5 / 25
5.優しさに嫉妬する
しおりを挟む
「あの、ほんとうに、看病とかいいんで…」
「何言ってるんですか。こんな状態で、ご家族も同居していないのに放っておけませんよ。自分でトイレにも行けないじゃないですか」
現在僕はおじいちゃんの家に帰ってきている。
女の子にお姫様抱っこされて家までたどり着いたのはよかったのだけれど、僕を家まで送ったら帰ると思っていた女の子はそのまま僕を看病してくれると言い出した。
女の子は責任感が強いのか、はたまた困った人を放っておけない性格なのか、それとも僕がそんなに頼りなく見えたのか、検討はつかないが困った。
そりゃあ嬉しいことは嬉しいんだけど、僕はあまり女の子と話したことが無い。
偶然女の子と話せたら嬉しいけれど、それは話すという人間の関係性の最初の段階だから仲良くなるきっかけがつかめることに対して嬉しいと思うのだ。
その段階をすべてすっ飛ばして、女の子と長く話したことも無い僕のような人間がいきなり可愛い女の子にトイレの介助をされたとしても嬉しいと思うよりもまず勘弁してくれと思ってしまう。
「ほんとうに、大丈夫ですよ?壁に手をついていけばトイレには行けますから…」
嘘だ。
家に帰って布団に横になったらさらに熱が上がった気がする。
もう起き上がることさえできるかわからない。
家族に電話をして来てもらって、それを彼女に説明したら帰ってくれるか。
もうそんなことを考えるのも億劫だ。
意識もなんだかはっきりしない。
右手に誰かのぬくもりを感じる。
あの子が握ってくれているんだろうか。
あったかい。
汗でびしょびしょに濡れたシーツが気持ち悪くて目が覚めた。
まだ目の奥が痛むが、熱は大分下がったようだ。
右手が誰かの手を握っていることに今更ながら気づいた。
「あ、起きましたか?熱はどうですか?」
「ずっと、いてくれたんですか?」
「はい、あの、昔母が風邪のとき手を握ってくれてたんです。すごく安心してよく眠れたので、私もいつか人にそうしてあげたいと思っていたんです」
そう語る彼女はすごく優しい顔をしていた。
僕はその顔をずっと見ていたいと思った。
なんだか胸がドキドキする。
というか、良く考えたらなんだこの状況。
初対面の人に看病してもらって、起きるまで手を握ってもらって。
どどどどどど、どうしよう。
そういえばまだ彼女の名前知らないし僕も名前言ってない。
「あの、申し送れました橘悠馬と申します」
「あ、私も名前言ってなかったですね。私は神埼美和です。橘さんは高校生ですか?私は今年から大学1年生の18歳なんですけど」
「同い年ですね。僕は今年の春から〇×△大学に入学するんですよ」
「え!?私も〇×△大学です」
「え!?本当ですか!?」
「ええ、同級生だったんですね。敬語やめましょうか」
「そうですね。いや、そうだね」
「これからもよろしくね橘君」
「こちらこそ看病までしてもらっちゃってありがとう。大学でもよろしく神崎さん」
こんなにスムーズに女の子との会話が進んだのは初めてだ。
これってもう友達になったって考えていいのかな。
だってこれからもよろしくって友達だよね。
いいよね。
いいのかな。
いままで女の子の友達がいたことなんて小学校低学年以来なかったからわからない。
「あ、でも私はまだもう少し様子見てから帰るよ」
「いや、そこまでしてもらうのは悪いって。もう熱も下がったし、自分でトイレも行けるから大丈夫だよ」
「だめだよ。熱は完全に下がったわけじゃないと思うからまた上がるよ。今動けるなら今のうちにトイレとか済ませておこう?」
なんだろうこの圧倒的良妻感。
もう惚れてまうんだけど。
ていうかすでに惚れてるんだけど。
あのお姫様抱っこされたところで。
いや、女の子にここまでされたら惚れない人いる?
いたらそいつはゲイだ、尻に気をつけて。
僕は神埼さんに腰のあたりを支えられて言われたとおりトイレにいく。
神埼さんには悪いけどお願いだから付いてこないでほしい。
「一人で行けるから」
「転んだら危ないよ?」
本当にどうしたものか。
この笑顔を男全員にもれなく振りまいているとしたら、嫉妬で狂いそうだ。
こんな女の子がいてもいいのか?
神はお許しになるのか?
誰にでもやさしい女の子なんていう男を狂わせる女の子がいてもいいのか?
そんな問いかけ自分の中で延々繰り返しながらも、弱い僕は彼女に寄りかかって歩いてしまう。
柔らかくて発狂しそうだ。
男はみんな狼だって、この子には誰も教えてあげなかったのか?
