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19.狐の記憶
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珍しくはっきりとした夢を見た。
エロい夢だったらよかったのだけれど、どことなく悲しい感じのする夢だ。
1人の童女が道端でうずくまっている。
童女はやせ細り、今にも死んでしまいそうなほど衰弱している。
道行く人は誰も童女のことを気にかけない。
だがしばらくして、一人の男が童女に声をかける。
『お前、どこにも行くところがないのか?だったらうちに来い。俺たちには子がおらん。お前には親がおらん。利害の一致というやつじゃ』
『で、でも……』
『お前のその耳と尻尾のことか?可愛らしくていいじゃないか。ワシは好きじゃぞ』
童女の頭には狐のような長く三角の獣耳が付いており、足元にはモフモフの尻尾が揺れていた。
そうか、これはあの狐の記憶か。
なんで今更僕の夢に出てくるのかはわからないけど、今は見ていることしかできないみたいだ。
出てくる人の恰好から、平安時代か鎌倉時代かな。
強いはずだ。
それほど長い時間をこの現世で過ごしてきたなんて。
どうやらお狐様は死にそうになっているところを優しい人間に拾われて育てられることになったらしい。
しばらくは幸せな記憶が続く。
お狐様を拾ったのは下級貴族の夫婦のようだ。
それほど裕福な生活ではなかったが、みんなが笑っていた。
それが束の間の安穏であるとは知らずに。
突如として場面が変わる。
お狐様は成長し、耳と尻尾を隠せるようになった。
耳と尻尾を隠したお狐様はまごうことなき美女だ。
貴族の男は皆彼女を自分の妻にしたがった。
それは当時の帝も同じだった。
権力の強かった当時の帝を押しのけることのできる人などはおらず、彼女は帝の妾となることとなった。
彼女を拾って育てた両親はそれを祝福はしなかった。
『すまぬ。おまえには好いた男と一緒になって欲しかったが、私程度の権力では帝に逆らうことなどはできぬ』
『あなた、権力なんて考えなくともいいではないですか。いいですか、どうしても後宮が辛くて逃げ出したいときには力を使って逃げるのですよ』
『でも、それではお父様とお母さまが……』
『わたくしたちのことなどどうでもいいのです。あなたが幸せなら、私達はどこで何をしていようと幸せです』
いつの間にか僕の目からは涙がしたたり落ちていた。
この夫婦が本当にお狐様のことを愛しているのが伝わってきてなんとなく泣いてしまった。
だって、この先の展開は鈍感な僕だって予想できる。
『御前様、失礼ですがひとつ術をかけさせていただきます』
『無礼な!御前様が化生の類であると申すのか!!』
『それを確かめさせていただきたいのです。御免!!』
『やめろ!!なっ、これは……』
『狐じゃぁぁぁぁっ。御前様が狐に。では本物の御前様は……』
『わ、わらわは最初から本物の……』
『この化け物が。陛下のご病気もお前の仕業だな!この大陰陽師、安倍泰成が滅してくれるわ!!』
ここからは見ていられなくて僕は目を背けた。
辛い夢だ。
早く醒めて欲しい。
僕の願いとは裏腹に、夢は醒めることなく続いていく。
『この男とその妻は自分の娘が狐の化生であるのを知りながら陛下の妾とした。よってここに処刑する』
『お父様!お母様!貴様ら、許さぬ!!許さぬぞ人間がぁぁぁ!!』
まだ力の無かった彼女には両親を助けることは叶わなかった。
恨みが、憎しみが積み重なっていく。
それから1000年、彼女は人間を観察した。
人間とはいったいなんなのだろうか。
人間は優しい、人間は醜い、人間は悲しい、人間は……。
彼女は人間に対して強い憎しみを持ちながらも幾度も人間に関わり、人間というものを理解していく。
人間という生き物は一括りにして語ることなどできない生き物だ。
死にそうだった自分を拾い育ててくれたのも人間だ。
そしてその両親を殺したのもまた、人間だった。
とても憎くて、そして愛おしい。
ぐちゃぐちゃになった彼女の感情が流れ込んできた。
熱に浮かされるように彷徨い歩き、負の感情が漂うあの病棟に行きついた。
そして、僕と出会った。
目が覚めた。
重い頭を抱えて身体を起こす。
流れ落ちた涙が頬を濡らし、冬の空気がさらに冷たく感じる。
「君のせいで目覚めが最悪だよ」
僕はお腹の上に蹲るモフモフの毛玉に向かって話しかける。
たしかにまたねとは言ったけれど、次の日の夜に夢に出てくるやつがあるかい。
『わらわのことを知って欲しかったんじゃ。これから一緒に暮らすルームメイトなんじゃからな』
「一緒に暮らすって……」
『やるだけやってポイか?お主鬼畜じゃな』
「いやそういうわけじゃ……」
『じゃあそばに置いてくりゃれ?』
「はぁ、仕方ないね」
あんな夢を見た後では断ることなどできはしない。
僕はモフっとした毛玉を撫でた。
天上の触り心地。
『あふんっ。お主、おなごにはもっと優しく触れるものじゃぞ』
「ごめんね。でも止められないんだ」
モフモフ、モフモフ。
僕は狂ったようにモフモフを撫でた。
