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64.ガチホモサピエンス

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 翻訳スキル、そんな都合のいいスキルが目の前に現れて買わない僕ではない。
 なぜこちらの世界にスキルオーブがあるのかとか疑問に思わなくもないけれど、おばあさんに聞いてもご主人が昔どこからか貰ってきたとしか知らないみたいだし。
 ご主人は数年前に亡くなってしまっているみたいだし。
 確かめようのないことに労力を使ってもしょうがない。
 僕はおばあさんから僕の故郷の宝石だと言ってスキルオーブを買い取った。
 おばあさんはそういうことならタダでいいと言ってくれたのだけど、なんだか騙しているみたいで悪い気がするので10万円で買い取った。
 翻訳スキルなんて向こうで売っているとしたらきっとすごく高いはずだから10万円でも申し訳ない気分だ。
 こんなスキルがあったら未解読の古代語なんて存在していないはずなので、きっと向こうには売っていないだろう。
 白金貨10枚とかするかもな。
 日本円に換算すると約10億か。
 そんなお金持っていたとしてもおばあさんに渡したら驚かれてしまうよ。
 僕はおばあさんにお饅頭のお礼を言って拓君のマンションに戻った。
 英語の字幕つけなきゃ。




 僕は動画編集を終え、後のことを拓君に任せて鉱山に帰還する。
 お土産は少し高めのワインを数本だ。
 リリー姉さんはドワーフなだけあって、かなりの酒好きだ。
 会長もミゲル君もそれなりに飲めるみたいなので、最近では異世界帰りはみんなで晩酌してから寝ることも多い。
 僕以外はみんな犯罪奴隷で、鉱山で強制労働させられているとは思えない生活だ。

「おかえり。あ、お酒!!」

「今日は早かったな」

「疲れているんじゃないだか?」

「ただいま。大丈夫、疲れてないよ」

 僕はワインの栓を抜き、陶器の器に注いでいく。
 3つの器に注いで、ビンに残ったものはリリー姉さんの分だ。
 つまみはオークの肉の干し肉。
 最近僕が思うようになったことは、異世界の食べ物は確かに美味しいけれど素材でいったらこちらの世界も負けていないということだ。
 オークの肉などは僕は高級な牛肉よりも好きだし、もっとランクの高い魔物の肉にはオークよりも美味しいものもたくさんあるらしい。
 なので今日の晩酌は、酒は異世界産でつまみはこちらの世界のものだ。
 調味料なども日本のほうがなんでも揃うので、今日はオークの肉をあちらの世界で香辛料たっぷりの干し肉にしたものをつまみにしている。
 ちょっと拓君の部屋が肉臭くなってしまったのは本当に申し訳ないと思っている。
 僕は干し肉を齧り、ワインを一口飲む。
 オークの肉の濃厚な旨みと、赤ワインのフルーティーな香りが合わさって疲れが吹っ飛ぶ美味しさだ。
 ちょっと奮発して3500円くらいのワインを買ってみたけれど、このワインは僕の好みにピッタリだ。
 僕たちはしばしの憩いの時間を楽しむ。
 僕たちがどこからか食べ物や飲み物を手に入れて、夜な夜な酒盛りをしていることは他の犯罪奴隷も薄々は気付いているだろう。
 白い布で目隠ししているとは言っても、匂いとかでばれちゃうからね。
 しかし、鉱山職員に何か交換条件を出して嗜好品を手に入れるのはみんなやっていることなのでそれほど気にされてはいないようだ。
 なにより元からこの鉱山に居た奴隷達はリリー姉さんにいちゃもんをつける怖さを知っている。
 だから古参の奴隷たちはあまり僕たちに絡んでこないのだけれど、崩落事故の後に入ってきた奴隷は違う。
 彼らも相当リリー姉さんにボコされてはいるのだが、まだ恐怖が足りないようだ。

「へへ、自分達だけ優雅に酒盛りかよ。特別奴隷様はいいご身分だな……」

 僕たちのテリトリーを囲う白い布を邪魔だとばかりに引きちぎって僕たちを囲む犯罪奴隷たち。
 どの顔も見覚えのない顔ばかりだ。
 最近入った奴隷だろうか。
 人員の補充はどうやら何度かに分けられて行われているようで、いつの間にか知らない奴隷がいたりすることが最近はあるのだ。
 
「なに、あんたたちも飲みたいの?」

「酒は独り占めして飲むもんじゃないよなぁ?」

「そうだぜ、じゅるり……」

「女もな……」

 ふう。
 どいつもこいつも、ロリコンばかりで困ったものだ。
 リリー姉さんは正確にはロリではなくロリ姉さんなんだけどね。
 合法ロリとも言う。
 
「いいよ。あたしを力で屈服させてみなさいよ。そしたら酒も女も手に入るわ……」

 またそれやるんですか。
 僕と会長とミゲル君はさっさとワインとつまみを回収して少し姉さんから距離をとる。
 しかしこんどのやつらは僕らのほうにも用があるようだ。

「おいおいてめえら、どこ行くんだ?そんな距離とるこたねえだろ?」

 気持ち悪い顔でにやにや笑いながら数人の男達が僕と会長とミゲル君を取り囲む。
 なんだこいつら、酒が目当てなんだろうか。
 あと一口くらいしか残ってないけど、あげたらどっか行ってくれないかな。

「へへへへ、そこのお前、俺のタイプだ。お前の〇〇〇に〇〇〇突っ込んでひぃひぃ言わせてぇなぁ……」

 ひぇ、こいつガチホモやんけ。
 しかもよりによってこいつ僕の方指差してない?
 僕は右に一歩ずれてみる。
 男の指は僕を追尾して動く。
 マジかよ、ガチホモにターゲットロックオンされたらどうしたらいいの?
 僕はとりあえず会長を生贄に差し出す。

「や、やめろ!俺はノーマルだ!!」

 会長はバタバタ暴れてミゲル君の後ろに隠れてしまった。
 ミゲル君と目が合う。

「お、オラも普通に女が好きだ」

 ですよね。
 ということでお帰りください。
 ホモの国にお帰りください。

「へっへっへ、細い鎖骨だなぁ。そそるぜ……」

 もうマジで帰って。
 
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