断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉

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1.婚約破棄

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「おじい様、ごめんなさい。せっかく買っていただいたドレスを汚してしまいました」

 そう言って孫娘のエリカが泣きながら帰ってきたのは夕食を済ませたすぐのことだった。
 エリカは今日王家が主催のパーティに出かけて行ったはずだったが、帰って来るのが早すぎる。
 それにこのドレスの汚れ、まるでワインを頭からかけられたような汚れじゃ。
 そして最後に腫れ上がった左頬、これは明らかに暴力を振るわれた痕跡。
 ワシは怒りで目の前が真っ赤に燃えたような錯覚を覚えた。
 昔から沸点が低いのがワシの悪い癖じゃ。 
 ワシは拳を血が出るほどに握りしめて一時の冷静さを得ると、エリカに何があったのかを尋ねる。

「ぐすんっ、王子に、アドルフ王子に婚約を破棄されてしまいましたわ……」

「ど、どういうことじゃ?あの婚約は王家の側が言い出したこと。それを……」

「お嬢様は何も悪くないのは私共が見ておりました。殿下の行いは度が過ぎております」

 エリカは泣いてしまって話せる状況ではないので、ついて行った従者から詳しい話を聞く。
 なんとも度し難い話じゃ。
 エリカは王子に婚約を破棄されたばかりではなく、その取り巻きたちによって暴力を振るわれておった。
 宰相の息子にはワインを頭からかけられ、騎士団長の息子には頬をビンタされたらしい。
 先ほど収めたはずの怒りが込み上がってくるのを感じる。
 もはやこれは家同士だけの話だけでは済まん。
 いや、済まさせん。
 ワシの中には50年以上前の記憶が掘り起こされる。
 乱世の最中、先王と共に戦場を駆け抜けたのが懐かしいな。
 その息子である王に矛を向けるのは不義理かもしれん。
 だが先に不義理をしたのはそちらだ。
 家同士の縁談は家と家との誼を結ぶためのもの。
 それを破棄して孫娘に暴力を振るったのはお前と今後一切仲良くするつもりはないという宣言にほかならぬ。
 もはや宣戦布告と同義じゃ。
 ワシは決意を固めた。
 家宰を呼び、指示を出す。

「辺境伯家の縁者全員を王都から退避させよ。戦じゃ」

「はっ、かしこまりました」

「ワシは領地に戻って兵を集結させる。王都からの退避の指揮はお前に任せる」

「はっ、お気をつけて」

 ああ、お前もな。

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