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23.鍛冶屋

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 すべてのスキルがレベル5になるまで、新しいスキルは買わない。
 そう誓った僕だったけれど、やっぱりやめようと思う。
 必要なスキルは買わなくては。
 そう思い僕はスキル屋で4つのスキルを買った。
 2つは銀貨10枚のスキル、残りの2つは金貨10枚のスキルだ。
 銀貨10枚のスキルが【曲鉄lv1】と【着鉄lv1】。
 金貨10枚のスキルは【浮遊lv1】と【リキッドステイクlv1】だ。
 【曲鉄lv1】と【着鉄lv1】は工作用に、【リキッドステイクlv1】は戦闘用、そして【浮遊lv1】は移動用だ。
 金貨を稼ぐにはオークを狩るのが一番手っ取り早い。
 しかしオークを狩るのには移動だけで片道2日かかってしまう。
 それを解消するために、乗り物を作ろうと思う。
 車輪で動く前時代的なものではない。
 空飛ぶ乗り物だ。
 道が整備されておらず街道ですら平らじゃないこの世界では、車輪の乗り物には踏破能力に問題がある。
 しかし空を飛ぶ乗り物なんて科学の力だけで実現しようと思えばそれこそ21世紀並の科学力と技術力が必要だろう。
 それを解決するために【浮遊lv1】のスキルを買った。
 このスキルは鉱山や採石場で使われているスキルで、重いものでも宙に浮かす力がある。
 スキル屋の店主によれば、空高く浮くとかは無理だけど地面から30センチくらいの高さならかなり重いものでも浮かせられるらしい。
 僕には【スキル効果10倍】スキルがあるのでその10倍くらいはいけると見ていいだろう。
 10倍の重さの物を浮かせられるのか、10倍の高さまで浮くことができるのかは分からないけれど、乗り物を作るのに問題は無さそうだ。
 後は宙に浮いた後の動力。
 浮遊スキルは宙に浮くだけで自由に動けるわけではない。
 横に動く力が必要だ。
 それには風力を使おうと思っている。
 もちろん帆を張るとかではなく、プロペラだ。
 【曲鉄lv1】と【着鉄lv1】を買ったのは金属を加工してプロペラを作るためだ。
 箱のようなものを作ってそれを【浮遊lv1】で浮かせ、【回転lv4】でプロペラを動かし風力で進む。
 【回転lv4】は物体に触れていないと回転させることができないという欠点があるが、なにもプロペラの羽に触れなくても軸に触れればいい。
 そして必ずしも自分の手で触れる必要はないのだ。
 触腕からの槍の投擲で【回転lv4】が毛魔法で操った毛髪からも発動できることは実証済みだ。
 だとしたらプロペラの軸には、毛魔法で操った毛髪で触れていればいい。
 それなら摩擦熱で手が火傷する心配もないし、髪はツルツルなので回転を阻害することもない。
 なかなか面白い乗り物ができそうだ。
 やっぱりスキルは面白い。
 科学が全然発達してないのに、向こうの世界の近未来っぽい乗り物になるなんて。
 しかし完成すればオーク狩りに日帰りでいけるようになるかもしれない。
 僕はうきうきしながら鍛冶屋に向かった。
 鍛冶屋に向かう目的は2つ。
 プロペラに使う金属を買うためと、新しい武器を買うためだ。
 乗り物を全部金属で作るのは材料費が高くなってしまうので本体の大部分は木で作るつもりなのだが、プロペラだけは木で作るというわけにはいかない。
 僕には木をそんなに巧みに削る技術がない。
 金属なら【曲鉄lv1】スキルを使って板状の金属を歪ませれば不恰好ながらプロペラの羽ができる。
 それを着鉄でくっつけてプロペラを作るつもりなのだ。
 そしてもうひとつの理由である武器。
 これは以前から考えていたことだ。
 金が入ったらもっといい武器が欲しいと。
 よくよく考えてみたら僕の投擲武器はほとんど手作りなのだ。
 ある程度のところまではそれで行けるが、これからはそれでは無理だ。
 武器に金をケチって死んでしまっては元も子もない。
 だからいい感じの投擲武器を買いに行く。
 理想は手裏剣。
 手裏剣は僕の一番長く使っているスキル【回転lv4】と非常に相性がいい。
 棒手裏剣でも四方手裏剣でも八方手裏剣でもなんでもいいのであればいいのだが。
 僕は鍛冶屋の扉をくぐる。
 鍛冶屋は冒険者ギルドの近くにあって、裏手が工房表が店舗になっているみたいだ。
 僕が入ったのは店舗。
 いきなり工房のほうに入る勇気はなかったよ。
 頑固一徹なドワーフみたいな男がいるに決まってる。
 僕は適当に店内を見て回る。
 無用心にも誰もいないみたいで僕のような人見知りでも気楽に見て回ることができる。
 投擲武器はあまり人気が無いようで店の隅にあった。
 僕はこういう店の隅に置いてある物とかが好きなんだ。
 やっぱり日本伝統の投擲武器である手裏剣は置いてないみたいだ。
 真っ直ぐな刃のスローイングダガーやスローイングナイフばかりだ。
 回転して飛んでいくものといえばスローイングアックスかトマホークくらいか。
 僕はその手の短い手斧みたいな投擲武器を手に取る。
 スローイングアックスは巻き割りに使うような頭の重たい斧ではなく、鋼板を切り出して作ったような一定の厚みの斧だった。
 軽くて丸みを帯びていて投げやすい。
 逆にトマホークはインディアンが使っていた物のように重たくて破壊力のありそうな投擲武器だった。
 刃の付いている逆側は鋭く尖っていて、これならオークの脳天でもカチ割れるだろう。
 ここは無難にスローイングアックスを買っておくかな。
 トマホークもかっこいいんだけどね。
 ちょっと腰に帯びるには重たくてズボンが落ちそうだから。
 僕はスローイングアックスを3本手に持って店員さんを探す。

「すみませーん」

 奥の工房のほうに向けて呼んでみる。
 おっかないおっさんが出てきませんように。
 もう一度。

「すみませーん」

「あいよっ!!すんませんねお客さん、聞こえなくて」

 出てきたのは熊のようにでかい男だった。
 髭もじゃ。
 怖い。

「あ、あの、これください」

「あいよ。1本銅貨90枚でしめて銀貨2枚と銅貨70枚ね」

 意外と気性が荒くない。
 異世界で鍛冶屋を営んでいるのは気性の荒い益荒男ばかりだというのは僕の偏見だろうか。
 僕は少し安心して銀貨を3枚渡す。

「まいど。お釣り銅貨30枚ね」

「あ、あの、ここになかった武器の注文ってできますか?あと金属の板が欲しいんですけど」

 僕は意外と気性の荒くなかった鍛冶屋に思い切って切り出してみた。
 
「なに?ここにはなかった武器!?」

 鍛冶屋の目がぎろりと光った。
 やっぱり怖い。



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