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36.檻の中

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まえがき
 ブラックキューブには生物を入れることができないという設定を追加します。30話のスキル屋店主との会話も修正します。
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                以下本編
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 薄暗い部屋で目を覚ます。

「どこだここ……」

 高い天井だけど、その下に鉄格子のようなものが見える。
 身体を起こして見回せば、それは僕を囲んでいた。
 一言で言って、檻だ。
 なんで起きたら檻に入れられてるんだろう。
 
「よお、お目覚めかぁ?」

 鉄格子を挟んでお隣の檻に、盗賊の用心棒だった獣人の男が入っている。
 
「ずいぶん良く寝てたじゃねえか」

 そのまた隣の檻から声をかけてきたのは盗賊のボスだった男。
 その筋骨隆々の肉体を窮屈そうに檻の中に収めている。
 だんだんと意識が鮮明になり、色々と思い出してくる。
 しかし思い出すごとに、現在への疑問が膨らむ。
 
「あのさ、なんで僕とお宅らがお隣さんで檻に入れられてるわけ?」

 こいつらが檻に入れられるのは分かる。
 だって盗賊だったから。
 盗賊は生け捕りにすれば基本犯罪奴隷として奴隷商に売られる。
 しかし僕はこいつらを捕まえた冒険者であるはずで、こんなところに入れられてる理由なんて思い浮かばない。

「なに言ってんだよ兄弟、お前も盗賊だったじゃねえか。一晩な」

「え……」

「一緒に決起集会やった仲じゃねえか」

 いや、確かにあの場に僕も居たことは確かだけれど。
 それは不可抗力というやつで……。

「結局よ、あの商人にとったらお前も俺達も一緒よぉ。そんであの商人はお前ひとり分の奴隷売買代金が手に入るし、俺達はお前に少しだけ仕返しができる。要は俺達とあの商人の利害は一致したのさ」

 そういう、ことなのか……。
 じゃあ僕は、犯罪奴隷として売られるのか。

「まあお前が多彩なスキルを持っていなかったらあの商人はお前を奴隷にしようとは思わなかった。多分怪我の手当てもされずに捨て置かれたと思うぜ。そういう意味では、奴隷になったことも少しは捨てたもんじゃないんじゃねーか?」
 
 確かに僕は酷い怪我をしていたはずなのに、今では全く痛まない。
 少し傷跡が突っ張るけれど、ほとんど完治しているようだ。
 しかし、素直に喜んでいいものか。
 僕が身につけていた金が無くなっているので、おそらくその金で回復魔法を使える人間に治療してもらったんだろう。
 金貨数枚は首にかけた金貨袋に入っていたはずなので治療費としては多すぎるくらいだ。
 あの盗賊に襲われそうになっていた商人とやらはさぞかしうはうはなんだろう。
 いつか報いは受けさせてやる。
 僕はそう心に誓いながらも、この状況をどうするべきなのか考える。
 犯罪奴隷なんて、あまりいい末路が思い浮かばない。
 最前線送りか、鉱山労働か。
 個人に購入されればまだ希望はありそうだけど、犯罪奴隷なんて迷宮で肉盾にされるだけかもな。
 逃げるか?
 逃げられるんだろうか。
 僕の首には鉄の首輪が嵌っており、頑丈そうな鎖で檻に繋がっている。
 試しに曲鉄スキルで外れないかやってみるが、ギギギっと少し鉄が鳴動するものの曲がることはない。
 頑丈な金属だ。
 異世界ものでおなじみのスキルを封じたり隷属されられたりする効果は無いと思うけれど、ただただ頑丈だ。
 おそらくかなり高レベルの冶金スキルで作られている。
 僕の曲鉄スキルでは微塵も曲げることができない。
 他に鎖を壊せそうなスキルは思いつかない。
 チャージに溜めた青い炎でもだめだろう。
 青い炎の温度は多分1000度くらい。
 アルミや鉛なら溶けるかもしれないけど、とてもこの鎖の金属を熔かせるとは思えない。
 熱が首輪に伝わって僕の首のほうが焼き切れてしまいそうだ。
 
「おいおい、逃げようとしてんのか?無理だからやめとけ。奴隷商の護衛ってのはむちゃくちゃつええ。たぶん俺達が束になってかかっても微塵の隙も見出せねえようなやつだぜ」

