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復活のK

5.惚れぼれする大胸筋

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「へー、じゃあ剣鬼って奴がまだこの国に残っているんだ。他にも無名の能力者が数人か」

 数多くの能力者が在籍しているワールドエンドだけれど、有名どころのほとんどが破壊工作のために日本に行っているらしい。
 ベルギーに残っているのは剣鬼と呼ばれる有名な能力者と、それほど有名ではない数人の能力者。
 剣鬼という能力者はネームバリューでいえば首領であるサイボーグと同じくらいの知名度を誇る。
 僕では持ち上げることもできないくらいの大剣を軽々と振り回すヤバイ奴。
 おそらく身体強化スキルと剣術スキルだろうな。
 こういう単純なスキルが噛み合った奴っていうのは強いんだよね。
 だけど物理攻撃主体の奴は僕と相性がいい。
 まあ問題ないだろう。

「グギャギャ(アジトは地図上ですと、ここですね)」

「組織と関係の無い人や罪の無い人はいないの?」

「グギャギャ(見た感じクズしかいませんでしたね。クズに見えて根は優しいっていうのは自分には……)」

「いやテロ組織に在籍していてクズに見えたのならそいつはクズだよ。わかった。行こうか」

 僕は夜のブリュッセルをゴブ次郎の夢幻魔法で身を隠しながら郊外へと歩く。
 ワッフルやチョコレートといった甘いお菓子のイメージが強いベルギーだけど、夜のブリュッセルは甘くない雰囲気だ。
 ちょっと通りを違えばアウトローな雰囲気がビシビシとしてくる。
 EUの主要機関がたくさん置かれ、EUの首都と呼ばれているくらいだからヨーロッパ圏内の中でも治安が特に悪いというわけでもないのだろう。
 このくらいの治安がヨーロッパの平均か、もしくは良い方なのかもしれない。

「ちょっ、何言ってるのか分かりません!ごめんなさい、道を通してください!!」

「英語分からない?日本は遅れてるねぇ。でも大丈夫。気持ち良いことは世界共通さ」

「天国見せてやるぜ」

「「「ふぅぅっ」」」

 2人組の若い日本人女性がギャング風の男たちに囲まれているのを目撃してしまった。
 はぁ、なんでこんな夜に女の人だけで外出するかな。
 それもこんな治安の悪い通りをうろついて。
 しかも2人の格好はパーティ帰りのような胸元の開いたドレスだ。
 正直僕も襲う側に混ざりたいくらいだよ。
 あんなん襲ってくださいそういうプレイですから嫌って言っても演技なのでそのまま襲ってくださいって言っているようなものじゃないか。
 まあ日本人だからたぶん違うんだろうな。
 危機感の足りない典型的な日本人旅行客だろう。

「ゴブ次郎」

「グギャ(了解)」

 ゴブ次郎が手をかざすと日本人女性2人の姿が全盛期のアーノルド・シュワルツェネッガーくらいの巨漢に変化する。
 髪型や格好は変わってないからシュワちゃんが女装しているように見えて少し新鮮だ。
 なんて見事な大胸筋なんだろう。
 
「オーマイゴッ……」

「ナイスボディ……」

「ファッキンッ、シーユー……」

 男たちはすぐに顔を青ざめさせて女性たちを解放した。
 シュワちゃん2人組は頭にハテナを浮かべながら男たちの間を去っていった。

「ゴブ次郎、夢幻魔法は明日の朝まで解かなくていいよ」

「グギャ(了解)」

 夜に女性だけで出歩く馬鹿女には罰が必要だ。
 まああのガタイでなおかつ女装した2人組に声をかける人なんていないだろう。
 どこからどう見ても普通の人類が敵う相手ではない。
 軍隊格闘技とか極めてそうな風貌だからね。

「寄り道しちゃったけど、こっちなんだよね」

「グギャギャギャ(あの倉庫の地下が組織の本部みたいです)」

 ゴブ次郎が指差したのは、倉庫街にある一見すると普通の倉庫に見える建物だった。
 ゴブ次郎の調べではこの倉庫の持ち主である貿易会社はテロ組織のダミーカンパニーで、ほとんど休眠状態らしい。
 そんな状態の会社が持っている倉庫に、何人もの人間が出入りしていたら普通は怪しまれる。
 だから地下にアジトを造り、出入り口は近くのレストランにあるそうだ。

「結構おしゃれなレストランだね。とてもテロリストの営んでいるお店とは思えない」

「グギャギャギャ(会員制なので一見の客は入れませんし、中は案外アウトローな空気ですよ」

「じゃあ無関係の人は本当にいないんだね」

「グギャギャギャ(店内も武器だらけですし、まともな人間があの店にいられるとは思えません)」

 店の中が全員テロリストなら安心して戦える。
 店が多少壊れてしまっても罪悪感もない。
 最悪ビームで更地にしても……それはさすがにご近所さんに迷惑がかかるか。

「乗り込むしかないか」

 僕はゴブ次郎に夢幻魔法を解いてもらい、お店の扉を開けた。
 ガヤガヤと漏れ聞こえていた喧騒がピタリと止まる。
 店内の全員が扉を開けた僕に注目していた。

「ごめんね、ボク。ここは会員制のお店でね。誰かの紹介がないとご飯は食べられないんだよ」

 ミニバーカウンターでグラスを磨いていたバーテンダーの男が、優しい声で僕に話しかける。
 ぱっと見まともそうな男だけど、その身のこなしや纏う空気は間違いなく堅気ではない。
 話が通じるなら僕もそのほうがありがたいけれど、どうかな。
 
「ここはテロ組織、ワールドエンドの本部で間違いないですよね」

 僕がそう口にすると、すぐ近くで座って酒を飲んでいた人がガタリと立ち上がり僕を店内に引きずり込んで扉を閉めた。

「おいガキ、その情報を誰から聞いた。お前以外にそのことを知っている人間がどれだけいる」

「聞いてるのは僕だ。お前たちがワールドエンドってテロ組織なんじゃないの?」

 僕は毛魔法で僕の胸倉を掴む男の手を振り払う。
 そのまま男の足首を掴んで逆さ吊りにした。

「僕だって皆殺しにしたいわけじゃない。大人しく政府機関に捕まるのなら無闇に痛めつける気はないよ」

「くそっ、能力者だ!!撃ちまくれ!!」

 さっきまで優しい顔で僕を追い返そうとしていたバーテンダーがカウンターの下からアサルトライフルを取り出し、僕に向かってフルオートで銃弾の雨を降らせる。
 反転魔法の壁に阻まれ床に落ちる銃弾。
 やっぱりこうなってしまうか。
 僕は逆さ吊りにした男から魔力をすべて吸い取り、放り投げる。
 とりあえず、全員魔力欠乏で苦しんでもらおうか。


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