10 / 25
10.魔法使いにはまだ早い
しおりを挟む
「ほ、本当にさっきの子より可愛い女子高生と1万円で本番できるんだな!?」
「ええ、夢の中ではなんでも思うがままです。僕を信じて欲望をさらけ出してください」
「でも夢が自由に操れるなんて信じられないな」
「まあまあ、料金は後払いで構いませんのでとりあえず試してみてくださいよ」
「薬とかだったら絶対飲まないからな!?」
「何も問題ありません。あなたはただリラックスしていれば楽園はそこにあります」
「それでは3、2、1で夢の中に飛びますよ。3、2、1!」
よし、眠ったな。
あとはおっさんを夢の中で酒池肉林させれば1万円もらえる。
ボロい商売だ。
ただ相手の欲望を実現すると言った手前、どうしてもおっさんの思ったとおりの夢を見せなくてはいけない。
それにはおっさんの汚い欲望を覗き、それを夢の中に具現化させておっさんが堪能する様を眺めていなくてはならない。
苦痛だ。
1万円はこの苦痛への迷惑料ということで貰えばいいな。
おっと、おっさんの欲望は留まるところを知らないな。
女だらけの水泳大会(スクール水着)をしだしたぞ。
今度僕もやろう。
夢を操作するといっても僕が知りえないことは実現できないからな。
おっさんの欲望を知ることは僕の世界を広げることにも繋がっていたか。
深いな、仕事ってやつは。
おっさんの業もまた、深い。
どんだけ女子高生好きなんだよ。
これ、いつ終わるのかな。
「いやぁ、よかったよ!!こんなに素晴らしい夢は今まで見たことがない。ありがとう。またよろしく!!」
おっさんはそう言って僕に1万円を握らせ、帰っていった。
あのおっさん、4時間も楽しみやがった。
うちには240分コースなんてないんだよ!
今日からうちは90分コースオンリーだ。
あれから毎日欠かさず晴明様式霊力強化トレーニング(マラソン)を続けているから霊力にはまだ余裕があるけれど、気力が大分持っていかれた。
もう時刻は深夜2時すぎ。
草木も眠る丑三つ時だよ。
眠い。
早く帰って眠りたい。
おっさんから1万円を受け取った僕のふところは暖かい。
コンビニで明日の朝ごはんでも買って帰ろうかな。
「きゃっ、痛いっ。離してっ」
聞き覚えのある声に思わず足を止める。
それは忘れようもない神崎さんの声だ。
「離してくださいっ、警察呼びますよ」
「まあまあ、ちょっと休憩していくだけだって。ね?俺もう酔いが回って歩けないんだ。絶対指一本触れないから。約束する」
ああ、絶対嘘のやつですね。
神崎さんの手を掴んで土下座せんばかりの拝み倒しで押し切ろうとしているのは、見るからにヤリチンそうな爽やか系イケメンだ。
飲み会か何かの帰りかな?
