強奪系触手おじさん

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
5 / 12

5.ミノタウロス

しおりを挟む
「ごふっ」

 喉の奥からせり上がってきた液体は真っ赤な色をしていた。
 腰の後ろから鳩尾のあたりまでを太くて尖った杭のようなものが貫いていた。
 普通ならまず助からない状態なのに、待てど暮らせど意識は無くなってくれない。
 とにかくこの苦しみから逃れたくて俺はがむしゃらに触手を伸ばして身体を穴の外へ引き上げた。
 太い杭が突き刺さっていた部分からはボタボタと真っ赤な血が流れ、口からも止めどなく血が溢れ出た。
 
「げほっ、げほっ」

 喉に詰まった血の塊を吐き出せば、なんとか息ができるようになった。
 それを皮切りに身体がどんどん楽になっていく。
 
「はぁ、なんで俺生きてるんだろ」

 落し穴の底に待ち構えていた杭に貫かれた身体を見ると、もうそこに傷は無かった。
 血まみれでボロボロになった装備や服とは裏腹に、俺の身体だけは綺麗さっぱり健康体だったのだ。
 もうこの程度のことでは驚かないが、十中八九これも触手の力だろうな。
 回復能力か、再生能力ってところか。
 これも詳細情報の検証が必要だが、冒険者にとってこれ以上ないアドバンテージとなるだろう。
 超うれしい。
 だが、もう浮かれ気分でダンジョン探索するのはやめよう。





 新たに分かった触手の力のおかげでなんとか生き延びることができたが、浮ついた気持ちでダンジョンを進むのは危険だよな。
 12階層をビクビク探索していた頃を思い出さなければならない。
 神器などというとんでもない力を突然手に入れて強くなったような気でいたが、ここはAランク冒険者でさえ容易に命を落とすダンジョン30階層なのだ。
 どれだけ強くなっても舐めてかかれば痛い目に遭う。
 もう遭ったからわかんだ、あれめっちゃ痛い。
 あんな目に遭わないためにも、ここは初心に帰って慎重に探索を進めよう。
 俺は触手を伸ばし、これから歩く場所に罠がないかを確認しながら歩いていく。
 長い棒なんかで地面を叩きながら進むのがソロ冒険者の常識だが、歩きものろくなるしある程度の重さがないと作動しない罠なんかもあるから絶対安全とは言えない方法だ。
 その点触手を使って地面を触りながら歩くのは速度も遅くならないし、触手のパワーで抑えられた地面には巨漢が歩いた時と同じくらいの重みがかかることになる。
 罠の取り残しがなく、俺は安全に探索ができる。
 触手は本当に便利だ。

「このビジュアルさえ受け入れられればな」

 ヌラヌラした肉色の触手が地面をまさぐって罠を探している様は、怖気が走らない人のほうが少数派だろう。
 この触手はもう俺の身体の一部なのだから少しずつ慣れていかなければ。
 本当に見た目が悪いこと以外に欠点の無い能力なんだがな。
 壁の登り下りに戦闘、回復、罠探知、栄養補給にスキルの強奪までできる完全無欠の能力だ。
 話に聞く高ランクの冒険者が持っているどんなスキルやアイテムよりも万能に思える。
 戦闘に関してはそれに特化した神器には多少劣る可能性もあるが、ケルベロスは一撃で床のシミになってしまったのでまだわからない。
 まずは戦闘能力の検証をするとしよう。
 ちょうど正面から魔物が近づいてきているのが見える。
 牛頭の化け物、ミノタウロスだ。
 以前の俺だったら逃げることすらできずに殺されていたであろうAランクの魔物だ。
 魔物のランクというのは同ランクの冒険者が5人程度のパーティを組んでようやく倒すことができるくらいの強さを表わしている。
 つまりミノタウロスは1対1ではAランク冒険者を凌駕する強さを持っているということになる。
 ちなみにSランク冒険者はちょっと別格の化け物たちばかりなので強さの比較には使えない。
 つまりこうだ、Sランク冒険者>>【超えられない壁】>>ミノタウロス>>Aランク冒険者。
 ケルベロスを入れるならミノタウロスと超えられない壁の間だろう。
 しかしあれは高所から一方的に溶解液をぶっかけただけなので単純に俺がケルベロスよりも強いということにはならない。
 ミノタウロスは今の俺の力を試すにはちょうどいい相手と言えるだろう。
 幸いなことに触手には腹を貫かれても死なない回復能力もあったことがさっきわかったばかりだ。
 尻込みする理由はない。
 
