2 / 25
2.陰陽師になろう
しおりを挟む
僕は考えた。
考えに考え、どうにかして面接を受けることなく、かつそんなに働かずにお金を得られる方法を見つけ出した。
ここはおじいちゃんが生前やっていた古書店なんだ。
だったら古書店を開店すればいいんだ、と。
そうと決まれば僕は古書店の開業に関する情報を集めた。
古書店の開業には古物営業許可という許可がいるらしい。
おじいちゃんがお店をやっていた頃には当然許可はおりていただろうけど、もうおじいちゃんが亡くなってから数年経っている。
新しく許可を取る必要がある。
しかしながら、古物許可は未成年では取れない。
しょうがなく僕は父さんに代わりに許可を取ってもらった。
父さんは生活していけるほどは儲からないと思うぞと言っていたけど、そんなことはやってみないことには分からない。
僕にはこの店だけが希望なんだ。
許可申請手数料の19000円は痛い出費だけど、きっとそれに見合うリターンがある。
僕はそう信じて開店準備をする。
おじいちゃんのコレクションを売るわけにはいかないのでお店に残っていた在庫だけでの営業となる。
いつかは尽きる在庫のことを思うと、どこかで仕入れを行わなくてはいけないだろう。
ブック〇フとかでいいのかな?
うーん、わからないな。
おじいちゃんの店の在庫を見ていくと、どうにもあまり有名作家の小説みたいな本は少ないように思える。
もっとマニア向けの渋い本だ。
ブック〇フにそんなのあるかな。
まあよくわかんないけど、僕が面白いと思う本を仕入れていけばいいのかな。
営業許可が下りるまではまだ1ヶ月くらいはかかるかもしれないと父さんは言っていた。
大学の入学式にはギリギリだけどまあなんとかなるでしょ。
バイトの面接から開放された僕の心は軽かった。
”本書は大陰陽師安倍晴明が記した陰陽道に関する数多くの書物を、私土御門秀親が自分なりに解釈し、実際の修行法や儀式の手順、術の極意などをできるだけ読者の皆様にわかりやすいようにまとめたものです。この本を最後まで読んでいただければ、あなたもきっと立派な陰陽師になっていることでしょう。最後に、陰陽師とは本来明治時代初頭まで存在した官職の名称であり、実際の職業名で申しますと現在では神職か拝み屋などに該当します。しかし本書では陰陽道に精通するものという意味であえて『陰陽師』と呼称しますのであしからず。”
やっぱり雨の日は読書にかぎる。
現在は3月半ば、すでに卒業式は終わり僕は晴れて自由の身だ。
きっと世間の皆様は卒業式後のこの空白を友達と遊んだりして過ごすんだろうな。
卒業旅行とか行っちゃったりしてな。
はは、寂しくなんてない。
大学生になったらきっと友達ができるんだ。
しかしまさか陰陽師が官職名だったとは。
じゃあ現代で陰陽師を名乗っている人はもぐりとか自称とかなのかな。
いや、ほとんどが詐欺師かもしれない。
そんなことを考えながら僕はページをめくる。
”それでは立派な陰陽師になるために一緒に修行していきましょう。まず、霊感のあるという人は一気に15ページまで飛んでください。霊感のないという人は次のページへ。”
僕は次のページだな。
またぺらりとページをめくる。
”このページから読む人は、まず霊力というものを認識する必要があります。眼を瞑り、深呼吸してリラックスしましょう。体勢はどういった風でも構いません。極端に言えばリラックスできるなら寝転がっても構いません。自分の内側に意識を集中し、へその下のあたりから沸きあがってくる力を感じましょう。”
僕は壁に背中を預けて体の力を抜き、身体の内側に意識を集中してみた。
うーん、なにも感じない。
”まあこれが一般的な修行法なのですが、きっと霊感のない皆さんには何も感じることはできないでしょう。ですが安心してください、晴明様式修行法によって必ず皆さんは霊感を開花させることができます。”
書き方がいちいち怪しい商材みたいで胡散臭いんだよ。
結論から書いてほしい。
”晴明様式修行法で大事なのは精神を徹底的に追い込むことです。極限状態にまで追い込まれた精神の中、自分の内面に目を向けたとき、そこに宿る霊力の光にきっと気づくことができるでしょう。”
だからその方法を書け。
”そう、肝心なのはいかに精神を極限状態まで追い込むのかということ。しかしながら普通の人間にそこまで自分の精神を追い込むことができるでしょうか。あなたはそんな状況になったことがありますか?私はありません。”
回りくどい言い回しがイラっとくる。
”人は無意識のうちに精神に多少の余裕をもたせて、精神が壊れてしまわないようにセーフティを設けて生活しています。精神に大きな負荷が掛かり、セーフティが外れるときは、ほとんどの場合そのまま精神が壊れてしまいます。晴明様式修行法では、精神が壊れないように極限状態にする方法、壊れる直前くらいになるちょうどいい修行法などを伝授していきたいと思います。”
だからその方法を(ry。
”それでは皆様、晴明様式修行法で立派な陰陽師になりましょう。そして皆さんお待ちかね、その具体的な方法ですが、それは次のページをご覧ください。”
僕は本を床に投げ捨てた。
もう挫折しそうだ。
考えに考え、どうにかして面接を受けることなく、かつそんなに働かずにお金を得られる方法を見つけ出した。
ここはおじいちゃんが生前やっていた古書店なんだ。
だったら古書店を開店すればいいんだ、と。
そうと決まれば僕は古書店の開業に関する情報を集めた。
古書店の開業には古物営業許可という許可がいるらしい。
おじいちゃんがお店をやっていた頃には当然許可はおりていただろうけど、もうおじいちゃんが亡くなってから数年経っている。
新しく許可を取る必要がある。
しかしながら、古物許可は未成年では取れない。
しょうがなく僕は父さんに代わりに許可を取ってもらった。
父さんは生活していけるほどは儲からないと思うぞと言っていたけど、そんなことはやってみないことには分からない。
僕にはこの店だけが希望なんだ。
許可申請手数料の19000円は痛い出費だけど、きっとそれに見合うリターンがある。
僕はそう信じて開店準備をする。
おじいちゃんのコレクションを売るわけにはいかないのでお店に残っていた在庫だけでの営業となる。
いつかは尽きる在庫のことを思うと、どこかで仕入れを行わなくてはいけないだろう。
ブック〇フとかでいいのかな?
