竜人のメソッド

兎屋亀吉

文字の大きさ
上 下
2 / 6

2.盗賊

しおりを挟む
 竜人族の里を出た俺は、人間達の街に向かうことにした。
 それというのも、あいつらはこの世界のどこにでも大体いる。
 数だけは多い下等種族というのが俺の印象だ。
 世界を旅しようと思ったら、避けては通れない種族といえるだろう。
 あまり気は進まないが、他に行く場所もないのでしょうがない。
 俺は人間の街に向かう街道目指して森の中を駆ける。
 街道までは大体竜人族の脚で半日くらいだ。
 人間は明らかな格上である竜人族まで支配しようとするような愚かな種族だが、人間の脚では竜人族の里にたどり着くことは難しいだろう。
 俺達竜人族にとってただの段差でしかないような崖でさえ、人間には難所となってしまう。
 そのくらい能力に違いがあるのだ。
 ましてや道中には竜人族でさえ足早に通り過ぎるような危険な魔物の縄張りもある。
 まず人間に侵略される心配はないだろう。
 里を追放されてしまった今となっては、そんなことを俺が考える必要もない。
 俺は街道へと急いだ。
 今は全力で走っていたい気分だった。
 


「これが人間の作った街道か……」

 俺は里の外に出るのが初めてなので街道というものも初めて見る。
 なるほど。
 木を切り開いて歩きやすいなだらかな道にしているのか。
 こうしてわざわざ作った道というもの自体を初めて見る。
 俺にとって道というものは人が歩いていれば勝手にできているものという認識だったのだが、こうして広い道が作ってあれば確かに歩きやすいものだ。
 しかし、どちらに行けば街に着くのか分からない。
 道というからにはどこかに向かうことを目的としているはずであり、どちらに行っても最終的には街に着くのだろうが近い方が良いに決まっている。
 参ったな、なにか街の痕跡のようなものがないだろうか。
 俺はおもむろに風の匂いを嗅いでみた。
 竜人族の嗅覚であれば、近くの街の匂いを嗅ぎ分けることもできるはずだと思ったのだ。
 近くに街があればの話だが。
 幸いにもそれほど遠くない場所に人間の暮らす場所はあるらしく、風上からわずかな煙の匂いがしてくる。
 俺は風上に向かって走り始める。
 歩くなんて時間の無駄なことはしない。
 この街道というのは格別に走りやすい。
 森の中とは比べ物にならないほどの速度が出る。
 煙の匂いは強くなっている。
 この近くに人間が生活している場所があるのだろう。
 俺は速度を緩めた。
 ちょうど街道が真っ直ぐな道になっているあたりだ。
 俺の目に街道を塞ぐなんだか分からないものが見えてくる。
 木でできた箱に、丸いものを付けたようなもの。
 それが横倒しになって街道を塞いでいるのだ。
 あれは確か本で読んだことがある。
 馬車というものだ。
 人間は足腰が脆弱なので、丸い車輪というものを付けた箱のようなものを動物に引かせて移動するのだ。
 ではあそこには人間がいるということだろうか。
 ちょうどいい、人間の街というのがどこにあるものなのか聞けるかもしれない。
 俺は横倒しになった馬車に走り寄っていった。
 しかし何故だろうか、馬車に近づくにつれて血の匂いが漂ってくるようになった。
 それもちょっとやそっとの血の匂いではない。
 人間であれば5人か6人くらい死んでいてもおかしくないような濃厚な血の匂いだ。
 これはタダゴトではないな。
 人間のような下等種族が何人死のうが知ったことではないが、人間の街の場所を聞ける奴がひとりくらい残っていてほしい。
 人間達の声が聞こえるような距離に近づくと、何が起こっているのかがはっきりとわかった。
 略奪だ。
 横転した馬車から、小汚い格好をした人間達が金目の物を強奪している。
 これは盗賊というやつなのではないだろうか。
 下等種族である人間は、意地汚くも同族から略奪を行うという話は本当だったのか。
 俺はゆっくり近づいていく。
 人間達はまだ距離があって俺の存在に気がついていないようだが、俺からは馬車がよく見える。
 馬車は3台で、2台は完全に扉まで壊されて中を漁られている。
 しかし最後の一台ではまだ馬車の持ち主が健在なようで、数人の戦士風の人間達が盗賊と応戦している。
 まあそれも長くはもたないだろうが。
 人数が違いすぎる。
 馬車の持ち主側の戦士たちは全部で5人だ。
 それに比べて盗賊は20人を超える。
 竜人と人間くらいの違いでもないかぎりは数の差は覆せないだろう。
 こうしている間にも俺はゆっくりと近づいていく。
 ようやく人間達は俺の姿を視認したようだ。
 
「止まれぇ!!死にたくなかったら金目のものをすべて置いていけ」

「なぜ貴様らの指図など受けなければならん。下等種族が」

 俺は目の前のこいつを敵と認識し、顔面を殴り飛ばした。
 ぐしゃりという軽い手ごたえ。
 この程度で頭蓋骨が砕けたか。
 脆弱な種族だ。
 
「な、なんだてめえ。この人数が見えねえのか……」

「この程度の数がなんだというのか」

 俺は口に魔力を集め、思い切り吐き出した。
 父さんが得意としていた火炎ブレスだ。
 父さんは火魔法では右に並ぶものは居ないと言われた戦士だった。
 俺も父さんのようになりたくて、小さい頃から火魔法を練習してきたのだ。
 このような小汚い下等種族共にはもったいないが、めんどうなのでまとめて焼き殺してやろう。
 
