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4.触手の力
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触手を伸ばしながらスルスルと下りていく。
その降下速度はロープを使って下りるよりも確実に速い。
「ちっ、気付かれたか」
音も無く下りているつもりなのだが、ケルベロスは匂いに敏感だ。
おそらく俺がこの天井付近の穴で立ち往生していたことも最初から気が付いていたことだろう。
のっしのっしと重たい足音を響かせながら俺の落下地点に向かってきている。
よく考えたらこの状況はかなり有利な状況かもしれない。
ケルベロスは火を吐くと聞いているが、50メートル離れていても焼かれるということはないはずだ。
あっちには俺に届く攻撃手段は無く、俺は一方的に攻撃することができる。
ちょっと前ならこの状況でも手斧やナイフを投げるくらいしかできなかっただろうが、今ならいかようにでもすることができる。
「とりあえず溶解液撃っとくか」
俺は手のひらから触手を生やし、先っちょをイボイボにして溶解液を大量放出した。
鉄をも溶かす危険な液体が大粒の雨となってケルベロスに降り注ぐ。
効果は劇的だった。
『グガァァァァッ!!!』
溶解液を浴びたケルベロスは転げ回ってのたうち、悲痛な叫び声をあげ続ける。
並大抵の武器ならば弾くといわれている毛皮は溶けて剥がれ落ち、肉が丸見えだ。
その肉もすぐに溶け、強靭な爪や牙、骨に守られた内臓、どんどん溶けていき、最後には肉片も残らずに赤黒い水たまりになってしまった。
「やばすぎるだろこの溶解液。ドラゴンの胃液だってこんなことにはならないぞ」
スライムの変異種に強力な溶解液を持つ種類がいるらしいが、それでもケルベロスをこんなスピードで液状に溶かすことなんかできないだろう。
思った以上の威力についドン引きしてしまったが、この液体で俺自身が溶けることはないとわかっているのだしそう怖がる必要はないか。
俺は触手を伸ばし、赤黒い水たまりが広がる地面へと降り立った。
ケルベロスだった液体からは湯気が立ち、酷い匂いがしているが、不思議と俺はその匂いを不快には思わなかった。
そして腹がぐぅと鳴る。
触手に侵された俺の身体はいったいどうなってしまっているのか。
俺は吸い寄せられるようにその赤黒い液体に触手を浸した。
まるで乾いた地面に水が吸い込まれるように、触手が液体を吸い込み始める。
理性では受け入れがたい現象だが、どうやら俺は新たな食事の手段を獲得したらしい。
何一つ口にしていないのに腹が満たされていく。
より効率的に吸収できるように手から生やした触手を増やし、細長く植物のヒゲ根のように枝分かれさせていく。
ジュルジュルと凄い勢いで液体は吸われて生き、あっという間に床が綺麗になった。
『スキル【火炎ブレス】を獲得しました』
「え」
今脳内で、神の声が聞こえたような気がした。
あの淡々とした女の声は間違いなく12歳の時に聞いた神の声だった。
火炎ブレスを獲得したと言っていたが、まさかこれはケルベロスが持っていたスキルか?
ということはそれを俺が奪った?
他人のスキルを盗むスキルというのは都市伝説で聞いたことがあるが、まさか俺が手に入れたこの触手はそのスキルと同じような力を持っているというのか?
俺は試しに口から火炎ブレスを吐いてみた。
軽く吐いてみただけなのに口から2メートルほどの火柱が噴き出した。
口は別に熱くない。
溶解液と同じように、自分の身体には害が及ばないようだ。
「完全にスキルだな。これはアーティファクトどころじゃねえ。確実に神器だ」
スキルを後天的に手に入れることができるアイテムなんて神器以外にあり得ない。
ダンジョンドロップの中でも最上級のランク、人智が及ばない力を持つものは神器と呼ばれる。
何がどうなっているのか理解すらできない力を持つアイテム、まさにこの触手はそれだろう。
溶解液で溶かした生き物を吸収したら無条件でスキルを獲得できるのか、それとも他に条件があるのかはわからないが、今俺は確実に2個目のスキルを手に入れた。
なんとも皮肉な話だ。
ずっとスキルのことで笑われて馬鹿にされてきた俺が、40になって新たなスキルを手に入れることになるとは。
こんなアイテムやスキルがもっと若い時にあったらと、そう思わずにはいられない。
「はぁ、やめだ。俺なんかがケルベロスを一人で倒せたんだから、もっと喜ぼう」
俺は一人喜びの舞を踊った。
わっしょいわっしょい、ケルベロスがなんぼのもんじゃい。
触手おじさんは最強だぜ。
「このまま30階層の宝箱開けまくって冒険者なんて辞めてやらぁ」
テンションの上がった俺はボス部屋を飛び出し、30階層を徘徊し始めた。
30階層なんてAランクの冒険者が10人前後のパーティを組んで潜るような階層だ。
ここの宝箱を1個でも開ければ12階層でチマチマ稼いでいた俺の年収くらい軽く超えてくるはずだ。
一気に金を貯めてハッピーリタイヤすることも可能になるだろう。
否が応にもテンションが上がる。
俺はスキップしそうな歩調で通路を進み、そして落し穴に転落した。
