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復活のK

7.鬼人の血脈

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 鬼人の血脈か。
 スキル屋に並んでいるところを見たことも、スキル屋のおじさんから聞いたこともないスキルだ。
 レアスキルだな。
 別に珍しいからといって強いということはないが、レアスキルのほとんどがユニークで強力なスキルなんだよね。
 スキルは神様が創っているという仮説を元に考えれば、スキル屋にダース単位で並んでいるような一般スキルの数々は機械で作った量産品。
 レアスキルは手作業で丹精込めて作った一品物もしくは個数限定オーダーメイド品。
 レアスキルのほうが強力なことにも納得だ。
 鬼人の血脈はその名前から想像するに、血もしくは遺伝子になんらかの変異をもたらすスキルだろう。
 剣鬼という二つ名ももしかしたら、剣を持って鬼のように戦う人という意味ではないのかもしれない。
 そう、たとえば剣を持った鬼……。

「どうやら坊主は一筋縄ではいかない敵らしい。最初から全力で行くぞ」

 おじさんの身体が膨れ上がる。
 肌は赤黒く変わり、頭から2本の角が生える。
 ギチギチと不気味な音を立てて変異するおじさんの身体。
 完全に鬼と化したおじさんは、改めて大剣を一振りした。
 ピュンという大剣を振っても決して出ないような細い風切り音。
 まるで細身のナイフでも振るっているかのように軽やかだ。
 なるほど、鬼人の血脈はそういうスキルか。
 名前の通り鬼人になるスキルというわけだ。
 
「行くぜ」

 残像ができるほどの速度でギザギザに進むおじさん。
 視力強化スキルで強化された動体視力でも、おじさんが足を踏み出すタイミングを捉えることは難しい。
 先ほどのような攻撃はできない。
 僕は視線を左右に揺すられてあっという間におじさんを見失った。
 次の瞬間背後の反転魔法に手ごたえがあった。
 やっぱり背後に回っていたか。
 スピード自慢は大体隙を突いて背後だからな。
 僕の背後に隙は無い。
 大降りの攻撃が反転魔法によって返されたおじさんの大剣と手には相当な衝撃が襲い掛かっていると思う。
 しかしおじさんはそんな様子も見せずに一度距離を取った。
 大剣は折れる気配も無いし、おじさんも手首を気にする様子はない。
 さぞかし硬い鉄を鍛えて造られているであろう大剣が折れないのは予想通りとしても、おじさんの手首がちょっと頑丈すぎるのではないだろうか。
 あの重さの剣をおじさんの膂力で振るったときの衝撃がすべて自分の剣と腕に返ってきているのだ。
 無反応は無いだろ。

「参ったな、物理攻撃は効き難いタイプの能力者か。俺とは相性が最悪だ」

「僕こそ驚いたよ。手、痛くないの?」

「うん?何かしたのか?この身体は頑丈でな、多少のことではビクともしない。痛みを感じないのが玉に瑕だがな」

 痛みを感じていないのか。
 ダメージはあったのかな。
 身体が頑丈とはいっても、限界はあるはずだ。
 超合金でできた身体というわけでもなければ鉄の塊でぶっ叩かれた衝撃にダメージを負わないということは無いだろう。
 問題は僕の方もかなりの魔力を消耗させられたことか。

「坊主、大体の能力には代償が必要だって知ってたか?その身に宿す能力が強力であればあるほど、神に生命力やら精神エネルギーやらを奉げなければならない」

「代償っていうか使うのにエネルギーが必要な能力があるってことでしょ」

 魔法スキルは魔力を消費して発動する。
 生命力を必要とするスキルっていうのは見たことが無いけれど、スキルを使う際のリスクとしてはありえるのかもしれない。
 もしくは一般スキルも使いすぎれば体力を消耗することがあるのかもしれない。
 実験してみようという気は起きないけれど。

「そういう解釈をする奴もいるようだな。だがそんなことはどうでもいいことだ」

 自分の信じることだけを信じる。
 それ以外はどうでもいい。
 まさしくおじさんは狂信者の鏡だった。

「重要なのは俺の能力にはその代償が必要ないということだ。俺は神に選ばれし者。日に6度、この能力をなんの代償もなしに発動することができる」

 なるほど、鬼人の血脈はビームと同じように回数制限付きのスキルか。
 おじさんの言葉を借りるのならば、それが代償だと僕は思うのだけどな。

「それで坊主。お前の能力、あと何回発動できるんだ?」

 それだけ言うとおじさんはまた残像を残してギザギザ走行を開始する。
 緩急を付けた独特の歩法でそれをやられると、まるで本当に瞬間移動しているような錯覚に陥る。
 魔力残量的におじさんの全力の攻撃を防げるのはあと10回くらいだろうか。
 それだけおじさんの攻撃は重たかった。
 鉄の塊を身体強化と鬼人の血脈の2つのスキルで強化された膂力で思い切り打ち付けられるのだ。
 まるでミサイルだ。
 ミサイルを反転魔法で跳ね返したことは無いけれど、やったらこんな感じになるのが予想できる。
 今度半島の北のほうの国が撃ってきたら試してみようかな。

「おらおらっ、どうしたっ、防ぐだけがお前の能力か!」

 おじさんはまた背後に現れ、2度ほど剣を打ち付けてすぐに距離を取った。
 ヒットアンドアウェイ戦法ってやつだな。
 跳ね返せるのはあと8回。
 大剣とおじさんの手首の損傷はどうだろう。
 おじさんは自分の剣や手首にかかっているダメージには気が付いていないようだけれど、良く見れば剣を握る右手が震えているような気がする。
 肩も少し下がり気味だ。
 これはひょっとして、限界が近いのではないだろうか。
 ビームでアジトごとおじさんを吹き飛ばす作戦はギリギリまで待とう。
 おじさんは何も言わない僕が焦っていると思ったのか、ニヤリと笑い調子に乗ってガンガン攻撃し出した。

「このっ、神を信じぬ悪魔がっ!!」

 神なら信じている。
 会ったこともある。
 感謝もしているさ。

「俺は神に選ばれし者!神の敵を裁く権限を持っている!!」

 神に敵はいない。
 いるとしたらそれは別の神だ。
 人間ごときが神の敵になれるわけがないだろう。

「貴様のような者がいるからっマリヤムは……」

 どうやら鬼人の血脈には精神的に不安定になるというリスクがあるらしい。
 もはやおじさんの言葉は支離滅裂だ。
 身内と思われる個人名が出てきた。

「マリヤムはぁぁぁぁっ、貴様のせいでぇぇぇっ」

 理性も薄まり血走った目で真正面から僕の反転魔法に大剣をぶつけるおじさん。
 ゴンッという重たい音を立てて大剣は根元から圧し折れた。
 おじさんはそれにも気が付かないようで、柄だけになった大剣をゴンゴンと反転魔法にぶつけ続ける。
 大剣の重さと遠心力の乗らなくなったおじさんの攻撃は僕の魔力をほとんど減らさなくなった。
 そして刃がなくなって腕に直接衝撃が反転するようになったおじさんの腕は血が出てズタズタに。
 やがておじさんの腕は上がらなくなった。

「マリヤム……」

 動かぬ身体、鬼の形相から涙を流しただそう呟く。
 悲しいテロリストの末路がそこにあった。

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