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85.地球産スキル保有者

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『んだよこの紐、髪じゃねーの?気持ちわりいな。オラお前らふ抜けてねえでさっさと銃を構えろ!!』

 僕が毛魔法で拘束していた軍人風の男たちは、いきなり入ってきた大柄な男によって解放されてしまった。
 僕たちが移動した部屋には入り口が一つ。
 その入り口から出られるのは軍人風の男達が転がされていた部屋だけだ。
 男達は復活し、銃を構えて扉を包囲する。
 何度やっても無駄だと思うんだけどな。
 乱入してきた大柄な男は指揮官なのか、軍人風の男たちは皆一様にその男の指示に従っているようだ。
 男は黒目黒髪、黄色い肌に平たい顔、釣り目気味の一重瞼と見事にアジア人の特徴を体現していた。
 軍人風の男達は訓練のせいなのか少し焼けた肌をしていたからアジア人ということしか分からなかったが、この男はどう見ても東アジア系の顔立ちだ。
 いったいどこの国の軍人なのか。
 それは僕が考えるべきことではないのかもしれないけれど、ちょっとだけ気になります。
 
『はぁ!?銃が効かねえ?向こうにも能力者がいやがるっていうことか……。いい、俺が出る』

 こちらに銃が効かないという情報を簀巻きにされた男たちから聞いて、自分が戦うつもりらしい。
 あいつがさっき軍人風の男たちが話していたリー大尉なのかもしれない。

『気をつけてください。あちらは銃弾を止める結界のような能力と、髪を自由自在に操る能力、2つの能力を持っているみたいです』

『はっ、結界はともかく髪を操るってダセぇ能力だぜ。俺様の剣に切れねえもんはねえよ』

 よく見れば男は腰に日本刀をぶら下げている。
 あの刀で戦うのだろうか。
 21世紀に刀で戦う軍人ってダサくね?
 ごめんなさい仕返しに言ってみただけですホントはちょっとかっこいいと思ってました。
 男は切れないものは無いと豪語していた。
 腰の刀と、その言葉から察するになんでも切れる能力かな。
 絶対切断とか空間断裂とかだろうか。
 勇者パーティのもたらしたスキルオーブを用いてスキルを取得したのであれば、そのくらいありえる。
 そんなヤバイスキルだったら僕でも防げるか分からないぞ。
 僕はとりあえず鑑定してみた。
 こちらの世界の人間にも鑑定が使えるのかというテストはそういえばしたことが無かったな。
 ちょうどいい、どんなものかな。

固有名:アレン・リー
 種族:人間
スキル:【刀術lv3】【エアリッパーlv6】

 あちらの世界の人間を鑑定したときと何も変わらない。
 どうやらこちらの世界でも鑑定は役に立ちそうだ。
 男の持っている2つのスキルも大したものじゃなかった。
 刀術というスキルは名前の通り刀を使うときに動きに補正がかかるスキルだし、エアリッパーというスキルは空気の刃みたいのを武器の刀身に発生させてそのまま切ったり斬撃を飛ばしたりできるスキルだ。
 両方スキル屋で普通に売っているレベルのスキルで僕は少し安心した。
 でもなんでこんなにスキルレベルが低いんだろう。
 僕はこちらの世界に来てから1日1レベル上がるくらいの勢いで上がったけどな。
 ゴブ次郎のスキルも同じくらいの早さで上がったことを考えると、僕だけが特別というわけでは無いと思うんだ。
 こちらの世界で生まれ育ったはずの鳩もスキルレベルの上昇速度が異常に早かったのを考えると、向こう生まれという要因も関係ないはず。
 物語の主人公みたいに僕だけ特別で、その僕と使役契約で結ばれている生物もまた特別という可能性も無いわけじゃない。
 でも可能性は低いかな。
 なんたって僕だし。
 特別扱いするなら最初からレアスキルの一つでも持たせて産み落としてくれればいいと思わないかな。
 現実的な仮説としては、あちらの世界に一度行ってからこちらの世界に来るとスキルレベルが上がりやすくなる程度のものだろうきっと。
 スキルを付与した召喚生物は皆一回あちらに召喚しているから、それが原因の可能性が一番高い。
 もしかしたら勇者も同じような方法でスキルレベルを爆上げしてたんじゃないかな。
 まあ考えても分からないことはどうでもいいか。
 とりあえずあの男は僕にとって脅威にならないことが分かった。
 今重要なのはそれだけだ。
 男は大仰な仕草でゆっくりと刀を鞘から抜くと、こちらにゆっくりと歩いてくる。
 ドヤ顔がムカつくので僕は腰のポーチから手裏剣を取り出して投げつける。
 さすがに僕の弱肩から放たれた手裏剣のスピードは遅かったので刀に打ち落とされたけれど、回転スキルを全力で発動させているので刀に当たったときすごい音がした。
 
『おいなんだよこれ!聞いてねえぞ!!クソッ、手が痺れた。しかも刃こぼれしてやがる』

『3つめの能力でしょうか。それとも単純に肉体的技術?』

『あんなひょろいもやし野朗にこんな重てえ攻撃できっこねえ。十中八九能力だ』

『いくつ能力を持っているというのでしょう……』

『知らねえよ!!もうキレたぜ!俺様を怒らせるとどうなるのか教えてやるぜクソがっ!!』

 男は八双の構えをとる。
 来る。
 まるで目の前のものを斬るかのように男が刀を斜め上に向けて振り切ると、僕の前面の反転フィールドに何かが当たった手ごたえがあった。
 残念ながらその程度のスキルでは僕の防御は切り裂けないけれど、不可視の攻撃というのはこちらの世界の人間にとってかなり有用なのだろう。
 見えない刃は切れ味もいいに違いない。
 鉄くらいだったらスパッといけてしまうかもしれない。
 でも、銃のほうが強いような気がしないでもない。
 こちらの世界におけるスキル保有者、こちらでは能力者って呼ばれてる存在のことはいまいち分からないな。
 でもあの男が他の男達よりも地位が上なのは確かなことだろう。
 大尉というのが軍でどのくらい偉いのかも良くは知らないけれど、スキル持ってたら出世できるみたいな感じなのかな。
 僕はまた考えこんでしまう。
 ガシャン、と何かが落ちる音がした。
 顔を上げると男は刀を取り落としてしまっていた。
 
『化け物め……』

 メンタル弱くない?
 僕は男に少しだけ親近感を覚えたのだった。

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