それとも僕がそんなに弱そうに見えたんだろうか。
いや、それは見えたのではなく実際彼女は僕よりもきっと腕力がある。
ましてや病床のもやしに彼女を押し倒すことなんてできるわけもない。
そう考えたら少し楽になった。
僕では彼女を絶対に襲うことはできなかったのか。
そうか。
風邪が治ったら少しは身体を鍛えよう。
「何言ってるんですか。こんな状態で、ご家族も同居していないのに放っておけませんよ。自分でトイレにも行けないじゃないですか」
現在僕はおじいちゃんの家に帰ってきている。
女の子にお姫様抱っこされて家までたどり着いたのはよかったのだけれど、僕を家まで送ったら帰ると思っていた女の子はそのまま僕を看病してくれると言い出した。
女の子は責任感が強いのか、はたまた困った人を放っておけない性格なのか、それとも僕がそんなに頼りなく見えたのか、検討はつかないが困った。
そりゃあ嬉しいことは嬉しいんだけど、僕はあまり女の子と話したことが無い。
偶然女の子と話せたら嬉しいけれど、それは話すという人間の関係性の最初の段階だから仲良くなるきっかけがつかめることに対して嬉しいと思うのだ。
その段階をすべてすっ飛ばして、女の子と長く話したことも無い僕のような人間がいきなり可愛い女の子にトイレの介助をされたとしても嬉しいと思うよりもまず勘弁してくれと思ってしまう。
「ほんとうに、大丈夫ですよ?壁に手をついていけばトイレには行けますから…」
嘘だ。
家に帰って布団に横になったらさらに熱が上がった気がする。
もう起き上がることさえできるかわからない。
家族に電話をして来てもらって、それを彼女に説明したら帰ってくれるか。
もうそんなことを考えるのも億劫だ。
意識もなんだかはっきりしない。
右手に誰かのぬくもりを感じる。
あの子が握ってくれているんだろうか。
あったかい。
汗でびしょびしょに濡れたシーツが気持ち悪くて目が覚めた。
まだ目の奥が痛むが、熱は大分下がったようだ。
右手が誰かの手を握っていることに今更ながら気づいた。
「あ、起きましたか?熱はどうですか?」
「ずっと、いてくれたんですか?」
「はい、あの、昔母が風邪のとき手を握ってくれてたんです。すごく安心してよく眠れたので、私もいつか人にそうしてあげたいと思っていたんです」
そう語る彼女はすごく優しい顔をしていた。
僕はその顔をずっと見ていたいと思った。
なんだか胸がドキドキする。
というか、良く考えたらなんだこの状況。
初対面の人に看病してもらって、起きるまで手を握ってもらって。
どどどどどど、どうしよう。
そういえばまだ彼女の名前知らないし僕も名前言ってない。
「あの、申し送れました橘悠馬と申します」
「あ、私も名前言ってなかったですね。私は神埼美和です。橘さんは高校生ですか?私は今年から大学1年生の18歳なんですけど」
「同い年ですね。僕は今年の春から〇×△大学に入学するんですよ」
「え!?私も〇×△大学です」
「え!?本当ですか!?」
「ええ、同級生だったんですね。敬語やめましょうか」
「そうですね。いや、そうだね」
「これからもよろしくね橘君」
「こちらこそ看病までしてもらっちゃってありがとう。大学でもよろしく神崎さん」
こんなにスムーズに女の子との会話が進んだのは初めてだ。
これってもう友達になったって考えていいのかな。
だってこれからもよろしくって友達だよね。
いいよね。
いいのかな。
いままで女の子の友達がいたことなんて小学校低学年以来なかったからわからない。
「あ、でも私はまだもう少し様子見てから帰るよ」
「いや、そこまでしてもらうのは悪いって。もう熱も下がったし、自分でトイレも行けるから大丈夫だよ」
「だめだよ。熱は完全に下がったわけじゃないと思うからまた上がるよ。今動けるなら今のうちにトイレとか済ませておこう?」
なんだろうこの圧倒的良妻感。
もう惚れてまうんだけど。
ていうかすでに惚れてるんだけど。
あのお姫様抱っこされたところで。
いや、女の子にここまでされたら惚れない人いる?
いたらそいつはゲイだ、尻に気をつけて。
僕は神埼さんに腰のあたりを支えられて言われたとおりトイレにいく。
神埼さんには悪いけどお願いだから付いてこないでほしい。
「一人で行けるから」
「転んだら危ないよ?」
本当にどうしたものか。
この笑顔を男全員にもれなく振りまいているとしたら、嫉妬で狂いそうだ。
こんな女の子がいてもいいのか?
神はお許しになるのか?
誰にでもやさしい女の子なんていう男を狂わせる女の子がいてもいいのか?
そんな問いかけ自分の中で延々繰り返しながらも、弱い僕は彼女に寄りかかって歩いてしまう。
柔らかくて発狂しそうだ。
男はみんな狼だって、この子には誰も教えてあげなかったのか?
それとも僕がそんなに弱そうに見えたんだろうか。
いや、それは見えたのではなく実際彼女は僕よりもきっと腕力がある。
ましてや病床のもやしに彼女を押し倒すことなんてできるわけもない。
そう考えたら少し楽になった。
僕では彼女を絶対に襲うことはできなかったのか。
そうか。
風邪が治ったら少しは身体を鍛えよう。
0
お気に入りに追加
69
あなたにおすすめの小説
海の見える家で……
梨香
キャラ文芸
祖母の突然の死で十五歳まで暮らした港町へ帰った智章は見知らぬ女子高校生と出会う。祖母の死とその女の子は何か関係があるのか? 祖母の死が切っ掛けになり、智章の特殊能力、実父、義理の父、そして奔放な母との関係などが浮き彫りになっていく。
戦国陰陽師〜自称・安倍晴明の子孫は、第六天魔王のお家の食客になることにしました〜
水城真以
ファンタジー
自称・安倍晴明の子孫、明晴。ある日美濃に立ち寄った明晴がいつもの通りに陰陽術で荒稼ぎしていたら、岐阜城主・織田信長に目を付けられてしまう。城に連れて行かれた明晴は、ある予言を当ててしまったことから織田家の食客になることに!?
「俺はただ、緩くのんびり生きられたらいいだけなのにーー!!」
果たして自称・安倍晴明の子孫の運命やいかに?!
鬼の御宿の嫁入り狐
梅野小吹
キャラ文芸
▼2025.2月 書籍 第2巻発売中!
【第6回キャラ文芸大賞/あやかし賞 受賞作】
鬼の一族が棲まう隠れ里には、三つの尾を持つ妖狐の少女が暮らしている。
彼女──縁(より)は、腹部に火傷を負った状態で倒れているところを旅籠屋の次男・琥珀(こはく)によって助けられ、彼が縁を「自分の嫁にする」と宣言したことがきっかけで、羅刹と呼ばれる鬼の一家と共に暮らすようになった。
優しい一家に愛されてすくすくと大きくなった彼女は、天真爛漫な愛らしい乙女へと成長したものの、年頃になるにつれて共に育った琥珀や家族との種族差に疎外感を覚えるようになっていく。
「私だけ、どうして、鬼じゃないんだろう……」
劣等感を抱き、自分が鬼の家族にとって本当に必要な存在なのかと不安を覚える縁。
そんな憂いを抱える中、彼女の元に現れたのは、縁を〝花嫁〟と呼ぶ美しい妖狐の青年で……?
育ててくれた鬼の家族。
自分と同じ妖狐の一族。
腹部に残る火傷痕。
人々が語る『狐の嫁入り』──。
空の隙間から雨が降る時、小さな体に傷を宿して、鬼に嫁入りした少女の話。
貧乏神の嫁入り
石田空
キャラ文芸
先祖が貧乏神のせいで、どれだけ事業を起こしても失敗ばかりしている中村家。
この年もめでたく御店を売りに出すことになり、長屋生活が終わらないと嘆いているいろりの元に、一発逆転の縁談の話が舞い込んだ。
風水師として名を馳せる鎮目家に、ぜひともと呼ばれたのだ。
貧乏神の末裔だけど受け入れてもらえるかしらと思いながらウキウキで嫁入りしたら……鎮目家の虚弱体質な跡取りのもとに嫁入りしろという。
貧乏神なのに、虚弱体質な旦那様の元に嫁いで大丈夫?
いろりと桃矢のおかしなおかしな夫婦愛。
*カクヨム、エブリスタにも掲載中。
【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る
張形珍宝
キャラ文芸
あやかしに愛され、あやかしが寄って来る体質の住職、後藤永海は六十五歳を定年として息子に寺を任せ山へ隠居しようと考えていたが、定年を前にして寺を追い出されてしまう。追い出された理由はまあ、自業自得としか言いようがないのだが。永海には幼い頃からあやかしを遠ざけ、彼を守ってきた化け狐の相棒がいて、、、
これは人生の最後はあやかしと共に過ごしたいと願った生臭坊主が、不思議なあやかし達に囲まれて幸せに暮らす日々を描いたほのぼのスローライフな物語である。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
乙女フラッグ!
月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。
それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。
ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。
拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。
しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった!
日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。
凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入……
敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。
そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変!
現代版・お伽活劇、ここに開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる