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136.召喚されて異世界

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 ざわざわと四方八方から喧騒を感じる。
 何か注目を集めているようだ。

「ミスアイスナー。それはいったい、なんだね?」

「わ、わかりません。触媒は落ちていた魔物の羽を用いましたので、鳥の魔物が召喚されるはずだったのですが……」

「どう見ても人だよね君これ。人の髪とか使ったんじゃないのかね?これだから貧乏人は。触媒も買えないのなら魔法学園になんて来ないでほしいね」

「わ、私は人の髪なんて……」

「とにかく、君の使い魔はその人間ということだ。2度目の召喚は受け付けないからね」

「そんな……」

 どういう状況なんだろうか。
 頭が禿げ上がった壮年の男性が、14、5歳くらいの少女に嫌味を言っている。
 それを受けて少女は泣きそうな顔になっている。
 それにしても幸薄そうな少女だ。
 儚げなプラチナブロンドに潤んだ緑の瞳。
 ちゃんとご飯を食べているのか心配になるようなほっそりとした身体。
 身長は僕よりも低く、大体150センチ前後だろう。
 このタイミングでこの場所に転移したということは、この子が本来持って生まれるはずのスキルを持たず性別まで変わって生まれてきてしまったという勇者かな。
 この子が生まれたのはずっと前のことだと思うのだけれど、世界が違えば時間の感覚なんて違って当然だからね。
 ちなみに帰りは神様のいる白い空間を経由することで元の時間軸に戻してくれるらしい。
 浦島太郎にならずに済みそうだ。
 
「あの、あなたは誰ですか?どうして私の召喚術に応じたのですか?」

「僕はクロード。こことは違う世界から来た人間だよ」

「違う、世界?」

「そうだよ。別の世界でちょっとやらかしてしまってね。罰としてこの世界に飛ばされてしまったんだ」

「???」

 何言ってるのかと僕も思った。
 相当頭のおかしな人間だと思われてしまっているようだ。
 少女は不安な顔で僕を見る。

「あの、よくわかりません。でも私、あなたが使い魔になってくれないと困るんです。先生に2度目の召喚は受け付けないって言われちゃったので。私に払えるものなんてあまりないですけど、報酬は払います。なんとか私の使い魔になっていただけませんか?」

「ん?使い魔?いいよ」

 僕はこの子を助けて魔王を倒さなければいけないわけだから、使い魔として一緒に過ごすのは都合がいい。
 使い魔って何か契約とかあるのかな。
 使役魔法みたいなもので契約するとか?
 拓君の読んでいたライトノベルでは契約するためにキスとかしてたけど。

「本当ですか!?ありがとうございます。私は王立魔法学園1年生のマヤ・アイスナーといいます。じゃあさっそく契約しましょう。この巻物に血液で自分の名前を書いて、一番下に血判を押してくれればいいので」

 なんか違うやつだった。
 ゴブ次郎が読んでいた忍者漫画のやつだ。
 親指の先を噛みちぎらないといけないのかな。

「あ、これナイフ使ってください」

「あ、そうだよね。親指噛みちぎるとかちょっとアレだもんね」

「???」

 僕は痛いのが嫌いなので感覚の鈍い手の甲を少し切り、血を絞り出すようにして契約の巻物に名前を書く。
 名前を書き終わってすべての指で血判を押すと、巻物が光って右頬のあたりに痛みが走る。
 アイテムボックスから手鏡を出して確認すると、なにやら複雑な紋章のタトゥが入っていた。
 なんでそこに入っちゃったかな。
 めちゃくちゃ目立つじゃないか。
 スーパー銭湯受付で断られちゃうよ。
 
「契約はちゃんと結ばれたみたいですね。あの、一応言っておきますけどこれであなたは私の命令を断れなくなりました。わ、悪いことには使わないので安心してください」

 あの契約ってそんな怖いものだったのか。
 何も読まずに名前書いちゃったけど、まずかったかな。

「では次の授業がありますから、付いてきてください」

「はーい」

 僕たちが今まで話していたのは大講堂のような大きな部屋。
 ここは特別な授業を行う場所のようで、次の時間は普通の座学なので別の教室になるようだ。
 さっきまで周りでざわざわあることないこと言い合っていた野次馬や、魔法学園の教師だというさっきの禿げ頭先生はすでにいない。
 みんな次の授業に向かうために講堂を出ていったようだ。
 僕たちも急いで次の授業の教室へ向かう。
 ギイギイと音を立てるアンティーク風の扉を開けて教室に入れば、クラスメイトたちの決して好意的とは言えない視線が僕と彼女に突き刺さる。

「おい、アイスナー。お前その薄汚い平民をどこから連れてきたんだ?」

「お友達なんじゃねーか?」

「アイスナー家は没落貴族だからな。お友達も平民ときたもんだ」

 クスクス、キャハハハ、ガハハハと様々な嘲笑が浴びせかけられる。
 どうやら彼女はかなり厳しい状況で勉学を強いられているらしい。
 それもこれも僕のせいでスキルを持って生まれることができなかったせいなのかもしれない。
 神様の話によれば彼女は本来彼で、聖剣召喚というスキルを持って生まれるはずだった。
 しかし僕のせいで彼は彼女に、スキルは教室に入ったときに最初に嫌味を口にした見るからに性格の悪そうな〇フォイみたいな男子生徒に渡ってしまった。
 つまり今までの彼女の不遇の生活は僕にも責任の一端がほんのちょっとだけあるということだ。
 なんか少し罪悪感を感じてしまうな。

「おい平民、お前なに黙ってんだよ。ご主人様が馬鹿にされてんだぞ」

 〇フォイ男子の取り巻きっぽい男子生徒が僕の胸倉を掴む。
 整髪料に何を塗っているのか、ギトギトしていて非常に匂う。
 僕はアイテムボックスから消臭スプレーを取り出して男子生徒の顔に吹きかけた。

「んぎゃぁぁっ、なにしやがる!!」

「てめぇ、トニーをよくもやりやがったな!!」

「この野郎、平民の分際で!!」

「無礼討ちにしてやる!!」

 取り巻き系男子たちは懐から杖を取り出して僕を取り囲む。
 この学園は魔法学園らしいから、全員魔法職なのだろう。

「お前たち、退け」

「マールフェイトさん、でもこいつに痛い目見せなくていいんですか?」

「もちろん痛い目見せてやるさ。そいつは、僕自ら痛めつけてやるんだよ」

 〇フォイ改めマールフェイトは杖を抜かずに何もない空間に手をかざす。

「おお、出るぞ。マールフェイトさんの固有スキルが!!」

「はぁぁぁぁっ、聖剣召喚!!」

 教室内は目も開けられないほどの光に包まれる。
 光が収まると、マールフェイトの手には金ぴかの剣が握られていた。
 あれが、僕のご主人様であるマヤが手に入れるはずだったスキル。
 聖剣召喚か。



 
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