どうやら僕も、このモフモフがなければ生きていけない身体にされてしまったようだ。
『あふんっ』
エロい夢だったらよかったのだけれど、どことなく悲しい感じのする夢だ。
1人の童女が道端でうずくまっている。
童女はやせ細り、今にも死んでしまいそうなほど衰弱している。
道行く人は誰も童女のことを気にかけない。
だがしばらくして、一人の男が童女に声をかける。
『お前、どこにも行くところがないのか?だったらうちに来い。俺たちには子がおらん。お前には親がおらん。利害の一致というやつじゃ』
『で、でも……』
『お前のその耳と尻尾のことか?可愛らしくていいじゃないか。ワシは好きじゃぞ』
童女の頭には狐のような長く三角の獣耳が付いており、足元にはモフモフの尻尾が揺れていた。
そうか、これはあの狐の記憶か。
なんで今更僕の夢に出てくるのかはわからないけど、今は見ていることしかできないみたいだ。
出てくる人の恰好から、平安時代か鎌倉時代かな。
強いはずだ。
それほど長い時間をこの現世で過ごしてきたなんて。
どうやらお狐様は死にそうになっているところを優しい人間に拾われて育てられることになったらしい。
しばらくは幸せな記憶が続く。
お狐様を拾ったのは下級貴族の夫婦のようだ。
それほど裕福な生活ではなかったが、みんなが笑っていた。
それが束の間の安穏であるとは知らずに。
突如として場面が変わる。
お狐様は成長し、耳と尻尾を隠せるようになった。
耳と尻尾を隠したお狐様はまごうことなき美女だ。
貴族の男は皆彼女を自分の妻にしたがった。
それは当時の帝も同じだった。
権力の強かった当時の帝を押しのけることのできる人などはおらず、彼女は帝の妾となることとなった。
彼女を拾って育てた両親はそれを祝福はしなかった。
『すまぬ。おまえには好いた男と一緒になって欲しかったが、私程度の権力では帝に逆らうことなどはできぬ』
『あなた、権力なんて考えなくともいいではないですか。いいですか、どうしても後宮が辛くて逃げ出したいときには力を使って逃げるのですよ』
『でも、それではお父様とお母さまが……』
『わたくしたちのことなどどうでもいいのです。あなたが幸せなら、私達はどこで何をしていようと幸せです』
いつの間にか僕の目からは涙がしたたり落ちていた。
この夫婦が本当にお狐様のことを愛しているのが伝わってきてなんとなく泣いてしまった。
だって、この先の展開は鈍感な僕だって予想できる。
『御前様、失礼ですがひとつ術をかけさせていただきます』
『無礼な!御前様が化生の類であると申すのか!!』
『それを確かめさせていただきたいのです。御免!!』
『やめろ!!なっ、これは……』
『狐じゃぁぁぁぁっ。御前様が狐に。では本物の御前様は……』
『わ、わらわは最初から本物の……』
『この化け物が。陛下のご病気もお前の仕業だな!この大陰陽師、安倍泰成が滅してくれるわ!!』
ここからは見ていられなくて僕は目を背けた。
辛い夢だ。
早く醒めて欲しい。
僕の願いとは裏腹に、夢は醒めることなく続いていく。
『この男とその妻は自分の娘が狐の化生であるのを知りながら陛下の妾とした。よってここに処刑する』
『お父様!お母様!貴様ら、許さぬ!!許さぬぞ人間がぁぁぁ!!』
まだ力の無かった彼女には両親を助けることは叶わなかった。
恨みが、憎しみが積み重なっていく。
それから1000年、彼女は人間を観察した。
人間とはいったいなんなのだろうか。
人間は優しい、人間は醜い、人間は悲しい、人間は……。
彼女は人間に対して強い憎しみを持ちながらも幾度も人間に関わり、人間というものを理解していく。
人間という生き物は一括りにして語ることなどできない生き物だ。
死にそうだった自分を拾い育ててくれたのも人間だ。
そしてその両親を殺したのもまた、人間だった。
とても憎くて、そして愛おしい。
ぐちゃぐちゃになった彼女の感情が流れ込んできた。
熱に浮かされるように彷徨い歩き、負の感情が漂うあの病棟に行きついた。
そして、僕と出会った。
目が覚めた。
重い頭を抱えて身体を起こす。
流れ落ちた涙が頬を濡らし、冬の空気がさらに冷たく感じる。
「君のせいで目覚めが最悪だよ」
僕はお腹の上に蹲るモフモフの毛玉に向かって話しかける。
たしかにまたねとは言ったけれど、次の日の夜に夢に出てくるやつがあるかい。
『わらわのことを知って欲しかったんじゃ。これから一緒に暮らすルームメイトなんじゃからな』
「一緒に暮らすって……」
『やるだけやってポイか?お主鬼畜じゃな』
「いやそういうわけじゃ……」
『じゃあそばに置いてくりゃれ?』
「はぁ、仕方ないね」
あんな夢を見た後では断ることなどできはしない。
僕はモフっとした毛玉を撫でた。
天上の触り心地。
『あふんっ。お主、おなごにはもっと優しく触れるものじゃぞ』
「ごめんね。でも止められないんだ」
モフモフ、モフモフ。
僕は狂ったようにモフモフを撫でた。
どうやら僕も、このモフモフがなければ生きていけない身体にされてしまったようだ。
『あふんっ』
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