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30.ブラックキューブ

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まえがき
 以前召喚術スキルはレベル2にならないと送還することもできないという記述が出てきたと思いますが、良く考えたら召喚術スキルはエクストラスキルなのでレベルはありませんでした。修正します。

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                以後本編
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 あれから10日ほど、僕は休むことなく狂ったようにオークを狩りまくった。
 全くオークが見つからない日もあれば、縄張りに入って5分で3匹見つけたこともあった。
 街まで2往復した日もあった。
 そんな努力の甲斐あって、僕は今日念願のスキルを購入する。

「おじさん、これお願いします」

「あいよ」

 スキル屋の店主に金貨を50枚渡す。
 ガラスケースの中から店主が出してくれたのは【ブラックキューブlv1】のスキル。
 これぞ異世界というスキルだ。
 レベルと同数の黒い箱を出し、物を収納しておけるスキル。
 迷宮の深部に潜るような高ランクの冒険者には必須のスキルだ。
 このスキルの鑑定証には、どんなに大きな物でも入るとあるが本当なのだろうか。

「おじさん、どんなものでもって家とかでも入るの?」

「このスキルを買った奴にはみんなに説明しているんだが、ブラックキューブには明確に入れられる物の基準がある」

「え?でもなんでもって書いてあるよ」

「まあ聞け。ブラックキューブに物を入れるのには3つの条件がある。一つ目の条件は生物を入れることはできないということ。生物は入れるとたちまち死ぬ。何でかは知らねえがな。そんで二つ目がひとつの箱に入るのは一つの物だけというもの。当然気になるのはどこまでが一つの物として認識されるかだ。たくさんの物を入れた箱や袋は一つの物なのか気になるよな。答えは袋はダメだが箱は入るだ。正確には箱の蓋を釘などでしっかりと開かないように固定すれば入る。どうやら外側を壊さないと中の物を取り出せない構造の物ならひとつの物として認識されるらしい」

「ふーん。じゃあ全ての入り口に板を打ち付けて開かないようにすれば、家も入るの?」

「話を最後まで聞けよ。条件の三つ目は箱には必ず自分で持ち上げて入れなければならないというものだ。持ち上げられないものは入れることができない。小さな小屋くらいなら浮遊スキルを使えば持ち上げられるかもしれないが、大きな家は無理ということだ」

 大きな家は無理か。
 異世界に行ったら大きな家を持ち歩くのが夢だったんだけどな。
 まあいい、僕には黒巻貝がある。
 あれも立派な家だ。
 僕はスキルオーブを大事に仕舞ってスキル屋を出る。
 しかしこのスキル、多くの物を入れようと思ったら蓋を釘で打ち付けられる木の箱か何かが必要になるってことか。
 市場に行って買っておこう。
 僕は絶対にスられないように首からかけた金貨袋の中にスキルオーブを入れて市場に向かった。
 はたして木箱っていうのはどこに売ってるものなのだろうか。
 とりあえず以前木材を買った店に向かってみる。

「こんにちは」

「はい、いらっしゃい」

「木箱ってありますか?釘で蓋できるやつ」

「ああ、あるよ」

 あるそうなので僕はその木箱を4つばかり購入する。
 ひとつ銅貨50枚、まあこんなものか。
 大きさは1辺1メートルくらい。
 けっこうでかい。
 僕は1列に並べて髪ロープで繋ぎ、浮遊スキルで浮かせて引っぱって歩く。
 電車ごっこみたいでちょっと恥ずかしい。
 僕は市場を抜け、宿に戻ろうとするが前方が騒がしいことに気付き立ち止まる。

「道を空けよ!!」

 前方から揃いの鎧を身につけた兵士がぞろぞろ歩いてくるのが見えたので僕も道を空ける。
 なにかあったのかな。
 兵士はぞろぞろと市場を通り抜け、見覚えのある路地に入っていく。
 僕は嫌な予感がしたけれど、巻き込まれないために近づくのはやめた。

