断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
4 / 7

閑話2 国王視点

しおりを挟む
「このっ、馬鹿者がっ!!!」

「ひっ、ち、父上、しかし私は正しいと思ったことを……」

「ふざけるな!!勝手に婚約破棄してあまつさえ相手にワインをぶっかけて頬を叩くのが貴様の正しいと思ったことか!!!」

「父上、あの女は性悪です!!リリアを影でいじめていたんだ!!僕はリリアを守るために……」

「リリアって誰だ馬鹿者が!!!」

 ああ、頭が痛い。
 でかい声なんて久しぶりに出したので喉も痛い。
 怒りで血圧が上がったのか眩暈もする。
 もう王なんてやめてしまおうか。

「はぁはぁ、もういい。お前たちの処分は追って……」

「父上!僕は悪いことはしておりません!!僕は真実の愛に……」

「もういいと言っておるだろうが。とにかく辺境伯に詫びを入れにいかんとならん」

 とにかく謝らないと。
 正直あのじいさんは苦手だ。
 しかし私は一国の王なのだ。
 苦手な相手にも頭を下げなければならない。
 辛い仕事だ。
 ふと息子を見るとふてくされたような顔をしている。
 殴りたいその顔。
 エリカ嬢にワインをかけたという宰相の息子も、頬を叩いたという騎士団長の息子も同じような顔をしていた。
 なんなのだこいつらは。
 私がこれからあの怖いじいさんに謝りに行かなければならないというのに。
 もう王なんてやめたい。
 そんなことを思っていると、執務室の扉が開いて鎧姿の父上、先王が入ってきた。
 こんな姿の父上はいつ以来に見るだろうか。
 というかなぜ鎧?

「なんじゃ馬鹿息子に馬鹿孫、お主らまだ甲冑も着ておらんではないか」

「は?甲冑?」

「馬鹿者が、戦じゃぞ?はよう甲冑着込んで兵の前に姿を現さんか。士気に関わる」

「いえ、父上、その件でしたらお互いに誤解があったようなので、これからお詫びにお伺いしようかと……」

「だからお前は馬鹿だと言っておるのだ。もう戦の火蓋は切られておる。今からお前が詫び入れて、じゃああのジジイ共が兵を率いて王都の前まで攻め寄せたのを許してやるっていうのか?当然お前やその馬鹿孫の首もくれてやるってことだよな?」

「そんな、首なんて……」

 嫌だ。
 死ぬのなんて嫌だ。
 なんなのだ戦とは。
 戦とはそこまでしなければならないものなのか?

「というか縁談結んだ相手に勝手に破談を申し入れてワインぶっかけてビンタして帰すなんて、お前らよくあのじじいにそこまでのことができたな。ワシなら絶対やらんわ。おっかねえもん」

「いえ、私もあのお方は苦手です」

「だからじじいを身内にするために馬鹿孫の縁談にはワシが口を出したのだ。あのじじいに王家に対する忠誠心なんかあると思うか?あれは生まれながらの獣じゃ。しかし道理のわかる獣よ。だから縁談じゃ」

「ではアドルフは……」

「じじいに絡みついた人界の道理という鎖を見事に打ち砕く妙手。敵国の工作員だったらあっぱれと言いたいのう」

「僕は真実の愛で……」

「なんじゃそれ、馬鹿か?」

「ひっ」

 もう無理なのだろうか。
 この戦は避けられんのか。

「この戦、もはや止まらぬ。ならばどうすればよいのか。馬鹿息子よ。ちょうどよいからワシが乱世の理を教えてやろう」

「乱世の理、ですか」

「そうだ。この世は結局弱肉強食じゃ。お前のような一国の王までもが平和ボケできるくらい長く平和の続いた時代でも、実はそれは変わらずそこにある事実なのだ。食われないためには力を示せ。じじいを止めたきゃぶち当たってぶん殴るしかない。それで引き分けにして手打ちじゃ。これしかどちらも生き残る方法はない」

 なんというか、野蛮だ。


しおりを挟む
感想 57

あなたにおすすめの小説

お父様、お母様、わたくしが妖精姫だとお忘れですか?

サイコちゃん
恋愛
リジューレ伯爵家のリリウムは養女を理由に家を追い出されることになった。姉リリウムの婚約者は妹ロサへ譲り、家督もロサが継ぐらしい。 「お父様も、お母様も、わたくしが妖精姫だとすっかりお忘れなのですね? 今まで莫大な幸運を与えてきたことに気づいていなかったのですね? それなら、もういいです。わたくしはわたくしで自由に生きますから」 リリウムは家を出て、新たな人生を歩む。一方、リジューレ伯爵家は幸運を失い、急速に傾いていった。

妹の事が好きだと冗談を言った王太子殿下。妹は王太子殿下が欲しいと言っていたし、本当に冗談なの?

田太 優
恋愛
婚約者である王太子殿下から妹のことが好きだったと言われ、婚約破棄を告げられた。 受け入れた私に焦ったのか、王太子殿下は冗談だと言った。 妹は昔から王太子殿下の婚約者になりたいと望んでいた。 今でもまだその気持ちがあるようだし、王太子殿下の言葉を信じていいのだろうか。 …そもそも冗談でも言って良いことと悪いことがある。 だから私は婚約破棄を受け入れた。 それなのに必死になる王太子殿下。

平民の娘だから婚約者を譲れって? 別にいいですけど本当によろしいのですか?

和泉 凪紗
恋愛
「お父様。私、アルフレッド様と結婚したいです。お姉様より私の方がお似合いだと思いませんか?」  腹違いの妹のマリアは私の婚約者と結婚したいそうだ。私は平民の娘だから譲るのが当然らしい。  マリアと義母は私のことを『平民の娘』だといつも見下し、嫌がらせばかり。  婚約者には何の思い入れもないので別にいいですけど、本当によろしいのですか?    

結婚したけど夫の不倫が発覚して兄に相談した。相手は親友で2児の母に慰謝料を請求した。

window
恋愛
伯爵令嬢のアメリアは幼馴染のジェームズと結婚して公爵夫人になった。 結婚して半年が経過したよく晴れたある日、アメリアはジェームズとのすれ違いの生活に悩んでいた。そんな時、机の脇に置き忘れたような手紙を発見して中身を確かめた。 アメリアは手紙を読んで衝撃を受けた。夫のジェームズは不倫をしていた。しかも相手はアメリアの親しい友人のエリー。彼女は既婚者で2児の母でもある。ジェームズの不倫相手は他にもいました。 アメリアは信頼する兄のニコラスの元を訪ね相談して意見を求めた。

断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ
恋愛
 子爵令嬢に陥れられ第二王子から婚約破棄を告げられたアンジェリカ公爵令嬢。第二王子が断罪しようとするも、証拠を突きつけて見事彼女の冤罪を晴らす男が現れた。男は公爵令嬢に跪き…… 「この機会絶対に逃しません。ずっと前から貴方をお慕いしていましたんです。私と婚約して下さい!」     ええっ!あなた私の婚約者ですよね!?

【完結】「婚約者は妹のことが好きなようです。妹に婚約者を譲ったら元婚約者と妹の様子がおかしいのですが」

まほりろ
恋愛
※小説家になろうにて日間総合ランキング6位まで上がった作品です!2022/07/10 私の婚約者のエドワード様は私のことを「アリーシア」と呼び、私の妹のクラウディアのことを「ディア」と愛称で呼ぶ。 エドワード様は当家を訪ねて来るたびに私には黄色い薔薇を十五本、妹のクラウディアにはピンクの薔薇を七本渡す。 エドワード様は薔薇の花言葉が色と本数によって違うことをご存知ないのかしら? それにピンクはエドワード様の髪と瞳の色。自分の髪や瞳の色の花を異性に贈る意味をエドワード様が知らないはずがないわ。 エドワード様はクラウディアを愛しているのね。二人が愛し合っているなら私は身を引くわ。 そう思って私はエドワード様との婚約を解消した。 なのに婚約を解消したはずのエドワード様が先触れもなく当家を訪れ、私のことを「シア」と呼び迫ってきて……。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの。

朝霧心惺
恋愛
「リリーシア・ソフィア・リーラー。冷酷卑劣な守銭奴女め、今この瞬間を持って俺は、貴様との婚約を破棄する!!」  テオドール・ライリッヒ・クロイツ侯爵令息に高らかと告げられた言葉に、リリーシアは純白の髪を靡かせ高圧的に微笑みながら首を傾げる。 「誰と誰の婚約ですって?」 「俺と!お前のだよ!!」  怒り心頭のテオドールに向け、リリーシアは真実を告げる。 「わたくし、残念ながらその書類にはサインしておりませんの」

侯爵令嬢は限界です

まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」 何言ってんだこの馬鹿。 いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え… 「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」 はい無理でーす! 〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇 サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。 ※物語の背景はふんわりです。 読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

処理中です...