一瞬の浮遊感と、グサリと体に何かが突き刺さるような感触。
遅れてくる激痛。
あ、死んだなこれ。
その降下速度はロープを使って下りるよりも確実に速い。
「ちっ、気付かれたか」
音も無く下りているつもりなのだが、ケルベロスは匂いに敏感だ。
おそらく俺がこの天井付近の穴で立ち往生していたことも最初から気が付いていたことだろう。
のっしのっしと重たい足音を響かせながら俺の落下地点に向かってきている。
よく考えたらこの状況はかなり有利な状況かもしれない。
ケルベロスは火を吐くと聞いているが、50メートル離れていても焼かれるということはないはずだ。
あっちには俺に届く攻撃手段は無く、俺は一方的に攻撃することができる。
ちょっと前ならこの状況でも手斧やナイフを投げるくらいしかできなかっただろうが、今ならいかようにでもすることができる。
「とりあえず溶解液撃っとくか」
俺は手のひらから触手を生やし、先っちょをイボイボにして溶解液を大量放出した。
鉄をも溶かす危険な液体が大粒の雨となってケルベロスに降り注ぐ。
効果は劇的だった。
『グガァァァァッ!!!』
溶解液を浴びたケルベロスは転げ回ってのたうち、悲痛な叫び声をあげ続ける。
並大抵の武器ならば弾くといわれている毛皮は溶けて剥がれ落ち、肉が丸見えだ。
その肉もすぐに溶け、強靭な爪や牙、骨に守られた内臓、どんどん溶けていき、最後には肉片も残らずに赤黒い水たまりになってしまった。
「やばすぎるだろこの溶解液。ドラゴンの胃液だってこんなことにはならないぞ」
スライムの変異種に強力な溶解液を持つ種類がいるらしいが、それでもケルベロスをこんなスピードで液状に溶かすことなんかできないだろう。
思った以上の威力についドン引きしてしまったが、この液体で俺自身が溶けることはないとわかっているのだしそう怖がる必要はないか。
俺は触手を伸ばし、赤黒い水たまりが広がる地面へと降り立った。
ケルベロスだった液体からは湯気が立ち、酷い匂いがしているが、不思議と俺はその匂いを不快には思わなかった。
そして腹がぐぅと鳴る。
触手に侵された俺の身体はいったいどうなってしまっているのか。
俺は吸い寄せられるようにその赤黒い液体に触手を浸した。
まるで乾いた地面に水が吸い込まれるように、触手が液体を吸い込み始める。
理性では受け入れがたい現象だが、どうやら俺は新たな食事の手段を獲得したらしい。
何一つ口にしていないのに腹が満たされていく。
より効率的に吸収できるように手から生やした触手を増やし、細長く植物のヒゲ根のように枝分かれさせていく。
ジュルジュルと凄い勢いで液体は吸われて生き、あっという間に床が綺麗になった。
『スキル【火炎ブレス】を獲得しました』
「え」
今脳内で、神の声が聞こえたような気がした。
あの淡々とした女の声は間違いなく12歳の時に聞いた神の声だった。
火炎ブレスを獲得したと言っていたが、まさかこれはケルベロスが持っていたスキルか?
ということはそれを俺が奪った?
他人のスキルを盗むスキルというのは都市伝説で聞いたことがあるが、まさか俺が手に入れたこの触手はそのスキルと同じような力を持っているというのか?
俺は試しに口から火炎ブレスを吐いてみた。
軽く吐いてみただけなのに口から2メートルほどの火柱が噴き出した。
口は別に熱くない。
溶解液と同じように、自分の身体には害が及ばないようだ。
「完全にスキルだな。これはアーティファクトどころじゃねえ。確実に神器だ」
スキルを後天的に手に入れることができるアイテムなんて神器以外にあり得ない。
ダンジョンドロップの中でも最上級のランク、人智が及ばない力を持つものは神器と呼ばれる。
何がどうなっているのか理解すらできない力を持つアイテム、まさにこの触手はそれだろう。
溶解液で溶かした生き物を吸収したら無条件でスキルを獲得できるのか、それとも他に条件があるのかはわからないが、今俺は確実に2個目のスキルを手に入れた。
なんとも皮肉な話だ。
ずっとスキルのことで笑われて馬鹿にされてきた俺が、40になって新たなスキルを手に入れることになるとは。
こんなアイテムやスキルがもっと若い時にあったらと、そう思わずにはいられない。
「はぁ、やめだ。俺なんかがケルベロスを一人で倒せたんだから、もっと喜ぼう」
俺は一人喜びの舞を踊った。
わっしょいわっしょい、ケルベロスがなんぼのもんじゃい。
触手おじさんは最強だぜ。
「このまま30階層の宝箱開けまくって冒険者なんて辞めてやらぁ」
テンションの上がった俺はボス部屋を飛び出し、30階層を徘徊し始めた。
30階層なんてAランクの冒険者が10人前後のパーティを組んで潜るような階層だ。
ここの宝箱を1個でも開ければ12階層でチマチマ稼いでいた俺の年収くらい軽く超えてくるはずだ。
一気に金を貯めてハッピーリタイヤすることも可能になるだろう。
否が応にもテンションが上がる。
俺はスキップしそうな歩調で通路を進み、そして落し穴に転落した。
一瞬の浮遊感と、グサリと体に何かが突き刺さるような感触。
遅れてくる激痛。
あ、死んだなこれ。
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