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119.戦車バリケード

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 幸先良く戦車をゲットした僕だったが、肝心の乗り方はよくわからない。
 前世で車の免許は持っていたけれど、戦車と乗用車はちょっと違うからね。
 なんかレバーが3つあるし、ペダルもある。
 ペダルはブレーキかアクセルかクラッチだよな。
 じゃあレバーはなんで3つもあるのかな。
 シフトレバーは一つだけだと思うんだけど。
 僕は適当に一番右のレバーを倒してみる。
 ガッチャンプスプス。
 エンストした。
 やっぱりトランスミッションなのか。
 ならこのペダルがクラッチ?
 僕はエンジンキーみたいなやつを操作して再びエンジンをかける。
 車と同じなら、一番左のペダルがクラッチのはず。
 今度はクラッチのペダルを踏みながらレバーを倒す。
 ガッチャン。
 よし、まだエンジンはかかっている。
 きっとシフトチェンジはこれでいいはずなんだ。
 あとは車と同じくクラッチのつなぎ方の問題のはず。
 僕はクラッチを放し、発進した。

「のわっ」

 なんかすごい回った。
 どうやら右のキャタピラだけが回転しているみたいだ。
 戦車砲が近くの建物に激突して、建物を破壊してしまった。
 これは僕が乗るのはやめておこう。
 僕はエンジンを切って大人しく戦車を降りる。
 バリケードにでも使うか。
 僕は浮遊スキルで戦車を浮かせ、ショッピングモールの前に持っていった。
 ジャーハルたちが使うって言ったらあげればいいからね。






「よし、こんなものか」

 ショッピングモールの前には戦車のバリケードがずらりと並ぶ。
 町を走っていた戦車全部ここに持ってきちゃったんじゃないかというほどの数だ。
 これだけ戦車を並べておけば、ちょっとやそっとじゃビクともしないだろう。
 隙間無く並んだ戦車を眺めて悦に浸っていると、どこからともなくゴブ次郎が現れる。

「グギャギャ(発見しました)」

「了解。案内してくれ」

 僕はゴブ次郎の案内で日本人たちが隠れているという病院に向かった。
 そこはすでに何度かの砲撃を受けているようで、崩れかかっているような建物だった。
 建物に入ると、無残にも殺された人たちが横たわっているのが目に入る。
 可哀想に。
 しかしこんな現状で、日本人たちは生きているのか?

「ゴブ次郎、大丈夫なんだよね?」

「グギャギャギャ。グギャギャギャギャギャ(大丈夫です。日本人は隠れていたみたいです)」

「そうか」

 僕は少しだけ安堵して病院の奥に向かった。
 薬品棚が倒れて割れたビンが散乱している部屋。
 その一角に、日本人たちが隠れている隠し部屋への入り口があるという。
 ゴブ次郎はおもむろに倒れていた棚をどかした。
 そこには四角い扉が隠されていた。
 隠れたはいいが、棚が倒れて出られなくなっていたのかもしれない。
 しかしそのおかげで生き残ることができたのならば、幸運なことだ。
 僕はゴブ次郎が開けてくれた扉から隠し部屋へと侵入する。

「ひっ」

 そこには狭い部屋に50人くらいの人間がひしめき合っていた。
 まだ生きているということは空気の穴はどこかにあるのだろうが、相当なストレスになるだろう。
 どの道長くはもたなかったかもしれないな。

「安心してください。僕は日本の真田志乃さんから依頼されてあなた方を助けに来たものです」

「日本語!日本語だわ!!」

「ああ、助かったのかもしれないな!」

「それに真田志乃さんって社長の名前よ!!」

「社長が助けを呼んでくれたんだ!!」

「帰れる!帰れるぞ!!」

 興奮する日本人社員たち。
 しかし少し落ち着いてほしい。
 まだ完全に安全を確保できたわけではないのだ。
 
「落ち着いてください。静かに」

「ああ、すみません」

「申し訳ない」

「お恥ずかしいです」

「いえ、これからあなたたちを安全なところに連れて行きます。その付近は敵を掃討してあるのでひとまず安全なはずです。その後は某国の協力により、ヘリで戦線を離脱します。日本に帰るまでは油断はしないようにお願いします」

「「「わかりました」」」

 よし、日本人社員たちも海外が長いおかげか状況の飲み込みや切り替えは早いようだ。
 僕は隠し部屋から出て、先導して歩く。

「あの、救出部隊はあなたひとりなのでしょうか」

「うーん、まあそうだね」

 本当はゴブ次郎もいるけどね。

「だ、大丈夫なのですか?」

「まあ大丈夫だと思うけど。心配なら真田社長に電話が繋がると思うから、電話してみてよ」

 僕は借りてきた衛星電話を取り出し、お嬢様にかける。
 数回のコールの後にお嬢様が出た。

『状況はどうですか?』

「日本人社員たちを発見したよ。少し不安みたいだから、鼓舞してくれるとありがたい」

『了解しました。では代わって下さい』

 僕は一番年齢が高そうな白髪の社員に衛星電話を渡す。

「もしもし、海外事業部の白船です」

『お疲れ様です。白船部長、真田です』

「お、お疲れ様です。あの、救出部隊は彼だけなのでしょうか。危険ではないのですか?見たところまだ子供のようですが」

『心配には及びません。周辺の脅威になるようなものは粗方駆逐したと先ほど連絡を受けました。後は合流地点にてヘリを待つだけですよ』

「そ、そうなんですか。わかりました。わざわざありがとうございます。皆にもそう伝えます」

『はい。無事な姿で再び会えることを心待ちにしていると伝えてください』

「了解しました。失礼します」

 社員の白船さんは僕に衛星電話を返す。
 僕はお嬢様と一言二言話して電話を切った。
 これで少しは安心してくれるだろうか。
 まあ実際、僕のようなちんちくりんが安心してください敵はほとんど殲滅しましたなんて言っても誰も信じてくれないよね。
 でも社員さんたちも、ショッピングモールの戦車バリケードを見ればこのあたりは安全なんだと納得してくれるはずだ。
 僕はショッピングモールへの道を急いだ。


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