うーん、わからないな。
おじいちゃんの店の在庫を見ていくと、どうにもあまり有名作家の小説みたいな本は少ないように思える。
もっとマニア向けの渋い本だ。
ブック〇フにそんなのあるかな。
まあよくわかんないけど、僕が面白いと思う本を仕入れていけばいいのかな。
営業許可が下りるまではまだ1ヶ月くらいはかかるかもしれないと父さんは言っていた。
大学の入学式にはギリギリだけどまあなんとかなるでしょ。
バイトの面接から開放された僕の心は軽かった。
”本書は大陰陽師安倍晴明が記した陰陽道に関する数多くの書物を、私土御門秀親が自分なりに解釈し、実際の修行法や儀式の手順、術の極意などをできるだけ読者の皆様にわかりやすいようにまとめたものです。この本を最後まで読んでいただければ、あなたもきっと立派な陰陽師になっていることでしょう。最後に、陰陽師とは本来明治時代初頭まで存在した官職の名称であり、実際の職業名で申しますと現在では神職か拝み屋などに該当します。しかし本書では陰陽道に精通するものという意味であえて『陰陽師』と呼称しますのであしからず。”
やっぱり雨の日は読書にかぎる。
現在は3月半ば、すでに卒業式は終わり僕は晴れて自由の身だ。
きっと世間の皆様は卒業式後のこの空白を友達と遊んだりして過ごすんだろうな。
卒業旅行とか行っちゃったりしてな。
はは、寂しくなんてない。
大学生になったらきっと友達ができるんだ。
しかしまさか陰陽師が官職名だったとは。
じゃあ現代で陰陽師を名乗っている人はもぐりとか自称とかなのかな。
いや、ほとんどが詐欺師かもしれない。
そんなことを考えながら僕はページをめくる。
”それでは立派な陰陽師になるために一緒に修行していきましょう。まず、霊感のあるという人は一気に15ページまで飛んでください。霊感のないという人は次のページへ。”
僕は次のページだな。
またぺらりとページをめくる。
”このページから読む人は、まず霊力というものを認識する必要があります。眼を瞑り、深呼吸してリラックスしましょう。体勢はどういった風でも構いません。極端に言えばリラックスできるなら寝転がっても構いません。自分の内側に意識を集中し、へその下のあたりから沸きあがってくる力を感じましょう。”
僕は壁に背中を預けて体の力を抜き、身体の内側に意識を集中してみた。
うーん、なにも感じない。
”まあこれが一般的な修行法なのですが、きっと霊感のない皆さんには何も感じることはできないでしょう。ですが安心してください、晴明様式修行法によって必ず皆さんは霊感を開花させることができます。”
書き方がいちいち怪しい商材みたいで胡散臭いんだよ。
結論から書いてほしい。
”晴明様式修行法で大事なのは精神を徹底的に追い込むことです。極限状態にまで追い込まれた精神の中、自分の内面に目を向けたとき、そこに宿る霊力の光にきっと気づくことができるでしょう。”
だからその方法を書け。
”そう、肝心なのはいかに精神を極限状態まで追い込むのかということ。しかしながら普通の人間にそこまで自分の精神を追い込むことができるでしょうか。あなたはそんな状況になったことがありますか?私はありません。”
回りくどい言い回しがイラっとくる。
”人は無意識のうちに精神に多少の余裕をもたせて、精神が壊れてしまわないようにセーフティを設けて生活しています。精神に大きな負荷が掛かり、セーフティが外れるときは、ほとんどの場合そのまま精神が壊れてしまいます。晴明様式修行法では、精神が壊れないように極限状態にする方法、壊れる直前くらいになるちょうどいい修行法などを伝授していきたいと思います。”
だからその方法を(ry。
”それでは皆様、晴明様式修行法で立派な陰陽師になりましょう。そして皆さんお待ちかね、その具体的な方法ですが、それは次のページをご覧ください。”
僕は本を床に投げ捨てた。
もう挫折しそうだ。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
月華後宮伝
織部ソマリ
キャラ文芸
【10月中旬】5巻発売です!どうぞよろしくー!
◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――?
◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます!
◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~
椿の国の後宮のはなし
犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新です。よろしくお願いします!
架空の国の後宮物語。
若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。
有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。
しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。
幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……?
あまり暗くなり過ぎない後宮物語。
雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。
※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる