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閑話2 国王視点
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「このっ、馬鹿者がっ!!!」
「ひっ、ち、父上、しかし私は正しいと思ったことを……」
「ふざけるな!!勝手に婚約破棄してあまつさえ相手にワインをぶっかけて頬を叩くのが貴様の正しいと思ったことか!!!」
「父上、あの女は性悪です!!リリアを影でいじめていたんだ!!僕はリリアを守るために……」
「リリアって誰だ馬鹿者が!!!」
ああ、頭が痛い。
でかい声なんて久しぶりに出したので喉も痛い。
怒りで血圧が上がったのか眩暈もする。
もう王なんてやめてしまおうか。
「はぁはぁ、もういい。お前たちの処分は追って……」
「父上!僕は悪いことはしておりません!!僕は真実の愛に……」
「もういいと言っておるだろうが。とにかく辺境伯に詫びを入れにいかんとならん」
とにかく謝らないと。
正直あのじいさんは苦手だ。
しかし私は一国の王なのだ。
苦手な相手にも頭を下げなければならない。
辛い仕事だ。
ふと息子を見るとふてくされたような顔をしている。
殴りたいその顔。
エリカ嬢にワインをかけたという宰相の息子も、頬を叩いたという騎士団長の息子も同じような顔をしていた。
なんなのだこいつらは。
私がこれからあの怖いじいさんに謝りに行かなければならないというのに。
もう王なんてやめたい。
そんなことを思っていると、執務室の扉が開いて鎧姿の父上、先王が入ってきた。
こんな姿の父上はいつ以来に見るだろうか。
というかなぜ鎧?
「なんじゃ馬鹿息子に馬鹿孫、お主らまだ甲冑も着ておらんではないか」
「は?甲冑?」
「馬鹿者が、戦じゃぞ?はよう甲冑着込んで兵の前に姿を現さんか。士気に関わる」
「いえ、父上、その件でしたらお互いに誤解があったようなので、これからお詫びにお伺いしようかと……」
「だからお前は馬鹿だと言っておるのだ。もう戦の火蓋は切られておる。今からお前が詫び入れて、じゃああのジジイ共が兵を率いて王都の前まで攻め寄せたのを許してやるっていうのか?当然お前やその馬鹿孫の首もくれてやるってことだよな?」
「そんな、首なんて……」
嫌だ。
死ぬのなんて嫌だ。
なんなのだ戦とは。
戦とはそこまでしなければならないものなのか?
「というか縁談結んだ相手に勝手に破談を申し入れてワインぶっかけてビンタして帰すなんて、お前らよくあのじじいにそこまでのことができたな。ワシなら絶対やらんわ。おっかねえもん」
「いえ、私もあのお方は苦手です」
「だからじじいを身内にするために馬鹿孫の縁談にはワシが口を出したのだ。あのじじいに王家に対する忠誠心なんかあると思うか?あれは生まれながらの獣じゃ。しかし道理のわかる獣よ。だから縁談じゃ」
「ではアドルフは……」
「じじいに絡みついた人界の道理という鎖を見事に打ち砕く妙手。敵国の工作員だったらあっぱれと言いたいのう」
「僕は真実の愛で……」
「なんじゃそれ、馬鹿か?」
「ひっ」
もう無理なのだろうか。
この戦は避けられんのか。
「この戦、もはや止まらぬ。ならばどうすればよいのか。馬鹿息子よ。ちょうどよいからワシが乱世の理を教えてやろう」
「乱世の理、ですか」
「そうだ。この世は結局弱肉強食じゃ。お前のような一国の王までもが平和ボケできるくらい長く平和の続いた時代でも、実はそれは変わらずそこにある事実なのだ。食われないためには力を示せ。じじいを止めたきゃぶち当たってぶん殴るしかない。それで引き分けにして手打ちじゃ。これしかどちらも生き残る方法はない」
なんというか、野蛮だ。
「ひっ、ち、父上、しかし私は正しいと思ったことを……」
「ふざけるな!!勝手に婚約破棄してあまつさえ相手にワインをぶっかけて頬を叩くのが貴様の正しいと思ったことか!!!」
「父上、あの女は性悪です!!リリアを影でいじめていたんだ!!僕はリリアを守るために……」
「リリアって誰だ馬鹿者が!!!」
ああ、頭が痛い。
でかい声なんて久しぶりに出したので喉も痛い。
怒りで血圧が上がったのか眩暈もする。
もう王なんてやめてしまおうか。
「はぁはぁ、もういい。お前たちの処分は追って……」
「父上!僕は悪いことはしておりません!!僕は真実の愛に……」
「もういいと言っておるだろうが。とにかく辺境伯に詫びを入れにいかんとならん」
とにかく謝らないと。
正直あのじいさんは苦手だ。
しかし私は一国の王なのだ。
苦手な相手にも頭を下げなければならない。
辛い仕事だ。
ふと息子を見るとふてくされたような顔をしている。
殴りたいその顔。
エリカ嬢にワインをかけたという宰相の息子も、頬を叩いたという騎士団長の息子も同じような顔をしていた。
なんなのだこいつらは。
私がこれからあの怖いじいさんに謝りに行かなければならないというのに。
もう王なんてやめたい。
そんなことを思っていると、執務室の扉が開いて鎧姿の父上、先王が入ってきた。
こんな姿の父上はいつ以来に見るだろうか。
というかなぜ鎧?
「なんじゃ馬鹿息子に馬鹿孫、お主らまだ甲冑も着ておらんではないか」
「は?甲冑?」
「馬鹿者が、戦じゃぞ?はよう甲冑着込んで兵の前に姿を現さんか。士気に関わる」
「いえ、父上、その件でしたらお互いに誤解があったようなので、これからお詫びにお伺いしようかと……」
「だからお前は馬鹿だと言っておるのだ。もう戦の火蓋は切られておる。今からお前が詫び入れて、じゃああのジジイ共が兵を率いて王都の前まで攻め寄せたのを許してやるっていうのか?当然お前やその馬鹿孫の首もくれてやるってことだよな?」
「そんな、首なんて……」
嫌だ。
死ぬのなんて嫌だ。
なんなのだ戦とは。
戦とはそこまでしなければならないものなのか?
「というか縁談結んだ相手に勝手に破談を申し入れてワインぶっかけてビンタして帰すなんて、お前らよくあのじじいにそこまでのことができたな。ワシなら絶対やらんわ。おっかねえもん」
「いえ、私もあのお方は苦手です」
「だからじじいを身内にするために馬鹿孫の縁談にはワシが口を出したのだ。あのじじいに王家に対する忠誠心なんかあると思うか?あれは生まれながらの獣じゃ。しかし道理のわかる獣よ。だから縁談じゃ」
「ではアドルフは……」
「じじいに絡みついた人界の道理という鎖を見事に打ち砕く妙手。敵国の工作員だったらあっぱれと言いたいのう」
「僕は真実の愛で……」
「なんじゃそれ、馬鹿か?」
「ひっ」
もう無理なのだろうか。
この戦は避けられんのか。
「この戦、もはや止まらぬ。ならばどうすればよいのか。馬鹿息子よ。ちょうどよいからワシが乱世の理を教えてやろう」
「乱世の理、ですか」
「そうだ。この世は結局弱肉強食じゃ。お前のような一国の王までもが平和ボケできるくらい長く平和の続いた時代でも、実はそれは変わらずそこにある事実なのだ。食われないためには力を示せ。じじいを止めたきゃぶち当たってぶん殴るしかない。それで引き分けにして手打ちじゃ。これしかどちらも生き残る方法はない」
なんというか、野蛮だ。
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