強奪系触手おじさん

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
6 / 12

6.ダンジョンからの脱出

しおりを挟む
 ジュージューと香ばしく焼けたミノタウロスの肉にかぶりつけば、口の中を激熱の肉汁が暴れ回る。
 熱くて涙が出てくるが以前のようにいつまでも痛む火傷に悩まされることは無い。
 これも全て触手の回復力のおかげだ。
 一瞬の熱さを我慢すれば肉の一番美味い状態を逃がすことなく食することができるのだ。
 ミノ肉最高。
 塩を振って焼いただけなのに今まで食った肉の中で断トツの味だ。
 いかに今までろくな肉を食ってこなかったことの証明ではない。
 ミノタウロスの肉なんか貧乏冒険者のおっさんが食えるかっての。
 Aランク冒険者が5人いてようやく倒せるような魔物の肉は当然地上で食おうと思ったらめちゃくちゃ高い。
 一人で倒せるようになった今ではいくらでも食えるわけだが、なんとなく貧乏性を発揮してしまった俺は大きな肉塊からまた肉を削ぎ落して鉄板に乗せた。
 鉄板といっても元は俺の胴回りを守る防具だったものだが。
 触手に留め金を壊され、背中から杭に貫かれてトドメを刺された安物の防具の成れの果てだ。
 30階層では罠でさえ防ぐ力も無かった防具だが、肉を焼くくらいには役に立つ。
 普通なら迷宮型ダンジョンの中で料理なんかできっこないが、口から火炎ブレスを吐くことができるようになった今となってはちゃんとした調理器具を持って来ていなかったことが悔やまれる。
 俺は肉の乗った鉄板を下からブレスでチョロチョロと炙って肉を焼いた。
 火炎ブレスの加減も大分上手くなってきたな。
 ミノタウロスステーキも6枚目ともなればこんなもんよ。

「しかしまあ、さすがにもう食えねえな」

 俺の傍らにはミノタウロス10体分の死体が横たわっていた。
 俺本来の筋力なら1体ですら引き摺って歩くことはできないだろうが、触手のパワーはこの死体の山を引き摺っても余裕で歩くことができるほどだった。
 パワー系の魔物にはまず負けることはないだろう。
 スピードに関しても、触手だけの速度ならば相当に速い。
 ミノタウロスはどいつもこいつも俺の触手攻撃に目が追いついていなかった。
 真っすぐ伸ばして先っちょの爪で貫くだけならそれこそ閃光のごとき速度だ。
 結果、この触手がどのくらい強いのかということはよくわからなかった。
 少なくともミノタウロスが1匹や2匹襲ってきても問題にならないくらいには強い。
 12階層でオークやコボルトを相手に右往左往していた俺からしてみたら、これはとんでもないことだ。
 今まで俺がスキルのことでどれだけ馬鹿にされてきたことか。

「スキルか……」

 触手を振るうとき、毎回妙な感覚に襲われる。
 まるで生まれたときから触手が生えていたような妙に馴染む感覚だ。
 下手をしたら30年以上も振るってきたナイフや手斧よりもしっくりくるような。
 武術スキルを持った人がそのスキルに合った武器を持った時に、そんな感覚を覚えると聞いたことがある。
 まさかとは思うが、そういうことなのか?
 
「肉棒術、触手……」

 もし触手が肉棒に分類されるならば、それの使い方をスキルが自ずと導き出してもおかしくはない。
 セッ〇スにしか使えないと思っていたスキルがこんなことで日の目を見るとはな。





 30階層で寝起きすること3日。
 ようやく転移門が見えてきた。
 この街のダンジョンは一度到達したことのある階層へは転移門を使って階層間移動をすることができる。
 俺が普段うろついている12階層程度までなら日帰りで十分探索できるのだが、階層を下に降りるほどにフロアの広さはどんどん広くなっていき、30階層は日帰りではちょっと厳しいほどに広い。
 俺が溶かした魔物の死骸から水分や養分を補給できる触手人間じゃなければ喉が渇いて辛い想いをしていたかもしれない。
 だが触手から吸収した水分は俺の身体のどこかに蓄えられており、今も俺の身体を潤してくれている。
 ミノタウロスを33体も吸収したのに見た目は全く変わらないというのはいったいどういうことなんだろな。
 我ながら謎体質になってしまったものだ。
 俺はずっしりと重たい戦利品袋を担ぎなおして地上へと転移した。
 地上のいつも通りの喧騒が、俺にようやく帰ってきたのだと実感させてくれる。
 何度も死にそうな目にあったが、今回の探索で得た物は多い。
 謎の触手を筆頭に、肩に食い込む戦利品袋の中身、それから【火炎ブレス】と【怪力】のスキル。
 触手は言わずもがな、背負った戦利品袋の中には全部売ったら家が何軒も建つくらいの多くのお宝が入っている。
 スキルに関しても金に換えられない価値があることは間違いない。
 スキルの取得条件もここまでの道すがら色々と検証を終えている。
 まず、魔物を溶かして吸収すれば無条件にその魔物が生前持っていたであろうスキルを奪えるというわけではないらしい。
 ミノ肉を食べられるだけ腹に詰め込んだ後、10匹のミノタウロスを溶解液で溶かして吸収してみたのだが、そのときは何もスキルを得ることはできなかった。
 しかし何度も何度もミノタウロスを倒して吸収するのを繰り返していたとき、突然【怪力】というスキルを獲得したのだ。
 そのことからスキルは魔物を溶解液で溶かして吸収したときに一定、もしくは不定の確率で獲得することができるのではないかとあたりをつけた。
 魔物を吸収するたびにスキルの欠片のようなものを一緒に吸収しており、それが貯まったところでスキルを獲得できるという可能性も考えてはみたが、それにしてはケルベロスとミノタウロスで差がありすぎると思い考え直した。
 スキルの習得を確率で考えるなら今のところケルベロスは1分の1だし、ミノタウロスなら33分の1だ。
 全ての魔物が一定の確率である可能性もあるし、全て不定の可能性もある。
 つまりは神のみぞ知るということなのだろう。
 本当に神というやつは、俺に口にするのも恥ずかしいようなスキルを与えたと思えば、見た目がグロテスクな代わりに超万能な神器を巡り合わせたりもする。
 あの淡々とした声とは裏腹に、超気まぐれで享楽的な猫女なのかもしれない。
 そんな女が俺に肉棒術のスキルを与えたと思うと少し興奮してきた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...