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112.いつかの借り

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 僕はちらりと2人の男の後方を見る。
 装飾の多い鎧を着た男が一人、数人の護衛と共に戦いを見守っている。
 僕はその男を鑑定する。

固有名:フランクリン・ダグラス
 種族:人間
スキル:【剣術lv7】【盾術lv7】【火魔法lv6】【風魔法lv6】【煙魔法lv7】【竜力lv6】【雷光砲lv7】

 見たことのないスキルが3つある。
 煙魔法はまだ分かる。
 きっと煙を操る魔法なんだろう。
 毒煙や煙幕など、使い方の想像はつく。
 問題は竜力と雷光砲だ。
 いや、雷光砲も大体分かるか。
 たぶん僕のビームと同じようなスキルだ。
 ただ、この手のスキルは一日に使える回数によって威力が変わってくるから油断はできない。
 レベル×1発とかだったら単純に考えてビームの10倍の威力だ。
 反転魔法で速やかに消滅させないと被害がはかりしれないことになってしまうだろう。
 そのへんは警戒しておけばいい。
 だが竜力っていうスキルは想像もつかないな。
 竜の力と書いて竜力。
 竜に変身するようなスキルなのかな。
 いやそれなら竜化とかそういったネーミングになるか。
 実際に獣人の人が稀に持っているスキルに獣化というものがある。
 その名のとおり獣のような姿に変身するスキルだ。
 身体能力が何倍にもなったり、爪や牙が鋭くなるという効果があるらしい。
 このスキルは名前からはそういった変身系のスキルではないような気がする。

「おいおい、俺達の上司のことがずいぶん気になってるみたいじゃねえか」

「俺達に集中してねえと、また犯罪奴隷になっちまうかもしれねえぞ?」

 確かに、スキルのことは気になるけれど後ろの男に気を取られすぎるのもよくないか。
 僕は元盗賊の2人組に集中する。
 この2人の戦法は良く知っている。
 髭面が詐術でゆさぶりをかけて、狼獣人が高レベルのスキルで攻撃する。
 基本はそのパターンだ。
 髭面は魔法スキルも持っているし、あの斧は確か土を操るマジックアイテムだ。
 遠距離攻撃にも気をつけなければならない。
 僕があの頃よりも強くなったということを、この2人は知らないだろう。
 普通はこんな短期間でスキルレベルがいくつも上がっているとは思わないはずだ。
 あのときよりも大人数だからって僕に勝てると思ったら大間違いだと教えてあげよう。

「行くぜ、ロイド」

「ああ。右だ!!」

 どれだけ僕のスキルレベルが上がろうと、僕は詐術スキルに対抗できる精神系の耐性スキルを持っていない。
 精神系の耐性スキルは店では売っていないからね。
 だから僕はまたあのときのように右を見てしまう。
 狼獣人が凄まじい速さで踏み込んでくるのを目の端で捕らえた。
 あのときと一番違うのは、その攻撃が見えていることだろうか。
 視力強化スキルのおかげで動体視力が強化されて、その攻撃を目で捉えることができている。
 そしてなんといっても反転魔法のレベル。
 スキル効果10倍スキルをもってしても跳ね返せなかったレベル9のスラッシュ。
 それを今は難なく跳ね返すことができている。

「ぐぁっ」

 跳ね返ったスラッシュは狼獣人を襲う。
 さすがに自分の攻撃だから直撃はしなかったけれど、脇腹を浅く切り裂いた。
 確かあのとき僕も脇腹を切られた。
 お返しだ。
 あと肩も切られたし、全身の骨も折れた。
 倍返し……したら死んでしまうだろうか。
 なんとなく僕はこの人たちが嫌いでは無いんだよね。
 できれば殺したくはない。
 
「おいおい、ずいぶんとまた強くなっちまってるじゃねえかよ。大人の階段でも登ったのかよ」

「馬鹿、あれは迷信だぜお前」

 なんだか気になることを言っている。
 大人の階段登ったら強くなるんだろうか。

「なんのことかわからねえみてぇだな」

「童貞捨てるとスキルレベルが上がるってぇ迷信があるんだとよ」

 髭面が親切に教えてくれる。
 しかしなんだその謎の迷信。
 僕には必要ないけど、ちょっとだけ試してみたい気もする。
 問題は相手がいないことなのだけれど。
 プロの方に頼んでもいいのだろうか。