 詰んでいる。
 僕の人生奴隷エンドですか。
 いや待て、まだ命がある。
 傷も癒されている。
 きっと僕には傷を癒す価値があると踏んでのことだろう。
 ということはすぐに潰れるようなところに売られるとはかぎらない。
 僕がどうにかして生き延びる方法を考えていると、がやがやと数人が話しながら歩いてくる。
 そして僕の檻の前で止まり、ふちなしメガネをかけた身なりのいい男がニコニコしながら話しかけてくる。
 メガネのフレームが金色だ。
 たぶん金持ちだろう。

「お、13番が目を覚ましたか。気分はどうかね」

 その番号やめてくれ。
 なんでかは忘れたけど、前世では13は不吉だったはず。

「悪い……」

「まあそうだろうな。私を恨まんでくれよ。これはスタークの奴が勝手にやったことで、私は奴から犯罪奴隷を買っただけなんだ」

 スタークっていう奴があの襲われていた商人の名前なんだろう。
 その名前、覚えておく。
 僕の心のデ〇ノートに書き込んでおくぞ。
 
「鑑定の結果、君はブラックキューブスキルを持っているみたいだね。すまないが黒箱を全部出してくれないかな。犯罪奴隷は個人資産の所有を認められていないんだ。君の所有物は全て君を売ったスタークのものとなる。すまないね、これは規則なんだよ」

 優しい声音で済まなそうにそう言われると、この奴隷商人がいい人なのかと思えてくる。
 奴隷商人という職業による偏見で冷酷な人間を思い浮かべてしまうけれど、案外善人なのかもしれない。
 しかしブラックキューブの中身を差し出すのとは話が別だ。
 僕のブラックキューブのスキルレベルは4だが、【スキル効果10倍】スキルのおかげで僕はその10倍の数の箱を出すことができる。
 その中から4つ出せばいいのだから僕にとってはゆるい検査だ。
 まあやばいものを3つほどブラックキューブの中に封印している僕には助かるけど。
 しかし4箱すべて空き箱を差し出せれば何も持っていないと言い張れるけれど、生憎と空き箱は2箱しかない。
 結構な数の黒箱にオークの肉が入っているためだ。
 黒箱の中に生物を入れることはできない。
 微生物であってもだ。
 だから黒箱の中の物は無菌状態で保存できるため、非常に長持ちする。
 僕はそのうち食べようと思ってオークの肉を大量に入れておいたのだ。
 仕方がないので残りの2箱はそのオークの肉が満載された黒箱を取り出し、並べた。
 黒い30センチほどの立方体から大きな石の箱が排出され、ドスンと床に落ちる。
 石魔法で作った箱だ。
 繋ぎ目が全く無いツルツルの箱のために他の人が開けるには壊すしかないけれど、僕は石魔法で開けることができるという代物だ。

「なんだ、2箱は空かね。こちらは、石の箱か。そういえば君は石魔法も持っていたね。開けて見せてくれるかな」

 僕は仕方が無く石魔法で箱の上方に蓋を作る。
 身なりのいい男は部下に命令してその蓋を持ち上げるように言った。
 2人のムキムキマッチョメンが箱の両脇に出てきて、蓋を持ち上げる。

「ほお、これはオークの肉かね。こちらもか。これほどの量があれば……」

 身なりのいい男がにやりと笑う。
 先ほどまでの人のいい笑顔とはまるで違う、口元がつり上がったような凶悪な笑みだ。

「確か君は、クロード君といったかね。君は何も持ってなかった。そうだね?」

 その顔で笑いかけられると背筋がぞっとする。
 僕は何も言うことが出来ずに気圧される。

「ふむ、この私と交渉しようというのかね。いいだろう、君の売り渡し先を優遇してあげようじゃないか。それでいいね?君は何も持っていなかった。そうだね?」

 僕は無言で首を縦に何回も振る。

「ああ、いい子だ」

 身なりのいいメガネの男は、先ほどまでのやわらかい笑顔に戻り部下達にオークの肉を持っていくように命令する。
 2箱でオーク5匹分くらいの量はありそうな肉はどこかに持っていかれてしまった。
 檻の中に静寂が戻る。

「笑顔で近づいてくる奴が一番危ねえってな……」

 用心棒だった男のつぶやきが微かに耳に聞こえる。
 僕もそう思う。

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