「ぎゃぁっ、あちっ、あちぃぃぃぃ」

「死ぬ、死んじまうっ、助け……」

「水、水だ、水……」

 大まかな汚物は消毒できただろうか。
 汚い死体が増えてしまったが、そのうち自然に還るだろう。
 
「て、てめえ、やりやがったなぁ!!」

 まだ残党がいるな。
 すべて同じ地獄に送ってやるから安心するといい。
 人間は剣を振り上げて走ってくるが、遅すぎる。
 本当に走っているのか?
 俺はゆっくりと剣を掻い潜り、頭を掴んで握りつぶした。
 ビチャリと中身が飛び出し、俺の手を汚す。
 下等種族の汚い汁で汚れてしまったな。
 人間共は薄汚いボロのような服を着ているが、手ぬぐい代わりにはなるか。
 俺はボロ切れのような服で手を拭うと、次の獲物に向かった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

【完結】追放された実は最強道士だった俺、異国の元勇者の美剣女と出会ったことで、皇帝すらも認めるほどまで成り上がる

岡崎 剛柔
ファンタジー
【あらすじ】 「龍信、貴様は今日限りで解雇だ。この屋敷から出ていけ」  孫龍信(そん・りゅうしん)にそう告げたのは、先代当主の弟の孫笑山(そん・しょうざん)だった。  数年前に先代当主とその息子を盗賊団たちの魔の手から救った龍信は、自分の名前と道士であること以外の記憶を無くしていたにもかかわらず、大富豪の孫家の屋敷に食客として迎え入れられていた。  それは人柄だけでなく、常人をはるかに超える武術の腕前ゆえにであった。  ところが先代当主とその息子が事故で亡くなったことにより、龍信はこの屋敷に置いておく理由は無いと新たに当主となった笑山に追放されてしまう。  その後、野良道士となった龍信は異国からきた金毛剣女ことアリシアと出会うことで人生が一変する。  とある目的のためにこの華秦国へとやってきたアリシア。  そんなアリシアの道士としての試験に付き添ったりすることで、龍信はアリシアの正体やこの国に来た理由を知って感銘を受け、その目的を達成させるために龍信はアリシアと一緒に旅をすることを決意する。  またアリシアと出会ったことで龍信も自分の記憶を取り戻し、自分の長剣が普通の剣ではないことと、自分自身もまた普通の人間ではないことを思い出す。  そして龍信とアリシアは旅先で薬士の春花も仲間に加え、様々な人間に感謝されるような行動をする反面、悪意ある人間からの妨害なども受けるが、それらの人物はすべて相応の報いを受けることとなる。  笑山もまた同じだった。  それどころか自分の欲望のために龍信を屋敷から追放した笑山は、落ちぶれるどころか人間として最悪の末路を辿ることとなる。  一方の龍信はアリシアのこの国に来た目的に心から協力することで、巡り巡って皇帝にすらも認められるほど成り上がっていく。

侯爵家の三男坊 海に出る

相藤洋
ファンタジー
船が世界を繋ぎ始め、技術と冒険の時代の幕開けとなった時代。侯爵家の三男坊エドワード・リヴィングストンは、16歳の若さながらその愛嬌と温厚な性格で家族や周囲から愛されていた。兄たちが政治や経済の最前線で活躍する中、彼は侯爵家の広大な庭や工房でのんびりと模型作りに勤しみ、家族を和ませる存在だった。 そんなエドワードに転機が訪れる。厳格だが愛情深い父親アルバート侯爵から「家業を学び、人として成長せよ」と命じられ、家が所有する貿易船—『シルヴァー・ホライゾン』に乗り込むこととなった。 この作品は「カクヨム」様にも掲載しています。

拝啓、お父様お母様 勇者パーティをクビになりました。

ちくわ feat. 亜鳳
ファンタジー
弱い、使えないと勇者パーティをクビになった 16歳の少年【カン】 しかし彼は転生者であり、勇者パーティに配属される前は【無冠の帝王】とまで謳われた最強の武・剣道者だ これで魔導まで極めているのだが 王国より勇者の尊厳とレベルが上がるまではその実力を隠せと言われ 渋々それに付き合っていた… だが、勘違いした勇者にパーティを追い出されてしまう この物語はそんな最強の少年【カン】が「もう知るか!王命何かくそ食らえ!!」と実力解放して好き勝手に過ごすだけのストーリーである ※タイトルは思い付かなかったので適当です ※5話【ギルド長との対談】を持って前書きを廃止致しました 以降はあとがきに変更になります ※現在執筆に集中させて頂くべく 必要最低限の感想しか返信できません、ご理解のほどよろしくお願いいたします ※現在書き溜め中、もうしばらくお待ちください

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

処理中です...