『ブモォォッ』

 まあ今更ビビッて逃げ出したところで見逃してはくれないだろうが。
 ミノタウロスは俺の身体よりもでかいバトルアックスを振りかぶって俺に迫る。
 こえぇな。
 恐怖でちびりそうになる下半身を引き締め、俺は左腕から触手を生やした。
 硬質な鱗に覆われ、先端にはまるで手斧の刃のような爪が付いた触手アックスだ。
 右手には今までと同じようにナイフを構える。
 新たなスキルを手に入れたからといって、今までのスタイルをいきなり変えるのは難しい。
 慣れないことに挑戦するよりもまずは今の自分にどのくらいのことができるのかを探っていくべきだろう。
 俺は振り下ろされたバトルアックスを掻い潜り、左手の触手アックスでミノタウロスの脇腹をすっとなぞるような一撃を入れた。
 一撃入れたら即離脱、それが俺のスタイルだ。
 パワーとタフネスに能力を全振りしたみたいなミノタウロスだって小さな傷を作って血を流させればいつかは倒せるかもしれない。
 まあ無理ならまた溶解液を使うか。
 俺はミノタウロスが次の一撃に入る前に飛び退いた。

『ブモォ……』

 ミノタウロスは次の一撃に入らなかった。
 いや、入れなかったのだ。
 俺の切り裂いた脇腹から大量の血液と共に臓物が零れ落ち、ミノタウロスは白目を剥いて後ろ向きに倒れ込んでしまった。
 まさかの一撃瞬殺であった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

寝て起きたら世界がおかしくなっていた

兎屋亀吉
ファンタジー
引きこもり気味で不健康な中年システムエンジニアの山田善次郎38歳独身はある日、寝て起きたら半年経っているという意味不明な状況に直面する。乙姫とヤった記憶も無ければ玉手箱も開けてもいないのに。すぐさまネットで情報収集を始める善次郎。するととんでもないことがわかった。なんと世界中にダンジョンが出現し、モンスターが溢れ出したというのだ。そして人類にはスキルという力が備わったと。変わってしまった世界で、強スキルを手に入れたおっさんが生きていく話。※この作品はカクヨムにも投稿しています。

スキル【アイテムコピー】を駆使して金貨のお風呂に入りたい

兎屋亀吉
ファンタジー
異世界転生にあたって、神様から提示されたスキルは4つ。1.【剣術】2.【火魔法】3.【アイテムボックス】4.【アイテムコピー】。これらのスキルの中から、選ぶことのできるスキルは一つだけ。さて、僕は何を選ぶべきか。タイトルで答え出てた。

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

孤児院で育った俺、ある日目覚めたスキル、万物を見通す目と共に最強へと成りあがる

シア07
ファンタジー
主人公、ファクトは親の顔も知らない孤児だった。 そんな彼は孤児院で育って10年が経った頃、突如として能力が目覚める。 なんでも見通せるという万物を見通す目だった。 目で見れば材料や相手の能力がわかるというものだった。 これは、この――能力は一体……なんなんだぁぁぁぁぁぁぁ!? その能力に振り回されながらも孤児院が魔獣の到来によってなくなり、同じ孤児院育ちで幼馴染であるミクと共に旅に出ることにした。 魔法、スキルなんでもあるこの世界で今、孤児院で育った彼が個性豊かな仲間と共に最強へと成りあがる物語が今、幕を開ける。 ※他サイトでも連載しています。  大体21:30分ごろに更新してます。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...