僕は誘われたことないけどね。
しかしやはりイケメンも一皮剥けば同じ男だな。
このままでは神崎さんの貞操が危ないかもしれない。
なにせ倒れている僕を家まで運んで、看病までしてくれた神崎さんだ。
拝み倒されれば断りきれない可能性もある。
そうなればヤリチンに失敗は無い。
神崎さんを、助けたい。
僕はおっさんから受け取った1万円を握り締める。
「か、神崎さん。ど、どうかした?」
僕は勇気を振り絞って声をかけた。
「あぁ?なんだてめぇ」
「ひぇっ」
イケメンはみんな性格良いなんて嘘なんだ。
餌を取られそうになった野生動物ばりにキレてるじゃないか。
な、なにか片手で印を結べる術。
僕は咄嗟に精神を沈静化させる術を発動させる。
「あ、あれ?なにキレてんだ俺。ごめんね神崎さん、俺眠いから帰るわ。その子に送っていってもらってよ」
「え?あ、はい……。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ~」
発情して本能を剥きだしにしたイケメンはただのイケメンに戻り、去っていった。
僕の勝ちだ。
いやすべてにおいて負けているんだけどね。
「なんだったんだろ……。そういえば橘君はなんでこんな時間に?」
「いや、ちょっと用事があってね」
「そうだよね。私も飲み会の帰りだもん。お酒は飲んでないけどね」
ははは、僕は飲み会じゃないけどね。
誘われる気もしないし。
そもそも誘われるような知人がいない。
泣いてない。
「送っていくよ」
「ありがとう」
神崎さんの家は僕が今住んでいるおじちゃんの家からそれほど離れていない。
走るルートが重なるくらいだから当然だけど。
神崎さんも僕の家を知っているから断りはしない。
同じ方向なのにここで分かれて別々に帰るのも変だし。
「さっきの先輩、なんだったんだろうね。飲み会の帰りに送っていくって言われて、その途中でホテルに誘われて、すっごくしつこかったのに。橘君が来た途端に人が変わったようにあっさり帰っちゃった」
「そ、そうだよね。変だねぇ。あはは……」
「橘君ってさ、魔法使いなの?」
「えぇ!?」
こ、このまま30歳になったらそうなっちゃうかもしれません。
でもまだ僕は魔法使いじゃないし、なる気もない。
「僕は魔法使いにはならないよ」
「そうなんだ。頑張ってね……」
「ん?うん。まあ頑張るよ」
楽しい時間はすぐに終わり、神崎さんの家についてしまった。
「じゃあね、橘君。助けてくれてありがとう」
「ん?うん。じゃあね」
なんか変だったな神崎さん。
何が変なのかは分からないけど。
まあいいや。
この時間に寝たんじゃたぶん神崎さんは早朝ランニングには来ないだろうな。
明日は僕もランニングはサボろう。
「ええ、夢の中ではなんでも思うがままです。僕を信じて欲望をさらけ出してください」
「でも夢が自由に操れるなんて信じられないな」
「まあまあ、料金は後払いで構いませんのでとりあえず試してみてくださいよ」
「薬とかだったら絶対飲まないからな!?」
「何も問題ありません。あなたはただリラックスしていれば楽園はそこにあります」
「それでは3、2、1で夢の中に飛びますよ。3、2、1!」
よし、眠ったな。
あとはおっさんを夢の中で酒池肉林させれば1万円もらえる。
ボロい商売だ。
ただ相手の欲望を実現すると言った手前、どうしてもおっさんの思ったとおりの夢を見せなくてはいけない。
それにはおっさんの汚い欲望を覗き、それを夢の中に具現化させておっさんが堪能する様を眺めていなくてはならない。
苦痛だ。
1万円はこの苦痛への迷惑料ということで貰えばいいな。
おっと、おっさんの欲望は留まるところを知らないな。
女だらけの水泳大会(スクール水着)をしだしたぞ。
今度僕もやろう。
夢を操作するといっても僕が知りえないことは実現できないからな。
おっさんの欲望を知ることは僕の世界を広げることにも繋がっていたか。
深いな、仕事ってやつは。
おっさんの業もまた、深い。
どんだけ女子高生好きなんだよ。
これ、いつ終わるのかな。
「いやぁ、よかったよ!!こんなに素晴らしい夢は今まで見たことがない。ありがとう。またよろしく!!」
おっさんはそう言って僕に1万円を握らせ、帰っていった。
あのおっさん、4時間も楽しみやがった。
うちには240分コースなんてないんだよ!
今日からうちは90分コースオンリーだ。
あれから毎日欠かさず晴明様式霊力強化トレーニング(マラソン)を続けているから霊力にはまだ余裕があるけれど、気力が大分持っていかれた。
もう時刻は深夜2時すぎ。
草木も眠る丑三つ時だよ。
眠い。
早く帰って眠りたい。
おっさんから1万円を受け取った僕のふところは暖かい。
コンビニで明日の朝ごはんでも買って帰ろうかな。
「きゃっ、痛いっ。離してっ」
聞き覚えのある声に思わず足を止める。
それは忘れようもない神崎さんの声だ。
「離してくださいっ、警察呼びますよ」
「まあまあ、ちょっと休憩していくだけだって。ね?俺もう酔いが回って歩けないんだ。絶対指一本触れないから。約束する」
ああ、絶対嘘のやつですね。
神崎さんの手を掴んで土下座せんばかりの拝み倒しで押し切ろうとしているのは、見るからにヤリチンそうな爽やか系イケメンだ。
飲み会か何かの帰りかな?
