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34.vs用心棒&ボス

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まえがき
 申し訳ありません。予約設定を間違えて投稿されていませんでした。
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                以下本分
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「へっへっへ、てめえには何かあると思ってたんだよ。警戒心の強い草食動物みてえな目してやがったからな」

 僕の周りを4人の男が取り囲む。
 用心棒の男、ボス、幹部2人だ。
 用心棒の男はロングソード、ボスはバトルアックス、幹部2人は槍だ。
 そのうち幹部2人の武器が魔槍であることは昨日の時点で分かっている。
 幹部2人はスキルも実力も大したことはないが、その魔槍の力が厄介だ。
 2人の使っている魔槍は同じもので、自由自在に長さが伸びるという力を持つ。
 伸びるスピードは速く、突きのタイミングで間合いを伸ばされたら避けるのは至難だろう。
 だけど僕には反転魔法があるからこの2人は問題にならない。
 問題は用心棒の男とボスだろう。
 部下に魔槍を持たせて、この2人が普通の武器を使っているとは思えない。
 
「なんだ!?何が起こっている!!」

 こんな時だというのに、喧しく騒ぎ立てている男がいた。
 それは襲われそうになっていた商人だ。
 
「旦那、今だけちょっと黙っててくれませんか。俺たちにも状況が読めないんでさ」

 傭兵のリーダー格の男が商人を黙らせる。
 傭兵と共闘すればなんとかなるだろうか。
 
「僕はこの盗賊団の討伐依頼を受けた冒険者です!!手伝ってもらえませんか!!」

 僕がそう言うと、傭兵たちは少しざわつく。
 僕の言葉を信じていいのか話し合っているようだ。

「リーダー、どうするんだ?あの小僧の言うことを信用するのか?」

「わからん。だが少なくとも盗賊団の仲間って感じじゃなさそうだ。小僧にも注意しながら盗賊と戦うことにしよう」

 傭兵たちは味方でもないけど、盗賊とは戦ってくれるみたいだ。
 しかしそれを黙って待っている盗賊たちではなかった。
 再び狼獣人の用心棒が踏み込んでくる。
 先ほどよりも苛烈な攻撃に、僕は後ずさる。
 
「つええなおめえ、手が痺れやがるぜ」

 すべての力を反転できているなら痺れるだけでは済まないはずなのだけれど、どうやらこの男の剣が重すぎて反転魔法で力を反転しきれていないようだ。
 
「ダズ、ブーラ、おめえらは傭兵のほうをやれ。こいつは俺とボスに任せな」

「「へい!」」

 幹部の2人組は魔槍を手に傭兵たちに向かっていく。
 どうやら僕はこの2人に専念できるようだ。
 しかし用心棒の男は間違いなく強いし、ボスはどこか得体のしれないところがある。
 僕はポーチから手裏剣を取り出し、小手調べに投げつけた。
 ここ最近の練習の成果は出ているようで、【回転lv5】スキルの力で高速回転する手裏剣は弧を描くようにボスに向かって飛んでいく。
 しかしその攻撃はボスの前に躍り出た用心棒の男の剣に弾かれる。

「変わった武器だな。暗器の類か。俺たちよかよっぽど盗賊向きだよおめえは」

「ラズリー、手を貸すか?」

「ああ、こいつまだ何か隠してる。2人でやるぜボス」

 慢心してプギャーというのも無しか。
 ウサギを狩るにも全力というわけですか。
 僕は得体のしれないボスを最大限に警戒する。
 ボスは用心棒の後ろでバトルアックスを構える。
 この陣形はなんなんだろうか。
 ボスは体つきや武器からして、近接戦が得意なタイプだろう。
 なぜ用心棒の後ろに構える?
 僕の疑問は解けないまま用心棒の男が突っ込んでくる。
 
「右だ!!」

 右?
 僕は右を見る。
 僕の左肩に鋭い痛みが走った。

「痛っっ!ま、また左肩!!」

 なんだ今の。
 なんで反転魔法があるのに攻撃が当たったんだ?
 そもそもなんで僕は右を見たんだ。
 敵であるボスの言葉なんかを信じて。
 
「わりいわりい。俺から見て、右だったわ」

 ボスがニヤニヤと笑っている。
 なんらかのスキルを使ったのか。
 僕はなんで右を見た?
 ボスが右だと言ったからだ。
 普通なら敵が言った言葉なんて信じない。
 でも僕はなぜかさっきその言葉は本当かもしれないと思った。
 嘘を信じさせるスキル?
 いや、厳密には嘘ではない。
 ボスは本当のことを言った。
 しかし僕がその言葉から受け取ったイメージが逆だったんだ。
 正確には欺かれた、が正しい。
 以前僕はスキル屋でそんなスキルを見たじゃないか。
 人を欺くのがうまくなるスキル。

「詐術スキルか……」

「へへへっ、知ってやがったか」

 しかしそれだけでは、なぜ反転魔法で反転できなかったのかわからない。
 
「今のは、跳ね返せなかったみてえだな」

 反転魔法を貫いたのは用心棒のスキルか。

「俺のスキルを教えてやろうか?」

 僕は毛魔法で体を覆い、鎧とする。
 
「そんなに警戒することはないぜ。俺のスキルはどこにでもある普通のスキルだからよ」

 僕は警戒心を解かないようにしながらも、用心棒の男の話を聞く。

「俺のスキルは身体強化とスラッシュ。この2つだけだ」

 どちらも剣士が持っていることの多いスキルだ。
 身体強化は単純に身体能力を上げるスキル。
 そしてスラッシュは剣術系と呼ばれる分類のスキルだ。
 こちらも効果は単純で、斬撃を飛ばすというもの。
 僕の反転魔法を貫いて左肩を切り裂いた理由にはならない。

「だがスキルレベルは普通じゃないぜ。身体強化のスキルレベルは8、スラッシュは9だ。俺は生まれてから45年、ずっとこの2つを磨いてきたんだよ」

 スキルレベル、それは単純にレベル2のものがレベル1のものの2倍強いというわけではない。
 僕は【スキル効果10倍】を持っているけれど、スキルレベルが10倍になっているわけではない。
 そもそもスキルレベル10のスキルが、スキルレベル1のスキルの10倍の効力を持っているわけではない。
 スキルとはそんなに単純なものではないのだ。
 用心棒の男の【身体強化lv8】と【スラッシュlv9】は、僕にとって脅威になりえる。
 僕は思わず1歩後ずさった。
 用心棒の男はじりり、じりりと僕の周りを移動する。
 そしてふっと体の力を抜いたと思ったら、いつの間にか走り出していた。
 僕は一瞬遅れて毛魔法の触腕でガードしようとする。

「左だ!!」

「スラッシュ!!」

 今度は右腕に激痛が走る。
 ポタリ、ポタリ、と髪の鎧を伝って僕の血が地面に落ちる。
 どうしてもボスに右だ左だと言われるとそちらをガードしてしまう。
 反転魔法で跳ね返せないものが当然髪の鎧で防げるはずもない。
 本当に、やっかいなスキルだ。
 この2人は本当に強い。
 僕は、静かに追い詰められていた。

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