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127.いじめ
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志織ちゃんが学校で受けているといういじめ。
それは周囲からの徹底的な無視だった。
なるほど、私立らしい陰険なやつじゃないか。
僕の隣の席には志織ちゃんが座っているが、クラスのみんなはまるでそこに誰も存在していないかのように振舞う。
直接危害を加えられたり悪口を言われたりするわけじゃないけれど、非常に精神に堪えるいじめといえるだろう。
これに対して僕の解決策は、まず先生に言うというものだ。
「先生、僕の遠い親戚の志織ちゃんがクラスのみんなから無視されているみたいなんだ。僕は志織ちゃんの家にお世話になっているから気になっちゃうな」
「そうなのね。確かに無視はいけないことね。でも人と人の間には相性というものもあるのよ。クラスのみんなが誰と話しても、話さなくても、それを咎めることはできないと先生思うの」
うーん、中学校でその対応はどうなのだろうか。
これが大学とかだったら別に生徒が誰と話そうが話さなかろうが自由と言い張ることはできるけれど、ここは中学校だよ。
たしかに僕の通っていたような公立校ではなく、ここは私立だ。
中高一貫校で、入るのに受験が必要な中学校。
しかしあまりにも対応に血が通っていないと思わないかね?
「でも、勉学に支障が出るようなことはいけないと思うんですよ」
「そうね。そのあたりは先生からみんなに言っておくわ」
あまり本気で対応してくれる気はなさそうだな。
担任の小山先生は若い女の先生だ。
有名大学出のエリートらしいけれど、人の感情の機微には疎い印象だな。
たぶん処女だ。
何を言ってもダメだな。
僕は自分の席に戻る。
まったく、尻の痛くなる椅子だ。
明日は座布団を持ってこよう。
「クロード、もういいよ。クロードが無視しないでいてくれるだけで十分だから……」
「うーん、なんかすっきりしない」
厄介なことに、このいじめに明確な首謀者は存在していない。
クラスのみんなが、なんとなく場の雰囲気で始めたことだというのだ。
おそらく志織ちゃんの家がお金持ちで、お姉さんもお母さんも美人で志織ちゃん自信も将来は美人になりそうな可愛らしい顔立ちをしているのを羨む気持ちがみんなの心の根底にあったのだろう。
しかし目すら合わせないとは、なんとも徹底している。
「じゃあ次、体育だから。また後でね……」
志織ちゃんは少し憂鬱そうな顔で着替えに向かう。
もやもやする。
なんだろうな、いじめられていた昔の僕と重ねているのかな。
なんかイライラするんだよね。
「おいクロード、着替え行こうぜ体育サッカーだぜ」
「うん」
拓君の家のプリンをプレゼントしたことで仲良くなった、野球部系男子の田中君が僕を呼ぶ。
田中君は野球部じゃなくてサッカー部だった。
紛らわしい髪型をしてるんじゃないよ、まったく。
しかし僕と話しているときは気のいい少年な田中君も、志織ちゃんのことは無視しているんだよな。
いじめっていうのは根が深い問題だよ。
僕はジャージが入った袋を持って男子更衣室に向かう。
男ばかりの密室で着替えるなんて、嫌だなぁ。
どうせなら女子更衣室で着替えたいよ。
「おい、クロード。お前なんで真田と普通に口きいてるんだよ」
「は?」
「お前俺達が真田のこと無視してるの分かってんだろ。空気読めよ」
僕に言いがかりを付けてきたのはクラスの男子だ。
名前は知らない。
覚える気も無い。
お友達は一人いればいいから。
「なんで君たちが無視してるからって僕が一緒に無視しないといけないんだよ。第一僕は志織ちゃんの血縁だよ?そんな馬鹿みたいなことするわけないでしょ」
「ちっ、何が志織ちゃんだ。キモいんだよ」
「その君とか言う口調もマジキモいよな」
「マジうぜぇし。おいみんな、こいつも無視しようぜ」
「そうだな。真田家は全員無視だ」
僕も無視されることになってしまった。
田中君と目が合う。
田中君は気まずそうに目を逸らした。
なるほど、いじめというのは根が深い。
まあいいか。
別に誰かとしゃべらないと死ぬわけでもない。
むしろしゃべるのが面倒だと思っていたんだ。
僕は普通に着替えてグラウンドに向かった。
久しぶりにやったけど、サッカーなんて全然面白くないものだな。
なにせ球も回ってこなければ、話しかけられもしないのだから。
僕はしょうがなくグラウンドの隅に座って休憩する。
「こら、真田。サボるんじゃない!」
はぁ、面倒だな。
「ゴブ次郎」
「グギャ(了解)」
体育の先生には僕がグラウンドを走っているように見えていることだろう。
いじめっていうのは本当に難しい。
先生が生徒同士の関係をよく理解していないと、今みたいに授業をサボっているように見えてしまったりする。
でも中途半端に分かっていても、それはそれでまた違う問題が出てきてしまうだろうな。
例えば、体育の先生が今僕が置かれている状況を中途半端に理解していたとしよう。
僕はサッカーの授業を受けているのに、サッカーに入れてもらえない状況なわけだ。
これを根本的に解決するためには生徒同士の長い話し合いが必要だろう。
しかし先生がこの問題を軽く捉え、無理矢理生徒たちの輪の中に僕を押し込もうとしたら。
それは先生と生徒、両側から押し潰されてしまうのではないのだろうか。
僕は先生に幻覚を見せるという方法で解決したけれど、こんなことは一般人には無理だ。
確か女子はバレーだったな。
志織ちゃんも今頃は同じような状況に陥っているのかな。
べ、別に心配なんてしてないんだからね。
それは周囲からの徹底的な無視だった。
なるほど、私立らしい陰険なやつじゃないか。
僕の隣の席には志織ちゃんが座っているが、クラスのみんなはまるでそこに誰も存在していないかのように振舞う。
直接危害を加えられたり悪口を言われたりするわけじゃないけれど、非常に精神に堪えるいじめといえるだろう。
これに対して僕の解決策は、まず先生に言うというものだ。
「先生、僕の遠い親戚の志織ちゃんがクラスのみんなから無視されているみたいなんだ。僕は志織ちゃんの家にお世話になっているから気になっちゃうな」
「そうなのね。確かに無視はいけないことね。でも人と人の間には相性というものもあるのよ。クラスのみんなが誰と話しても、話さなくても、それを咎めることはできないと先生思うの」
うーん、中学校でその対応はどうなのだろうか。
これが大学とかだったら別に生徒が誰と話そうが話さなかろうが自由と言い張ることはできるけれど、ここは中学校だよ。
たしかに僕の通っていたような公立校ではなく、ここは私立だ。
中高一貫校で、入るのに受験が必要な中学校。
しかしあまりにも対応に血が通っていないと思わないかね?
