つを除いて全て話した。
さすがにスキルを奪うことができることだけは話せなかった。
もしかしたら鑑定されたらばれてしまうかもしれないが、自分からはどうしても言い出せない。
なにせ触手の力を使えば、もしかしたら人間からもスキルを奪うことができるかもしれない。
確率的には低いが、ケルベロスという1発でスキルを奪えた例がある。
欲しいスキルを狙って奪うことは無理でも、無差別にやればいつかは奪えるだろう。
まあ人間をドロドロに溶かしてチューチュー吸うとか絶対に嫌なのでやらないが、可能か不可能かであれば可能である。
こんなことがどこぞの権力者にでもバレれば大変なことになる。
スキルというのは教会の教えでは神が人間に与えし慈悲であり、奇跡の力だ。
それを奪うということは神の敵だという理論になる可能性もある。
魔物にもスキルがあるじゃねえかと俺なんかは思ってしまうのだが、教会の狂信者共は不都合な事実は聞き流す便利な耳をしている。
あいつらにだけは絶対にバレるわけにはいかねえ。
ガンテツは俺がこの街で唯一信用していると言ってもいい人物だが、だからこそ教えないほうがいい。
俺のスキルを知ってなお馬鹿にしないこの善良なドワーフを、余計なことに巻き込むのは心苦しかった。
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