「ちなみに、娼婦で童貞卒業すると一生スキルレベルが5以上にならないって迷信もあるな」

 素人童貞に厳しい迷信だ。
 
「こいつの初めては娼婦だから迷信だってのは確かだぜ」

「馬鹿言ってんじゃねえ。あいつは娼婦だが、俺は本気だったんだからギリセーフだろうが」

 なんだか戦う気分じゃなくなってきたな。
 どうにも心情的にやり辛い。
 
「はぁ、おふざけはこれまでだ」

 2人の雰囲気は一瞬にして変わる。
 ピリピリとした緊張が場を包む。

「こちらには鑑定士がいる。てめぇがクソみてぇに強いってのは最初から分かってたことだ」

「だが俺達も軍人だ。尻尾巻いて逃げることはできねぇ」

 気付いていたのか。
 僕のスキルレベルが高いということに、最初から。
 僕には分からない感覚だな。
 負けると分かっていても立ち向かわなければならないなんて。

「俺達の全力の一撃を持って、てめぇに挑む!」

 やっぱりこの人たちのことは嫌いじゃないな。
 この胸の奥が熱くなってくるような不思議な感覚。
 戦いが楽しいなんて物語の主人公みたいなことを思ったことはあまり無いけれど、今この一瞬だけはなぜだかワクワクするような不思議な感覚を覚える。
 
「行くぞ、ロイド!!」

「ああ、地流壁!!」

 髭面が地面に斧を突き立てる。
 周囲の地面が流動し、障害物が生まれる。
 障害物の間を狼獣人は飛び回る。
 そのしなやかな脚力によって緩急を付けられた動きには、強化された動体視力もついていくのがやっとだ。
 後方からは援護のように火球が飛んでくる。
 僕は火球を跳ね返すも、その火球に水球がぶつかり水蒸気が生まれ視界を遮った。
 髭面め、戦い方がうまいな。

「スラッシュ×10」

 狼獣人は障害物の間を飛びまわりながらスラッシュを放ってくる。
 これが一番厄介だ。
 僕の反転魔法は魔法スキルで、向こうは一般スキル。
 こちらは魔力を消費するのに対して向こうは魔力を全く使わない。
 消耗戦になったら少し厄介だった。
 だがきっとそんな無様な戦いをあの男は望まないだろう。
 僕は放たれたスラッシュを跳ね返す。
 今度は1発も狼獣人の男には当たらなかった。
 攻撃を放ったその場から次の瞬間には移動しているのだ、同じ場所に攻撃を跳ね返しても当たるはずはない。
 強いな。
 この2人は本当に強い。
 ずっと戦っていたいような不思議な感覚に囚われる。
 だけどそんなわけにはいかないよね。
 僕はビームで障害物を破壊する。

「くそっ!はぁぁぁぁぁぁっ」

「右だ!」

 僕は右を見る。
 そこには本当に狼獣人の男がいる。
 反転魔法に剣が叩き込まれる。
 かかった力がそのまま反転され、剣は折れる。
 左に展開していた反転魔法がなにかを跳ね返した感触。
 そこには斧が肩に突き刺さった髭面。
 反転魔法に跳ね返された斧が肩に刺さってしまったのだろう。
 狼獣人を囮にして、本命は髭面か。
 しかしこれで、肩を切られたお返しもできた。
 あとは骨の2、3本でも折れれば満足だ。
 
「ぐっ、いってぇ……」

「はぁはぁ、さすがだな。マジでつえぇぜてめぇはよ。俺達の負けだ。殺れよ」

 遠慮なく。
 あのときの借りは、あのときの技で返す。
 僕は毛魔法で髪を伸ばし、竜の尾の形に編みこんでいく。
 さっき水を含ませたら、重さが増して威力が上がったので同じようにする。
 
「あのときの借りを返すよ」

 黒い竜の尾を振るった。
 2人の男は弾き飛ばされ、10メートル以上吹き飛ぶ。
 頑丈そうだから死んでないと思うけどな。
 なんだかすっきりした気分だ。




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