僕は誘われたことないけどね。
しかしやはりイケメンも一皮剥けば同じ男だな。
このままでは神崎さんの貞操が危ないかもしれない。
なにせ倒れている僕を家まで運んで、看病までしてくれた神崎さんだ。
拝み倒されれば断りきれない可能性もある。
そうなればヤリチンに失敗は無い。
神崎さんを、助けたい。
僕はおっさんから受け取った1万円を握り締める。
「か、神崎さん。ど、どうかした?」
僕は勇気を振り絞って声をかけた。
「あぁ?なんだてめぇ」
「ひぇっ」
イケメンはみんな性格良いなんて嘘なんだ。
餌を取られそうになった野生動物ばりにキレてるじゃないか。
な、なにか片手で印を結べる術。
僕は咄嗟に精神を沈静化させる術を発動させる。
「あ、あれ?なにキレてんだ俺。ごめんね神崎さん、俺眠いから帰るわ。その子に送っていってもらってよ」
「え?あ、はい……。お疲れ様です」
「ああ、お疲れ~」
発情して本能を剥きだしにしたイケメンはただのイケメンに戻り、去っていった。
僕の勝ちだ。
いやすべてにおいて負けているんだけどね。
「なんだったんだろ……。そういえば橘君はなんでこんな時間に?」
「いや、ちょっと用事があってね」
「そうだよね。私も飲み会の帰りだもん。お酒は飲んでないけどね」
ははは、僕は飲み会じゃないけどね。
誘われる気もしないし。
そもそも誘われるような知人がいない。
泣いてない。
「送っていくよ」
「ありがとう」
神崎さんの家は僕が今住んでいるおじちゃんの家からそれほど離れていない。
走るルートが重なるくらいだから当然だけど。
神崎さんも僕の家を知っているから断りはしない。
同じ方向なのにここで分かれて別々に帰るのも変だし。
「さっきの先輩、なんだったんだろうね。飲み会の帰りに送っていくって言われて、その途中でホテルに誘われて、すっごくしつこかったのに。橘君が来た途端に人が変わったようにあっさり帰っちゃった」
「そ、そうだよね。変だねぇ。あはは……」
「橘君ってさ、魔法使いなの?」
「えぇ!?」
こ、このまま30歳になったらそうなっちゃうかもしれません。
でもまだ僕は魔法使いじゃないし、なる気もない。
「僕は魔法使いにはならないよ」
「そうなんだ。頑張ってね……」
「ん?うん。まあ頑張るよ」
楽しい時間はすぐに終わり、神崎さんの家についてしまった。
「じゃあね、橘君。助けてくれてありがとう」
「ん?うん。じゃあね」
なんか変だったな神崎さん。
何が変なのかは分からないけど。
まあいいや。
この時間に寝たんじゃたぶん神崎さんは早朝ランニングには来ないだろうな。
明日は僕もランニングはサボろう。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
戦国陰陽師〜自称・安倍晴明の子孫は、第六天魔王のお家の食客になることにしました〜
水城真以
ファンタジー
自称・安倍晴明の子孫、明晴。ある日美濃に立ち寄った明晴がいつもの通りに陰陽術で荒稼ぎしていたら、岐阜城主・織田信長に目を付けられてしまう。城に連れて行かれた明晴は、ある予言を当ててしまったことから織田家の食客になることに!?
「俺はただ、緩くのんびり生きられたらいいだけなのにーー!!」
果たして自称・安倍晴明の子孫の運命やいかに?!
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る
張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、
これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる