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4.男前な女の子
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「はぁ、はぁ、はぁ…」
息が苦しい。
足を止めて休みたい自分と、必死に戦うが全く勝てる気なんてしない。
耳から聞こえてくる悪霊退散悪霊退散の声がなかったら、すでに止まっていただろう。
あと10歩走ったら止まろうと決めて、10歩後にまだ走れるような気がして10歩延長する。
その繰り返しでもう10分以上走り続けている。
もう止まりたいのに、あと少しだけ頑張れと自分の中の見知らぬ自分が言う。
自分の中にこんな自分がいるとは思わなかった。
早く止まれと騒ぐいつもの僕に、あと10歩、あと10歩とささやく。
決して大きな声ではないけれど、不思議と僕の足は止まらない。
さすがにもう限界だが、僕の中の僕は最後に動けなくなるまで全力で走ってみようと言う。
僕はもう止まりたくてしかたがないのだけれど、僕の身体はもうひとりの僕に従うようだ。
僕は体力を絞り出すように全力でダッシュした。
ダッシュというほど速度が出ていたかは分からないけれど、今の自分にできる最速の速さで走った。
次の瞬間世界は僕の知らない色になった。
まるで世界に色が増えた結果一周回って1色になってしまったような混沌とした色彩だ。
植物や虫、鳥、公園にいる生き物の存在が鋭敏に感知できる。
それと共に自分の中に湧き上がる土御門氏のいうところの霊力という力の存在も。
これで僕の目的は果たされた。
僕はいきなり止まるなという体育の先生の言葉を思い出し、小走りで心臓を慣らしながら減速する。
多少心臓と呼吸は楽になったものの、普段通りには程遠い。
だけどそれ以上はもう立っていられなかった。
僕は文字通り体力の限界というものを生まれて初めて経験した。
ちょうど公園のベンチがあったので、そこに横になった。
横になったとたんに猛烈な眠気に襲われ、僕は流れる汗も気にせずに眠った。
「……ぅぶですか?」
肩をゆすられているような気がする。
もう少し寝ていたいけど、布団が剥がされている。
非常に寒い。
僕は丸まって少しでも暖を取ろうとするが、狭くてうまく丸くなれない。
いつものベッドじゃない?
僕は寝る前いったいどこで寝たのかを思い出し、慌てて飛び起きる。
「あの、大丈夫ですか?」
そこには僕と同い年くらいの女の子が僕のことを心配そうに覗きこんでいた。
女の子は亜麻色の髪を肩くらいまで伸ばした可愛い女の子だ。
僕と同じように公園に走りに来たのか、ピッチリしたスポーツウェアを身に纏っていて、引き締まった健康的な魅力に溢れている。
女の子はどうやらベンチで寝ている僕を見て、体調不良かもしれないと心配してくれたようだ。
「すみません。少し眠くなって寝ていただけです。心配をおかけしました」
「そうだったんですか。すみません、逆にお休みのところを邪魔してしまいましたよね」
「いえ、もう起きる時間だったので助かりました」
腕時計を見ると、家を出たときからすでに5時間が経過していた。
どう見積もっても2時間も走っていたとは思えないので最低でも3時間はここで眠っていたことになる。
これ以上この季節の野外で眠っていたら風邪を引いていたかもしれない。
というかすでに喉が痛い気がする。
「びぇっくしょん!ずびっ、本当に助かりました。これ以上ここで寝ていたら風邪をこじらせて肺炎になっていたかもしれませんから」
「本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ。ガクガクっブルブルっ」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「だ、だいじょぶでし。ゴホゴホッ」
「い、家まで送りましょうか?」
「いえ、ほんとうにだいじょうぶなんで…」
そう言って僕は立ち上がろうとしてふらつき、尻餅をついた。
尻が痛い。
ついでに頭もかなり痛い。
節々も痛い。
手足に力が入らない。
だめだわ、これ完全に風邪引いてる。
「大丈夫じゃないですよね。病院に行ったほうがいいです。ご家族の方と一緒に住んでますか?」
「いえ、ついこのあいだからひとりぐらしです。ゴホゴホッ」
「はぁ、肩につかまってください。病院に行きますよ」
「いや、病院は…きらいなんで」
「子供ですか。じゃあせめて家まで送っていきます」
「いえ、そこまでしてもらうわけには…」
「もういいから抱えますよ」
女の子はそう言って僕の脇に腕を入れると、僕をお姫さま抱っこして歩き出した。
意外と力持ちだな。
いや、僕が軽いのかも。
ただでさえ背も低くて細身なのにこの3日間でさらに痩せた気がする。
それでもやっぱり女の子にお姫様抱っこされるのはかなり恥ずかしいな。
ただ、抵抗しようにも手足が自分の身体じゃなくなったようにうまく動いてくれない。
これ熱40度くらいあるかもな。
「家はどっちですか」
「あっちです…」
僕は男前な女の子に大人しく家まで連れて行ってもらうことしかできなかった。
朦朧とする意識の中、僕は女の子の身体は柔らかくていい匂いがするんだなと場違いなことを考えていた。
息が苦しい。
足を止めて休みたい自分と、必死に戦うが全く勝てる気なんてしない。
耳から聞こえてくる悪霊退散悪霊退散の声がなかったら、すでに止まっていただろう。
あと10歩走ったら止まろうと決めて、10歩後にまだ走れるような気がして10歩延長する。
その繰り返しでもう10分以上走り続けている。
もう止まりたいのに、あと少しだけ頑張れと自分の中の見知らぬ自分が言う。
自分の中にこんな自分がいるとは思わなかった。
早く止まれと騒ぐいつもの僕に、あと10歩、あと10歩とささやく。
決して大きな声ではないけれど、不思議と僕の足は止まらない。
さすがにもう限界だが、僕の中の僕は最後に動けなくなるまで全力で走ってみようと言う。
僕はもう止まりたくてしかたがないのだけれど、僕の身体はもうひとりの僕に従うようだ。
僕は体力を絞り出すように全力でダッシュした。
ダッシュというほど速度が出ていたかは分からないけれど、今の自分にできる最速の速さで走った。
次の瞬間世界は僕の知らない色になった。
まるで世界に色が増えた結果一周回って1色になってしまったような混沌とした色彩だ。
植物や虫、鳥、公園にいる生き物の存在が鋭敏に感知できる。
それと共に自分の中に湧き上がる土御門氏のいうところの霊力という力の存在も。
これで僕の目的は果たされた。
僕はいきなり止まるなという体育の先生の言葉を思い出し、小走りで心臓を慣らしながら減速する。
多少心臓と呼吸は楽になったものの、普段通りには程遠い。
だけどそれ以上はもう立っていられなかった。
僕は文字通り体力の限界というものを生まれて初めて経験した。
ちょうど公園のベンチがあったので、そこに横になった。
横になったとたんに猛烈な眠気に襲われ、僕は流れる汗も気にせずに眠った。
「……ぅぶですか?」
肩をゆすられているような気がする。
もう少し寝ていたいけど、布団が剥がされている。
非常に寒い。
僕は丸まって少しでも暖を取ろうとするが、狭くてうまく丸くなれない。
いつものベッドじゃない?
僕は寝る前いったいどこで寝たのかを思い出し、慌てて飛び起きる。
「あの、大丈夫ですか?」
そこには僕と同い年くらいの女の子が僕のことを心配そうに覗きこんでいた。
女の子は亜麻色の髪を肩くらいまで伸ばした可愛い女の子だ。
僕と同じように公園に走りに来たのか、ピッチリしたスポーツウェアを身に纏っていて、引き締まった健康的な魅力に溢れている。
女の子はどうやらベンチで寝ている僕を見て、体調不良かもしれないと心配してくれたようだ。
「すみません。少し眠くなって寝ていただけです。心配をおかけしました」
「そうだったんですか。すみません、逆にお休みのところを邪魔してしまいましたよね」
「いえ、もう起きる時間だったので助かりました」
腕時計を見ると、家を出たときからすでに5時間が経過していた。
どう見積もっても2時間も走っていたとは思えないので最低でも3時間はここで眠っていたことになる。
これ以上この季節の野外で眠っていたら風邪を引いていたかもしれない。
というかすでに喉が痛い気がする。
「びぇっくしょん!ずびっ、本当に助かりました。これ以上ここで寝ていたら風邪をこじらせて肺炎になっていたかもしれませんから」
「本当に大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですよ。ガクガクっブルブルっ」
「だ、大丈夫なんですよね?」
「だ、だいじょぶでし。ゴホゴホッ」
「い、家まで送りましょうか?」
「いえ、ほんとうにだいじょうぶなんで…」
そう言って僕は立ち上がろうとしてふらつき、尻餅をついた。
尻が痛い。
ついでに頭もかなり痛い。
節々も痛い。
手足に力が入らない。
だめだわ、これ完全に風邪引いてる。
「大丈夫じゃないですよね。病院に行ったほうがいいです。ご家族の方と一緒に住んでますか?」
「いえ、ついこのあいだからひとりぐらしです。ゴホゴホッ」
「はぁ、肩につかまってください。病院に行きますよ」
「いや、病院は…きらいなんで」
「子供ですか。じゃあせめて家まで送っていきます」
「いえ、そこまでしてもらうわけには…」
「もういいから抱えますよ」
女の子はそう言って僕の脇に腕を入れると、僕をお姫さま抱っこして歩き出した。
意外と力持ちだな。
いや、僕が軽いのかも。
ただでさえ背も低くて細身なのにこの3日間でさらに痩せた気がする。
それでもやっぱり女の子にお姫様抱っこされるのはかなり恥ずかしいな。
ただ、抵抗しようにも手足が自分の身体じゃなくなったようにうまく動いてくれない。
これ熱40度くらいあるかもな。
「家はどっちですか」
「あっちです…」
僕は男前な女の子に大人しく家まで連れて行ってもらうことしかできなかった。
朦朧とする意識の中、僕は女の子の身体は柔らかくていい匂いがするんだなと場違いなことを考えていた。
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