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5.ミノタウロス
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「ごふっ」
喉の奥からせり上がってきた液体は真っ赤な色をしていた。
腰の後ろから鳩尾のあたりまでを太くて尖った杭のようなものが貫いていた。
普通ならまず助からない状態なのに、待てど暮らせど意識は無くなってくれない。
とにかくこの苦しみから逃れたくて俺はがむしゃらに触手を伸ばして身体を穴の外へ引き上げた。
太い杭が突き刺さっていた部分からはボタボタと真っ赤な血が流れ、口からも止めどなく血が溢れ出た。
「げほっ、げほっ」
喉に詰まった血の塊を吐き出せば、なんとか息ができるようになった。
それを皮切りに身体がどんどん楽になっていく。
「はぁ、なんで俺生きてるんだろ」
落し穴の底に待ち構えていた杭に貫かれた身体を見ると、もうそこに傷は無かった。
血まみれでボロボロになった装備や服とは裏腹に、俺の身体だけは綺麗さっぱり健康体だったのだ。
もうこの程度のことでは驚かないが、十中八九これも触手の力だろうな。
回復能力か、再生能力ってところか。
これも詳細情報の検証が必要だが、冒険者にとってこれ以上ないアドバンテージとなるだろう。
超うれしい。
だが、もう浮かれ気分でダンジョン探索するのはやめよう。
新たに分かった触手の力のおかげでなんとか生き延びることができたが、浮ついた気持ちでダンジョンを進むのは危険だよな。
12階層をビクビク探索していた頃を思い出さなければならない。
神器などというとんでもない力を突然手に入れて強くなったような気でいたが、ここはAランク冒険者でさえ容易に命を落とすダンジョン30階層なのだ。
どれだけ強くなっても舐めてかかれば痛い目に遭う。
もう遭ったからわかんだ、あれめっちゃ痛い。
あんな目に遭わないためにも、ここは初心に帰って慎重に探索を進めよう。
俺は触手を伸ばし、これから歩く場所に罠がないかを確認しながら歩いていく。
長い棒なんかで地面を叩きながら進むのがソロ冒険者の常識だが、歩きものろくなるしある程度の重さがないと作動しない罠なんかもあるから絶対安全とは言えない方法だ。
その点触手を使って地面を触りながら歩くのは速度も遅くならないし、触手のパワーで抑えられた地面には巨漢が歩いた時と同じくらいの重みがかかることになる。
罠の取り残しがなく、俺は安全に探索ができる。
触手は本当に便利だ。
「このビジュアルさえ受け入れられればな」
ヌラヌラした肉色の触手が地面をまさぐって罠を探している様は、怖気が走らない人のほうが少数派だろう。
この触手はもう俺の身体の一部なのだから少しずつ慣れていかなければ。
本当に見た目が悪いこと以外に欠点の無い能力なんだがな。
壁の登り下りに戦闘、回復、罠探知、栄養補給にスキルの強奪までできる完全無欠の能力だ。
話に聞く高ランクの冒険者が持っているどんなスキルやアイテムよりも万能に思える。
戦闘に関してはそれに特化した神器には多少劣る可能性もあるが、ケルベロスは一撃で床のシミになってしまったのでまだわからない。
まずは戦闘能力の検証をするとしよう。
ちょうど正面から魔物が近づいてきているのが見える。
牛頭の化け物、ミノタウロスだ。
以前の俺だったら逃げることすらできずに殺されていたであろうAランクの魔物だ。
魔物のランクというのは同ランクの冒険者が5人程度のパーティを組んでようやく倒すことができるくらいの強さを表わしている。
つまりミノタウロスは1対1ではAランク冒険者を凌駕する強さを持っているということになる。
ちなみにSランク冒険者はちょっと別格の化け物たちばかりなので強さの比較には使えない。
つまりこうだ、Sランク冒険者>>【超えられない壁】>>ミノタウロス>>Aランク冒険者。
ケルベロスを入れるならミノタウロスと超えられない壁の間だろう。
しかしあれは高所から一方的に溶解液をぶっかけただけなので単純に俺がケルベロスよりも強いということにはならない。
ミノタウロスは今の俺の力を試すにはちょうどいい相手と言えるだろう。
幸いなことに触手には腹を貫かれても死なない回復能力もあったことがさっきわかったばかりだ。
尻込みする理由はない。
『ブモォォッ』
まあ今更ビビッて逃げ出したところで見逃してはくれないだろうが。
ミノタウロスは俺の身体よりもでかいバトルアックスを振りかぶって俺に迫る。
こえぇな。
恐怖でちびりそうになる下半身を引き締め、俺は左腕から触手を生やした。
硬質な鱗に覆われ、先端にはまるで手斧の刃のような爪が付いた触手アックスだ。
右手には今までと同じようにナイフを構える。
新たなスキルを手に入れたからといって、今までのスタイルをいきなり変えるのは難しい。
慣れないことに挑戦するよりもまずは今の自分にどのくらいのことができるのかを探っていくべきだろう。
俺は振り下ろされたバトルアックスを掻い潜り、左手の触手アックスでミノタウロスの脇腹をすっとなぞるような一撃を入れた。
一撃入れたら即離脱、それが俺のスタイルだ。
パワーとタフネスに能力を全振りしたみたいなミノタウロスだって小さな傷を作って血を流させればいつかは倒せるかもしれない。
まあ無理ならまた溶解液を使うか。
俺はミノタウロスが次の一撃に入る前に飛び退いた。
『ブモォ……』
ミノタウロスは次の一撃に入らなかった。
いや、入れなかったのだ。
俺の切り裂いた脇腹から大量の血液と共に臓物が零れ落ち、ミノタウロスは白目を剥いて後ろ向きに倒れ込んでしまった。