「エルフの露店商!ご禁制の品を扱った罪で捕縛する!!神妙にせよ!!!」

「ちょっ、なによあんたたち!!あたしの商品に触るんじゃないわよ!!!」

 なにやら聞き覚えのある怒声が聞こえてくる。
 
「貴様暴れるな!!」

「うるっさいわね!!ぶっ飛ばすわよ!!!」

「ぐわっ、に、逃げたぞ!!追え!!」

 路地からはドカンドカンと何かが爆発するような音と兵士の悲鳴が断続的に聞こえてくる。
 宿に戻ることにしよう。
 



 その日の晩。
 コンコンと扉をノックする音に起こされた。
 僕は眠気を堪えて扉を開ける。

「や、やっほー……」

 そこにはエルフの露店商シルキーさんが立っていた。
 僕は扉をそっと閉じた。

「ちょ、ちょっとなんで閉めるのよ!!」

 シルキーさんが扉をバンバン叩くのでしょうがなくもう一度開く。

「今何時だと思ってるんですか?近所の迷惑考えてください」

「ご、ごめん。でも、今晩中にあんたに会っておきたかったのよ……」

 シルキーさんはめずらしく真面目な顔をして僕をじっと見つめる。
 
「昼間、兵士に追いかけられてましたよね。いったい今度はどんな商品を仕入れたんですか?」

「別になんてことのないスキルオーブよ……」

 シルキーさんはひとつのスキルオーブを取り出して僕に手渡す。

スキルの名称・・・・【召喚術(ガルーダ)】
スキルの詳細・・・・エクストラスキル。ガルーダを召喚することができる。

 僕は溜息を一つこぼす。
 ガルーダはまごうことなきSランクの魔物だ。
 大きな鷹のような魔物で、低位のドラゴンよりも厄介だとされている。

「シルキーさん、このまえの僕の話聞いてました?」

「なんでよ!ドラゴンじゃないわよ!?」

「いや、ドラゴンがダメなんじゃなくて、危険なスキルがダメなんです。ガルーダなんて召喚したら大変なことになりますよ」

「う、うう……」

「はあ、これも僕が買い取ります」

「あ、ありがとう」

 僕は金貨を1枚シルキーさんに渡す。
 僕の金銭感覚もおかしくなったものだ。

「それで、これからどうするんですか?」

「この国を出るわ。今日は別れのあいさつに来たの。一応あんたが一番のお得意様だからね」

 お得意様っていうか僕以外に客がいるのか?

「他の商品はどうなりました?」

「ああ、兵士が来たとき全部アイテムボックスの中に突っ込んだから無事よ」

 アイテムボックスだと!?
 僕が黒い箱を出せるちんけな収納スキルを手に入れるのにひいこら言ってたというのに、エルフは優雅にアイテムボックスですか。
 まあひがんでもしょうがない。
 それに僕はこのポンコツエルフのことがなぜだか嫌いになれなかった。

「僕が他の商品も全部買いますよ」

「え?いいの?」

「他国に逃げるにもお金がいるでしょ」

「ありがとう」

 シルキーさんはそう言ってアイテムボックスから商品を取り出して僕の部屋に並べ始めた。
 やっぱりガラクタばかりだな。
 僕はスキルオーブだけをポケットに入れ、それ以外を昼間買った木箱に詰めていく。
 最後に釘でしっかりと蓋を開かないようにして、ブラックキューブスキルを発動する。
 虚空から黒い箱が現れた。
 1辺が30センチほどの箱で、一見すると1辺1メートルの木箱なんか絶対に入らない大きさだ。
 さらに黒い箱はどの面にも開口部のようなものは無く、どこから入れていいのか分からない。
 僕は木箱を浮遊スキルで浮かせて持ち上げると、黒い箱に近づけてみた。
 木箱が黒い箱に少し触れたところで木箱が黒い箱に吸い込まれて消えた。
 スキルの力だとは分かっているけれども、なんとも不思議な現象だ。
 僕は4つの木箱すべてにシルキーさんの商品を詰め、ブラックキューブに収納した。
 ブラックキューブにも【スキル効果10倍】スキルは有効に働き、僕はスキルレベル1にして10個の黒箱を出すことができた。
 このスキルは本当にチートだよ。

「商品代金は、金貨10枚でいいですか?」

「え、そんなにくれるの?仕入れ原価金貨2枚もしなかった商品よ?」

「残りは貸しにしておいてください。いつか回収しに行くんでその時までお元気で」

「ありがとう。その時までにあんたの興味を引きそうなスキルオーブを仕入れておくわ」

 シルキーさんはそう言うと、すっと闇に消えた。
 僕の気配察知能力では、もうどちらの方向に行ったのかさえ分からない。
 本当に、なんで行商なんてやってるのかな。


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