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8.冒険者ギルド

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「何か格闘技を修めているわけでもない。身体を鍛えているわけでもない。お前たちは何を根拠に恐喝なんかやっていたんだ?」

「ご、ごべんなざい……」

 男は俺に胸倉を掴まれても抵抗することもなくぐったりとしている。
 痛みへの耐性も極端に低い。
 殴られるのが嫌なら恐喝なんてしなければいい。
 こいつらの力で恐喝を続けていればいつかはこんなことになるのは分かりきった話だ。
 自分たちがこの世で一番強いとでも思っていたのだろうか。
 俺は遺伝子操作とナノマシンによって極限までポテンシャルを引き出された強化兵士だ。
 こいつらよりも強いのは当然の話だ。
 だが、こいつら程度ならばそれほど戦闘に適性の無い人間でも数週間も格闘技を習えばボコボコにできるだろう。
 これまでこのゴロツキ共が生き延びることができたのは単に運がよかっただけに過ぎない。

「まあいい。おまえたち俺の顔は覚えたな?俺はそこの廃墟に住み着いているウィリアムという者だ。お前たちのような人間に毎回絡まれるのは面倒だ。俺のことをこの町の住人に伝えておけ」

 ゴロツキたちはほとんど意識を失っているようだったが、胸倉を掴んでいた1人がかろうじて首を縦に振って返事を返す。
 こいつらがこの貧民街でどの程度の影響力を持っているかはわからないが、何もしないよりはいい。





 ドローンでの偵察で前々から目をつけていた屋台で食事をとる。
 他の屋台は二足歩行の豚の化け物みたいなやつの肉や巨大な蛇の肉などの俺にとってなじみの無い食材を使った料理を出す店が多いが、この屋台だけは普通の羊の肉を使っていた。
 何の工夫もなく一口サイズにカットされた羊肉を串に刺し、塩を振って炭火で焼いただけの料理だ。
 肉質は硬く、少し臭みもあるが久しぶりに口にする本物の肉に涙が出そうになる。
 やはり肉だけは本物にかぎる。

「お客さん、うちの屋台を選んだってことは他所の人かい?」

「ああ、最近この町に来た。なぜわかった?」

「ははは、うちみたいななんの変哲もない羊肉を出す店にくるのは魔物の肉に慣れていない都会の人間しかいないんだよ」

 地元の人間はどうやら化け物の食材を使った屋台料理を好んでいるらしいな。
 この世界では化け物みたいな生き物を魔物と呼んで普通の動物とは分けている。
 魔石とよばれるエネルギーストーンを体内に宿しているからだとか。
 ドローンが空から撮影した映像を元に作成した地図によると、この町は国内ではかなりの辺境に位置している。
 魔物というのは人間にとっての脅威なために、国の内側に行けば行くほど駆逐されており安全だ。
 しかしその分魔物の肉や毛皮などの物資は手に入りにくい。
 それゆえに魔物の肉の値段が国の中央と辺境では異なっているのだろう。
 味も魔物の肉のほうが美味いからなのかもしれないが、中央では高い金を出さなければ手に入らない肉を自分たちは安く食べられるという自負から地元の人間は魔物の肉を好むらしい。
 そんなに美味いなら俺もおいおいチャレンジしてみようと思う。

「ところで、この町で魔物を狩る職業になるためにはどうしたらいいんだ?」

「冒険者のことかい?この町もなにも、どこの町でも冒険者になるには冒険者ギルドに登録しに行くに決まっているだろう?あんた冒険者ギルドもないような遠くの国から来たのかい?」

「ああ。距離でいえば人が一生歩いてもたどり着けないような場所から来たばかりなんだ。それで、冒険者ギルドっていうのはどこにあるんだ?」

 店主に冒険者ギルドまでの地図を描いてもらい、お礼にもう1本串焼きを買う。
 まずは魔物を狩る許可を得なければならない。
 人々の生活を脅かす魔物を狩るのに許可もなにもないかもしれないが、何かケチをつけられてもたまらない。
 これから生態系の調査や訓練のために魔物を相当数狩る予定なので、冒険者ギルドというのに登録しておいたほうがいいだろう。





 冒険者になるにはなんの資格も必要ない。
 生まれも経歴も何も問われない。
 申請用紙に記入したのは名前と年齢、そしてどれだけ戦えるか。
 たったそれだけだ。
 あとは登録手数料を支払えば軍のドッグタグのような登録証が渡され、終了だ。
 まるで貧民街の口入屋のようだな。
 この組織は別に冒険者を管理しているわけでも行動に責任を持つわけでもないので登録は適当なのだろう。
 冒険者はすべてにおいて自己責任だ。
 冒険者ギルドは仕事の斡旋をするが、仕事の失敗には責任を負わない。
 それ以外にも冒険者ギルドにとって不利益となるような行動をとった冒険者の処分についてなどが書き綴られた規約が冒険者ギルドの壁には掲げられている。
 普通に仕事をしていればそれほど気にする必要のないようなものばかりだったので問題はないと思うがな。

「それでは登録は以上となります。依頼はあちらの掲示板に貼りだされています。素材の買い取りはあちらのカウンターです」

 素材の買い取りも依頼もいまのところは関係のない話だ。
 だが情報収集のために依頼の貼りだされた掲示板と素材の買い取り価格などを見ておくか。
 まずは素材の買い取り価格だ。
 買い取りは右側のカウンターだったな。
 俺はカウンターに座る初老の男に話しかける。

「どのような魔物の素材がどの程度の価値で買い取られているのかを教えてくれないか」

「全部かい?覚えられるのかい」

「問題ない」

 音声データを記録しておけばたとえ忘れたとしても後で確認することができる。
 男は魔物の名前とどのような姿をした魔物なのかを簡単に説明し、その魔物のどの部位がいくらで買い取りされているのかを教えてくれた。
 この町は辺境なだけあって周辺で狩ることができる魔物が多い。
 男が挙げた魔物の名前は30種類ほどになった。

「というわけだ。ちゃんと覚えられたかい?もう一度説明するのは勘弁だよ」

「問題ない。助かったよ」

「そうかい」

 30種類ほどならば覚えられないということはない。
 一応携帯端末で録音した音声データはメティスに送っておく。
 こういった生の情報というのはドローンでは収集しにくい情報だからな。
 俺が実際に地上に出て調査を行う以上は、ドローンでは調査できないようなことに重点を置く必要がある。
 具体的には、現地人との会話と買い物だ。
 ドローンでは現地人に直接話しかけることも金を払って物を買うこともできないからな。
 俺は買い取りカウンターの男にチップとして銅貨を数枚渡してカウンターを離れる。
 この世界ではチップは人間関係を円滑にするために非常に重要な役割を果たしているらしいので俺もそれに習った。
 どこの世界でもケチは無用な恨みを買いやすい。

「さて、次は依頼だが……」

「おいあんた、今冒険者登録したばかりだろ?俺たちが色々教えてやろうか?銀貨1枚ずつでいいぜ」

 俺が買い取りカウンターの男にチップを弾んだのを見ていたのか、ダニのような輩が湧きだした。
 チップの枚数を間違えたか。
 俺が買い取りカウンターの男に渡した銅貨数枚というのは大人一人が一晩宿に泊まれるくらいの額だ。
 買い取り価格を聞いただけにしては渡しすぎたのかもしれない。
 気前がいいところを見せたほうがいいと思っていたが、どうやら多すぎるとこういう輩を寄せ付けるらしい。

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