まさかの一撃瞬殺であった。
喉の奥からせり上がってきた液体は真っ赤な色をしていた。
腰の後ろから鳩尾のあたりまでを太くて尖った杭のようなものが貫いていた。
普通ならまず助からない状態なのに、待てど暮らせど意識は無くなってくれない。
とにかくこの苦しみから逃れたくて俺はがむしゃらに触手を伸ばして身体を穴の外へ引き上げた。
太い杭が突き刺さっていた部分からはボタボタと真っ赤な血が流れ、口からも止めどなく血が溢れ出た。
「げほっ、げほっ」
喉に詰まった血の塊を吐き出せば、なんとか息ができるようになった。
それを皮切りに身体がどんどん楽になっていく。
「はぁ、なんで俺生きてるんだろ」
落し穴の底に待ち構えていた杭に貫かれた身体を見ると、もうそこに傷は無かった。
血まみれでボロボロになった装備や服とは裏腹に、俺の身体だけは綺麗さっぱり健康体だったのだ。
もうこの程度のことでは驚かないが、十中八九これも触手の力だろうな。
回復能力か、再生能力ってところか。
これも詳細情報の検証が必要だが、冒険者にとってこれ以上ないアドバンテージとなるだろう。
超うれしい。
だが、もう浮かれ気分でダンジョン探索するのはやめよう。
新たに分かった触手の力のおかげでなんとか生き延びることができたが、浮ついた気持ちでダンジョンを進むのは危険だよな。
12階層をビクビク探索していた頃を思い出さなければならない。
神器などというとんでもない力を突然手に入れて強くなったような気でいたが、ここはAランク冒険者でさえ容易に命を落とすダンジョン30階層なのだ。
どれだけ強くなっても舐めてかかれば痛い目に遭う。
もう遭ったからわかんだ、あれめっちゃ痛い。
あんな目に遭わないためにも、ここは初心に帰って慎重に探索を進めよう。
俺は触手を伸ばし、これから歩く場所に罠がないかを確認しながら歩いていく。
長い棒なんかで地面を叩きながら進むのがソロ冒険者の常識だが、歩きものろくなるしある程度の重さがないと作動しない罠なんかもあるから絶対安全とは言えない方法だ。
その点触手を使って地面を触りながら歩くのは速度も遅くならないし、触手のパワーで抑えられた地面には巨漢が歩いた時と同じくらいの重みがかかることになる。
罠の取り残しがなく、俺は安全に探索ができる。
触手は本当に便利だ。
「このビジュアルさえ受け入れられればな」
ヌラヌラした肉色の触手が地面をまさぐって罠を探している様は、怖気が走らない人のほうが少数派だろう。
この触手はもう俺の身体の一部なのだから少しずつ慣れていかなければ。
本当に見た目が悪いこと以外に欠点の無い能力なんだがな。
壁の登り下りに戦闘、回復、罠探知、栄養補給にスキルの強奪までできる完全無欠の能力だ。
話に聞く高ランクの冒険者が持っているどんなスキルやアイテムよりも万能に思える。
戦闘に関してはそれに特化した神器には多少劣る可能性もあるが、ケルベロスは一撃で床のシミになってしまったのでまだわからない。
まずは戦闘能力の検証をするとしよう。
ちょうど正面から魔物が近づいてきているのが見える。
牛頭の化け物、ミノタウロスだ。
以前の俺だったら逃げることすらできずに殺されていたであろうAランクの魔物だ。
魔物のランクというのは同ランクの冒険者が5人程度のパーティを組んでようやく倒すことができるくらいの強さを表わしている。
つまりミノタウロスは1対1ではAランク冒険者を凌駕する強さを持っているということになる。
ちなみにSランク冒険者はちょっと別格の化け物たちばかりなので強さの比較には使えない。
つまりこうだ、Sランク冒険者>>【超えられない壁】>>ミノタウロス>>Aランク冒険者。
ケルベロスを入れるならミノタウロスと超えられない壁の間だろう。
しかしあれは高所から一方的に溶解液をぶっかけただけなので単純に俺がケルベロスよりも強いということにはならない。
ミノタウロスは今の俺の力を試すにはちょうどいい相手と言えるだろう。
幸いなことに触手には腹を貫かれても死なない回復能力もあったことがさっきわかったばかりだ。
尻込みする理由はない。
『ブモォォッ』
まあ今更ビビッて逃げ出したところで見逃してはくれないだろうが。
ミノタウロスは俺の身体よりもでかいバトルアックスを振りかぶって俺に迫る。
こえぇな。
恐怖でちびりそうになる下半身を引き締め、俺は左腕から触手を生やした。
硬質な鱗に覆われ、先端にはまるで手斧の刃のような爪が付いた触手アックスだ。
右手には今までと同じようにナイフを構える。
新たなスキルを手に入れたからといって、今までのスタイルをいきなり変えるのは難しい。
慣れないことに挑戦するよりもまずは今の自分にどのくらいのことができるのかを探っていくべきだろう。
俺は振り下ろされたバトルアックスを掻い潜り、左手の触手アックスでミノタウロスの脇腹をすっとなぞるような一撃を入れた。
一撃入れたら即離脱、それが俺のスタイルだ。
パワーとタフネスに能力を全振りしたみたいなミノタウロスだって小さな傷を作って血を流させればいつかは倒せるかもしれない。
まあ無理ならまた溶解液を使うか。
俺はミノタウロスが次の一撃に入る前に飛び退いた。
『ブモォ……』
ミノタウロスは次の一撃に入らなかった。
いや、入れなかったのだ。
俺の切り裂いた脇腹から大量の血液と共に臓物が零れ落ち、ミノタウロスは白目を剥いて後ろ向きに倒れ込んでしまった。
まさかの一撃瞬殺であった。
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