「でも、勉学に支障が出るようなことはいけないと思うんですよ」
「そうね。そのあたりは先生からみんなに言っておくわ」
あまり本気で対応してくれる気はなさそうだな。
担任の小山先生は若い女の先生だ。
有名大学出のエリートらしいけれど、人の感情の機微には疎い印象だな。
たぶん処女だ。
何を言ってもダメだな。
僕は自分の席に戻る。
まったく、尻の痛くなる椅子だ。
明日は座布団を持ってこよう。
「クロード、もういいよ。クロードが無視しないでいてくれるだけで十分だから……」
「うーん、なんかすっきりしない」
厄介なことに、このいじめに明確な首謀者は存在していない。
クラスのみんなが、なんとなく場の雰囲気で始めたことだというのだ。
おそらく志織ちゃんの家がお金持ちで、お姉さんもお母さんも美人で志織ちゃん自信も将来は美人になりそうな可愛らしい顔立ちをしているのを羨む気持ちがみんなの心の根底にあったのだろう。
しかし目すら合わせないとは、なんとも徹底している。
「じゃあ次、体育だから。また後でね……」
志織ちゃんは少し憂鬱そうな顔で着替えに向かう。
もやもやする。
なんだろうな、いじめられていた昔の僕と重ねているのかな。
なんかイライラするんだよね。
「おいクロード、着替え行こうぜ体育サッカーだぜ」
「うん」
拓君の家のプリンをプレゼントしたことで仲良くなった、野球部系男子の田中君が僕を呼ぶ。
田中君は野球部じゃなくてサッカー部だった。
紛らわしい髪型をしてるんじゃないよ、まったく。
しかし僕と話しているときは気のいい少年な田中君も、志織ちゃんのことは無視しているんだよな。
いじめっていうのは根が深い問題だよ。
僕はジャージが入った袋を持って男子更衣室に向かう。
男ばかりの密室で着替えるなんて、嫌だなぁ。
どうせなら女子更衣室で着替えたいよ。
「おい、クロード。お前なんで真田と普通に口きいてるんだよ」
「は?」
「お前俺達が真田のこと無視してるの分かってんだろ。空気読めよ」
僕に言いがかりを付けてきたのはクラスの男子だ。
名前は知らない。
覚える気も無い。
お友達は一人いればいいから。
「なんで君たちが無視してるからって僕が一緒に無視しないといけないんだよ。第一僕は志織ちゃんの血縁だよ?そんな馬鹿みたいなことするわけないでしょ」
「ちっ、何が志織ちゃんだ。キモいんだよ」
「その君とか言う口調もマジキモいよな」
「マジうぜぇし。おいみんな、こいつも無視しようぜ」
「そうだな。真田家は全員無視だ」
僕も無視されることになってしまった。
田中君と目が合う。
田中君は気まずそうに目を逸らした。
なるほど、いじめというのは根が深い。
まあいいか。
別に誰かとしゃべらないと死ぬわけでもない。
むしろしゃべるのが面倒だと思っていたんだ。
僕は普通に着替えてグラウンドに向かった。
久しぶりにやったけど、サッカーなんて全然面白くないものだな。
なにせ球も回ってこなければ、話しかけられもしないのだから。
僕はしょうがなくグラウンドの隅に座って休憩する。
「こら、真田。サボるんじゃない!」
はぁ、面倒だな。
「ゴブ次郎」
「グギャ(了解)」
体育の先生には僕がグラウンドを走っているように見えていることだろう。
いじめっていうのは本当に難しい。
先生が生徒同士の関係をよく理解していないと、今みたいに授業をサボっているように見えてしまったりする。
でも中途半端に分かっていても、それはそれでまた違う問題が出てきてしまうだろうな。
例えば、体育の先生が今僕が置かれている状況を中途半端に理解していたとしよう。
僕はサッカーの授業を受けているのに、サッカーに入れてもらえない状況なわけだ。
これを根本的に解決するためには生徒同士の長い話し合いが必要だろう。
しかし先生がこの問題を軽く捉え、無理矢理生徒たちの輪の中に僕を押し込もうとしたら。
それは先生と生徒、両側から押し潰されてしまうのではないのだろうか。
僕は先生に幻覚を見せるという方法で解決したけれど、こんなことは一般人には無理だ。
確か女子はバレーだったな。
志織ちゃんも今頃は同じような状況に陥っているのかな。
べ、別に心配なんてしてないんだからね。
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