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17.ジルタの事情

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 カチリと嵌るパーツ。
 ボルトハンドルを引けば、弾倉の弾丸が薬室に正常に装填される。
 とりあえず一組、銃が完成した。
 作ったのは拳銃でもアサルトライフルでもない。
 そんなものではきっとあの鹿は狩れない。
 俺が作ったのはアンチマテリアルライフル、対物ライフルとも呼ばれる銃だ。
 攻撃対象は生き物ではなく物。
 遮蔽物に隠れる敵や、装甲車に乗った敵を障害物ごと撃ち抜くための銃だ。
 その弾丸は12.7ミリという馬鹿でかい大きさをしている。
 アフリカにはもっと大きな弾を撃ち出す銃があるらしいが、俺はその構造を知らない。
 作るためには手探りで弾を大きくして弾薬を増やす必要があるが、それには多くの実験が必要になるだろう。
 今回作ったアンチマテリアルライフルだって一応は設計図どおりに作ったものの、何度も何度も実験をしているのだ。
 強度の計算や弾薬の量を少し間違えるだけで銃は暴発してしまう。
 基本的に危険な森での狩りは分身で行なうので命の心配は必要ないかもしれないが、銃の暴発なんて絶対痛いからな。
 また悶絶することになるのはごめんだ。
 まだこれから命中精度の実験もある。
 あと何組か組み立てておくべきだろう。
 一番癖が少なく命中精度が高いものを選べばいい。
 俺は分身と2人で銃を組み立てていった。





 強い衝撃と共に、分身が消滅する。
 やはりこうなってしまったか。
 アンチマテリアルライフルの反動が強すぎたのだ。
 ライフルを撃つときはその反動を身体で受けて殺し、銃口がぶれないようにする必要がある。
 だがアンチマテリアルライフルの反動はまるで肩を殴られたような強さだ。
 殴られれば消える分身が消えてしまうのも無理はない。
 
「1発撃ったら消えるのか……」

 撃ったら消えてしまっていては魔獣の素材が回収できない。
 魔力値を上げるだけならば殺した魔獣は放置でも問題ないだろう。
 しかし魔獣の素材は高く売れる。
 放置するのはもったいない気がする。
 銃を撃って消える分身と、仕留めた獲物を回収するための分身、二人一組で行動させるのがいいかもしれない。
 もし銃弾が急所に当たっておらず仕留めきれていなかった場合でもトドメを刺すことができて一石二鳥だ。

「あとは距離の測定の問題か」

 弾速の速いアンチマテリアルライフルで4、500メートル先を狙うには関係が無いかもしれないが、距離を正確に測る術が乏しいことも問題といえば問題だ。
 狙撃銃にとって標的との距離を正確に測るというのは非常に重要なことだ。
 高速で飛ぶ銃弾だって重力の影響を受けている。
 弾は飛距離が伸びるにつれて地面に向かって落ちて行くのだ。
 離れた場所の標的を狙うほどその誤差は大きくなる。
 その落下も計算に入れて標的を照準するためには、標的との距離を正確に測定する必要があるのだ。
 スコープも並行にしてレティクルの中心よりも下を狙えば問題ないかもしれないが、レティクルの中心に標的が来るようにするのであれば距離の計算が必要になる。
 レーザー測距機を作れたら良かったのだが、たぶん無理だ。
 大まかな原理は知っているが、あれは市販のものでも誤差が出るような代物だ。
 素人が作ったものがまともに距離を測れるとは思えない。
 ハイテクな測量機器が無くとも、大体の距離を測る方法というのはある。
 標的の大きさが分かっていれば、ミル目盛りを用いて標的との距離を計算することは可能だろう。
 標的の大きさがいつも分かっているとは限らないしやや正確性に欠けるが、これ以上の方法は思いつかない。
 2000メートルからの狙撃を依頼されているわけでもないし、これでも十分かもしれない。
 強い敵に対して距離をとれないのは少し不安だが、撃つのは分身だしな。
 世の中には手に握ったあんこや酢飯の量をグラム単位で正確に量れる人だっているんだ。
 俺だって訓練していけば見ただけで標的までの距離が正確に分かるようになるかもしれない。
 人間の感覚というのは時に機械を上回る。
 今後の訓練に期待だ。





「ふぅ、生き返るな」

「そうですね」

 最近では一日の終わりには必ず風呂屋に行くようにしている。
 ひとりだったら自分の匂いなんて気にならないが、二人だとお互いに気になるだろうからな。
 あちらの世界ではスメルハラスメントなどという言葉もあったくらいだし、嗅覚の敏感な獣人と共同生活をするのならば気をつけたほうがいい。
 この国の人間はよほど獣人が嫌いなのか、ジルタが入ってきた途端に全員風呂から上がっていった。
 毎回貸切で入れて快適だ。

「分身との訓練が結構様になってきたじゃないか。スキルが成長した感覚はあったか?」

「頭で考えなくても体が動くようになってきた気がします。イズミさんは忙しそうにしてましたが、身体強化スキルの習得はどうですか?」

「なんとなくこうやってるんだろうな、てことは分かった。だがスキルは芽生えないな。最近は訓練の時間も少なかったし」

 銃を作ることに夢中になって身体強化スキルの訓練がおざなりになっていたことは否めない。
 銃は一応完成したし、そろそろ本気で身体強化スキルの訓練に打ち込むとしようかな。

「イズミさんは、身体強化スキルを習得して何をするつもりなんですか?」

「別になにも。ただ身体強化を使えたら死ぬ確立は低くなるし、魔獣を狩るのにも役立つだろう。俺は一応狩人なんでね」

「そうですか……」

「お前は、対人戦闘術を身につけて何をするんだ?」

 聞くつもりはなかったのだが、つい話の流れで聞いてしまった。
 後悔しても口から出た言葉は戻らない。

「復讐です」

「……………………」

 俺は何も言えず黙り込む。
 コミュ力の高い奴は暗い顔してこんなことを言う子供になんて返すんだろうな。
 
「止めますか?復讐は無駄だって。復讐しても死んだ人は喜ばないんだって」

「いや、復讐は生きてる奴のためのものだ。死んだ奴は関係ないさ」

「そう、ですよね。本当は分かっているんです。こんなのは自己満足だって。でも、自分でも止まれないんです」

「憎い奴をぶっ殺してこれからお前が生きていく希望が湧いてくるならやればいいさ。だが、復讐対象を殺してお前も死ぬつもりならやめて欲しいな。俺はお前とまだ何週間かしか一緒にいないけど、死んだらそれなりに悲しいし死ぬ原因となった復讐対象に憎しみを抱くかもしれない。そしたら今度は俺が復讐だなんだと逆恨みすることになる」

「そうやって憎しみの連鎖って続いていくんでしょうね……」

 ジルタはそれだけ言うと風呂から上がって脱衣所に向かった。
 やはり何週間か一緒に過ごしただけの俺なんかの言葉では、復讐を思いとどまるには弱いか。
 なんだかもやもやして誰もいなくなった浴場でクロールした。
 のぼせた。

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